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30 EX次代の神 9

 

「「「「・・・・・」」」」


 もう何からツッコめばいいのかわからないと、四柱の神々は地上を表した盤面を見ながらそう思うのであった。

 盤面を凝視する神々とは別に、またもやゆっくりと漫画を読む知恵の女神がいるが、今はいい。


「さすがに、これは予想外だよ」

「精霊による軍隊、ですよね?」

「うむ、規律を持ち正確な動きで戦う組織であるな」

「あはははは。もしかして私たちの使徒はこれと戦わないといけないのですかぁ?」


 彼らが見ていたのは、リベルタたちがレイニーデビルと戦っていた時の光景。

 地上の人間たちからは自然災害と認定されていたはずのモンスターに挑み打倒してしまった。

 その事実に流れないはずの冷や汗を神々は流していた。


 この戦闘を見て、違反がないか珍しく四柱全員で協力し合って調べたが結果は白。

 ルール上問題ない範囲で結果を残して見せたという答しか出てこなかった。

 その事実にクレームを入れるよりも対抗策を練る方が重要だと判断した。

 神々たちによる共闘。


「戦う必要はありませんが、競い合う必要はあります。間違いなく南の英雄、いえ、ケフェリの英雄が我々の選んだ英雄たちより頭一つ抜きんでている現状は疑う余地がありません」


 そう認めざるを得ないほど、リベルタとその仲間たちは力をつけすぎた。


「そうだね。邪神の討伐が僕達の共通の目的で、主神の座を競い合う課題だ。あのケフェリの作った怪物に挑む必要性はないね」

「だが、我々の駒である英雄たちが競争力で劣っているのもまた事実。このまま知恵の神の独走状態を許すのは良くないのである」


 漫画を読んでいる場合ではないと言いつつ、この四柱が座っている席には各々好きな漫画が山積みになっているあたり、この神々本気で勝つ気はあるのかとケフェリは呆れた目で見て、すぐに読書に戻った。


「どうしますかぁ?神託で共闘を訴えかけてもいいですけどぉ。私のところの使徒はできますけど、先輩たちの使徒はできますかぁ?」


 そう、ケフェリはわかっている。

 愛の女神パッフルの使徒はともかくとして、他の三柱の使徒たちが個性豊か過ぎて共闘路線が一切できないということを。


「その、私の使徒の配下に他の使徒が入るという形であれば」

「僕の使徒を倒せるのならできるんじゃない?強い奴に従う、それが僕の使徒の世界常識だよ。まぁ、そう簡単に勝てると思わないでね」

「何と野蛮な。それなら経済基盤のしっかりしている吾輩の使徒の下で一つになるべきである」


 西の使徒こと、調停の女神メーテルの使徒は規律意識が強すぎて皆の模範であるべきと言う厳格な性格を持っている。

 協力体制を形成するとしたら、規範に基づいたものになる。


 北の使徒こと、戦闘の神アカムの使徒は、弱肉強食を地で行く世界の住人。自然界の掟こそ絶対とする彼の使徒の信念は、西の使徒との相性は最悪と言っていい。

 そして最後に残った東の使徒こと商売の神ゴルドスの使徒が他の二人に従うような質かと言えば、そういうわけではない。


 規律の使徒、戦いの使徒、商売の使徒。

 それぞれの神が自信をもって選んだがゆえに、その誰もが自身を頂にいるべき存在だと自認している。

 頂点は一つでいい。そう思っているがゆえに共闘は難しいと三柱の誰もが自覚している。


「ということはぁ、このままだとケフェリ先輩の一人勝ちってことですかぁ?」

「「「・・・・・」」」


 自信満々であるがゆえに、共闘するのが難しい。

 競争に勝つために、本来ならいいことであるはずなのに、今回ばかりは裏目に出ている。


「ならぁ、私の使徒はケフェリ先輩の使徒に弟子入りしちゃいますかぁ」


 そんな空気の最中、パッフルだけが応用の利く使徒を持っているので瞬時にどうすべきか判断した。


「パッフルあなた」

「別にルール違反じゃないですよねぇ?それにケフェリ先輩の使徒って協力してくれて味方になってくれる人には割と寛容みたいですしぃ、神託で敵対しないように言って協力しつつ育ててもらえば一石二鳥じゃないですかぁ」


