29 途中経過報告
キャラ育成は、極論すれば単調作業の繰り返しだ。
一定の条件を満たしてモンスターを倒しレベルを上げ、一定の条件を満たしスキルスロットを拡張して、そのキャラに適したスキルを獲得してそのスキルを育成する。
この三つの手順を延々と繰り返し、その果てにFBOのキャラは完成する。
ここにさらに、装備を強化したりプレイヤースキルを鍛えたりとやることを添えたりするとより一層完成度が高まるのだが、結局のところやっていることは変わらない。
これはレベル制度を採用しているゲームなら逃れられない宿命だと俺は思う。
途中途中にイベントを挟むことでその作業感を消しているだけで、レベル上げというひたすら続く単調な行為から逃れられるわけではない。
そしてFBOというゲームはその点に関して言えば他のどのゲームよりも過酷と言っても過言ではないかもしれない。
「こ、これでマナブーストのスキルレベルを上げ切りましたわ!!」
「僕も守護の歌と聖歌終わったよー」
それは、ダンジョンの中にいるときばかりではなく、日常にも波及する。
クラス5でカンストしたからと言って、それで終わりではない。
次に待っているのはスキルレベル上げだ。
これだけですでに二カ月を消費している。
「オッケー。じゃぁ、休憩したら次は、あっちの広場でマナチャージの訓練をお願いします」
「わ、わかりましたわ!」
たった今エスメラルダ嬢が修練を終えたマナブーストは、自分の魔力を一定量使うことで魔法スキルの威力をあげてくれるスキル。
魔力の消耗が激しくなる代わりに魔法の威力が上がるスキルだが、何をしていたかというと、このスキルは自他ともに使えるのでクローディアの回復スキルを強化していた。
何故そんなことをしているかは後で語るとして、次に指示したのはマナチャージスキルの熟練度上げ。
これは使用中マナチャージ以外のスキルが使えなくなる代わりに、魔力の回復速度が格段に上がるスキルだ。
移動中や、休憩中に使うとポーションの節約になり、継戦能力を上げるスキルというわけだ。
そのスキルの訓練は地味だが、エスメラルダ嬢は文句も言わずに頷き、広場の方に向かって行った。
「リベルタ様、私は次に何のスキルを上げればよろしいでしょうか?」
「料理関連のスキルは一通り上げたよな?」
「はい。調理術は調理神術まで、料理はレベルマックスまで、それに並行して解体、付与料理も上げ終えました」
「となると・・・・・次は浄化の魔法と清掃のクリーンの魔法を頼む」
「かしこまりました」
「僕は?」
「アミナは踊り系統を頼む」
「全部?」
「当然。精霊たちが頑張ってスキルスクロールを手に入れて来てくれたのだから、それを育てないわけがないじゃないか」
「わかった!えっと、癒しの舞と活力の舞と、あとあと」
「魅惑の舞だ。歌って踊りながらやれば速攻で上がっていく」
「わかった!!」
そして今俺たちがやっているのは、日ごろ素材とかスクロールを集めてくれている精霊たちに感謝するための催しとBBQも兼ねたプチライブ。
やっていること的には一番初めの精霊たちとの遊びや試合を通した交流に、さらにアミナの歌を加えたような感じの交友会に近い。
そんな場所でもしっかりとスキルのレベルアップはできる。
特にアミナに関してはこういう場でレベルアップした方が、安全かつ聞かせたり見せる相手が多いから効果的と言える。
指示を受けてまた舞台に舞い戻ったアミナはさっそく精霊たちに歌と踊りを披露して、経験値稼ぎだ。
イングリットは会場の清掃活動をしつつスキルを使って綺麗さを保っている。
エスメラルダ嬢は、魔力強化系のスキルを使い続けているが、あれはあれで地味で単調な作業だから根気がいる。
今も広場に広げた敷物の上に座禅を組むように座って、むむむと唸りながら目を閉じてスキル使用に集中しているが、その周りには魔力の高まりを感じて小さな精霊たちが集まってきているのが見える。
クラス5でスキルスロットを追加で開放できるのは全部で四つ。
