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24 戦利品

難産でした汗

 

 アジダハーカの宝箱開封は、まるで開けてはいけない物を開けているような緊張感に包まれて進んでいる。

 

 最初は興味津々に戦果の確認という流れで眺めていた面々も、最初の一箱を開けた後は黙ったままだ。

 

 まぁ、一つ一つ開ける度に呪物みたいな素材が出てくるし、レアリティが上がるたびに禍々しさが増しているのだから緊張感も増すか。

 

 素人目であってもヤバいとわかるのがさすがアジダハーカのドロップと言ったところか。

 

 これが相手が光属性のボスとかで、ドロップ品が神々しい見た目の素材とかだったら別の意味でヤバくなっているだろうなぁ。

 下手したら盛り上がりすぎて、神殿関係者とかなら誰かしら興奮のあまり倒れていただろう。

 

 そういう意味ではアジダハーカの見るからに不気味な素材は、緊張感は増すけど倒れる心配はないか。

 

「開けるわ」

 

 ネルも最初の勢いは落ち着いて、慎重に開けた方がいいと判断してゆっくりと最後の金の宝箱を開く。

 

「爪が2つ、毒袋が1つ、骨が1つ逆鱗が1つに呪毒牙が1つ」

 

 そうやって慎重に開けていてもネルの豪運は健在。

 レア素材を2つ引き当てているうえに出た素材も多い。

 

「金の宝箱を全部開けた結果だけど」

 

 金の宝箱のドロップ品の入り数は、最初と最後が6つ、2個目が7つとさすがに良い引きをしていると言っていい。

 

 これだけで、全部で19個の素材が手に入り、

 その内5つがレア素材だ。

 

 この結果をプレイヤーが見たら、上振れ過ぎるだろうと驚くに違いない。

 

「鱗が4枚、爪が3つ、骨が3本、毒袋が2つ、牙が2本で、逆鱗が3枚と呪毒牙が2本」

 

 サンライトシルクの保管袋に包まれて禍々しさは軽減されているが、保管用の袋に入れてもなお布越しに感じる危険な空気。

 金色の宝箱では壊血毒だけ出なかったが、正直宝箱を開けた内容としてはかなりいいと言える。

 

 足りない素材をプレイヤー同士の物々交換で手に入れるという調達手段が使えないこの世界だと、ネルのこの引きの強さは正直助かる。

 

 プレイヤーにとってゲームをしていて一番きついのは、素材が足りなくて理想の装備が作れないという惨状だからな。

 世界平和のためにアジダハーカを倒しましたと建前では言えるけど、FBOプレイヤーの俺としては本音ではやっぱりアジダハーカ素材武器を作りたいんだよね。

 

 理由は単純、強いからだ。

 

 なので、この結果に内心で喜んでいるが、それを表情に出さない程度には俺も空気は読める。

 戦っていたアジダハーカの危険性を改めて感じるドロップ品だと周囲が感じ取り、こんな危険な品物をどうするのかと疑問に思う視線をひしひしと背中に感じる。

 

 それらを無視し、淡々と確認している俺の姿は他人から見たら一体どのように見えるか。

 

 ただ、ここで止めるわけにも行かないし、これらの呪われたドロップ品の数々を国に献上するなんてことだけは絶対にしない。

 ボルドリンデという人物からもお察しの通り、この国の権力者にこれらの素材を渡すというのは、使い途を想像すると危険極まりない。

 下手したらいつの間にか行方不明で、邪神教会とかに横流しされていたら目も当てられないよ。

 

 それくらいに今の俺はエーデルガルド公爵閣下以外の権力者に対しての信頼度は低い。

 

 コモン素材を渡すのでも黒寄りのグレーゾーンなのだ。

 レア素材であったりこの虹の宝箱から出てくる品物は完全にアウトだ。

 

 なにより、使えない人たちに渡せるほど素材に余裕はないのだ。

 ここから出るドロップ品次第で、強敵を相手にする今後の俺の戦闘が楽になるかどうかの運命の分かれ道なので、周りとは違った意味でドキドキしている。

 

 ネルの手が恐る恐る虹色の宝箱の巨大な蓋に伸び、そして開け放たれる。

 

「リベルタ!?」

「さすが、ネル。一発で引き当ててくれるね」

 

 1個目の虹の宝箱の中に入っていたのは、それがメインだと言わんばかりに鎮座している巨大で長い骨。

 

 八頭蛇竜の背骨。

 

 他の素材がかすんで見えるほどに禍々しいそれは、元々骨の白さなどないかのように赤黒く染め上げられ、そして今でもアジダハーカの呪われた血を作り出しているのではないかと思わせるほど、生命力を感じさせ僅かに赤く発光している。

 

 虹色の宝箱の中からしか絶対に出てこない、アジダハーカ武器を作るのに必須のアイテム。

 