 抜け駆けするのかと、三柱の視線が愛の女神に集まるが彼女は気にした様子もなく。

 遅れてきた分を巻き返すためには、手段を選んでいる場合ではないと判断したパッフルの行動は迅速だった。


「いいですよねぇ?ケフェリ先輩」

「好きにしろ。ルール違反に該当しなければ私はとやかく言うつもりはない。ただ、今協力体制を取れば間違いなく巻き込まれることは覚悟しておけ」

「はぁい、そこら辺は承知しておりますのでぇ。ではぁご厚意に甘えましてぇ」

「ちょっと待ちなさい!!」


 筋を通すというつもりでケフェリにも許可を求めれば、視線すら向けることなくケフェリは許可を出した。

 そもそもの話、神託以外で使徒と連絡を取る手段がないゆえに許可を取る必要などないのだ。


 しかし、万が一ケフェリが腹を立て神託で他の使徒と協力体制を敷くべからずと言えばそれまでの話だ。

 なので話すべきところはしっかりと話してから行動に移そうとしたときにメーテルから待ったがかかった。


「その話、私も乗りますわ」

「お前の使徒と?」


 すでに一回の神託を下しているメーテルにとって残り二回の内一回を使うことは厳しい決断であるが、自分の使徒がここでリベルタと共闘関係になっておいた方が、アカムたちと連携を取るよりも勝ち筋があると判断した。


