3 変形合体の埴輪
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さて、少し前のことを思い出したのは良いけど、今は埴輪ことプチクレイゴーレムを倒すつもりはない。
今回の旅路は一泊二日の予定で、今は昼前。
昼までに野営の準備をして、そのあと日暮れまで狩りをしてそのまま野営、そして朝一から閉門に間に合う時間までの狩り予定だ。
「遅いわよ!!」
「もう、こっちの準備は終わってるよ」
プチクレイゴーレムをデントさんに倒してもらって、その際に手に入ったドロップ品を回収。
今日の分の薪木を確保して戻ってみると、馬車に固定されたテントと、水が入った桶が用意されている。
そして早く狩りに出たいと願っている少女二人が準備万端。
「ごめんごめん、いい薪木がなくて」
いよいよレベルが上がると聞いて気合が入っているのはわかるけど、夕方まで持つか?
「お嬢さん方も待ち遠しいでしょう。その薪は自分が受け取りますので、デントとピッドは森の中で狩りをしてきてください。どうせなら肉も欲しいところですね」
体力切れという名の電池切れを心配していると、アミナと一緒に水汲みをしていた鳥人のマイルさんが彼女たちの気持ちを察して予定の繰り上げを提案してくれた。
彼は今回の護衛の中で唯一の既婚者の上に子持ちだそうで、ネルとアミナの心情を察することができたのだろう。
糸目でいつも笑みを浮かべているから少々怪しい雰囲気を持っているけど、梟の鳥人の場合昼間はまぶしすぎて、そういう目になる人が多いらしい。
「俺は良いけどよ、ピッドはどうだ?」
「問題ない」
マイルさんの提案を皮切りに、デントさんは背負っていた薪を降ろして、座っていた熊の獣人の冒険者ギルドで世話になったピッドさんに声をかけた。
口数は少ないが、デントさん曰く真面目に仕事をこなす人らしく、今回の仕事も快く引き受けてくれたらしい。
表情筋が硬く、強面だが悪い人ではないのは会ったときになんとなく察せた。
ゆっくりと立ち上がり、背後に太陽を浴びる彼の姿は子供の俺からすれば見上げるほどの巨体でありこれからモンスターと戦うことを考えると頼もしいという言葉がふさわしく感じる。
「そうかい、それじゃ坊主。ここからはお前が仕切れ、俺は周りのモンスターの動向に注意するから。ピッドは坊主たちを注意して見ててくれ」
「わかりました」
「わかった」
予定よりも少し早いが、すでに相棒となった竹槍を持ち直してあとは背負った革の鞄をチェック。
「二人とも準備は良いな?」
「もちろんよ!」
「うん!ポーションも持ったよ!」
ポーションとあとは簡単な地図、あとは非常食の干し肉と水袋を入れている。
「修練の腕輪は装備してないよな?」
「大丈夫よ」
「うん、カバンの中に入れてるよ」
そして最後に手に修練の腕輪がついていないかを確認する。
あれがついてるとレベルが上がらなくなるし、外すのに一日待たないといけないんだよ。
間違えて付けたら面倒なことになるから注意して、問題なければ。
「準備オッケーです。行きましょう」
「おう」
「うむ」
デントさんに声をかけて森を進む。
「デントさんは先頭で警戒と目的地までの道案内をお願いします。ピッドさんは最後尾で警戒を」
「わかった」
「ああ」
陣形はデントさんを先頭にして俺、アミナ、ネルの順。
そして最後尾にピッドさんだ。
「しかし、坊主たちの護衛は気楽でいいな。なぁ、ピッド」
陣形を決めれば後は森を進むだけ、できるだけ状態のいい道を進むから多少遠回りと最初に聞いている。
地形として見覚えはあっても、自然環境だと大きく変化していて俺の記憶通りに目的地にたどり着けるとは限らないからな。
「……無駄口を叩くな。仕事中だ」
なので道はデントさんに任せて俺は地形から見てだいたいの位置を把握するのに努めている。
黙々と歩いているのはなかなかにして退屈。
最初に口を開いたのは先頭を歩いていたデントさんだ。
最前から最後尾に向けて、子供三人しかいないから普通の声量で普通に届く。
「そう言うなって、前に貴族連中のガキをゴブリンの森に護衛したときのことを思い出してみろっていうんだ」
「金払いは良かった。俺が言えるのはそれだけだ」
「でもよ、それからあの家の護衛依頼は避けるようになってるじゃねぇか」
