19 リベルタ式軍隊制作プラン
投稿時間を間違えて明日の分も投稿してしまいました。
失礼いたしました。
改めて明日投稿いたします。
「最強の軍隊か」
俺が提案する私設軍に対して、公爵閣下は繰り返すようにつぶやくのみだった。
その雰囲気から察するに、公爵閣下の中で何か問題があるようだ。
「リベルタが必要だというのはわかるが、現実的に考えれば難しいと言わざるを得ないな」
その問題が何かと考えれば、おのずと答えは出る。
「強い軍隊を持てば、それはすなわち国への反逆の意志有りと見なされる。必要だから用意すると言うだけでは通用しない。そのためには国に認めさせる手順が必要なのだ」
「そして、その手順に反対する勢力がたくさんいると?」
「そう言うことだ」 「貴族って、本当に肝心な時に足を引っ張りますね」
原作を知っているがゆえにこの世界の貴族連中の愚かさにはため息を吐きたくなるけど、公爵閣下の言葉を聞いて余計に吐きたくなってきた。
本当にこの南の大陸は貴族同士で足を引っ張り合うのが大好きだよな。
「被害が出るまでは様子見、被害が出たら『何をしている。さっさと助けろ』、そして『被害を補填しろ』。この流れの認識は間違ってます?」
「間違っていない。むしろ的確過ぎて頭が痛くなるくらいだ」
要は、自分は良いけど他が力をつけるのが気に食わないと思っている貴族が多すぎるのだ。なので互いにけん制し合って、力を付けさせないように監視し合い、そしてその牽制のために無駄にお金を使いまくって自領を守る力が不足している。
贅沢な生活のために使うお金はあるのに、自分の領地を護るためのお金はないからギリギリまでケチって、モンスターの被害が出ても何もしないのが貴族だ。
自分の治める街に被害が出たらようやく重い腰を上げて自衛する程度。自分の領地であっても地方の村々が被害受けたからって何かしようとは思わないだろうな。
「だったら、今のうちに何とかしないと国としての体裁が保てないくらいに被害受けますよ?下手したら王都崩壊とか」
「わかっている。お前が善意で忠告をしているのも、必要だからと言っているのもな」
現状、アジダハーカの危険を知っているのは俺と精霊界の面々だけ。
証拠は一応用意しているけど、この国のどれだけの貴族がその証拠を認めるかという話になってくる。
認めてくれるのなら、公爵閣下も正当な理由として軍備を強化できるけど、なら俺も私も我もと一気に軍備強化に走って、アジダハーカ戦後は今度は人間同士の戦争勃発と言うことですね、わかります。
悩ましげに唸る公爵閣下の苦悩は、原作では持っていなかった代物だ。原作時の公爵閣下なら、「他の貴族?知らん」と一蹴してさっさと軍備拡張に走っただろう。
「騎士団だけでは対応できんか?」
「できませんね。全滅覚悟で全軍出動しても誰一人帰ってこられず、騎士団を餌食にしたことで強化されたアジダハーカが王都を襲っておしまいになります」
「むぅ」
この国にも騎士団は存在するが、その強さはプレイヤー視点から見れば大して強い物ではない。
アジダハーカと戦えるような強さだったら、そもそもプレイヤーはいらないっていう話だし。風竜なんてトカゲと変わらんって感じで、スタンピードで混乱なんて起きないよ。
「こっそりと作りません?それでアジダハーカを倒して事後承諾的な感じの流れで」
「その軍がアジダハーカの戦いのためだけに作られたと認められればいいがな。私が知るやつらなら都合よく理由や証拠を捏造して私を反逆者に仕立て上げるだろうな」
「うーん、悪循環」
そして、そんな戦力しかないからこそアジダハーカと戦える戦力を用意しようと言っているのだが、作らなかったら国どころか世界が滅び、作ってしまうと後々反逆者のレッテルを張られるという。
「国王陛下に助けていただけないんですか?一応味方なんですよね?」
「・・・・・もし仮に軍隊を作るとなれば私ではなく、問題のアジダハーカがいる領地の責任者に軍備強化の許可を出さざるを得ないだろうな」
「・・・・・そう言うことですか」
だったら国の最高権力者の鶴の一声でどうにかしようと思えば、その鶴の一声の先が公爵閣下ではなく、問題の土地を抱える北の公爵に向いてしまう。