内三つは今までと同じ条件だが、今回一つ追加されたスキルスロットの開放条件は同格以上、要はおなじクラス以上のボスを合計で50体討伐すること。
現状のクラスのスキルスロットの総数は最大で18。アミナは現状17のスキルスロットを埋めている。
パッシブスキルで意図的に進化させていない物があるが、攻撃力に直結するスキルは俺含め全員上げ切った。
「……」
その残り一枠はユニークスキルのために空けてあるのだが、できれば天声術といったレアスキルも組み込みたい。
天声術と天舞術。
この二つのスキルがあれば、アミナのバフスキルはえげつないことになる。
正しくパワーバランスが崩れると言った感じだ。
他の面々もそうだ。レアスキルを除いて手に入れられるスキルはできるだけ組み込んでいるが、決定的な強さになるためのスキルがまだ欠けている。
しかし欲しいレアスキルのどれもが、ミミックアーマーが落としてくれる古代の武具からしか出ない物ばかり。
「ネルはこのまま斧系のスキルを伸ばす・・・・・ついでにハードアーマー系の防御スキルを身につければタフになって生き残りやすくなっていく。クローディアさんは格闘系を伸ばして回復スキルの充実化を図れば」
ちらりと屋台の方を見れば、商売をしているネルの姿が見える。
商売と言っても、いつもの精霊石による物々交換だが、それでもしっかりと露店スキルのレベルは上がる。
あのスキルは後々ヤバいスキルに進化するから、今の内に上げておきたい。
クローディアはどうしているかと言えば、このイベントで作ったリングで戦いが好きな精霊と戦っているんだろうな。
自力で回復できるから回復スキルの熟練度上げになるし、割と容赦のない攻撃もできるから対人格闘戦の訓練にもなる。
ついさっきまでエスメラルダ嬢がマナブーストによる回復スキルの強化でクローディアの手伝いをしていたから、力自慢の上位精霊たちと手加減無しの真っ向勝負ができたので、前々から溜まっていたストレスも多少は解消できたことだろう。
その代わり〝ちょっと〟刺激が強すぎるから、会場の端の方でやってもらっているが、ガチンコ対決好きには一定の需要があり、精霊たちも大満足なので人気だったりする。
イングリットがリングの清掃がてら、たまに様子を見に行ってくれているから、何かあったら知らせてくれるだろう。
そうやって各々スキルの熟練度上げをしながら、手伝ってくれている精霊たちに感謝の気持ちのお礼をしているわけだ。
明日は完全休養して、その次の日にはクラス6のレベリングをスタートさせる。
クラス5で一週間、となればクラス6は一カ月から二カ月は見ないとだめだろうな。
クラス7となれば、半年かそこらはかかる。
『リベルタ!遊ぼう!!』
「おー、今行くぞ」
そんな計算をしながら、俺が何をやっているかと言えば精霊たちを集めて一緒に遊んでいる。
「かくれんぼはじめるぞ!!」
『『『『おー!!』』』』
やっているのは変則的なかくれんぼだ。
鬼は精霊たち、そして逃げ隠れするのは俺で、俺を見つけた精霊にはご褒美としてお菓子がもらえるというちょっとしたイベントだ。
変則的な理由は、隠れる側と鬼の数の差だけではなく俺が一ヵ所だけに隠れるということをせず自由に動き回れるということだ。
隠れる範囲も、地の精霊に頼んで作ってもらった、ちょっとした岩の屋敷だ。
大きさは公爵閣下の屋敷よりは小さいが、一般家庭の家と較べるとかなりでかい。
遮蔽物があり、隠れる場所も豊富。
屋敷の構造も少し複雑にしてあるから、上手く移動しながら隠れれば見つかることもない。
「さぁて、最初は小さな精霊からだぞ。大きな精霊たちは順番を守って入ってきてくれ」
制限時間は30分。それをスキルを駆使して俺が全力で逃げるというアトラクションだ。
シンプルだが意外や意外、これが精霊たちに受けていて順番待ちのアトラクションと化している。
こっちとしても安全にスキルレベルが上げられるうえに、上位精霊たちが参加してくる後半戦となるとさらに経験値効率が爆上がりだ。
休憩時間は終了。
俺はそっと大きな砂時計に手を触れ、それを押し出すように回す。
