28 クエスト報酬
総合評価4000Pt突破!!そしてブックマーク1000件突破!!でダブルでありがとうございます!!
「坊主、こんな手段隠し持ってたのかよ」
「冒険者たるもの、隠し技の一つや二つ持っているのが当然ですよね?」
伯爵との攻防というより、逃亡劇の次の日。
さすがに疲れた状態で、掃除をする気になれず、ゴミ屋敷デイ2となった。
デントさんと貴族街入り口で合流、依頼の達成のためにクレルモン伯爵の館まで移動。
そこから始まるゴミ掃除だが。
「広場溜まったわよ!!」
「それじゃ、デントさんスパッとよろしくお願いします」
「良いけどよ」
ここでもモチダンジョンが大活躍だ。
文字通りのゴミ屋敷と化しているクレルモン伯爵の館。
その大半は価値もないゴミだ。
そしてそのゴミを処分するのがこのクエストで一番大変なのだ。
価値がない物のくせに量がとてつもなく多い。
捨てる場所に困るとはこのことか。
しかしここで役に立つのはダンジョンのリセット機能。
そう、弱者の証を合成した鍵で生み出されたモチダンジョンは、攻略したらその中身は全てリセットされる。
何本も持っていると勘違いしているデントさんに何度でも使えるダンジョンの鍵のことがばれたのは痛いけど、仕方ない。
四人で朝から玄関のゴミを検品して、ダンジョンの中に放り込んで、デントさんがダッシュでカガミモチを討伐して脱出。
中に人がいないから、ダンジョンはそのまま消滅してゴミも消滅。
そして俺がリキャストタイムに合わせてダンジョンをもう一度生成。
その繰り返しをすれば。
「どうにかメインホールは片付いたな」
「あちこちぼろぼろで腐ってますけどね」
「あと臭いわ」
「そうだね、あっちなんてすっごく臭いよ」
一応昼前には足の踏み場はできる。
「ここまでの成果は金貨が一枚、大銀貨が三枚と銀貨が二枚、大銅貨が十枚に、銅貨が二十数枚。さすが腐っても貴族の屋敷だ。借金で没落してもこれだけでてくる。なかなかな稼ぎだぜ?」
「それは後で皆で山分けってことで、とりあえずここからどっち方向に掘り進めるかって話ですが」
玄関ホールを徹底的に断捨離したおかげで、二階に行くかそれとも一階を制覇するかの選択肢を作ることくらいはできた。
「もちろんお宝があるところよ!!」
「それがわかったら苦労しないよ、ネル」
「いやだいたいわかるぜ?こういう屋敷っていうのはおおよそ主人の部屋のすぐそばに金庫があるのが相場だ」
「偉い人の部屋っていうと……二階?」
「執務室があったからそこだろうな」
ゲームの知識を頼りに攻略するのなら、俺は二階よりも地下につながる方に行きたい。
だけど、メインターゲットの宝物は二階の執務室の隠し金庫の中にある。
「それじゃ!二階に向けていくわよ!」
「おー!」
「いやぁ、子供は元気だね。おじさん明日は筋肉痛かもな」
「二、三日すれば最初の目的の豪華なお酒が飲めますよ」
階段ももちろんゴミだらけ。
唯一の救いは石階段だから老朽化していても底が抜けるようなことはなさそうということ。
ダンジョンを階段下に生み出して階段上から放り込む。
最初のフロアが埋まったらデントさんがダッシュ。
そうやってゴミを選別しては処分、ゴミは選別して処分と進んでいくと。
「クッサアアアアアアアイ!!」
ひときわ臭い部屋にぶち当たった。
「あらら、せっかく豪華だった部屋が見る影もない」
ネルは悶絶と言わんばかりにこの部屋には絶対近づかないと拒否反応。
アミナも涙目で無理と首を横に振っている。
人族の俺とデントさんはすでに鼻が麻痺しているので、マスクをして中に突入。
「ここ、人が生活してたんですかね?」
「だろうよ。ほれ、そこがベッドだろ」
汚部屋もここまで来たら地獄だ。
何が何なのかもわからない。
