9 検証 1
今回のボスラッシュダンジョンへの挑戦は、先日出た課金アイテムの出現率と出現範囲の検証だ。
もし仮にゲームと違って課金アイテムがドロップで出るとして、カラーチェンジャーだけしか出ないのか、それとも竜の種類によって別の課金アイテムが出るのか。
そして竜種の虹宝箱からは課金アイテムしか出ないのか。
そういう点ではネルの招福招来はうってつけのスキルと言える。
宝箱の出現個数は最大で固定され、虹宝箱も50パーセントの確率で出現する。
そして金宝箱は確定で出る。
ネルであれば、間違いなく虹宝箱を出してくれると信じられる。
「次のボスの出現まで5分!手早く宝箱の中身を確認するぞ!」
ボスを倒し切る直前に招福招来を発動して、雷竜の宝箱出現確率を変動させ、無事虹色の宝箱を出現させる。
「ネル、頼む」
「任せて!」
ここで迂闊に俺が開けるよりはネルに開けてもらった方がいい。
嬉々として虹宝箱に手をかけ。
「あれ?」
「どうした?」
「入ってたの、スクロールと鍵だったわ」
「うん、あっさり最高レアリティのアイテムを手に入れるのはツッコまない」
出てきたのは雷竜のダンジョンの鍵と、エスメラルダ嬢の強化で欲しいと思っていたスクロールだ。
「とりあえず一つの検証は終わったな。アイテムはマジックバッグに。エスメラルダさんは魔力回復に集中してください!次の鋼竜は俺が倒す」
それが出たということは、虹の宝箱は課金アイテムで固定と言うことではなく、通常アイテムと課金アイテムのどちらかが出るという流れか。あるいは混合で出てくるという可能性があるかもしれない。
3パターンか2パターン。この情報に絞り込めただけでも十分。
あの時の虹の宝箱から四カ月で、雷竜を倒して虹の宝箱が出たのはこれでまだ2回目。
レベリング作業中の招福招来は、通常の風竜の方に使って素材回収の効率化に回していたから、雷竜では検証できなかったんだよなぁ。
「硬そう」
「実際硬い。クローディアさんとかネルとは相性最悪のドラゴンだよ」
アイテムを回収し終わり、戦闘配置についたタイミングで、闘技場に魔法陣が展開され、そこからさっきの雷竜よりも三回りは大きい巨体の、翼をもたないドラゴンが現れた。
全身の鱗が鋼色に鈍く輝き、体は全体的に太く、竜と熊を合体させたような見た目だ。
顎が四角く張って、ショベルカーのバケットのような形をしている。
「だけど、こういう相手は俺が一番なんだよね!!」
招福招来の効果時間はたったの一時間。効率よく倒してその一時間以内に全部のドラゴン宝箱の検証をしたい。
だからこそ、最高効率で狩りに行く。
「さぁ、鋼竜!お前の首、置いて逝け!!」
鋼竜の特徴は、物理無効と言ってもいいその硬さと、タフさだ。
魔法であってもそう簡単に命を削られず、ここで消耗を強いて後半戦でドラゴンたちとの苦戦に導く、このボスラッシュダンジョンの次鋒というべき存在。
だが、そんな時間稼ぎの鋼竜は攻撃力が弱いのかと聞かれれば、NOと答える。
こいつは普通に強い。
タフさを活かした、ゴリ押し戦法と言えばいいのだろうか。
回復スキルは持たないが、持ち前のタフさと重量を活かした突撃でパーティー連携をとにかく妨害して後衛の方から潰していく。
前衛は止めることが難しいどころか、特化型のタンクキャラでも止めるのにコツがいる。
アミナの歌に惹きつけられ、さっそく猪のように前足で地面を掻き突進姿勢になる。
流石のアングラーであっても、鋼竜を止めることはできない。
であるなら、ちょっとした小細工を施させてもらおうか。
もちろん、これで突進を足止めできるとは思っていない。
これはあくまでこいつを狩るのに必要な下ごしらえ。
腰につけていた普通のポシェットから瓶を取り出し、それを鋼竜の首付近を狙って投げつければ、パリンとガラス瓶が砕け散り、その中身を鋼竜の首に振りかけ、シューっと音をたてながら白い煙が立ちのぼる。
