22 アジダハーカ復活の儀式(強制)
今回のアジダハーカ討伐の一連の流れは、ゲーム内では知る限りのパターンを試したことのある俺でも経験したことのないものだった。
ボルドリンデとの決着に至るルートも普通じゃなかったし、その後に写し身の魔導人形を使って人為的に復活させたアジダハーカ(偽)と連戦になるとは思わなかった。
アジダハーカのコピー相手だとドロップ品もないから、本当に骨折り損だったよ。
だからだろうか。
『・・・・・実は怒ってる?』
ネルが若干戸惑いながら、今から俺がやろうとしていることに対して、怒りが込められているのかと聞いてきた。
『ネル、ボス戦では先制攻撃ができるチャンスは逃さない。それが鉄則だ』
そんなネルの戸惑いに対して俺は笑顔でサムズアップし、封印を解くための魔道具を叩いた。
イングリットのエアクリーンとサーモコントロールでこの魔道具の周囲だけ焔を避け、せっせと作業している。
『それは、わかるけど』
嬉々として作業している理由はただ一つ、大ボス戦なのに先制攻撃ができるから。これに尽きる。
ああ、先制攻撃。なんてすばらしい響きなんだろう。
元々、これはアジダハーカ討伐戦の最初に打ち込むはずの魔道具だったのだが、ボルドリンデの小細工のせいでお蔵入りになるところだった。
『全部使うの?』
『当然だ』
封印が解けるまで相手はその場から一切動けないのだ。
なら当然、ダメージを与えられるチャンスがある以上与えた方がお得に決まっている。
まったく、アジダハーカも欲をかいて完全復活を狙ったから、俺たちに囲まれるまでに復活が間に合わなくて身動きが取れないような状況に陥るんだよ。
俺みたいなイレギュラーな存在がいるのに、わざわざ時間をかけて完全復活を狙うなんて、舐めプしていると言われても仕方ないぞ?
アジダハーカの封印を解く際に使用する道具は、アースクラッシャーと言われる削岩機に魔石爆弾を追加した魔道具だ。
ゴーレム技術の応用で、見た目は筒状の本体の先にドリルを付けた代物なのだが、その筒状の内部にオーバーロードしているゴーレムコアをセットして、コアの周囲に魔石爆弾を組み込んで火力を上げる。
元々地中で活動するモンスターに対して使ったり、表面が硬い敵に対して使うバンカーバスター的な代物だったりするのだが、ここにさらに一工夫しているのだ。
『とりあえず、封印地帯のターゲットまでの深度をセットしてほい、射出』
これは直撃させれば当然火力が高いのだが、アジダハーカ相手に一発当てたところで焼け石に水だ。
どうせなら先制攻撃で最大戦果を出したいので、封印地の周囲を魔石爆弾を搭載したアースクラッシャーでぐるりと囲んでセットするくらいのことはせねば。
ネルが怒っている?と聞いてきたのは、一発一発を地面に打ち込み、爆発させるのをやけに楽しそうにしている俺の態度から推測したのだろう。
このアースクラッシャーも相当お金がかかる代物だが、ぶっちゃけて言えばクラス9のモンスターと戦うのはハイリスクハイリターンの戦闘が常だ。
高価なアイテムを湯水のように使って、その湯水分を充分に補填できるようなドロップアイテムを手に入れて帰る。
それがFBOでの後半の戦闘だ。
この程度のアイテムを出し惜しむようでは、この後の戦闘で気が持たないぞ?
『リベルタ様、次はこちらでよろしいでしょうか?』
『うん、火炎放射器や結界塔の精霊石が尽きる前にセットしちゃおうか』
戦と言うのは戦う前に決着をつけるのがベストなのだ。
え?出現前の敵を襲うなんて外道の所業だって?ハハハハハ!世界の危機を前に様式美なんて気にしないし、最高の効率を出せるチャンスを前にFBOプレイヤーが遠慮するわけないじゃないか。
きちんと復活を待って正面から正々堂々と戦うのってエンジョイ勢の分野だと思うんだよ。
確殺を誓うのなら、外道?鬼畜?なにそれ美味しいの状態で戦うことこそ至高だ。
アースクラッシャーの次にセットするのは、こちらの品。
一見すればただのオベリスク。
文字が彫られた石碑のように見える品物でございますが、こちらの品には特別な効果がございます。
どんな効果って?