かろうじてベッドらしきもの、テーブルらしきもの、椅子らしきものとか、頭におそらくとつくような物ばかりだ。
「一応引き出しは探っておくか」
「それ以外は全部ダンジョンに捨てますか」
男二人でせっせと断捨離。
「そう言えば坊主、聞き忘れてたがよ」
「はい、なんです?」
黙々とゴミとお宝を分別してダンジョンに放り込む作業を繰り返すのは中々の苦行だった。
なのでデントさんから話を振ってきてくれたのは気を紛らわせるのにはちょうど良かった。
作業は止めず、顔も向けず、互いに近くにいながらゴミを処理をする。
「なんで伯爵をダンジョンの中に引き込む前にボスを倒しておかなかったんだ?倒しておけば、そのままダンジョンを脱出するだけで済んだのによ」
「あー、それはですね」
振られた質問は、あの工程をやればだれでも思うような疑問だった。
「このダンジョン引き込み殺法って、実はモンスターを引き込むには条件がありまして」
「条件?」
「ええ、その条件っていうのがボスが生存しているってことなんです」
「は?なんでだよ」
「ダンジョンボスの成り代わりができるかどうかがモンスターにとってメリットだからですね」
「要はダンジョンが乗っ取れるかどうかって話か?」
「そういうことです」
その疑問の答えはある意味でシンプルだ。
ダンジョンにモンスターを引き込むための条件、というよりはモンスターがダンジョンに入りたがる条件と言った方がいいだろう。
「どういうわけか、ボス討伐後のダンジョンを用意して無理やりモンスターを放り込んでもモンスターはそそくさと外に出ちゃうんですよね」
「崩壊するダンジョンに巻き込まれないためか?」
「ええ、そういう危機意識が本能で残っているからって俺は考えています」
ゲーム時代でも、結局その理由はわからなかった。
わかっているのは、ボスが残っているか否かでこの殺法の成功率が格段に違うという一点だけ。
解析班のやつらもダンジョン浸食が一番濃厚だという推測の領域を出ないという答えを残した結末で終わっている。
「あくまで推測ってか?」
「そうとしか言えませんので」
「ずいぶんと危ない橋を渡ったな、下手したら失敗してたぞ」
あやふやな情報に命を懸けさせられたデントさんの苦情は甘んじて受け止めるしかない。
「次に生かしますよ」
「そう願うぜ」
そんな感じで会話をしていればゴミもだいぶ放り込むことができた。
「おー、スッキリしたんじゃないか?」
「すっきりというか、なにもなくなったというべきですね」
貴族の執務室と言えば絵画とか宝石とか、彫像とかありそうなイメージだけど、破産していたのは嘘じゃなくて金になりそうなものは本当になかった。
「さて、本命はこいつか」
しかし、代わりにすべての家具を無くしたことによって見つけた隠し金庫。
「開けられるんですか?」
「ダンジョンにも開錠しないといけない宝箱はある。これが俺の本職ってね」
斥候職のデントさんからすれば、この金庫を開けるのは本職の仕事らしい。
仕事道具から、ピッキングツールみたいのを出して、鍵穴に差していじり始める。
「ぼろくなって開かなくなってるか心配だったが、中は意外と大丈夫そうだな」
カチカチといじること数分。
「ほっと、ざっとこんなもんよ」
カチッと開錠する音が響いて、自慢気にどや顔を見せてくる。
マスク越しで半分も見えないけど、素直にすごいので拍手を送ろう。
「さてさて、お宝ちゃんは……」
「お宝!?」
「どんなのどんなの!?」
「落ち着け嬢ちゃんたち、今開けるからよ」
俺の拍手と、そして部屋の中がスッキリしたことによってネルたちも部屋に入ってきて、俺たちの背後で見守っていた。
ここまで苦労したのだ。
きっとすごいお宝なのだろうと目を輝かせている。
