1 ネタアイテム
皆さま、いつも『俺はこの世界がモブでも【廃人】になれば最強になれることを知っている』をご愛読いただきありがとうございます。
今回は、明日19時頃に活動報告にて重要なお知らせがありますことを、前書きにてご連絡差し上げます。
もしよろしければ、皆さま活動報告の方をご覧いただければ幸いです。
「これでひとまず、いいでござるな」
「助かる」
地下闘技場から脱出し、ジュデスたちのいる地下水路の入り口へ向かうと、埃まみれで疲れ切った顔のジュデスたちが待っていた。
俺が現れたことによって、安堵の表情を見せたが、担いでいたシャリアの姿を見て血相を変えてこっちに近づこうとしていたので、それを止める。彼らの元に着いたらマジックバッグから綺麗な布を取り出し、シャリアをそこに座らせて治療を始める。
折れた腕と足に添え木をして包帯できつく縛ったあと、ポーションも服用してもらったからしばらくすれば回復するだろう。
この世界の回復術は、前世の医療と比べ物にならないほど効果がある。
特に外傷に関しては、欠損でもしない限りはあっという間に回復して見せる。
「これ、相当効果の高いポーションだろ?クラス・・・・・4くらいか?」
「それは6でござるな」
「6!?」
体がわずかに発光して傷がみるみる治っていく光景を見て、シャリア自身が使ったことがあるポーションの最高クラスを言ってみたのだろう。しかし、それを上回る品を使われ目を見開いて、思わず起き上がろうとした。
「そ、そんな高級ポーションを払う金なんてねぇぞ!?」
「気にしないでいいでござる。これくらいのポーションはまた作ればいいでござる」
「作るって。そんな簡単に」
「なにせ」
「ニンジャだからか?」
「その通りでござるよ」
その段階で痛みがないことにさらに驚き、添え木をしたことでまっすぐに治った腕と足を撫でるシャリアと冗談を交わしつつ、立ち上がる。
「お、おい、そろそろいいか?俺たちはこれからどうすればいいんだよ?」
話しかけるタイミングをうかがっていたジュデスが、ここで話しかけてくる。
成り行きで捕まっていた人を全員助けたが、その中で俺と知り合いなのはジュデスだけだ。
誰が話しかけるか視線で促し合って、結果ジュデスが話しかけることになったようだ。
「そうでござるなぁ、予定だとジュデスだけを助ける予定でござったが・・・・・」
その流れで今後のことも決める。
助けた人数は、全部で13人。
皆一様に不安気な顔で俺を見つめている。
「まぁ、何とかするでござるよ」
本来であれば、仮死状態になったジュデスを回収してそのままトンズラする予定だったが、この人数を一気に連れて逃げるのはまず不可能。
転移のペンデュラムで逃げるとしたら、最低でも三往復はいる。
転移のペンデュラムはその魔法故に、魔力を放出するエフェクトが発生する。
発光現象もそうだが、その魔力は探知系スキルに引っ掛かる。
暗部だらけのこの街で使うのは避けたい。
そこら辺を含めてまずは確認すべきことを確認しないと。
「それよりも前に、意思確認をしておかないといけないでござるな?」
「意思確認?」
「あ、ジュデスは無しでござる。最初の予定通り、こっちの手伝いをしてもらうので」
「ええー」
確認すべきは、今後どうしたいか。
ジュデスに関して言えば、元々この街でかく乱を担当してもらうから助けたし、そのための交渉もした。
拒否してもいいけど、その際は俺の好感度はかなり下がるからな。
この街から脱出させて、一カ月は暮らせる程度のお金を渡して北の公爵の影響力の無い街でさよならするぞ。
「それで何を確認したいんだ?」
ジュデスが不満がありますと、表情に表したのを見て空気が少し緩む。
代わりにシャリアが質問してきたので俺は頷き。
「そこの彼含めて全員死んだということにしているのでござる。誰かが家に帰ったら捕まった人が生きているということがバレるので、生憎とそれはできないでござるよ」
今後どうしたいかを聞く。
元々、ここにいる人たちは助ける予定はなかったんだ。
どこか別の町に移住したいというのなら、脱出も手伝うし、俺のポケットマネーで当面の生活費を工面してもいい。
