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28 勝つ条件

 

 アジダハーカに勝つ方法というか、攻略法はFBOでは数多く存在していた。

 それこそ王道の真っ向勝負から、小手先の技を使った邪道の攻略法、そして正気かと言われそうなネタに走った方法まで、FBOプレイヤーたちが血と汗と涙を流してやり込んで開発した攻略法の数々。


 そんな数々の方法から選ぶとしたら、現状の戦力を鑑みるに、王道の真っ向勝負はまず無理。

 となればおのずと選択肢は減り、選ぶことになるのは、工夫に工夫を重ねた絡め手による攻略。それこそが今回の勝利の鍵となる。


 そんな小手先の技や裏技を駆使して戦う工夫型の攻略をするとしても、前提として根本の力となるレベルとスキルの獲得は必須となる。


 さらに追加で三日。


 合計で六日、プレイヤーダンジョンの攻略を続けクラス5のカンストを目指した。ステータスが上がれば上がるほど戦闘の効率は高くなり、その分だけ多くの経験値を得られるようになる。


「ひとまずこれでクラス5のレベリングは完了だな」


 ステータスを確認すればそこにはクラス5のレベルをカンストした数値が表示されていた。


「クラス7のボスモンスターで完結させるのがリベルタらしいわね」


 その最後のレベリングの糧となったのはプレイヤーダンジョンのボス、インシュライダー。

 祀られた存在として飾られるご神体的なボスだ。


 大きさと見た目的には奈良の大仏様クラスの大型モンスターなのだが、御仏のような優しさは一切ない強敵だった。


 戦闘方法は、聖堂のようなボス部屋の中央に鎮座して周囲に取り巻きのプレイヤーを召喚し戦うというスタイル。

 中央に鎮座した状態で取り巻き達にバフと回復を振りまき、自身も魔法で攻撃するという完全固定砲台型モンスター。


 遠距離戦に持ち込まれるとかなりしんどい戦闘になるが、そんなことを俺がさせるわけがない。

 取り巻きをアミナの方に集中させてしまえば本体の方はがら空きになってしまう。そしてボスのインシュライダーが魔力寄りのステータスであることの弱点を重点的に突く。


 ゴーレム二体とエスメラルダ嬢、そして亀ゴーレムの防御性能ではボスと取り巻きの総攻撃を防ぎきれないと予想していたから、イングリットにボス戦開幕早々パーフェクトクリーンで取り巻きのプレイヤーたちを一掃して圧を下げてもらった。あとは俺、ネル、クローディアの三人によるフルボッコタイムというわけだ。


 魔力防御は高いが、物理防御は低い。

 結界に阻まれるけど、そんなものは圧倒的火力で殴り壊してしまえば問題ない。


 本体に取り付けば、そのまま殴り続けるだけで倒せるというお手軽さがあるんだけど、本来であればボスと取り巻きの相互回復と結界の展開で苦戦するはずなんだよな。


 それができないように取り巻きを最初にイングリットに処理させて、そこからは。


「ふぅ、力が抜けるのは慣れませんね」


 天拳によって短期決戦を実現できるクローディアの力によるごり押しができる。


 天拳の効果が切れ、身体能力が激減した肉体の感触を確かめている彼女に近づく。


「反動が収まってから脱出しますか?」

「いえ、あとは脱出するだけなので問題ありませんよ」


 宝箱の色は銀色。

 その宝箱を開けにネルとアミナが走っていくのを横目に、これでクラス5のレベリングが終了したことを実感する。そしてこれからは次の予定に移ることになる。


 今回の敵はあからさまに物理が弱点だとわかりやすいステータスをしているが、アジダハーカがそんな間抜けな設定なわけがない。


 アジダハーカを攻略する方法は頭のなかに色々とあるが、今回実践するとすれば、やはりあの方法こそが一番いいと思われる。


「なら、脱出用の魔法陣の側まで行きますか」

「ええ」


 知恵の女神ケフェリ様からの神託でもあった、アジダハーカの美味しい蒲焼という異名のきっかけとなった攻略方法、串刺し殺法を。


「次のダンジョンはどこに挑む予定ですか?」

「クラス5のスキルスロットの確保とスキルの獲得、あとは対レイニーデビル戦と対アジダハーカ戦を想定して必要な素材を集めるために、ダンジョンをいくつか周回したいんですよね。この段階のダンジョンになると上位精霊たちばかりに任せるのも少し不安で」