中身を知っている俺からしても、すごい物だと思うぞ。
「こいつは」
「すっごい」
「綺麗」
中に入っているのは全部クリスタルでできたツボだ。
ゲームでは妖精族の職人が作ったものと言われていた。
「おー」
ゲームのエフェクトと違った神秘と言えばいいのだろうか。
キラキラと輝くそのツボに思わず感動してしまう。
美術品に関しては門外漢だったけど、これは素直にすごいとしか言いようのない美しさだ。
これで何かすごい効果とかあればいいんだけど……これ、ただの換金アイテムなんだよな。
フレーバーテキストも妖精族の職人が作ったうんたらかんたらと作るまでの来歴が書かれていただけだ。
綺麗だけど、綺麗なだけのお宝というわけだ。
「いやぁ、こんなお宝なら伯爵もあそこまでの執念見せるよな」
「わかるわ。これは人の心を虜にする一品ね」
「僕でもわかる。これってすごいよね!」
しかし、三人はこれ以上のお宝がないと言わんばかりの反応だ。
これで終わり、撤収と言われてもおかしくない。
「あのー、デントさんまさかこれで撤退、いや依頼は終了とか言いませんよね?」
「なんだよ坊主、伯爵の幽霊は祓った。お宝もちゃんと見つけた無事終了じゃないか」
「それだけだと俺の目的は全然達成できてないんです!俺の目的はここじゃなくて地下にあるんですよ!!」
うん、ここで釘を刺しておかないと本当に帰ってあとは国が接収して終わりのパターンだった。
危ない危ない。
「地下?」
「地下に何があるの?」
「魔法使いの工房が地下にあるはずなんだよ」
「なんだと!?いや、伯爵は生前はかなり有名な魔法使いだった。それだったら屋敷の地下に工房があってもおかしくない。坊主、お前、まさか」
「そう、俺が欲しいのはその工房にある素材とかです」
「てめぇ!まさか最初から知ってたな!?」
「その通りです。デントさん、約束は約束ですよ。優先権忘れないでくださいね」
クエスト攻略最短ルートは、ダンジョン引き込み殺法からの執務室直行ルートだ。
だけどそれだとゴミに埋もれたアイテムを回収できないのだ。
クエストを普通にクリアすると、多額の資金が手に入るだけで終了する。
だけど、そこからさらに寄り道をして地下に続く隠し通路を発掘するとその先に魔法使いの工房。
クレルモン伯爵の魔法工房が見つけられて、そこには今のレベルでは手に入らないようなお宝の山が存在する。
「ぐぬぬぬぬ」
デントさんが悔し気に唸っているが、約束は約束だ。
「だが、伯爵は散財した挙句、持っている資産の大半は売り払ってすべてゴミに代わっているはず。そんないい物が残っているはずが」
「噂によれば残っているんですよね」
ツボは一旦金庫に収納。
広間に戻って俺の行きたい方向にゴミの断捨離再開だ。
デントさんは最後の悪あがきと言わんばかりに、俺を諦めさせようとするがそうは問屋が卸さないってね。
「ねぇ、リベルタ。今から向かう場所ってどんなものがあるの?」
「魔法使いの工房は魔法使いにとっての宝物庫みたいなところだ。噂だと、ミスリルやスクロール、魔法のアクセサリとかがあるはずだ」
「ミスリル!?本当にあるの?」
「噂だとな」
噂という名の俺の知識は、的確に魔法使いの工房の位置を探り当てている。
「こっちの燭台を回して」
「なんでこんなところにあるんだよ」
「ついでに金貨ありましたよ」
魔法使いの工房への扉の開錠の仕方は憶えている。
食堂の壁につけてある燭台を回す。
「暖炉の中にあるの?」
「うん、確かこの辺に、あった。このレリーフを反対にして」
大広間の暖炉のレリーフを回す。
「いやぁ、アミナがいてくれて助かる」
「本当にあったよ」
そして最後に、風呂場の天井付近のタイルを押してもらうと。
「本当にありやがった」
「さっきまでなかったわよね」