「ええ、アジダハーカが復活する兆しがある中、戦力は少しでも多い方がいいはず。私の使徒であれば十分な装備を持って戦力として参戦できます」

「・・・・・」


 パッフルの使徒との共闘は、人格から鑑みてそこまでリスクのある物ではないから許諾したが、メーテルの使徒が動くのであれば話は変わってくる。

 メーテルの使徒と、ケフェリの使徒の相性は人間的に悪い。

 しかし、共闘ができるか否かで言えばできる。


 ケフェリの頭の中で神託を使うか否かの選択肢が浮かぶ。

 漫画を読むのを止め、メーテルと向き合えば彼女は真剣な表情でケフェリを見ている。

 リスクとリターンを天秤にかけ、数秒間の沈黙の後に。


「・・・・・好きにしろ。ただし、アジダハーカの件が漏れるような神託をして罰せられるようなことがあっても私は関係ないぞ」

「ええ、そうさせてもらいます」

「それとお前の使徒が私の使徒と協力体制が取れるかどうかは保証しないぞ」

「もちろん。わかっています」


 これで女神同盟と言えるような、共闘体制とも言えないようなものがリベルタの知らないところで出来上がった。

 ケフェリの頭の中ではここで止めても、勝手に神託を使い会わせに行くだろうという算段で、そこに神託を使って防いだ際の労力を加味して手出しをしないことを選択した。


「あ!それじゃ僕も僕も!!強い奴と戦えるって言えば僕のところの使徒も南の使徒のところに行くだろうし、アジダハーカを放置したら僕のところもまずいしね」

「であれば、吾輩のところも遅れるわけにも行かぬか」


 その結果、アカムとゴルドスも使徒をリベルタの元に送り付けることを表明した。

 流れ的にそうなるだろうとは予想したが、ケフェリは呆れた目で急遽参加してきた男神たちを見て。


「お前たちにプライドはないのか。さっきまで協力して私の使徒をどうにかすると話していただろう」


 メーテルを含め、掌返しが早すぎないかと苦言を呈す。


「やだなぁ、南の。そんな物、こだわる時とこだわらない時の分別を付ければいいだけだよ。今はこだわらないタイミングだよ」

「北の言う通りである。ここは得を取るべきタイミングである」


 便乗したように見せかけて、そのまま南の大陸を征服する気なのかと一瞬勘ぐってしまう。

 援軍と名を打って侵略することなど人間の歴史を見ていれば日常茶飯事だ。

 だから、いきなり他国の重鎮が南の大陸に押し寄せるとなれば、当然その国の王は警戒する。


 好き勝手に暴れまわればリベルタが対処する。

 上手く活用すればアジダハーカと戦う戦力が増える。

 どうすべきかと考えつつ、ここで他大陸の使徒と会い情報を得るのもいいかとケフェリは結論を出す。


「・・・・・邪魔をするようなことだけはするな」

「わかってるよ。さすがの僕でもアジダハーカが暴れたらヤバいのはわかっているし」

「うむ、吾輩の使徒も精霊たちに襲われたらひとたまりもないのである」


 残り二回の神託を使うべきか再び考えた結果、他の神に忠告をしておくだけで済ますが、今後の展開次第では他の英雄の排除も視野に入れるべきかと思考する。


「でもぉ、一番怖いのってリベルタって人間ですよねぇ」

「パッフル、それはどういう意味ですか?」


 どれだけ効果があるかわからない忠告を済ませ、あとは静かに読書をしようとしたタイミングで、パッフルが小首をかしげて、アジダハーカよりも、集団で戦う精霊よりもリベルタが一番恐ろしいと言った。

 ケフェリのページをめくる手が止まり、メーテルがその言葉の真意を問う。


「どういう意味と言われても、そのままの意味ですよ。何かあった時、それこそ彼の大事な人が傷ついたときに彼はその知識を使って全力で報復にくるってことですよね?知性をもって策略を練り、自分の全力を使って相手を倒しに来る。天災級のモンスターであるアジダハーカは恐ろしい存在ですけど、知性がない。精霊たちの数は脅威ですけど彼らは気まぐれです」


 小首を元の位置に戻し、緩い笑顔を真顔にしたパッフルはリベルタの真の恐ろしさを指摘する。


「そして、彼の常識はケフェリ先輩が用意した箱庭が体験できた異世界での常識が基本になっています。私たちとは違う世界の常識では、私たちの世界の常識で大丈夫だと思っている行為が彼にとってはダメなケースがあるんですよ?迂闊に何かをしでかして、そこで敵対意識を持たれる。そうなって、あの知識という名の暴力が向けられないと思うのですか?」


 知識は時に凶器になる。

 それは神々にとって百も承知していることだが、パッフルに改めて指摘された点はある意味で落とし穴と言えるような部分だ。


「神託を下す際は、厳重に注意するように伝えた方がよろしいですね」

「僕もそうしておこう」

「吾輩もそうするのである」


 そしてパッフルが視線を盤上の方に向けると、レイニーデビルを倒した際に出来上がった爆心地が見えた。

 あれをもし、なりふり構わず世界中で発生させたらどうなるか。


 アジダハーカなんて目じゃないほどの破壊と殺戮が世界中で巻き起こる。

 その力を個人で持つ恐ろしさ。


「私の使徒を破壊神かなにかと思っているのか?」

「いいえー、そんなことは思っていませんよー。私はただ、同じ大陸に住む使徒を持つ女神としてケフェリ先輩の憂いを断っただけですよぉ」


 それは他の使徒にも言えることだが、ひと際異質に映るリベルタのことは注意すべきだと他の神々に忠告することで理不尽な国土侵略を防ごうとする思惑があるとパッフルが暗に伝えてきて。


「何が目的だ?」


 そんな手間を踏ませるほどの何かをした記憶の無いケフェリは警戒心を持って、後輩である愛の女神を見れば、パッフルがそっと一冊の漫画を出す。


「この作者の作品が他にもあるとあとがきの方に書いてあったんですけどぉ。それも自費で出版したという同人誌という物が」

「・・・・・」


 愛の女神に恋愛漫画はクリーンヒットしたみたいで、下心というわかりやすい要求を聞いてケフェリはため息とともに、自分の図書からそれらしいものをピックアップする。


「持っていけ」

「ありがとうございますぅ!!」


 そして取り出したのは、今まで読んでいた本とは違い若干薄い代物だ。

 それを大事そうに受け取り、そして自分の席に戻るパッフルの腕の中には、少し過激な絵柄の本が抱きかかえられていた。

 妙にキラキラした絵柄、そして愛は様々なジャンルがあると語られるような内容に、神々はそっと視線を逸らすのであった。



楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
思った以上に愛の女神が有能だったな
マップ踏破不可のお知らせ。ネル無念。 南大陸と中央だけで終わっちゃいそうですね。
精霊たちは人とは戦わなさそうだけどなー。パーティメンバーが人基準でぶっ壊れてるから脅威には映るよね。しかもmmoと考えたら今の差はほぼ間違いなく埋まらないし。
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