8 パワーレベリング
パワーレベリング、それは強者が弱者を引っ張り効率よくレベルを上げる方法だ。
「そういうことで、お前たちをこれから強くする!!」
それをする今回の相手は、セーフハウスでのんびりとしていたジュデス一行だ。
「いや、そういうことって、そもそもお前誰だよ」
夜会の次の日、善は急げと早朝にエーデルガルド公爵が用意してくれていた、ジュデスたちが隠れているセーフハウスに素顔で突撃し、唖然とした後に警戒している彼らの台詞を聞いて、そういえば顔を見せていなかったなと思い出した。
「んっ、ドーモ、ジュデス=サン。ニンジャです」
「おまえか!?」
「そして改めまして、リベルタです。どうぞよろしく」
「あ、よろしく、ってそうじゃない!!」
当時のことを思い出して、ポージングとともにセリフを吐けば、その言葉で全員がハッとなり、ジュデスが俺を指さしてくる。
「こらこら、人を指さすんじゃありません」
「あ、ごめん」
思ったよりも年下の容姿の俺に、ぺこりと頭を下げるジュデスはツッコミ気質だけど、根は真面目な奴なんだよね。
「それで?ずっと待たされていた俺たちが強くなるってことは、いよいよあのムカつく公爵様に反撃する時が来たってことでいいんだよな?」
そしてセーフハウスのリビングで、男らしく振る舞うことを意識しているが、傍から見れば美少女が背伸びしているようにしか見えないシャリアが、獰猛だけど可愛らしく見える笑みを浮かべて会話に入ってくる。
「そうだね。その前に現状を説明して今後の予定を説明するよ」
皆、待ちくたびれたという表情をしているが、此方としても隠しておかないといけない人員がここにはたくさんいるわけで。
この王都にもボルドリンデ公爵の手の者はいるから、下手に出歩くと見つかって面倒なことになるんだよね。
それをきちんと説明しているから、全員ずっとこのセーフハウスで待機してくれていたけど、ジャカランの残忍な暴虐とボルドリンデ公爵の圧政に苦しみながら、彼らが死んだものと思って悲しんでいる家族を故郷に残して、両者への恨みと家族を心配する思いにとらわれた彼らに、その待機が苦痛じゃないわけがない。
全員が、やっと行動に移せるということでワクワクして話を聞いている。
「って、親玉の公爵は捕まったのかよ」
「と言っても期限付きで、もうすぐ釈放されそうな状況だけどね。そうなったら王都にはとどまらずに迷わず領地に戻るだろうさ」
すでに復讐相手の一人であるジャカランは捕まり、処刑が確定。
もう一人の復讐相手であるボルドリンデ公爵も今は城にて軟禁中。
「その前に色々と騒ぎを起こしたいってわけか」
「なるほどな」
ボルドリンデ公爵の本体がどこにいるかわからない。
だけど、仮にも分身体が王城に軟禁されている状態で本体が表に出てくるわけがない。
公爵が表だって行動ができないうちに、ホクシを含めた北の領地の攪乱をお願いしたいと言えば、シャリアを含め数人が面白そうだと笑った。
「と言っても今の君たちをそのまま敵地に放り込んでも、公爵側の手練れの暗部にまた捕まるだけだからね。そうならないように強くして、装備を渡して送り出そうというわけだ」
「・・・・・」
一応、Aランク冒険者にまでなったシャリアがいるが、彼も捕まってしまっているので自分が強くならないといけないことは理解している。
「それはいいけど、どうやってやるんだ?俺たちはここから出れないんだぞ?」
「そこに関してはどうにかするから安心してくれ」
なので、俺も大船に乗ったつもりでいてくれと胸を叩く。
「まずは神殿に行くぞ」
それに頷いた彼らを俺が乗ってきた馬車に詰め込み、さっそく契約による口封じとレベルのリセットからスタートした。
「ここどこ?」
「とある屋敷の地下室だ。君たちにはしばらくの間ここで過ごしてもらう」
「え?」
知っているし、なんなら俺が「あるでしょ?」と公爵閣下におねだりして使わせてもらっている公爵閣下の館の地下にある、秘密の訓練施設だ。