皮膚を少し焼いた程度では鋼竜は止まらない。前傾姿勢になった数秒後には動き出しこっちに突撃してくるだろう。
だが、気配を消した俺はそれよりも早く鋼竜の足元に駆け寄って、そのまま空歩で一気に鋼竜の首元に飛び上がる。
「ミラージュフェノメノン」
ここで発動するのは、当然だが今の俺が出せる最大火力のスキル。
これが、対巨大生物専用の断頭台。
鋼竜の太い首を囲むように鏡が出現し、そこに分身の俺が現れる。
首の下、逆鱗付近は俺が担当し、俺が下から掬い上げるような斬撃の構えになると鏡の分身たちも同じ構えを取る。
鋼竜の動き、いや、反応速度と言えばいえばいいだろうか。一度動き出せば確かにかなりの速さで突進して見せるが、とにかく重いだけに初動は鈍重だし勢いがつくまでのこいつはそこまで早くない。
首輪のように出現した俺に鋼竜が反応する間を与えず、俺はスキルを発動させる。
「「「「首狩り」」」」
四方を囲んだ四人の俺から同時に放たれる首堕としの必殺スキル。
鋼竜は、確かに物理無効と言っていいほどのタフネスだ。
だが、それに反比例するかのように状態異常耐性のステータスが他の竜種たちと比べて平均よりも低い。
クラス7の竜種だけあって、確かにそれでも高めの耐性を持ってはいるが、対竜武器にアミナのバフ、そして同時に放たれる防御無視の首専用の四つの斬撃。
そして最初に投げた瓶。
あれは、パーセンテージで言えば3パーセント程度だけど、すべての耐性を下げてくれるデバフアイテム。
あれを作るのにも、相当貴重な素材が使われているのだが、効果は気休め程度。
「おっしゃ、一撃」
だが、その気休めが功を奏したのか。
ズルリとズレる鋼竜の首。
空中でガッツポーズを決めて、その落ちる物体から避難。
黒い灰へと変化していく鋼竜は、登場して僅か十数秒で退場となった。
「お!俺の運も捨てたもんじゃないな」
正直俺が倒したからそこまで期待していなかったが、空中から着地したタイミングで現れた宝箱の成果は虹が一つ、そして金が一つ。他は木箱と俺らしい成果だ。
「ネル!頼む!」
しかし、だからと言って調子に乗って俺が開けることはしない。
「はーい!!」
全ての虹の箱はネルが開けると事前会議で決まっている。
本日二個目、ボスラッシュに招福招来をやるとこういうことが起きるんだよね。
「あ!」
そして迷いなく開けたネルの目が見開かれて。
「リベルタ!これ!!」
そして彼女が宝箱の中に手を伸ばして取り出したのは、円柱上の物体。
稲妻のようなマークが描かれ、そしてその稲妻のマークを囲むように炎のようなモーションが添えられている。
「やっぱり出たか!!」
一見すれば安っぽいエナジードリンクの缶だ。
しかし、その絵柄を俺が見間違えるはずもない。
経験値ブーストアイテム。最下級のブーストアイテムであるがそれでも出ること自体がわかったのは大きい。
「数は?」
「一本ね。あとはこれね」
「鋼竜の逆鱗か・・・・・となると混合出現を含めた三パターンになったな」
しかし出たのは一本だけ。そして同じ宝箱からモンスターの素材も出てきた。
順調というか、あからさまとも言えるような流れでドロップパターンが見えてくる。
本来であればもっと回数を重ねてパターンを研究するのがベターなんだが。
いや、情報がわかるならそれはそれでいいか。
「あと欲しい情報って何がある?」
「鋼竜から固定で経験値ブーストアイテムが出るかどうかの検証と、ドロップパターンの比率検証・・・・・この二つはやっておきたいな」
残った検証はどうあがいても回数をこなさないといけない物ばかり。この後の戦闘で課金アイテムが出ても、これ以上の情報が得られて確証を持つことはできなくなった。
ただすべてネルの運を基準にしているから、この検証の注釈にネルがいる場合に限るっていう文言が必要になるけどね。
今回は急いでいるから、招福招来を使っている。
本来であればそれなしで、回数をこなして検証しないといけないのだが、時短のために今回は仕方ない。