 一緒に入っていた呪毒牙や初めて出た壊血毒がかすんで見えるほどに、迫力のある逸品が出た。

 

「封印指定に入りそうな品、いえ、神殿に所属している身として言わせてもらえば、これは間違いなく封印すべき品物ですね」

 

 その禍々しい迫力にクローディアが自身の所属している組織の人間として危険な物体だと断言した。

 

 取扱注意ではなく、取り扱うなと厳しい目で見るクローディアの言葉は正論だ。

 それでも苦笑交じりで、俺が使うことには妥協しているようだけど、本当に使うのかと問いかけてきているようにも聞こえる。

 

 他にも強力な武器を安全に用意することはできる。

 

 わざわざこんな危険な素材で武器を作る必要性があるかと聞かれれば。

 

「そのための下準備も進んでますよ」

「ええ、あなたはその手のことには妥協しない人でしたね。それに下手に国の管理下に置くよりも安心して任せられますか」

 

 あると俺は断言する。

 

「まぁ神の名の下、神殿に責任を持って管理してもらうという方法もありますよ?」

「危険な代物というのは危険な思想の人物を引きつけるものです。神殿とて万全ではありません」

 

 アジダハーカの素材から作れる魔槍は、暗殺者である俺と相性が抜群なうえにDPSを上げてくれる代物だ。

 

「なにより、あなたに預けるのが一番安全だと私が思っているのですよ。あなたなら変な使い方をしても、危険な使い方はしない。実際今もこうやって安全性を確保している。それに私も監視しやすいのでさらに安全です」

「なんか、変な方向の信頼を得ているような気がしますね」

 

 呪毒という強力なスリップダメージを通常攻撃で付与できるうえに、さらにこの魔槍は即死確率を格段に引き上げ、その上クリティカルダメージも増量できるというとんでもない代物。

 

 作り方と使い方を間違えなければ、間違いなくエンドコンテンツでも通用する性能を持っている。

 

 クローディアに変だけどしっかりと信頼されているというのを感じつつ、ドロップ品をせっせと布で覆い、触れられるように密封作業を進める。

 

 他の鱗とか、牙、爪、骨、毒袋と一通りのコモン素材。

 さらにこの背骨を含めたレア素材を合わせて十点の、最初の虹色の宝箱のドロップ品を包装していくと中々時間がかかる。

 

 しっかりとアジダハーカのドロップの最大数値を引き出しているのはさすがはネルだ。

 

「次は何がでるか、なんとなく予想できますわね」

「うん、ネルだし」

「はい、ネル様ですし」

「なぜかしら。信頼されているはずなのに素直に喜べないわ」

 

 クローディアとのやり取りがあって、俺が管理するから大丈夫という雰囲気に変わり、開き直りの空気が漂い始める。

 

 そこにエスメラルダ嬢が便乗してくれて、最後の虹の宝箱の開封に着手しやすい流れを作ってくれた。

 

 となれば次は何が出るかという、いつもの宝箱開封の儀式っぽい少しだけ陽気な空気になってくる。

 

 まぁ、俺もネルなら残されたもう一個の素材をあっさり出してくれそうな気もするから沸き立つ気持ちも理解できる。

 

 アジダハーカの虹の宝箱からだけ出てくる2つの素材。背骨はわかりやすい感じに大きいが、もう1つの素材は存外に小さい。

 

 大きさからして手のひらに乗る程度だ。

 

 そして百の邪悪の中にある一の良心と言えばいいだろうか。

 

「開けるわよ」

 

 ひと箱目のドロップ品の梱包作業が終わり、二つ目の虹の宝箱に取り掛かるころには、周囲の緊張感も緩んでさっきよりもマシな空気になっている。

 ちょっと気の抜けたネルの声に周囲の注目は俺からネルに移り、その宝箱からどんな禍々しい物が出るのかと身構えていると。

 

 優しい、夕暮れのような光が宝箱の中から射してきた。

 

「綺麗」

 

 その宝箱の中身を真っ先に見たネルの一言。

 夕暮れの太陽の光をそのまま宝石にしたような、卵型の結晶。

 

「八頭蛇竜の黄昏石。アジダハーカが呪いに食い殺されず制御できている理由だ」

 

 呪いというスキルは自他見境なく襲い掛かる。

 となれば当然その呪いを制御するための装置みたいものが必要になる。

 

 プレイヤーであればスキルや魔道具、呪符といった小道具。

 モンスターであれば体質であり、スキルであり、体内に仕込む機能だったりする。

 

「対呪いに関してはこの世界でもトップクラスの素材だ。これを使えば呪いの完全耐性を付与したアクセサリーを作れるぞ。素材を重ねれば他の状態異常も半減とか付与できる」

 