「確かに、クラス6になってから敵の強さが格段に上がりました。ここから先の危険度は高くなるでしょうね」

「上位精霊たちでパーティーを組んで安全に周回できるところは任せますけど、それ以外で不安の残るところは俺たちで周回します」


 この先ワールドクラスの敵と戦うために必要な物がいくつもあるので、ここから先はレベリングと並行してそれらを準備しないといけない。


「必要な物は?」

「スキル関連で言えば、クラス5から8までで獲得できるスキルスロットはクラス5と6で4個ずつ、7と8で5個ずつの合計18個。それだけ確保できるんで必要になるスキルの数はそのスロット数分になります」

「……現状私のスキルスロットの空きも考慮すれば、全員分となるととてつもない量のスキルになりますよ」

「ジョブで獲得できるスキルもありますんで、すべてがすべてスクロールってわけじゃないですけど、スクロール集めは必須ですね。アジダハーカどころか、レイニーデビル相手にスキルスロットを空けた状態で挑むなんてことはしたくないですし」


 真っ先に必要だと思うのはスキルだ。

 そのスキルの有無で戦闘能力が雲泥の差と言っていいほど隔絶した違いになる。


 これから膨大な数のスキルを獲得して、さらにそれを育成するとなるととてつもない労力がかかるというのを察して、クローディアは額に手を置いてため息を吐いた。


「ちなみに参考までに聞きますが、私のスキルを全て埋めるのにいくつのダンジョンを周回する予定なのですか?」

「クローディアさんは、全部で二十ですねぇ。あとはジョブで獲得できるスキルを獲得して」

「もしかして、全て出るまでやるのですか?」

「ええ、もちろん。スキルの熟練度を上げながらの周回になりますねぇ。本当だったら、ミミックアーマーの古代の武具からレアスキルを獲得したいんですけど、それはクラス9で頑張ることにしますよ」


 不幸中の幸いで、ネルが招福招来を持っているのでそこまで難しい周回になるとは思っていない。


 一日一回、リキャスト時間を考えれば三日で二回のペースくらいか?

 それを考えて、全員分のスキルを確保しながらダンジョンを攻略するとなると、ざっと見積もって。


「推定では四か月ほどで終了する予定ですよ。まぁざっくり計算で運が絡む問題なので多少の前後は有りますけど・・・・・まぁ、レベリングと並行してやるからもう少しかかるかな?」


 運が良ければ次々に行きたいところだが、スキルスクロールは基本的にレアドロップ。今まではネルの幸運のおかげでサクサクと出ているが、本来であれば何周もして一個をひねり出すのがやっとなんだ。


 そして挑むダンジョンは格下から格上まで様々。

 複数のスキルスクロールを同時に獲得できるダンジョンもあるにはあるが、基本的に一つのスクロールにつき一つのダンジョンに挑む必要がある。

 共通スキルもあるにはあるがそれでも数を用意しないといけないことを考えると時間はいくらあっても足りない。


 四カ月という日数も、ぶっちゃけて言えば順調にいってその日数だと踏んでいる。


「安全なダンジョン周回は精霊に任せてスクロールを確保してもらうから、もう少し日数が減るか?いや、出ないときはとことん出ないから、もっと時間がかかる?」


 そこにさらに、対アジダハーカ戦と、対レイニーデビル戦用の武具や道具の作成用の素材も並行して集めている。


 安全に入手できる物は精霊たちに任せているから、それだけでも六割近くの労力が削減されているので四カ月と概算した。


「リベルタ、このスキルって使える?」


 そんな闇深い、採取地獄の予定を組み立てていると宝箱からネルがスクロールを取り出している。


 うん、招福招来使ってないはずなのになんで出るかね?