「次は、氷竜ですか。私の出番ですね!」
可能性の話だが、もしかしたら課金アイテムの入っている虹の宝箱の出現を固定化できる戦闘条件もあるかもしれない。
そこら辺も検証したいところだが。
「はい、もうすぐきます」
空を見上げ、天候が変化する兆候を見つける。
もう間もなく、次のドラゴンが現れる。
気温が下がり始め、空から雪が降り始める。
暗雲とは違い、少し灰色が混ざった雲の中から冷気が吹き下ろしてくる。
「サーモコントロール。次いでエアクリーンを発動します」
一瞬感じた寒さも、そしてどんどん悪化していく視界もすべてイングリットが対応してくれる。
それが合図となり、クローディアがパチンと拳と掌を打ち付けた。
氷竜。滞空したまま環境を極寒に変化させ凍傷のスリップダメージを強要してくるドラゴン。
スキルでも、相手の行動を阻害してくるデバフ系の氷魔法スキルを所持している上に、単体攻撃から範囲攻撃まで幅広い攻撃手段を持っている。
寒さ対策をしないとスリップダメージを強いられるし、いまもどんどん雪が降り闘技場に雪を積もらせ移動速度も下げてくる。
イングリットが展開してくれた二つのスキルで、俺たちの周囲には適温で雪の入ってこないエリアが出来上がっている。
それを見下ろす、青白い鱗を持つ西洋竜の姿をした存在が現れたと同時に。
「天拳発動」
風竜相手の戦いで最後の締めに使い続けて、スキルレベルをカンストし体も慣らし、使いこなすまで時間のかかった驚異の肉体ブーストを、氷竜との闘いでは初手から発動させた。
敵の姿を確認し、稲妻のごとく駆け出したクローディアは残像を残す速度で天まで駆け抜け。
「鷹落とし」
一気に氷竜の頭上を取ったかと思うと、踵落としで氷竜の頭部を一撃で打ち落として見せた。
何のコントかと思うくらいの勢いで首が曲がり、その勢いで氷竜が頭から地面に向かって落ちる。
「隼狩り」
だけど、落とさない。
地面に叩きつければ確かにそのダメージは与えられる。
だが、体勢を立て直されるかもと思ったのだろうか、落ちる氷竜に追いついたクローディアは追撃で氷竜の顔を蹴り抜いて横に吹き飛ばす。
質量的に人間のクローディアが巨大な氷竜を吹き飛ばせるわけがないのだが、竜特効の装備に加えて、天拳によってクローディアのステータスは完全に氷竜を上回っている。
「飛燕!!」
こうなってしまっては、もう氷竜になすすべもない。
徹底的に顔面を狙われ、エリアルコンボで縦横無尽に動き回るクローディアに振り回され、反撃しようにも、するチャンスもないほどに猛烈な連撃を浴びせ続けられれば。
「蜂連鳥!!」
もはやこれは戦いではない。エリアルコンボの練習だ。
新しく覚えた、連撃の足技が氷竜を地面に落ちるのを許さない。
「隼狩り!飛燕!鷹落とし!!」
次から次へと響く、打撃音。
そのどれもが重機の作業音のように重く、人が出していい音を超越し、それらが響く度に氷竜の頭部を凹ませる。
そのコンボは天拳の使用限界時間が終わるまでなんて生易しいことは言わない。
もし、格ゲーのようにHPバーが見えたのなら、とんでもない速度で削れていく氷竜のHPバーが見えただろう。
「波紋双打掌!!竜滅殺掌!」
足技に加え、手技も混ざり、もはや連撃に繋ぎの隙間もない。
空歩とエリアル技を十全に使いこなしているクローディアは完全に空中戦をものにしている。
空中を自らのフィールドとする氷竜にとって、こんな結末はわかっていなかっただろう。
だが、これが現実、これが真実。
とどめに、地面に叩きつけられた氷竜はその背中にクローディアの着地を許し。
「ふむ、中々良い鍛錬になりました」
黒い灰になりながらそう宣言されるのであった。
そんな彼女の背後にYOU WIN!と格闘ゲームのネオンサインのような勝利宣言が見えたような気がしたのは俺だけだろうか。
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