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13 銃

 

 銃砲というのは、近代戦においては主力とも言っていいほどの兵器だ。

 地球なら、人間が携行できる武器の中で最強の一角に挙げられる物だと言える。


 そんな中でファンタジーのゲームであるFBOに登場する銃砲のポジションはと言えば、「強力だが、費用対効果が悪い」の一言に尽きる。


 理由は簡単、銃砲は全て古代兵器扱いでその構造を理解して整備をできる人が少なく、さらに地球のように工業化が確立していないことから、すべてのパーツと弾薬の製造が手作業かつワンオフだということが原因だ。


 火力を上げるためにする努力も多く、弾丸の素材や雷管の用意、さらには中身の火薬の種類を変えたりと工夫が必要なのも、運用上でコストが嵩む理由になる。


 FBOが現実になったこの世界では、高速で飛んでくる高熱の金属の塊である弾丸を、眼球という急所に受けても平気な顔で動き回るモンスターがゴロゴロいるし、そもそも銃砲で射撃できるような急所がないパターンも存在する。


 なので、アンチマテリアルライフルみたいな大口径の武器でモンスターの鱗とか外殻とかの装甲をぶち抜くという戦法がFBOの銃砲では主流だ。


 そうなってくるとさらに弾代でお財布が寒くなってくるわけで、FBOで銃を使うプレイヤーは、整備士、資金調達係の2人のNPCを用意する必要があった。


 不遇と言えば不遇だけど、環境を整えれば強いのは証明されているから使うプレイヤーは一定の数存在した。


 そして今、ガトリング砲という「ここファンタジー世界だよね?」と首をかしげるような兵器が目の前に姿を現し、俺に猛威を振るおうとしている。


 専用の工場や設備を作れればこのガトリング砲の警戒度は跳ね上がるが、ボルドリンデというNPCがそれを用意できるわけもないし、加えてよく見れば若干古ぼけたような見た目をしている。


 多分だけど、遺跡から発掘されて状態のいい奴を確保したという感じだろうな。


 たとえそんな骨董品みたいな武器であっても、弾丸が当たれば大変なことになる。


 なので、ここではFBOで実際あった近接戦闘者の銃砲の対応方法をお教えしよう。


「ステップ1、銃口の向きを良く見ましょう」


 FBOにおいても銃砲の恐ろしさはとてつもない速さで迫る弾丸だから、それに対していかに対応できるかという問題になる。


 人間の反射神経では発射された後の弾丸を躱すことは到底無理な話。


 なので、まっすぐに飛ぶ弾丸であるのなら銃口から体を逸らしていれば問題なく回避することができると言うことになる。


「ステップ2、銃口の向きに合わせて体を動かす」


 そしてこの世界で手に入れたステータスならば、人間離れしたゲームキャラの動きを限りなく高い精度で再現できる。


「ここでコツなのは左右という二次元的な動きではなく、三次元的な動きを意識するのがベスト」


 撃ちだされた弾丸が見えているのは、俺のステータスという能力の恩恵があるからだろうか。

 FBOの時よりもだいぶ躱しやすい。


 いや、発掘されたままの無改造の古代のガトリング砲だから躱せているのか?

