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2 蛇殺しの刃たち

快挙!ハイファンタジー年間ランキング3位!!

皆様のご愛読があって、ここまで来ることができました!!


本当にありがとうございます!


 

 アジダハーカを倒す方法は、FBOでは様々なクエストにちりばめられたヒントを集めて、その情報をもとに組み立てることによって成立する。

 

「誘導部隊は俺たちがやるとして、被害を抑える部隊もこれでいいとして」

 

 王道の方法として挙がるのはやはり、過剰レベリングによるステータスの暴力。

 

 だけど、それには中央大陸の中でも一番危険なエリアに踏み込む必要がある。

 死に戻りというゲームならではの戦法が使えない現状ではリスクが大きい。

 

 順当に装備を整えて、さらにそこからレベリングを重ねてクラス9を越える必要があるのだが、そうすると時間がかかってアジダハーカの復活には間に合わない。

 

 まったく、本当になんでこのイベントが前倒しになっているんだよ。

 

「よし、これで逃げ場はない」

 

 そのアジダハーカを倒す前に倒さないといけない、というよりはアジダハーカを完全復活させないために早々に倒さないといけない存在がいる。

 

「やるか」

 

 ボルドリンデ公爵、俺たちFBOプレイヤーの間では通称「城蛇公爵」のあだ名で呼んでいたこの大陸の元大貴族。

 

 こいつがアジダハーカ復活に大きく関わってきて、こいつのイベントを放置すればするほど復活が早くなる。

 

「リベルタ様」

「イングリット、本当に参加するの?」

「はい、私はあなたにお仕えする者です。力を得た今、お側を離れる理由はございません」

「人を殺すよ?」

「賊を討伐するだけです。この世界の平和を揺るがすのであれば必要なことかと」

「そっかぁ」

 

 ゲンジロウという新しい戦力を加え、そのあとはただひたすら戦力全体の底上げのレベリングに明け暮れ、アジダハーカ討伐イベントに挑む準備がある程度整った。

 

 この戦いは前哨戦だ。

 この国の国内問題故に、クラリス、コン、バルバドスの他大陸の英雄の戦力は使うことができない。

 

 それでも戦闘能力という面ではすでにボルドリンデ元公爵を倒すだけの戦力は揃っている。

 問題だったのはボルドリンデ元公爵を絶対に逃がさないための包囲網だ。

 

 そして、大勢の人死にが出てそれが生贄となってアジダハーカの復活が早まるのを防ぐための対策。

 

 この戦闘に、俺はネル、アミナ、イングリット、クローディア、エスメラルダ嬢のパーティーメンバーは参加させないつもりだった。

 

 だって、この戦いはモンスターとの戦いじゃなくて人との戦い。

 モンスターとは違う。

 そう考えるのは俺が日本の常識に縛られているわけじゃない。

 

 単純にこの世界でも人を殺すことは悪だから。

 

 イングリットのいう通り、これから戦うのは賊だ。

 しかしそんな奴らであっても人は人、パーティーメンバーには精神的にきついことになるかと思いきや。

 

「さぁ!気合入れていくわよ!!」

「おー!!」

「きついと思ってないんだよなぁ」

 

 装備万全、気合十分、ネルとアミナも参加する気満々。

 要するに、賊は人じゃない認識なんだよな。

 中には盗賊とかの討伐を気に病む人もいるけど、そういう人でも盗賊の被害を教えられ受け入れるように教育されていた。

 そこに関しては、よくよく考えればFBOでもそういう描写あったわ。

 

 当時はゲームだからそういう世界観なんだって納得していた。

 冷静に考えて、この世界での盗賊とか山賊って野生のヒグマが街に降りてくるよりも害悪な存在なんだよ。

 

 ヒグマは生きるために食料を求めて街に降りてくるけど、盗賊とかは自分の欲望を満たすために物を奪い、人を襲い営みを破壊する。

 

 真面目に生活してきた人にとっては最早それは害悪で、排除すべき災害なのだ。

 

 相手は人であって人ではない何か、そんな矛盾した存在と認識し、子供に賊は害悪と認識させる教育が行き届いている。

 

 商人の娘であるネルは、その教育がこの場にいる誰よりも徹底されていると言っていい。

 ジンクさんが、目の光を暗くしてネルに教育している光景が目に浮かぶ。

 

「貴族として、賊を討伐するのは義務ですわ!なので私が赴かないことはあり得ません!」

「私も旅をしている最中に何度も賊を倒しています。今さらですね」

 