簡単な効果でございますよ。
アジダハーカの頭が地中からでてきたら、地面を強化コンクリート以上に硬くして体を固定するっていう地面硬化の魔道具です。
本来だったら建築関連で地盤を固めて維持するための魔道具なんだけど、即効性が高くて耐久性も高い。材料を惜しまず注ぎ込めば、かなり強固な防御力を発揮するっていう優れもののアイテムなんだ。
地面で大爆発するから、浮遊スキルを付与して地面から少し浮かせて吹き飛ばされないようにワイヤーで固定。
アースクラッシャーが地面が吹き飛ぶ火力を叩き出すから、ワイヤーは地面には刺しませんよ。
じゃぁ、どこに刺すって?
空中ですがなにか?
空歩という足場を作り出せるスキルがあるのなら当然空中で物体を固定できるスキルもあるわけで、ワイヤーで空中に固定された石碑があちこちに設置されるという摩訶不思議な光景が出現する。
この魔道具のいいところ。
干渉するのがアジダハーカじゃなくて、地面っていうところなんだよ。
設置する総数は百個。
一個で1アールはカバーできるから10×10で均等に設置すれば1ヘクタールはカバーできる。
『くくく、深さ10メートル広さ10000平方メートルの岩盤の重しを身に着けてまともに戦えると思うなよ』
『このマスクで顔が見えませんが、リベルタが今凄く悪い笑顔を浮かべているのはわかりますわ』
『予定通りいかなかった鬱憤もあるのでしょうが、改めて敵にしたら恐ろしい人物だというのがわかりますね』
写し身の魔導人形越しに見ていただけで俺たちの戦術がわかっているなんて思ったら浅はかなり。
さっきのはそもそも緊急事態で、即席で対抗しようとして作った対アジダハーカ戦線だ。
入念に準備した作戦はあんな物じゃないぞ。
さっきの戦闘では胴体に杭を打ち込んだけど、本来の戦術は封印されているアジダハーカをアースクラッシャーで叩き起こして、地面から這い出てくるところをこの魔道具でがっちり固めて胴体を固定。
藻掻くアジダハーカの首を現在進行形で上空で再装填されている杭で縫い付けて身動きできないようにしてボコボコにするというのが本来の戦法なのだ。
これを用意すれば、アジダハーカにダメージが通れば本当に作業ゲーになるし、事故で脱出されたとしてもそのころには十分なダメージを与えられているはず。
何度も何度も戦っていればこれくらい効率的に狩る方法なんて確立しているんだよ。
精霊たちとつながりができたからできる戦法だから、本当に感謝しかない。
ここは日本の味覚を持つ俺が監修のビュッフェでも開くか?
祝勝会を考える余裕すら生まれるけど、さすがに油断はしませんよ。
『御屋形様!!こちらの設置完了しましたぞ!』
『こちらも恙なく設置し終えました』
『僕たちの方も終わりましたわ』
『うむ!罠も戦士のたしなみ!この程度の作業我らにかかれば造作もない!!』
この罠の欠点はとにもかくにも魔道具の数を設置しないといけないこと。
たった1つの魔道具でも広大な岩盤を作り出すこともできるし、その使い方の方が建築用途においては便利だ。
しかし、その代わり岩盤の強度は下がる。
その点、数を用意したこっちの岩盤の強度は広範囲で連結している分格段に上がる。
焔の中で活動できる面々が手分けして、設置してくれれば時短にもなる。
『よし、総員爆発範囲外に撤退!!アースクラッシャーの爆発後に復活したアジダハーカの討伐に入る!』
空を見上げ、杭の再装填を確認。結界塔も精霊石の魔力残量的にまだ数時間は起動できる。
火炎放射器も同様。
さてさて、さっきと比べて随分と殺意が高くなった。
いや、万全の殺意を取り戻したと言っていいか。
全員が安全な距離に避難したのを確認。
点火スイッチは俺の手の中。
無駄に悩めば悩むほど時間は過ぎるので、迷わず笑顔でスイッチを押すと。
火山が噴火するような轟音とともに地面が弾けた。
宙に舞い上がる土砂。
砂埃で視界が塞がる。