特殊なレンガで構築することによって、防音効果だけではなく、外部への魔力の漏出も防いでくれるという優れものだ。
部屋の中まで目隠しで連れてこられているから不安になるのもわかる。
何せ今の彼らはレベル無しのスキル無し状態だ。
おまけに今回のレベリングの方法についても他者に伝えることができない。
その状態は不安の一言だろうさ。
実際に目隠されることに対して抵抗する人も何人かいた。
だが、抵抗するわけにも行かず、しぶしぶ俺の言うことだからということで従ってくれた。
「そこにいる警備の兵士に言えば食事とかを用意してくれるし、そっちには魔道具があるから風呂にも入れる。医者も常駐しているから怪我をしたり病気になってもすぐに対応してくれる」
あまりにも揃っている設備に圧倒されているジュデスたちの反応をよそに、俺は淡々と説明を続ける。
「おまけに、鍛冶師と裁縫士と武具を整備してくれる人も用意して、鍛冶場と作業場も用意した」
パワーレベリングは効率こそ命だ。
「すなわち、多少無茶しても問題ない環境は用意しているというわけだ」
にっこりと微笑む俺の背中に、何か見えたのだろうか。
一斉に後ずさる面々に、俺はそのまま用意してある装備を指さす。
「さぁ、レベリングの時間だ。一週間で俺が君たちを優秀な義賊に仕上げる」
早く着替えろと言う意味を察した面々が恐る恐る各人毎に個別に用意された装備に近づき、それを手に取るとそれが見たこともない上質な装備だと気づき、飛びつくように着替え始めた。
パワーレベリングには当然だが、強力な装備も必須だ。
武具に関しては精霊たちに作ってもらった。沼竜の素材と飛竜の素材、さらに這竜の素材というドラゴン三種の合成武具だ。
これを普通に買おうものなら、豪邸くらいは建つと言われる貴重な武具が人数分用意されている。
「おい!なんだこれ!!」
「なんだと言われても、シャリアの武具ですが?」
「どう見ても女物だろうが!!俺は男だ!!」
「と言っても、顔も見られてるし、声も聞かれているとなれば、活動するにはまったく印象を変える必要があるんですよねぇ」
「こいつらはどうなんだよ!」
「スライムに消化されてこの世にいない人たちですからねぇ」
「くっ」
ただ、一着だけ男物の中に女物が混じっており、その装備の側にはメイク道具を一式用意したメイドさんたちがいる。
「とにかく、時間が惜しいのでさっさと着替えてくださいね。あ、シャリアには一応そっちに更衣室ありますんで」
ここから先は大変身の時間だ。
淑女(仮)の準備には時間がかかる。
「ちょ、おまえら!?放せって!?」
レベルリセットした今の彼ではメイドさんたちの拘束から逃れる術はない。
3人のメイドさんに更衣室という名のカーテンの中に引きずり込まれる。
「シャリアの奴、大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫」
心配そうな顔で装備を着ながら聞くジュデスに俺は頷くだけだ。
『おまえ!?そこはダメだろ!?ってなんだそのヒラヒラは!?』
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫」
貞操の危機とか、自分で着替えるとか変なワードが聞こえるが、俺は気にせず残った男どもの装備の着替えを急かす。
装備の質がいいからか、子供のようにキラキラと目を輝かせる面々に「初めての武器って楽しいよな」と過去の自分を重ね合わせていると、シューっとカーテンが開く音が聞こえた。
「「「「おー!!」」」」
その音に反応して皆で振り返ると、そこには美少女義賊が降臨していた。
胸元は寂しいが、怪盗衣装に身を包んだ美少女なのは間違いない。
小さなシルクハットを傾けるように頭に乗せているのは精霊たちの遊び心だ。
普通に落ちるだろとツッコミが入るが、それが落ちないのがファンタジーだ。
メイドさんたちが「いい仕事しました」と頬を赤く染めながら汗を拭っているのが印象的だ。
「これが、俺?」