残念ながら公爵閣下は部外者だ。証拠をもって説明しに行ったとしても、北の領地に口を出すことはできない。
「手下の盗賊団を故意に放置して民に被害を出していると思われるんですけど」
「現在対応するために軍を準備中とでも言うのであろう。そして軍を動かさず、適当に盗賊の首級を持って討伐完了と報告する流れだな」
そこが厄介なことで、とにかく越権行為というのは貴族の誰もが嫌う行為だ。
「公爵閣下からご覧になってもボルトリンデ公爵は盗賊とずぶずぶな関係ですかね?」
「むしろ、ここまでの大規模な盗賊団がいて他の貴族の耳に入っていない段階であやつ以外で匿えるとも思えん」
そしてそれは公爵閣下も理解している。それゆえに、このままいくとアジダハーカが完全復活するまで、公爵閣下は動けないということになる。
「そうなると完全に北の公爵が黒ってことになりますけど」
「完全に黒だと言っているのだ。だが、この証拠だけでは奴はしらを切り通すだけだからな」
うん、なんてクソゲーだと俺の心内で思いっきりしかめっ面を作ってしまう。ゲームではなかったしがらみ。
ゲームならイベントをこなせばストーリーが進み、そしてボスモンスターと戦えるという段階までは持っていけるというのに、現実はその段階まで行くのも一苦労というわけか。
ただ、公爵閣下としては何とかしたいと思い必死に考えを巡らせている。
「方法が、ないわけではない」
「その方法とは?」
そして一つの方法を思いついた公爵閣下であったが、彼にしては珍しく言いよどみ。
さりとてここまで言ったからには言わない方が不自然かと諦めて説明を始めた。
「敵の敵は味方ということだ。今回の場合は北のボルトリンデ公爵を敵として、残った西と東の公爵家と結託すれば陛下を説得することはできるだろう。さらに神殿に今回の件を周知する。神から託されたこの国の統治機構を維持できないほどの大惨事を神殿が看過するとは思えん。神殿側からボルトリンデ公爵に圧力をかけて動きを封じ、そして神殿主導の調査団を送り込めるようにする。その調査でアジダハーカを匿っていることが証明されれば国賊として奴を討伐することもできる。仮に奴が否定してもアジダハーカの存在が確認できれば神殿監視の下アジダハーカに対応できる」
その説明は、一つの貴族の家を終わらせるという決断をせざるを得ない話だ。
「元々我ら四公爵の力は拮抗していた。だが、ボルトリンデ公爵のところにあの小僧が入ってからその均衡もおかしくなってきている。アジダハーカの情報を秘匿しているというのであれば、おそらくやつはこの拮抗を崩し自身が頂点に立つ気なのであろうな」
流れから見て将来的な謀反は確実。しかし、まだ誤魔化される可能性が残っているという黒寄りのグレーというわけだ。
「それを他の公爵たちが良しとするわけがない。私が矢面に立つと言えば最低でも静観を引き出すことはできるし、クローディア司祭に頼めば神殿の上層部とのつながりも得られる。信用のできる人材という意味では神殿は最適な組織とも言える。神に仕える彼らなら力を得たとしても私利私欲で犯罪を犯すような真似もすまい」
「なるほど、確かに」
俺が握った証拠はボルトリンデ公爵の領内にアジダハーカという怪物が復活しかかっているという情報と、その封印地に千人規模の盗賊団が居座っているという情報の二つ。
それ自体がボルトリンデ公爵の謀反の証拠というわけではない。ただ、ここまでの大規模な盗賊団を放置し続けているボルトリンデ公爵が怪しいと疑っているだけである。
「神殿は全世界に影響力を持っている組織だ。政治には手は出さないが、代わりに治安維持には協力してくれる。ただ、神に関連する組織を動かすとなると相応の理由が必要になる」
「今回はクローディアさんの証言と、この証拠で動かすということですか」
「ああ」
何分その手の証拠を隠すことには手を抜かないのがボルトリンデ公爵という存在である。
ゲーム時代もなかなか表舞台で犯罪の証拠を出してこなくて攻略するのにイライラした記憶がある。
ストーリーを進めるうちに、不運と偶然が重なってボルトリンデ公爵を逮捕するきっかけの事件が起きるんだけど、今はそういうことを待っている余裕があるとは思えない。
