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11 最後の砦

 

「攻略は?」

「敵は地下通路に陣を敷き罠も設置し徹底抗戦の構えです」

「籠城か」


 グルンドで結構時間をくってしまったのは俺の自業自得であるが、寄り道であったとしても後のトラブルの芽を摘めたと考えればあの時間も無駄ではなかったと思える。


 外にいた賊と、グルンドが解き放った蛇竜の眷属は概ね掃討が完了。


 後は敵の本丸である地下にある遺跡を押さえ、ボルドリンデの本体を倒すか捕縛すれば、ひとまず今回の作戦は終了する。


 だけど残った敵は、すでに蹴散らされた賊とは違い意志をしっかりと持ってボルドリンデに仕えている騎士や暗部の面々故に、抵抗は激しい。


 いかにステータス差があると言っても、地の利を最大限に生かしトラップを駆使されたら簡単には攻め切れないようだ。


 グルンドをどうにかしている間に攻略の足掛かりがつかめていれば良かったのだが。ひとまず遺跡の入り口付近で待機している騎士たちのところに向かう。


 遺跡地下への入り口にバリケード、そこに魔道具やバリスタを設置していた痕跡があり、ひとまずは入り口は突破したのはわかったが、そのあとが問題だったようだ。


「ボーグルさん、敵はどんな罠を使っています?」

「物理的なダメージが効きにくいことに気づき、主に毒を使ってきてますな。閉鎖空間で毒を使うのは本来であれば危険なのですが、向こうの暗部が上手く使ってこちらの騎士が何人かやられました。幸い命に別状はありませんし、今は回復して戦線に復帰しています」

「毒か」


 エーデルガルドの私兵には状態異常耐性を持たせているが、それは状態異常になりにくくダメージを軽減しているだけであって、無効や無傷というわけではない。

 生存能力を高めるスキルゆえに、もっと万全に対策するのならそれ専用の装備で底上げをしないといけない。


 生憎と騎士たちに持たせているのは、アジダハーカに備えた対呪い耐性特化装備にしている。

 故に、毒耐性は穴となっていた。


 入り口付近で陣頭指揮を執っているボーグルに状況を確認すると、遺跡の通路の狭さによって一気になだれ込めないことを利用し、少数で守りやすいようにしているようだ。


 毒使いのスキル持ちが相手には多数いるみたいで、その毒によって戦線を一時離脱した人もいると聞き眉間に皺をよせる。

 幸い速やかに回復できているが、無理に進めば被害が出るという状況に、一旦落ち着いて作戦を考え被害を抑えようという行動は俺も賛同する。


 アミナの聖歌は、呪いとかアンデッドとかそういう対象には効果があるけど毒には効果はないからなぁ。


「他に通路は?」

「有りません。部隊が展開できる通路は相手側が崩してさらに毒も撒かれ手が付けられません」

「毒をどれだけ持ち込んでいるんだよ・・・・・」


 なりふり構わず、毒を使いまくっていることに辟易しそうな気持ちを持ち直し、どうするかなと考え。


「上から遺跡を壊すのはさすがになぁ」


 手っ取り早いのはエスメラルダ嬢の最大火力か、ネルの最大火力で上の空間を押しつぶして生き埋めにする方法。


 これで生きている方がおかしいと言わんばかりの脳筋戦法だ。

 これの欠点は目標を制圧したかどうか確認するのが大変って言うことで、一旦保留だが。


「あ」


 しかし、脳筋というワードで俺はふと面白いことを思い出した。

 それはFBOでのレイド戦、それもプレイヤーVSプレイヤーのチーム戦でのとある光景だ。


 事の発端は、とあるレイドのプレイヤーが自作した渾身の城が難攻不落だと豪語し、SNSに投稿したのがきっかけだ。

 どんなプレイヤーだろうが、どんな兵器だろうが絶対に落とせない城だと多方面のプレイヤーを挑発するような文言で煽り散らかし、その挑発に乗って多数のプレイヤーがそのプレイヤーの城の攻略に取りかかった。