「この砂がこの線に来たらスタートな」
『『『『はーい!!』』』』
大きな砂時計のガラス面に書かれた線が制限時間。
全て落ちるとちょうど30分、俺は大きく深呼吸して岩の屋敷の中に入る。
窓が全開放されているから、外から日差しが入り中は意外と暗くはないが、それでも影となる部分が多く隠れやすい。
外からワイワイと声が聞こえ、どこを探すか、どういう手順で探すかという話し声が聞こえる。
ざわめきの中からその声を一つ一つ拾うのは困難だが、それでも大まかな方針くらいは聞き取れるのでまず最初にやるのは死角をとること。
入り口は開け放たれているが天井は高く、壁伝いで登ればバレずに入り口の真上に陣取ることができる。
俺が新しく取ったスキルは攻撃スキルよりも、こういった立ち回りスキルの方が多い。
気配探知に、サイレントウォーク、影法師にヘイトダウン。
元々ダンジョンをソロで攻略するために、相手と接敵しても不意打ちによる奇襲先攻を取るためのビルドだ。
本当だったらここに、レアスキルであるカメレオンミミクリーを所持したいところだが、それができない現状他のスキルを先に取る。
「影纏い」
俺の姿が黒くなるこの影纏いもそのスキルの一種。
姿が黒くなるだけではなく、魔法防御能力が上がるという防御と隠密能力が上がる優れたスキルだ。
カメレオンミミクリーはスキルレベルを上げないと発動時間も短く、そしてリキャスト時間も長めに設定されているから常時使いがしにくい。
しかし、この影纏いは発動時間も長い上にリキャストタイムもほぼない。
明るい場所だと黒い物体が動き回っていて逆に目立ってしまうが、少しでも暗さがあると潜み易くなるなかなか便利なスキルだ。
特に夜間だとマジで見えなくなるから重宝する。
スキルレベルもこのかくれんぼのおかげでだいぶ上がっているから、燃費も良くなっているしさらに魔法防御力も上がっている。
そして足元から小さな精霊たちがきゃっきゃと楽し気に屋敷の中に入り込んでくるが、上を見ずに真っすぐ中に入って行く。
その背中を見送った後に、そっと移動をし始める。
精霊たちは総じてワイワイガヤガヤ騒がしい。気配探知で場所を把握して常に死角を意識して動き続ければ基本的には見つからない。
ただ、集団で動き続けているから常に死角が存在するわけではない。
移動していると、追い詰められそして逃げ場が無くなることもある。
その場でじっとしているというのも手段としてありなのだが、そのままだと見つかるという時は。
「マジックワイヤー」
魔力で生み出すワイヤーを天井に射出してそれを引き戻して一気に上に逃げる。
元々は魔力でワイヤーを生み出すだけのスキルであり、スキルレベルによって生み出すことができるワイヤーの長さに差が出るというスキルだ。
複数本生み出すこともできるから、糸使いみたいな感じで敵を切断できるかもと思うかもしれない。
実際できる。極細であってもスキルレベルマックスの状態であれば強度はかなり高いし、鋭利にできる。
さらに先端にマジックエッジで刃を形成することもできるから、飛び道具としても流用できる。
さらにマジックエッジとワイヤーのコンボで天井や壁に突き刺して移動することができるから、空歩以外での空中移動手段になる。
伸び縮みするという特性を使って、いろいろなところで立体機動ができるのがこのスキルの強み。
まぁ、この屋敷程度の高さなら空歩どころかステータス任せの普通のジャンプでも問題ないけど、スキル熟練度上げするにはこうやってスキルを使うのが一番。
暗殺者ビルドだからこそ、こうやって見つからない手段はいくらでもある。
危険なくスキル熟練度が上げられるから精霊たちに感謝しつつ、こうやって彼らを楽しませればお返しにこっちの手伝いもしてくれる。
正にウインウインの関係というやつだ。
後半戦になればなるほど、難しくなっていくかくれんぼ。
これはこれで俺も楽しめるので、いいレクリエーションになるのであった。
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