 このボスが落とすスキルは、回復系と結界系でそれぞれ二つずつ。


「ロングヒールか・・・・・クローディアさん覚えておいてください」

「わかりました」


 今回は四分の一の中で一番使い勝手のいい回復系スキル、ロングヒールが出た。

 ヒールの射程距離は手が触れるかどうかの距離、要は手を伸ばせる範囲でしか回復ができない。


 だがこのロングヒールは、最大射程50メートルというヒーラーとしては垂涎の回復系スキルだ。

 射程距離が延びる分、燃費が悪くなるのもお察しだが、遠くにいる味方を回復できるロングヒールはとても便利なスキルだ。


 レベリング速度を考慮して、明日に挑むダンジョンまで温存しておきたかった招福招来を使わずして価値あるスキルをドロップさせるネルさん、やっぱすごいっす。


「これで、残り23個ですか」

「何の話ですの?」

「私たちが、この精霊界で取得するスキルの数ですよ。クラス8になればスキルスロットが32個になるので、リベルタはそれを全て埋めるつもりです」

「32個・・・・・今私のスキルは8個、すなわちあと24個のスキルを覚えないといけないということ?」

「私は、21個ね」

「僕は・・・・・ええと、1、2、3の・・・・・全部で10個だから・・・・・22個?」

「私は20個でございます」

「そして俺も20個だから、合計すると130個だな」


 だけど、その幸運を後130回続けないといけないわけで、さすがのネルでもそれはできないだろうと思いつつ、なんだかんだであっさりと出してくれそうな予感もしている。


「とてつもない数のスクロールが必要というのはわかりましたわ。いったいどれだけの時間がかかるんですの?」

「推定で四カ月だそうです」

「たった、四カ月?この数のスキルを?」

「そう思うのは無理ありませんが、ネルのこの豪運とリベルタの知識を駆使すればそれも可能だと思ってしまいますね」


 そう思ってくれていた方が都合がいいから、俺としても助かる。

 ユニークスキルも途中で取っていきたいから、その点も考えると四カ月というのは本当に理想的に進んだ場合による上振れ進捗の推定なんだよな。


「大変なのはスキルを獲得してから、育成することも考えないといけないことですよ。スキルは育てないと使い物になりませんから、ここで一気に獲得したスキルは全部カンストさせますよ」

「……20以上のスキルを全てやりますの?」

「当然ですよ」


 あまりの数のスキルのスクロール確保の目標にエスメラルダ嬢は驚いているが、その先にある地獄のことを一応伝えておく。

 ただでさえ人手不足で、さらにレベルも挑戦相手に対してゲームの推奨値に届かないのだ。


 せめてスキルくらいは完全育成しておかないと危険極まりない。


 にっこりと笑顔で、ここから先が地獄ですと言って、それが勝利の前提条件だと語るとエスメラルダ嬢の首筋に冷や汗が流れるのが見えた。


「大丈夫です!修練の腕輪を両手に装着して同じスキルを淡々と使い続けるだけで簡単に育成されていくんで」

「騙されませんわ!!その回数こそが大変なのです!!」


 スキルによっては簡単に上がるスキルもあれば、燃費が悪くて回転率が悪くて上がりにくいスキルもある。


 加えて、ネルのゴールドスマッシュみたいに特定の条件下でしか熟練度が上がらないスキルも存在する。


 まぁ、エスメラルダ嬢の嘆きも理解できるが、今回取りに行くスキルは全て熟練度を上げ切れるスキルばかりだから安心して欲しい。


「今やれば後々が楽になりますよー、元の世界に戻ったらまず間違いなくエスメラルダさんに勝てる人はほとんどいなくなります」

「クラス8の存在自体が伝説のようなモノです。公爵も娘がそんな存在になって帰ってきたら驚くでしょうね」

「驚くだけではすみませんわよ」


 だけど、これは決して避けて通れない道。

 最強キャラ育成をすると決めたからには、ゲーマーとして避けては通れない道のりなのだ。


「びっくりして心臓が止まったりして」

「……そこまでは、ないと思いたいですが、顎くらいは外れてもおかしくは有りませんわね」


 今は冗談で和ませ、会話を楽しんでいるが、後々死んだような眼でスキル上げするエスメラルダ嬢が見れそうな予感はしているのであった。







楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
やっぱり。レベル上げ自体は爆速で進みましたね。クラス5を6日でカンストですか。でも、今まで一番時間が掛ったレベル上げってクラス3の2週間でしたよね。クラス6はそれくらいかな?
これはライバル英雄たちは全員複数個の異常なエクストラスキル的な恩恵、能力があると考えるべきだよね。 要するに固有スキル持ち対究極に育った汎用ユニットの対決ってことかな? 確かにバランスによっては良い勝…
回復薬がぶ飲みがあるエスメラルダ嬢が1番辛いだろうしねぇ
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