となるとぼろを出すことを期待することはできないので、国家権力にある意味匹敵する第三者勢力である神殿を頼る。公爵閣下と俺の見解は一致している。
もともと公爵閣下の私兵を鍛えるというプランが使えなかったらそっちを頼る気ではいた。
しかし、それでも戦力としては心もとないとも思っている。
「「・・・・・」」
ゲームの時でもそうだったが、本当に暗躍という面においては有能さを遺憾なく発揮し、証拠という証拠を残さないキャラは厄介なのだ。必要な戦力を用意するための大義名分を用意することができない。
よって必要な戦力を動かせず、自前の戦力でどうにかするほかないという事象が発生する。
今回はクローディアと公爵閣下がいるからどうにかなっているけど、公爵閣下とつながりが無かったらどうすればよかったか頭を抱えることになってたぞ。
「最悪はこっそり軍隊作ってクーデターおこして武力制圧するしかないと思ってましたけど、この分なら大丈夫そうですね」
「お前が言うと、冗談に聞こえんな」
「今なら余り物の風竜装備がついてきます」
「本当にできそうで怖いな!?」
割と本気で公爵閣下がこの大陸を統治した方が世のため人のためと思う時がある。
だけど、今は内乱を起こしている余裕はない。
レベル差がありまくっている軍隊を用意したとしても、さすがに抵抗する人はいるだろうから時間はかかるし、アジダハーカが復活する条件が死人の魂を食らうことだから下手に死人も出せない。
「あ」
なので今回は外堀を埋める方向で話が進んでいるときに俺はふと気づいたことがある。
「リベルタ、なんの『あ』だ?また変なことに気づいたわけではあるまいな?」
「公爵閣下は俺をなんだと思ってらっしゃるんですか?」
「たった数日で身長が大幅に伸びてもリベルタだからと納得できるような人間だ」
「人間だと認識していただけていることに喜ぶべきか、びっくり人間だと思われていることに怒るべきかは後できっちりと話し合いましょう」
原作との違いに思いつくのが遅れたが、冷静に考えて一番ウィークポイントになりえる存在がいるじゃないか。
「それよりも、弱点になりそうな人物が一人いますよ」
「そんな奴をあやつが抱え込んでいるか?」
「いるじゃないですか。公爵閣下にも喧嘩を売った一人の馬鹿が」
「!?あやつか!!!」
ジャカラン。詳しい内容は知らないだろうが、それでもスキャンダルの一つや二つ関わっていそうな感じはしている存在。
「しかし、あやつが詳しいことを知っているのか?見るからに賢くなさそうだぞ?」
「詳しくなくとも、やってはいけないことをやっていることに関わっている可能性があるのは間違いないじゃないですか。村を襲っているとか、盗賊を見逃しているとか」
「貴族としてやってはいけないことを公にするということか。だが、奴がその程度のミスを放置しているか?」
「対策はしてあるでしょうね。それこそ契約とかして喋れないようにしているくらいはしてそうです」
「可能性はあるな。であればどうするか」
「思い付くのは決闘とかに引っ張り出して、神の名のもとに無理やり情報を吐き出させる環境を作れないかというところです。神同士の制約がどういう形で遂行させられるかはわかりませんけど、仮にも貴族お抱えの英雄、そこから情報を引き出せれば動くに十分な大義名分は得られるのでやる価値はあるのでは?」
「確かに」
叩けば叩くだけ埃が出ることが確定している存在というのも珍しい。
「問題はどうやってジャカランを引っ張り出すかという話ですけど」
「そこに関して言えばできるやもしれん」
「というと?」
「一週間後に夜会がある。そこに奴も現れるだろう」
そしてなんとドンピシャのタイミングでジャカランと会えるとのこと。
「・・・・・やりたくはないが、国のため民のため致し方ない」
会えたとて、簡単に情報を引き出せるわけでもない。となればそこでもひと工夫が必要になるわけで、それをしぶしぶ公爵閣下は語りだすのであった。
「エスメラルダとイリスを夜会に連れていき、囮にする」
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