 その城は貴重な素材をふんだんに使い、しっかりと育成したNPCやゴーレムを配置し、さらに建築学や戦術論を勉強し、割と真面目に攻略が困難な城を構築しているから威張るだけはあるとプレイヤーたちは感心した。


 だがしかし、このプレイヤーは投稿にたった一つの致命的なミスをした。

 いや、本来であれば致命的とすら思わないような文面だ。

 しかし、挑発をするのならもう少し情報が拡散する範囲に気を配るべきだったのもまた事実。

 FBOプレイヤーの中には、変態と言わざるを得ない連中が数多存在する。


 その煽り文面は変態たちのやる気に火を灯すような内容だったのだ。

 そして変態たちが動いた結果を端的に伝えよう。


 そのプレイヤー渾身の城の攻略にかかった時間は4時間と27分だ。


 投稿主は、千を超えるクラス10のプレイヤー相手だろうとも、一カ月は耐えてみせることを想定していたようだから、正面から来るプレイヤーや空から来るプレイヤーには万全を期しただろう。

 しかし、たった1つの大きな見落としがあった。


 それは地下だ。

 いや、そのプレイヤーは地下にも万全を期したと思っていた。幾層にも重ねた特殊装甲、岩盤、さらには地下でも活動できるゴーストモンスターと、地下という大地の守護もある空間に考え得る最大の防御を割り振った。


 だが、世の中は全て完璧に物事が進むわけではない。


 世の中には例外という名の、変態は現れる。


 今回はその変態のやった戦法をまねるとしよう。


「ボーグルさん、人手を三十人ほど借りたいんですけどいいですか?」

「構いませんが、リベルタ殿、何か妙案を思いついたようですね」

「まぁ、脳筋と言えば脳筋なやり方ですけど、こっちの脳筋の方がまだいいかなと」

「それで何をするおつもりで?」


 脳筋と聞いて、ボーグルは首をかしげるが断りもせず周囲に賊が逃げていないか確認している哨戒チームから人数を割り振ってくれた。


 変態がやったことは至ってシンプル。


「道がないなら、作ればいいだけですよ」

「道を、作る?」


 そのプレイヤーは、たった一つの行為を極めた変態だった。


「総員にスコップを装備させてください。急がば回れ、地下への道を掘りますよ」


 クラス10の掘削特化のキャラ。

 地下を掘り進めるというニッチなキャラで城を攻略した。

 監視の範囲外から地面を掘り進め、地下千メートルという場所からの急上昇掘削。

 普通であれば酸素が無かったり、岩盤があったり、落盤事故があったり、地下水にぶち当たったりと色々と問題があるような行動だが、その全てを変態は秒速30メートルという異常な掘削速度を叩きだし払いのけた。

 スキルを掘削という行為に全振りし、千メートルを掘るのにも一分もかからないというのは不条理極まりない。

 秒速30メートルという時速換算にすれば108キロという高速道路で出すような速度で前を掘削しながら後ろに廃土を送るという頭のおかしい方法で、城の地下に致命的な突入路を作って見せた。


 そんな変態の先人はこの場にはいないがその知恵にはあやかることはできる。


 塹壕掘り用のスコップは用意してあるから、俺も鎌槍を一旦背中に背負ってスコップ片手にちょうどいい位置を探る。


 普通の人が地下道を掘って敵地に侵入するとなれば、当然時間がかかるし掘削中に気づかれる。

 そのことを考えるとこれからやることは現実的じゃないし、それなら正面からトラップや守備兵を突破した方がいいのではと思うかもしれない。


 だけど、クラス8とクラス7の体力寄りのステータスを持っている輩が一斉に地面を掘り始めると。


「「「「「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」」」」」」」


 その腕は超高速で細かい作業ができる掘削機と化す。

 十人が横一列に並び、地面をどんどん掘り進め、見る見るうちにトンネルが出来上がっていく。

 十人が横一列に並んで立つことができる通路は十二分な突入路となる。


 その中央には俺も参加して、誰よりも早く地面を掘り進める。


 その背後にいた十人が俺たちが掘り出した土砂や砕いた岩を外に排出、残った十人が外壁を固めて落盤事故を防ぎ、さらに風を送り空気を確保する。


「ハハハハハハ!!掘れ掘れ!!ドンドン掘れ!」

「「「「「「イエッサー!!!」」」」」」


 グルンドで手間取った時間はこれで帳消しだ!!