 もし仮にこれがプレイヤーメイドの高性能のガトリング砲だったらと思うと背筋が少し寒くなる。


「地面だけではなく、壁や天井、あるいは武器を使って体の移動の軌道を不規則にしてやることで相手が狙いを定めにくいように動けば、基本的に銃砲という物は当たりません」


 高速で移動しながら、徐々に距離を詰めていく。

 この広間の感圧式のトラップは凍らせて封じているし、結界迷宮に関しては相手の射撃で壊されていく上に所々槍で破壊して道を作るから問題なく前に進める。


「そしてだいたいの射手は当たらなくなるとこうやって全体にばらまくように弾幕を張ります」


 その進撃に合わせて、近づけないように弾丸をばらまいて俺が回避できないように攻撃をしてくる。


「だけどこういう弾幕はぶっちゃけあまり怖くありません」


 しかし、その弾幕攻撃はFBOでは悪手である。


「なにせ、弾丸を散らばらせることによって面は完成しますけど厚みが足りません」


 たった1つの銃砲ではFBOのガチ育成キャラは止まらないのだ。


 腕を十字にして顔を守るようにして一気に前に突入する。


 普通に考えれば自殺行為以外の何物でもない。

 そもそも防弾繊維や防弾チョッキなどの弾丸を防ぐことを想定した道具であっても、ガトリング砲の大口径の弾丸を防ぐことは困難通り越して無理だ。


 普通に貫通するし、仮に貫通しないとしても衝撃で人間の骨を砕き肉をえぐり、ミンチにしてしまう。


 だが、この世界で作った防具は地球の素材とは比べ物にならないほど頑強であり、肉体は比べるのも烏滸がましいほど頑丈だ。


「なのでこうやって腕にマジックエッジを展開して、魔力で防御してしまえば簡単に突破できてしまいます」


 そもそもスキル攻撃という物理現象に、真っ向から喧嘩を売るようなスキルが山ほど存在する。

 タンク系のスキルで盾の強度を上げてやれば、じりじり迫ることもできるけど、今の騎士たちの装備の質だとちょっと厳しいだろう。


 しかし、俺のステータスとマジックエッジの強度があれば、わずかな衝撃を感じる程度で問題なく防ぐことができる。


 なので必要最小限のダメージで突破するのが吉。


 俺が回避するのではなく突破することを選んだことで、弾幕を張るために振り回していた銃口を俺の方向に慌てて戻そうとしているけど、それじゃぁ遅い。


「そして、俺に当てることを意識し始めたタイミングで投擲武器で射手を攻撃すると相手が狙いを定められなくなり、もっと躱しやすくなります」


 かく乱するように縦横無尽に動き、その途中で投げナイフを射手に向けて投げるとサポート役が腕を伸ばして射手を庇った。


「こういう結界で障害物があって、動きにくい時は範囲攻撃で空間を確保するのも大事です。あと、障害物の配置が把握できているのなら煙玉とかで視界を遮るのも有効です」


 その間にも必死に俺に狙いを定めて攻撃を続けるが。


「とまぁ、こうやって接近する脅威を用意して敵の注意を引き付けたところで、仕上げに」

「ハウンドライトニング!」

「後方から一気に狙撃するのが一番簡単です」


 うちの仲間を忘れたらいかんですわ。

 俺が変態チックな動きで、踏み込み続けてくるから早く倒さないといけないという恐怖にかられたんだろう。


 もちろんそれを狙ったのだから、計画通りと言える。


「これぞ対銃用の基本戦術、ヘイト管理による不意打ちです。注意が直前に向いて射程という長所を忘れた射手など何も怖くない」


 雷に穿たれ、黒焦げになって煙を上げる暗部の射手は後ろに倒れ込む。


 慌てて射手を代ろうとしているが、その交代動作を俺が見逃すはずもなく、俺は一気に前に進み槍を振るって、ガトリング砲の周りにいた黒づくめの暗部たちを切り捨てる。


「はい、攻略完了」


 そうしてガトリング砲を制圧して振り返れば、杖を構えたエスメラルダ嬢が呆れたような笑みを浮かべていた。


「簡単でしょ?」

「なるほど、簡単ですね」

「クローディア様は簡単でしょうけど、私たち魔法使いですとマジックシールドで防ぎつつ砲撃戦をした方が簡単に攻略できそうですわ」

「私はハルバードの斧の部分で防ぎながら進んだ方が早いかしら?」

「うーむ、拙者は目を慣らしいくつか弾丸を切り裂けばいけるでしょうな」


 簡単にできると宣言すれば、クローディアは納得し、エスメラルダ嬢は高速に動き回るよりもマジックシールドで防ぎつつ打ち合った方がいいと判断した。


 最初に回避するときに俺が注意を惹くからその隙に攻撃してくれと頼んでおいたからスムーズに事が運んだのだが、確かにエスメラルダ嬢の方法も正解と言えば正解だ。


「エスメラルダさんの方法でもいけますけど、前衛が防げることが確定していないと危ないですよ。対魔術用の弾丸もありますからそれで貫通されたら大変ですし、極力銃弾は回避が無難です。あとゲンジロウ、見切りに失敗したら大怪我するからぶっつけ本番で試さないように。こうやってガトリング砲も押収できそうだし、今度訓練に組み込むからそれまで回避をメインに考えて行動して」