 アジダハーカ素材の中で、一番ドロップ率の悪い素材とも言える。

 これがあるのとないとじゃ、八頭蛇竜武具を作った際のデメリットのコントロールが雲泥の差だ。

 

 これがあるだけで、大部分のデメリットはなくなるし、他の追加素材次第では完全にデメリットを消すこともできる。

 

「やっぱ、ネルすごいわ」

 

 そして今回の宝箱に入っていた黄昏石の数はなんと2つ。

 

 超低確率で起きるドロップを引き当てて、苦笑しながらそれを持って周りに見せると、夕暮れの太陽が2つあるかのように輝いた。

 

 周囲がその美しさにどよめき、そして目が離せなかった。

 

 誰の目を見ても欲しいという願望を隠せずにいる逸品。

 

 その黄昏石に布をかぶせ、念のために用意していたアタッシュケースの中に放り込みこれはさっさとマジックバッグの中に入れる。

 

 もっと見たかったという残念がる声が漏れるけど、ここから早々に撤退したいからさっさとアイテムを回収していく。

 

「さてと、これで全部か」

 

 アジダハーカの宝箱は、中身を全部出せば蜃気楼が消えるかのように姿を消す。

 

 辺りを見回して、取りこぼしがないか探すと、

 

「ん?」

 

 何やら奥の方で、光る物を発見。

 

 はて?ここは岩盤をアジダハーカの体でくり抜いたような空間だ。

 そこから光物が出土するとは考えにくい。

 

「なんだ、これ?」

 

 しかし、現に目の前に岩盤の隙間から光る物体を発見した。

 

「クローディアさんこれ知ってます?」

 

 一見すれば、サファイアのように見える物体。

 しかし、宝石の中に人魂のような炎が煌めいている。

 

 FBOのアイテムは一通り頭の中に入っている、そんな俺でも知らない未知の物体だ。

 世界を歩き回っているクローディアなら何か知っているかと思い、呼んでみて指をさし聞いてみる。

 

「・・・・・いえ、私も見たことがありませんね」

「マジですか」

「ええ、私も専門家ではないので石には詳しくはないのですが、少なくとも見たことはありません」

 

 だが、彼女でも見たことがないという。

 

「とりあえず、回収するか」

「危険は、なさそうですが」

 

 そんな物体を放置するか持ち帰るか考えた結果、持ち帰る方を選ぶ。

 

 幸い、マジックエッジを手に纏えば岩盤は掘ることができて、そこまで大きくないのであっさりと掘り出すこともできた。

 

「綺麗ですわね」

「うん!」

「さっきの黄昏石と何か関係があるのかしら?」

 

 エスメラルダ嬢にアミナ、そしてネルと順番に俺の手元を覗き込んでくるが、彼女たちもこの石には心当たりはないようだ。

 

 アジダハーカの体に触れていたであろうにも関わらず、呪いや毒に汚染されていない。

 

 そんな不思議な物体を念のため布で包んでおく。

 

 サンライトシルクで包まれたアジダハーカの素材はゲンジロウたち赤備えが次々に外に持ち出してくれている。

 

 これでここにはもう用はない。

 

 この宝石らしきものみたいに他にも何かあるのではないかと見渡すが、それらしいものはない。

 

 もしかして古代遺跡の中に埋められていた何かが、偶然無事だっただけなのか。

 

 古代系統のアイテムって、結構謎な奴が多かったからな。

 

 これもそれの一種かとひとまずはそう納得して洞窟から出る。

 

 そこには、賊の討伐に参加して、このアジダハーカの戦いに協力してくれた面々が揃っている。

 

 それはFBOでの協力し合ったプレイヤーが集結している光景と重なる。

 

 彼らが何を待っているか、それをなんとなく察した俺は槍を突きあげ。

 

「俺たちの勝ちだ!勝鬨を上げろ!!」

 

 欲しかったアジダハーカの素材を手に入れたことで、ジャカランの暴発からのボルドリンデの反乱に始まり、堕ちた神との邂逅とかいろいろとあったこの戦いは終結した。

 

 大声で喜ぶ面々を見つつ、祝勝会どうするか考える俺であった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


第1巻のカバーイラストです!!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


挿絵(By みてみん)



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リベルタも知らない宝石かぁ、アジダハーカを封印してた結界の核で神の遺産とかかな?ゲームのときは神に関する情報が制限されてたからなぁ。 ゲームだと一つの武具を作るのに貴重な素材をたくさん必要としたりす…
難産の理由が気になりますが、とりあえずお疲れ様でした。 >アジダハーカの宝箱開封は、まるで開けてはいけない物を開けているような緊張感に包まれて進んでいる。 上記の一文を読んで思い浮かんだのは、浦島…
人の欲は尽きぬもの、サッサと精霊界のセーフハウスに保管しとき。
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