 エスメラルダ嬢とクローディアは立場が異なるが、それぞれ賊への討伐に関してやるべきことだと認識している。

 

 今回の戦力は、俺たちパーティと国王陛下からボルドリンデ討伐を正式に命じられたエーデルガルド公爵の私兵団、そして。

 

「御屋形様!先鋒の誉を与えてくださって感謝いたしますぞ!!」

 

 コンにスカウトしてもらった、侍集団。

 本来であれば、日数的に育成が間に合わないと思っていたよ。

 だけど、間に合っちゃったんだよ。

 

 課金アイテムで経験値ブーストをかけたとはいえ、この集団は優秀過ぎる。

 いや、元々優秀じゃないかなぁとは思っていたよ?

 実力的にもかなりの腕前かなと、FBO時代でも思っていた。

 ただ、NPCというAI操作から解放されたゲンジロウ率いる侍集団は、俺の想像を超えるほどの精神的薩摩だった。

 

 いや、普通に考えてステータスをリセットしてゼロになって、弱体化したら怖くなるよな?不安になるよな?

 だけど、適正以上の装備を渡したとはいえゲンジロウたちはクラス3のボスモンスターにレベル無しで嬉々として切りかかっていくんだよ?

 カガミモチでクラス0でスキルスロットを確保した後に刀術をカンストさせるのにかかった時間がどれくらいだと思う?

 

 半日だ、半日。

 

 契約を施し、強くなる理屈を教えたら早速やろうじゃないかとやる気を出してくれた時は嬉しい誤算だと思った。

 

 だけど、こいつら俺たちゲーマーと同じで戦うことに特化した廃人集団だ。

 強くなれるのならプライベートなど関係ない。

 

 敵を屠ることに全てのリソースを特化させた集団。

 ある意味で危険度を度外視した、俺が考え得る中でレベリングの最高効率を叩きだせるコースを、こいつらは怯えず真っ向からやることに躊躇いがない。

 

 クラス差と言うのは本来であれば、どう足掻いても苦戦を強いられるほどの実力差を生み出す。

 それが普通、それが常識。

 

「うん、期待しているよ」

「ええ!ボルドリンデという賊の首級は拙者らが挙げて参りますぞ!!」

 

 だけど、この人たち少しでも暇があればダンジョンの中に籠るんだよ。

 

 朝起きたらダンジョン、朝飯を食べ終わったらダンジョン、昼飯を食べたらダンジョン、夕食を食べたらダンジョン。

 夜帰って来て汗を流したらほんの少し酒を飲み、そして寝る。

 あとは、ひたすらこのルーティーンの繰り返し。

 

 エーデルガルド家の私兵やクラリス、コン、バルバドス達はしっかりと休んでいるのに。

 

 この薩摩脳な侍集団は、安住の地を与えてくれ、さらに自分たちの鍛えた腕に信頼を寄せてくれる俺という主君の期待に応えるべく鍛錬を怠らないゆえに。

 

 月月火水木金金という、どこのブラック企業のデスマーチ?というジュデスたちが死に顔になりかけた地獄のレベリング作業をこいつらは平然と続けた。

 それも、疲れはわずかに飲んだ酒で吹き飛ぶと豪語して、朝にはすっきりとした顔で笑顔でダンジョンに入って行くんだぞ?

 

「本当に、素晴らしい人材をスカウトできたものだ」

 

 元より、プレイヤースキルが高かった。

 そこにさらにEXBPと追加のスキルスロットを与えてしまったら、水を得た魚かというくらいにみるみる強くなっていき、その強くなるという過程を楽しむ集団と化した。

 

 まるで、新作のゲームを買ってもらった子供が夢中になってプレイするかの如くだ。

 

 今では、俺の御庭番衆を名乗っている。

 ちなみに、この組織はきちんとした公式の物だ。

 

 エーデルガルド公爵閣下から、侍集団を部下にするにあたって正式な組織として管理するようにと言われた。

 確かにその通りだなと思い、どうするかと考えた結果ゲンジロウと相談した。

 

 そうなったら、俺やネルたちの身の回りの警護やいざという時の戦力として活用してほしいということになり。

 

 俺の配下として裏の組織エンターテイナーに次いで、第二の組織「御庭番衆」が爆誕した。

 

 その長にゲンジロウを据えたら、男泣きで喜ばれたなぁ。

 

「御屋形様のご期待に沿えるよう皆の者気合を入れろ!!」

「「「「「オオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」

 