それが助けたことへの責任の取り方だろう。
流石にすべての人生に責任を持てと言われたらふざけるなと怒るが、必要最低限の援助はすべきだ。
当人たちからしたら、今まで平穏に生活していたのだから、家族の元に帰りたいという気持ちはあるだろう。
だが、公爵家の権力であんな地下格闘技場に連れていかれたことを皆が皆どういう意味か理解している。
この街にはもういられない。
「助けた者の責任として、安全な街までは連れていくでござるよ。あと、当面の生活費を用意するでござる」
その事実に悲しみに暮れる彼らの、せめてもの慰めになればと一つの選択肢を用意する。
それにホッとする人もいれば、悔し気に目を逸らす人もいる。
「なぁ、なんでそいつの意志は確認しないんだ?」
このまま全員で街から逃げ出すことに決まりそうな流れになっていた時にシャリアがジュデスを見て、首をかしげる。
「ああ、僕は彼に助けられる代わりにやることがあるんだよ。まぁ、こんなことされて、家族とももう会えない僕としても仕返しはしてやりたいし」
最初は不満気だったが、周りの悲しい雰囲気を見て、俺がやってほしいことを思い出したジュデスは少しやる気を出している。
「仕返しって、何かやるつもりなのか?」
「さぁ?僕は知らないけど、彼は僕にならできるって言ってたよ」
仕返しという言葉は、この場にいる誰にも刺さる言葉だった。
命を弄ばれかけ、そして逃げ出せても帰ることができない故郷を奪われた人たち。
そんな彼らが、仕返しをすると聞いて反応しないはずがない。
「どういうことだ?」
この中で一番ダメージを負ったシャリアの視線が鋭くなる。
逆襲する機会を隠していたのかと表情で語っている。
「説明するでござるよ」
ここで話さず強制的に脱出するのは難しいと判断し、俺がここに来た目的を一部伏せてそれ以外の概要を全て話す。
「要は、ボルドリンデ公爵に対しての嫌がらせ工作でござるよ」
「そんなことさせようとしてたの!?」
「静かにするでござるよ。今は大丈夫でござるが、ここもいずれ探知されるでござるよ」
俺がボルドリンデ公爵と敵対していること、ここでジュデスに騒ぎを起こさせ、公爵のとある邪悪な計画の妨害工作をすることを説明すると、ジュデスはあまりにも大きな計画に驚き、叫ぶ。
人気のない場所だが、誰も来ないとは限らない。
常に気配探知を発動しているから誰か来れば察知は出来る。しかし、静かにするに限る。
慌てて口をふさぐジュデスに苦笑しつつ、彼がすることを聞いた他の面々を見ると。
「いいねぇ、俺もやられっぱなしで逃げるのは性に合わないって思ってたんだ。その話、俺にも噛ませろ」
真っ先にシャリアが名乗りを上げた。
「良いんでござるか?相手はボルドリンデ公爵、この国では有数の権力者で、裏の世界でも面倒な相手でござる」
「問題ねぇよ。元々俺は生きている可能性を疑われてる存在だ。だったらこの大陸に表の居場所はねぇよ」
本来であれば親御さんであるヒュリダさんの元に送り届けた方がいいのだが、ここでそれを告げたら連鎖的に俺の正体もバレる。
今はまだ、謎のニンジャとして行動しておいた方がいいのでそこは黙っておく。
「そうでござるか」
ここで彼と揉めて、やる気を削ぐのは得策ではないと考えて受け入れる。
元々ジュデスのサポート役は欲しかった。
シャリアであればその実力は十分だ。
「お、俺も手伝うぞ!」
そしてシャリアが名乗りを上げたことで、ここに連れてこられた冒険者の男が参戦し。
「俺も!」
「俺もだ!このままだと弟も同じような目にあっちまう!」
「俺もだ!息子がいるんだ!」
「そうだな、どうせなら家族のために何かした方がいいよな」
状況も重なって、覚悟が決まった面々がボルドリンデ公爵に反逆の狼煙を上げようとしている。
うん、どうしよう。
俺は、てっきりこのまま街を脱出する流れになると思っていたが、まさかの全員でレジスタンス活動をするという流れになると誰が予想できたか。
普通に考えてくれ。こんな覆面ござる口調のニンジャと自称する輩を信じるか?