そして女じゃないと最初は嫌々だったはずのシャリア本人は、手鏡に映る自分の顔を見て驚いて見惚れている。
「はいはい、見惚れる気持ちはわかるけど、レベリングを開始しますよ」
美少女(仮)爆誕に沸き立つ空気を締めるように拍手し、注目を浴びたことを機に、俺は早速鍵束を取り出す。
義賊の武器は基本的には何でもいいが、持ち運びに便利な武器の方が適している。
潜入や潜伏、逃走など、手早く移動する立ち回りが求められるからだ。
なので今この場にいる面々が持っている武器は短剣だ。
しかも這竜の牙から作られた、毒を付与できるものだ。
まずはしっかりとモチダンジョンでパッシブスキルを生やす。
修練の腕輪を付けているから今日一日は誰もレベルアップはできない。
だが、問題ない。
「まずは順番にモチダンジョンを攻略していくよ」
今日一日で、ここにいるメンバーのスキル熟練度をマックスにするのだから。
「モチってあのモチ?」
「そう、そのモチ。レベルは上がらないから遠慮せず攻略してきてくれ。その装備があれば怪我することも負けることもないし」
三種の竜の合成装備を持っている段階でもはや過剰戦力だ。
ボス戦でダメージを負うこともないから、負ける心配はほぼゼロだ。
せっせと人数分のモチダンジョンを展開してGOサインを出すと、一人、また一人とダンジョンの中に入っていく。
すると、まず最初にすごい勢いでダンジョンクリアの脱出の魔法陣から出てきたのはAランク冒険者のシャリアだった。
「おい!どういうことだよこれ!!レベルがないはずなのにステータスが見れるし、スキルがあるぞ!!」
「仕様です」
「仕様って、神殿でレベルを売れるとか、これが皆に知られたらとんでもないことになるぞ」
「そのとんでもないことを避けるために、わざわざ口封じの契約をして秘密の場所でレベリングしているんですよ。これを知られれば敵も強くなる可能性がある。自分たちだけが強くなれるわけではないんです」
「あ、そうか。こいつを知ったら敵も同じことができるのか」
「そういうことです。この情報は諸刃の刃、簡単に知らせたら自分の身も危険にさらす」
レベルが上がればステータスが見れるようになるが、レベルを上げずにステータスが見れる。
そしてもらえないはずのスキルがもらえる。
しかも簡単に倒せるはずのモチからもらえる。
これを冒険者の新人が知ればきっと役に立つと思っての発言だったのだろうが、俺の回答を聞いてその危険性も同時に理解したようだ。
「ということで、とりあえず他人のことは後回し。こっちはこっちの都合があるので強くなることを前提に考える」
「わかった。ちなみに参考がてら聞きたいんだけどよ」
「はい」
美少女なのに男っぽい口調。これはこれでありなのだがそれでバレる可能性があるのでそこら辺も修正しないとなと思いつつ、質問があるのなら聞こう。
「お前、どれだけ強いんだ?」
「それは、禁則事項です」
しかし、生憎、聞かれたことは答えられない内容だ。
「少なくとも、そうそう負けるようなことはないかなぁ」
「そうかよ」
「あ、前に鉄のインゴットを引きちぎったな」
「・・・・・マジか」
「マジマジ。やって見せようか?」
ステータスを教えるほど、まだシャリアを信用しているわけではない。
シャリアがいい奴なのはわかっている。
だけど、すべてを見せるのにはまだ好感度が足りない。
マジックバッグから、素材用に用意していた鉄のインゴットを取り出して、目の前で引きちぎる。
「うぇ、絶対に俺の体に触るなよ」
「その姿でその仕草をされると俺が変質者みたいに見られそうな感じになるね」
ドン引きされて、両手で体を抱きしめるような仕草で後ずさられると俺が事案を起こしたような光景になるから止めて欲しい。
「ねぇ!ねぇ!!リベルタ見てくれって・・・・・なにそれぇ!?シャリアが怯えてる!?鉄が引きちぎられてる!?」
そして遅れてジュデスやほかの面々が出てくるのを見て、騒がしいなと思うのであった。