 力技で攻略するのも時には良し!!


 クラス8の肉体は伊達ではない!!

 地面なんて、砂か岩でしかないんだ。

 プレイヤーメイドの砦だと、地下に機雷とかミスリルの岩盤とかが埋設されていたりするけど、古代遺跡にそんなものはない。

 スコップをマジックエッジで補強してやれば大体の物は掘り進めることができる。


 地面はプリンを掬うよりも簡単に、土は綿菓子よりも軽く、腕は残像を残すほど速く。

 男たちは止まらず、どんどん斜めに地面を掘り進め、そして。


「リベルタ殿!遺跡の地下の天井にあたりました!!」

「よし!掘れ!」

「「「「イエッサー!!」」」」


 ものの十分で、遺跡の地下にぶち当たった。

 いやぁ、これがステータスのごり押しって言うやつだ。


 いい汗かいたと、額を拭い。

 隣にいた騎士たちとハイタッチを交わす。


 遺跡の保護?そんなモノこの緊急事態には関係ない。

 容赦なく、騎士たちは己が使ったスコップをマジックエッジで補強し、遺跡の天井らしき場所に突きつけ、一気に削り取っていく。

 流石に地下空洞を維持するために用意したものだけあって頑丈な石材が使用されているが、騎士たちのスコップには負ける。


 アイスクリームをくり抜くように綺麗に岩は掘られ、崩れないように魔法使いが土魔法で補強する。


「突入!!」

「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」


 そして人が悠々と三人は通れるかという穴をあけ、偵察用の鏡で中を覗き込めば誰もいないのがわかり、さらに魔道具で毒がないのは確認した。


 明かりの魔道具で通路を照らし、ゲンジロウたち赤備えが次々に突入し、その後に騎士が突入する。

 耳をすませば、戦闘音も聞こえ始め、もっと集中すればなぜ敵がここにと驚いている声が聞こえる。


 その後に首を置いて行けと、叫ぶ声が聞こえるのに苦笑しつつ、これで状況が動くだろう。


 普通に考えて地面掘って侵入するってもっと時間のかかる方法だし、そもそも騎士たちがやるような戦法じゃないよな。


 俺も完全にノリと勢いでやったし。


 ひとまず、これで入り口の方も占領すればボルドリンデを捕まえるのも時間の問題だ。


「ボーグルさん、たぶんそう時間がかからないうちに入り口にいる敵の背後から味方が攻撃を仕掛けるのでそれに合わせて攻めてください」

「わかりました。しかしまさか、こんな方法で攻略するとは。いやはや、まだまだ私の頭は固かったようですな」

「普通に考えればやりません?」

「やりません」


 掘った穴から出てみれば、ボーグルが苦笑しながら俺を出迎えた。

 入り口の方の指揮はいいのかと聞いてみれば、副隊長が指揮を執っているので問題ないとのこと。


「私たちは入らなくてよろしいので?」

「俺たちばかりで手柄を独り占めしたらよくないので、とりあえずボルドリンデが見つかるまでは待機していますよ」


 そして、本丸に続く道までを騎士やゲンジロウたちに任せ、俺たちはちょっと休憩に入る。

 休憩できると言っても、十分かそこらだろうね。


 クローディアが戦い足りないと言っているが、天拳のデメリットが解除されるまで大人しくしていてください。


 その後は目一杯戦って貰うので。


 さてさて、ボルドリンデはどう出ることやら。


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


第1巻のカバーイラストです!!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
美しい汗をかこう。 生きているって素晴らしい。 汗をかくって素晴らしい。
地下の坑道なら水責めが出来たら楽なんだろうけど後始末が大変だからなぁ
>「「「「「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオ…
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