 ただ、その方法だと多少の危険が含むので、諸々の諸注意を交えつつ、広間の罠を発動させないように注意しながらネルたちを招き入れた。


「それじゃぁ、このガトリング砲の回収よろしくお願いします。俺たちは先に進みますので」

「はっ!」


 敬礼し、後詰になってくれる騎士にこの場を託し、ゲンジロウたち赤備えを引き連れて先を進む。


 ここから先はまだマップもできていない場所だから警戒しつつ進む。


「あ、そこ罠があるから」


 所々罠がまだあるのは、暗部たちがまだ残っているのだろう。もう一波乱か二波乱くらいはありそうだ。


「たぶんそこ、隠し通路がある。その燭台を操作して広間の窓のある場所に出れると思うから制圧して来て」


 遺跡を観察すれば、ゲームでの経験からおおよそどこに罠を設置してどういう場所に隠し部屋があるかはわかる。


「なんでリベルタはわかるの?初めて来た場所よね?」

「なんとなく、癖みたいのが見えるからかな。あとは経験則」


 FBOの古代遺跡は意外と傾向というか法則性が存在する。

 似たような建築様式だった場合、隠し部屋とか隠し通路の場所は似通っているケースが多い。


 作った人が一緒なのか、それとも設計図は一緒なのかはわからないが、次々に指摘した場所に隠し通路や部屋があればネルも驚く。


「罠はどうやって見極めているのですか?後学のために教えて欲しいのですが」


 遺跡の様子に驚いているが、クローディアは俺が仕掛けている罠を看破している方法に興味深々のようだ。


「相手の癖を考えて観察すると意外と違和感があるって言う感じですね。例えばこの罠を設置している人は急ごしらえと見せかけて本命を隠す癖みたいのがあるんで、この罠の近くを探せば、ほら、ここ、偽装はしてますけど石畳を変えた痕跡がありますからこの下に感圧式のトラップを仕掛けてますね」


 罠看破に関して言えば、高難易度の鬼畜トラップダンジョンを攻略した経験による観察眼としか言いようがないが、それを言ってしまえば元も子もないだろう。


 なので、身に着けた経験から来る理論を教える。


「あとは、この遺跡の罠を囮にしようとした形跡があったりするので、そこら辺を注意して罠を解除して」

「スキルもないのによくできますわね」

「魔法的トラップなら、専用のスキルが必要になりますけど、手作業で設置した物理的トラップならスキル無しでも解除できますよっと。あ、イングリットそっちのワイヤーを掴んでくれるか?」

「こちらでよろしいでしょうか?」

「うん、それでこっちのワイヤーと結べば罠解除完了っと」


 いやぁ、中々殺意高めのトラップ群だね。

 中に籠ることを想定して、とにもかくにも侵入者を殺害することだけを考えている。


 また無理矢理進もうとしたら連鎖的に罠が発動して大変なことになるのがわかるので、一つ一つ解除させて時間稼ぎをしているという意図も見えるから、これを設置した奴は随分と性格がひねくれている。


 時間稼ぎをしたいという思惑とこっちを殺したいという殺意を両立しているのはなかなかできることではない。


 そうやって次々に罠を解除しているが、さっきのガトリング砲以降敵襲がないのが何とも不気味だ。


 この一直線の通路にさっきのガトリング砲を設置すれば罠も相まって躱しにくいと思うんだが。


「リベルタ、変な匂いがする」

「毒か?」


 相手の思惑を考えながら進んでいくと、ネルが異臭を嗅ぎ取った。

 俺にはわからないが獣人族であるネルはわかる。


 眉間に皺を寄せてスンスンと鼻を鳴らす彼女は、匂いの元はこの通路の先だと指さす。


「たぶん違うと思う」

「イングリット、念のためエアクリーンを発動してくれ」

「かしこまりました」


 噴霧タイプの毒であればイングリットのエアクリーンでどうにかなる。

 問題は毒ではなく、異臭を発する何かがいる場合だ。


 蛇がいることは確定しているが、それ以外に出るとなれば臭い鬼でも潜んでいるのかね?



楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


第1巻のカバーイラストです!!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
誰でもできると大言壮語なことを言っていたけど、超越者なら誰でもってことだろー! それはそれとして、リベルタたちがガトリング砲も押収して今度訓練で使う時は リベルタ「ほーらほらほら、立ち止まったら当て…
まぁ普通の鉛玉なら急所に当たらなければ普通に耐えそうですよね。スキルが乗った弓矢とか魔法の爆弾とかの方が威力高そうだし あと避ける練習で人にガトリング砲撃つの想像すると面白すぎる
普通の人が居ないから「まあ、なんとか」で済んじゃったけど 本来なら「出来るかぁ!」ってやつですよね 「当たらなければどうという事も無い」とか「弾幕の中って他に敵が居ないから安全なんですよね」ってパター…
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