「うん、なかった」
二階に向かう階段の中央が開いて地下への入り口が開くという寸法さ。
「坊主、どこでこんな噂を聞いたんだよ」
「秘密です」
「他にも何かいい情報あったら教えろよ。教えてくれたらいいとこぉおおおお!?」
ここまで的確に断捨離作業の指示と、開錠の手順を見せつけたのでデントさんは俺を懐柔しようとしたが、女の勘か、それとも知っていたのか。
子供が行ってはいけない場所に俺を連れ込もうとしている雰囲気を察してネルとアミナが全力でデントさんの脛を蹴った。
ドゴッて結構いい音がしたよな。
「いたたた、わかった、わかった、坊主。この話は男同士の二人っきりの時な」
「だめよ!」
「うん!だめだよ!!」
「あはははは、そういうことで……すみません」
そしてネルとアミナに左右から抱き着かれて、デントさんの企みは妨害されてしまった。
「さて、話が脱線しましたね。ネル、アミナ行こう」
「わかったわ」
「うわ、楽しみだなぁ」
「いてて、おい、保護者を置いていくなよ」
そんなこんなでようやく俺の目的地に到着だ。
「ここは綺麗ね」
「あの伯爵様も、掃除できたんだ」
「へぇ、珍しい本もあるな。これだけでもかなりの値打ちもんだ。保存状態もいい。これを売ってたら伯爵様ももう少し長生きできたんじゃねぇかね?」
魔法使いにとってここはとても大事な場所なのだろう。
八畳間程度の一室。
片方の壁は本棚で埋まり、奥の方にはテーブルが一つ。
「しかし坊主、残念だったな。ここにある本は珍しそうだが坊主の言うようなお宝は……いや待て、まさか」
「気づきました?」
一見すればここはただの書斎。
しかし、魔法使いの工房がこの程度のわけがない。
「こっちの本を抜いて、代わりにこっちの本をここに入れる。それでこっちの本をあっちに入れて、この本はこっち、それでこの本はここにずらして空いた場所にこの本を入れれば」
片方の壁だけ本棚で埋まっている。
その狭さに違和感を覚えたデントさんはさすがだ。
俺は知っている情報をそのまま使って、本を正しい並びに変える。
「隠し扉か」
「本命はこの奥」
そうすると本棚が左右に動き、その先の広い空間に繋がっていた。
「すっごい!これも、これも!?」
「参ったぜ、これは確かにさっきの壺だけに目がくらんでたら一生後悔するレベルだ」
「ここで何を作ってたんだろ?」
作業台にずらりと並んだ工具。
ここで何をしていたかなんて想像するのも難しくはない。
「魔道具さ。生前伯爵は魔道具の職人としてもかなりの腕があった。その作品はどれもが名作で、多くの人が買い求めたほど」
しかし、もうすでにここの持ち主はコレクションという名の妄執に捕らわれずいぶんとここには来なくなっていたようだ。
「坊主、お前が欲しがっていたのはこいつか?」
「はい、クレルモン伯爵の最後の作品ですよ」
知っている通りの場所に配置されているアイテムたち。
そのどれにも目をくれず。
俺が真っ先に確保に向かった魔道具。
「転移のペンデュラム。俺の知っている中で一番便利な魔道具ですよ」
空色の魔石を使った一つの魔道具。
こいつの能力はとにかく破格だ。
こいつのおかげでどれだけ作業効率が上がったことか。
飾り台に飾ってあるペンデュラムをゆっくりと手にする。
「これがあれば一度行ったことのある場所なら、どこにでも跳んでいける」
設定個所に制限はあれど、例え森の奥の秘境だろうが、山頂だろうが、洞窟の奥だろうが一度行ったことがあるフィールドであれば行くことができる。
思わず笑みが浮かぶほどのチートアイテムを手に入れることができた。
「これで、最強に一歩近づいた」
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