俺なら信じない。
だけど、そんな俺を信じたくなるほどボルドリンデ公爵が市民にヘイトをかっているとしたらどうだ?
領都だと言うのにまばらな人の流れ、活気のない市場。
未来への希望が一切感じられないというのなら、一発逆転を考えるのもあり得るか?
「・・・・・わかったでござる」
そういう環境の人をわざわざ他の都市に連れて行ったとしても、家族の居るこの街に戻ってくる可能性は十二分にある。
俺が手助けしなければ無駄死にになる可能性を考えるのだったら、全力で手助けをした方がいいだろう。
これも助けた責任の範疇かと諦める。
「まずは体制を整えるために、ホクシを脱出するでござるよ」
「脱出って、どうやって?地下水路が外に繋がってるって言うのか?」
「病になる覚悟があるなら、それもありでござるよ?そのヘドロみたいな水に飛び込んでみるでござるよ。外に出れるでござる」
「やめておく」
レジスタンス組織を運営できるのなら、それはそれで此方としてはかなりありがたい。
今後の展開は前向きに考えるとして、問題は集団でこの街から逃げ出す方法だ。
当初の予定はジュデスだけで、転移のペンデュラムで脱出して飛竜を回収、そのまま王都に帰還する予定だったが、それができなくなった。
マジックバッグの中にあるアイテムで使えるものがないか、そしてこのホクシで手に入る物でどうにかできる物があるか。
ジュデスを含め、全員がこの街に監視網があることを把握している。
それがどういう意味かもなんとなくわかっている。
となると、普通に街中を進めば間違いなく見つかり、速攻でお縄につくということも理解しているということ。
領都に張り巡らされている地下水路というか、下水道は街の外までは伸びていない。
それは進入路に使われる可能性があるからだ。
では、なぜ水の中なら出れると言ったかと言えば、汚水を排出する必要があるので、一応それ用の経路はあるのだ。
下水道の出先は汚水だまりの池で、そこに洗浄魔法陣が設置され、水が綺麗にされて街の外に放出されるという流れ。
浄化後放水されるまでの間は汚水の中に身をひそめないといけないことを考えるとこの選択肢は無い。
かといってドラコを呼び寄せて、そのまま強行着陸をして脱出というわけにも行かない。
「となると、さっそくこれの出番でござるかぁ」
ならばとれる手段は限られる。
マジックバッグを探る俺の動きを集団で見つめられるのはプレッシャーを感じるが、それでも仕方ないと割り切り、取り出したのは魔法の秘薬。
「ポーションか?」
「いや、魔法の秘薬でござるよ」
「どんな効果なんだ?」
それを見て、シャリアが首を傾げた。
このタイミングでポーションなんて何の役に立つんだと言われそうな表情だが、生憎とこれはポーションではなく魔法の秘薬。
秘薬と言われて知られているのは、力を増加させたり、俊敏性を向上させたりと簡易的バフアイテムなのだが。
「透明人間になれる魔法秘薬でござる」
今回侵入するということで、もしかして役に立つかなぁと思って用意していた、使えそうで、使えないアイテムの代名詞である魔法の秘薬だ。
男のロマンとしても有名な透明人間になれる秘薬。
「そんなものがあるのか!!」
秘薬というだけあって、知名度はない。
透明人間になれればさすがに見つかることはないとわかった皆は沸き立つが。
「あるでござるが、これ、1つ欠点がござって」
「欠点?」
「そうでござる。これ、肉体にしか効果を及ぼさないので、完全に透明人間になるには全裸にならないとダメなんでござるよ」
ネタアイテムの所以を話すと、一同沈黙することになるのであった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
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