「……」
内容は冒険者としての仕事の愚痴だった。
「何が気楽なの?」
冒険者の現場の声と言えばいいだろうか、俺としても気になる話題。
そしてネルも興味を持ったのか、足を止めずにデントさんに問いかけた。
「嬢ちゃんたちは俺たちにわがままを言うことなく素直についてきてくれてるってことだな。雇い主が俺たちを信用してくれて、道案内を任せてくれる。これだけでもだいぶやりやすい。それと比べてあいつらは、なぁ?」
「……前に護衛した貴族の子供は、いろいろと面倒であったな」
デントさんにネルが質問したことによってピッドさんも話に入ってきた。
デントさんが話を振ったこともあるが、つい愚痴をこぼしたくなるくらいにひどい仕事だったんだろう。
強面のピッドさんの顔が嫌なことを思い出したと歪むほどだ。
「たった数分歩いただけで、でるわでるわ文句の多いこと。道が悪い、モンスターに出会わない、時間がかかる、喉が渇いた、終いには疲れただと抜かしやがる。これで坊主や嬢ちゃんよりも年上の貴族の子供だぜ?」
「俺は顔が怖いと言われたな」
「あと加齢臭がひどいってな!!貴族だからってなんでも言っていいと思うなよ!」
「それをあの時言っていれば格好がつくがな」
「お前もだろうが、俺たちみたいな平民は黙って仕事をすればいいのさ」
大人の愚痴を子供に聞かせるなと思う反面、この世界での貴族は中々横柄だという情報も知れた。
ネルなんて、わかると頷いている。
商売をしていると貴族と触れ合う機会でもあるのだろうか?
それとも噂話程度でもそんな話を聞くのだろうか。
どっちにしろ子供でも貴族の横柄さは伝わっているということか。
アミナもあーとどこか遠い目をしているし。
「これから行く場所は貴族連中も行かないような場所だからな。そいつらに会わないっていう意味でも気楽なんだよ」
「ゴブリンの森だと狩場の取り合いで立場の弱さが明白にでる。横取りをしたと冤罪をかけられればこちらが一方的に責め立てられるな」
「ひぇーー、やっぱり貴族って怖いね」
この世界に来て、日が浅い俺はゲームでの知識でしかこの世界の貴族層を知らない。
皆が言う貴族の権力の怖さはゲームにはない演出だった。
貴族に屈していたらストーリーが進まないというのもあったかもしれないからか。
「できるだけ関わらないのが無難ですね」
「関わりたくなくても目をつけられたらあっちから絡んでくるぞ」
「……面倒ですね」
そこら辺は気を付けないとなと無難な感想を言ったが、それではダメだと指を振りつつ苦笑で指摘してきたデントさんには哀愁が漂っていた。
きっと過去に苦労があったんだろう。
もしかしたらクレルモン伯爵の嘆きで苦労したのかもしれないな。
そんな話の流れだから、そこからはデントさんとピッドさんによる貴族連中とのかかわり方という愚痴と経験談が半々の話題が大半だった。
役に立つから俺とネルはいいけど、アミナは若干つまらなさそうだったな。
「っと、そろそろつくぞ。この上り坂を越えれば」
ここら辺にアクティブモンスターはいないから道中はスムーズだった。
天気も晴れ、雨もなく。
そして少し勾配がきつい坂を上った先。
「ほれ、遺跡だ」
そこは円形状に掘られた場所だ。
「はぁ、本当に街みたいなのがある」
「だいぶ昔に滅んだ文明の街らしいけどな。建物なんてほとんどのこっちゃいないし、あっちこっち土に埋まってる。昔の貴族の道楽で宝の発掘があってこれが掘り起こされたってわけだ」
道らしい物、塀らしい物、建物らしきものと、すべてにたぶんそうだろうという推測が成り立つ原型だけが残った街並み。
旧文明の遺産。
馬車で数時間の距離にそんなものがあっていいのかと思いつつも。
「結構いるわね」
「どこから出てくるんだろ」
「それは全くわからないんだよな。ダンジョンがないっていうのは確かなんだがな」
丘から見下ろしている遺跡に動く小さな影。
プチクレイゴーレムだ。
この遺跡の住人は彼らだけで、ネルの言う通り結構な数がいる。
「それで?どうするよ坊主。別にこのまま堂々と遺跡に入り込んでもいいんだぜ?」
プチクレイゴーレム、通称埴輪の強さはモチよりもだいぶ強い。
種族は名前がさす通りのゴーレムだ。
硬く、ある程度の力もある。