『■■■■■■■■■!?』
直後に聞こえる怪物の悲鳴。
写し身の魔導人形でコピーして産声を上げた時のアジダハーカとは違い、痛みに悶えるような叫び声。
『追加でポチッとな』
アースクラッシャーのダメージが封印を破ってアジダハーカ本体まで届き、傷つき怒り心頭で封印から脱出したアジダハーカの頭が地面から八本姿を現し、さらに首元まで出たタイミングで硬化装置のスイッチを入れる。
『■■!?』
おー、慌ててる慌ててる。
地面から這い出て戦闘態勢に入ろうとしたアジダハーカの胴体が地面から這い出るよりも先に硬化装置によって周囲にまき散らされていた土砂が一気に集結し、その土砂が硬化し、アジダハーカの体が岩盤によって覆われてしまった。
暴れようにも体そのものが岩盤で覆われてしまったゆえ、動かすこともままならない。
『よーく狙い、放て!!』
ブレスで岩盤を破壊しようと口元でチャージを始めたタイミングが狙い目。
ブレス姿勢に入った頭めがけて、空中に再装填していた杭を射出。
ブレスを放つにはどうあがいてもチャージモーションが必要になる。
元々のステータスが高いのだからちょっとやそっとのダメージじゃ怯みもせず、そのままブレスを放たれるのが高位モンスターとの戦いの流れだが。
流石に首を貫通するように杭を打ち付けられたらブレスも中断せざるを得ない。
「■■■■■!?」
まず三本の首が杭によって縫い付けられた。
そしてその杭は硬化装置によって岩盤と連結し、抜けなくなった。
残った五本の首が驚いて上空を見上げようとしたタイミングで、狙いを定めていた追加の杭が降り注ぎ、瞬く間に残った五本の首も杭により串刺しにされた。
『うん、串打ち完了』
これはひどいと、きっと誰かしら思っただろう。
災害と称されるアジダハーカが、今では体を岩盤に封じ込められ、動けていたはずの首は杭により串刺しにされている。
そして結界塔により張られた結界で高温に保たれた空間に放たれ続ける火炎放射器の白い焔。
これが正真正銘、真のアジダハーカ討伐コンボ、蒲焼コンボだ。
ストーリーの設定で絶対に地下に封印されているというアジダハーカだからこそ、完璧にハマる確殺コンボ。
後は蛇眼に狙われないように顔の正面には回らないように気を付けて。
『硬化剤入り泥爆弾発射』
ハンマー投げの要領で、赤備えなり、ドワーフなり、獣人なり。
体格に自信のある連中によって、アジダハーカが身を守る頼みの綱の蛇眼を封じるために顔面にめがけて泥が投げつけられた。
火の熱と魔法薬で固まるようにした泥がアジダハーカの顔を覆うように固まる。
蛇眼は確かに厄介だけど、物理的な破壊力はないからな。
効果も、麻痺と石化だから。
こうやって硬化する泥で目を覆ってしまえば有効活用はできなくなる。
必死に口を開いてその泥を剥がそうともがくが、顔にピッタリとくっついた状態では剥がすことなど不可能。
地面に顔をこすりつけるなり、首同士で剥がし合えばできるかもしれないが、生憎と全部の首が地面に刺し止められてしまっているのでどうあがいても動くことはできない。
せめてもの抵抗で口からブレスを吐き出し、口元付近を呪毒で汚染し回復元を確保しようとするけど。
『総員かかれ!!』
すでにまな板の鯉ならぬ、蒲焼一歩手前のアジダハーカ。
さてさて、ゲームでの俺たちの反撃を全く想定していない攻撃一辺倒のDPS設定の時と比べて、現実のこの戦いでは果たしてアジダハーカの回復は追いつくだろうか?
遠慮なんて欠片もない。
封印がこっちのタイミングで解けるのならこういう形で決着をつけることができる。
この状態でも、相手が相手だけに油断はできない。
『クローディアさん、ネル!全力で頼む!!』
『わかりました。全力で参ります』
『大盤振る舞いよ!!』
切り札を切る。
『全力で行くわよ!!ゴールドスマッシュ!!』
『天拳!参ります!!』
さぁ、アジダハーカを美味しく焼き上げて倒そうか。