 最初はレベリングが間に合わないから、この作戦には入れないつもりだったけど、そう言ったらレベリングを加速させ、間に合わせてきたんだよな。

 

 その時の光景ときたら、廃人でもえ?そこまでやるの?とチベットスナギツネみたいな顔になるくらいに根性論で突破してきた。

 

 そこに三狂と言われる所以を見た気がする。

 味方になればこんなにも心強いのかと実感したが、この忠誠心に見合うような人物にならないといけないのかとプレッシャーも感じたな。

 

「リベルタ様!!」

「あ、お疲れ様です」

「いえ!こちらも準備できました!」

 

 そして、このゲンジロウほどではないが似たような感情を向けてくる人物がいるわけで、それがこのエーデルガルド家の私兵の騎士団長を務めるボーグルという男だ。

 

 顔が四角いと言えばいいのか、彫りが深く、濃い顔という表現が似合う筋骨隆々の男。

 笑えば愛嬌があるのだが、子供が初対面でこの強面を見たら泣いてしまうのではと思うくらいにはその巨体も相まって迫力がある。

 

 最初は魔法使いや文官を見下すような態度が度々見える男だなと思ったが、俺がボッコボコにして、強くなるために教育し、そしてさらに魔法使いの重要性と文官の必要性をしっかりと教え込んでからは何故か主のエーデルガルド公爵に対するのと同じように俺に敬意を見せてくるようになった。

 

「そうですか。クローディアさんに頼んで、神殿騎士団とも連携を取ります。魔法隊長とも綿密に連携を取り万全を期してください」

「はっ!お任せを!」

 

 人は変わるときは変わるもの。

 であるが、変わりすぎじゃないだろうか?

 

 俺を見る視線の中に、将来のエーデルガルド公爵とかそういう感じの感情とか混ざってないよな?

 貴族とかなる気ないからね。

 

 アジダハーカ倒したら、独立都市作る気は満々だけど、この国の貴族にはなる気は一切ないからね?

 

「良き雰囲気になりましたね」

「ああ、ボーグルさんですか?」

「ええ、前までの彼は真面目でしたが貴族意識に縛られ戦いも硬かったですが、今の彼はあなたに鍛え上げられ柔軟な思考を手に入れてますね」

「クローディアさんにも鍛えられてますからね」

 

 そんなやり取りを見て笑いかけながら話しかけられて、一瞬貴族になるかと聞かれるかと思ったが、ボーグルの成長の話で一安心。

 

「ええ、彼ならあなたの策を万全にこなしてくれるでしょうね」

「神殿からも増援を貰えるんですよね?」

「はい、問題なく。包囲網として、そしてアジダハーカの復活の妨害を行うこともできます」

「助かります。道具はともかくとして、術師の確保がどうも難しくて」

 

 なんだかんだ言って、主力となるのはエーデルガルド公爵家の私兵団だ。

 そこの連携がしっかりとしないと今回の作戦は上手くいかないと言っても過言ではない。

 

 ホクシの制圧にロータスさんがかかりきりで、さらにエーデルガルド公爵は王都を離れられず陣頭指揮をとれないとなるとエスメラルダ嬢が指揮を執るしかないのだが、今回は作戦の切り札として俺たちのパーティーで一緒に活動するのでそれはできない。

 

 イリス嬢は戦闘能力はともかくとして、勇者としての指揮能力に関してはまだまだ勉強段階。

 

 となれば、ボーグルが指揮を執るのが一番と言うことになる。

 

 ゲンジロウには正面から敵の注意を引きつける役割を、ボーグルには包囲網の形成を、神殿騎士団にはとある結界の展開を依頼している。

 

 エンターテイナーたちには、ボルドリンデの監視を依頼して、戦闘中は常に追尾してもらうことになっている。

 

 これが、現状用意できる蛇殺しの陣。

 

 さてさて、さっそく実行に移ろうか。

 

 

 



楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


第1巻のカバーイラストです!!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
人をドン引きさせることに定評のあるリベルタがドン引きしてるのヤバすぎ
やっぱ薩人マシーンどもこえーよ。……独立後の領兵が彼らになるなら敵にするのは恐ろしいな……
>爺やと呼ばれた老人が、エーデルガルド公爵の方に歩んでいくのを見ると、険しい顔をしている陛下の顔も見えた。 何やらお困りごとのような気もするが、そこはエーデルガルド公爵にお任せだ。 以前に記載され…
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