代わりに速度がそこまで速くないのが特徴のモンスター。
しかしその強さも、ベテラン二人が揃えば束になっても敵わない程度の強さでしかない。
「いいえ、それだと面倒なので外周部にいるやつを引っ張ります」
皮袋をあさって、このために用意しておいた物を取り出す。
「スリングショットか」
「便利ではあるな」
パチンコとも呼ぶ、ゴムみたいな紐に石礫をセットして弾力を利用して遠くに飛ばす道具だ。
同じものを持っているネルも皮袋からスリングショットを取り出している。
「ネルと俺が引き寄せるからあとは……」
「アミナ任せたわよ」
「作戦通りにだね!」
この道具の特徴は装備しなければ相手にダメージが最小限にしか通らないという性質がある。
俺も、アミナも、ネルも弱者の証を混ぜた装備を持っているから装備を切り替えることができない。
そして埴輪の強さはモチ以上カガミモチ以下だ。
下手に強化した竹槍で攻撃すると一撃で倒してしまう。
そうなると最初の経験値テーブルだと埴輪の経験値でレベルは上がってしまう。
それを回避するためにダメージを少なく、弾の石礫もここなら一杯取れる。
さらに埴輪を引き寄せられるスリングショットが最良なのだ。
もちろんスキル構成や、しっかりと装備すればこのスリングショットもダメージが出るけど、今回はそういう必要はない。
「さて始めるぞ」
遺跡の外周。
そこにも埴輪はたくさんいる。
だけど、遺跡の中ほどではない。
その中で一番身近な埴輪に狙いを定め。
「当った!!」
「こっちに来るよ!」
「わかってるわ!!」
一発目は外れて、二発目も外れる。
そして三発目にしてようやくヒット。
こっちからの攻撃に反応して、穴のような眼をこっちに向けて、テコテコと不思議な足取りで一体の埴輪が俺の方に向かってくる。
距離が近づけば、スリングショットも中てやすい。
ネルがスリングショットを引き絞り、石礫を放つと一発で中り、カチンと乾いた音が響いた。
「中てたわ!!」
「アミナ!」
「うん!!任せて!!えい!!」
しかし、微々たるダメージでは止まらない埴輪が近づいてきて、そのタイミングでアミナが翼の腕で掴んだ木の棒を振り上げて全力で振り下ろした。
『はにゃ!?』
脳天唐竹割とまで綺麗なモノじゃないが、見事に埴輪の頭に直撃し、その体を粉々に砕いてみせた。
変な叫びを最後にいつも通り黒い灰になって消え去る埴輪。
そこに残った。
「よし、出たな」
角のような変なアイテムを拾い上げる。
「さっきも拾ってたな。だけどよ、そんなの拾ってたらカバンがパンパンになるぞ。それギルドでも買い取らないゴミだからな」
それを見て、デントさんが注意してくる。
事実このアイテムはゲーム時代も無価値、店売りでもゼロゼニを叩きだしたアイテムだ。
けどこれは捨ててはいけない重要アイテムだ。
重要と言っても、この場でしか使えない超局所的な需要しかないけど。
「これは、こういう風に使うんですよ。ネル!アミナ!次行くぞ!!」
「ええ!」
「いいよ!!」
弓をつがえるように、先端を前に出して、角らしきドロップ品をスリングショットにセットする。
じっくりと狙いをつけて、さっきよりも近場の埴輪に向けて角を放った。
当たればそのまま乾いた音が響くだけのはずだが。
「なんだ!?」
「光った?」
ドロップアイテムは埴輪に当たった。
そしてそのままダメージが入る流れから一転、アイテムが触れた瞬間埴輪は光った。
「……角が生えたな」
「あ、ああ」
そして光が収まったら、埴輪の頭にさっき飛ばしたドロップアイテムがそのまま生えた。
「って!?モンスターが進化したってことだろ!?」
「倒すぞ」
「あ、大丈夫です。見た目だけなので、行くぞ!」
「行くって!?」
異常な光で形が変わった埴輪に慌てて、デントさんが短剣を抜き、ピッドさんも構えて倒そうとしたがそれはやめてと止めに入り、俺は慌てず石礫で攻撃。
「次は私ね!」
そしてこっちに引き寄せ、再びネルがスリングショットを中てる。
「最後は僕だぁ!!」
さっきと同じ流れ、近づいてきた角付き埴輪はアミナによって脳天を砕かれ。
『はにゃぁ』
と情けない声を響かせて消滅するのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




