27 ダンジョンズブートキャンプ
さて、RPG系統だけではなく、ことレベルアップという要素のあるゲームをやったことのある人ならこういうのを調べたことはないだろうか。
〝簡単レベリング〟
淡々と同じことを繰り返すことになりがちなのがレベリングで、飽き性の人やこらえ性の無い人にとっては苦行とされる行為だ。
そんな人が簡単に強くなるために、こういうワードで動画サイトや攻略サイト検索したりする。
そして様々なレベリングの方法が出てくる中で、この敵はレベルが高いが簡単に倒せるから経験値が美味しいとか紹介されることがある。
「こっちは倒した!!そっちは!?」
「もうちょっと!!」
FBOにもそういうモンスターがいる。
沼竜みたいに嵌め殺ししたり、ワイバーンみたいにリポップ鴨打したりと、工夫次第でどうにでもできる。
この不気味な蝋人形たちもその手のモンスターの一種。
その名はプレイヤー。
祈る者の名に恥じない、祈りのポーズで襲い掛かってくるという稀有なモンスターだ。
「奥はクリアですわ!」
「パーフェクトクリーンのリキャストタイム終了まで残り十分を切りました」
格上と戦う際に一番重要なのは、相手の得意な展開にさせないということだ。
そのために型にはめるというのが大切だ。
要は下手に真っ向勝負を挑むよりは、相手の長所を殺し、短所をより致命的にするような動きをすればいい。
祈る者ことプレイヤーたちは祈った姿勢のまま、足元を数センチ浮かせて迫ってくるというホラーチックな接近の仕方をしてきて、男性型プレイヤーが正面に立ち結界を張り、後方に女性型プレイヤーが位置取りライトボールで攻撃してくる。
攻守をしっかりと分別した戦い方だ。
ステータスが魔力寄りで、さらにレベルもクラス6であるからスキルの熟練度が高く、メインの攻撃手段のライトボールは燃費が良く連発が利く攻撃魔法のため、攻撃力の低さを補ってこっちに致命的なダメージを与えてくる。
結界で防御を固めてくるのも厄介だ。
アミナの歌で引き寄せると、それなりの数は揃う。
そうなってくるとどこぞの箒に乗る魔法使い少女みたいに、弾幕はパワーだ!!というのが完成され、一つのパーティーがあっという間に始末される威力の大量の魔法が飛んで来る。
まぁ、放っておいたらというのが前提条件だから、そういう心配はない。
敵がアミナに集中している間に、俺は念押しでヘイトダウンで相手の注意を減らして背後から奇襲を仕掛ける。
ミラージュフェノメノンを起動して四人に分身、背後から急所の魔核めがけて心臓打ちをぶちかませば四体が一気に削れる。
魔力寄りのステータスだけあって物理ダメージがよく効く。
四体分の経験値が入って俺のレベルも1だけ上がる。
どんな状況でも絶対に装備しないといけない弱者の証。まとめてレベリングできないFBOの仕様が本当に面倒くさい。
手早くステータスを開いて、サクッとステータスを確認。
クラス5/レベル98。
このダンジョンに入り込んで、もうすでに三日目に突入している。
現状のレベリングペースは、一日で四十ちょい。
一回のダンジョンアタックでここまでレベリングできるのはさすが格上のダンジョンと言うべきか。それともこれだけ戦っているというのにいまだカンストが見えない経験値テーブルを嘆けばいいのか。
クラス4までがどれほどレベルが上がりやすかったかという話だ。
EXBPがしっかりと満額振り込まれているのを確認して、ステータスを振り分ける。
今回は体力優先でのステータス振り。クラス5で計画している体力分を確保したら、その後は魔力に振り分けるというやり方だ。
とにもかくにも物理ダメージが必要だ。
それならマジックエッジのダメージを上げる魔力よりも純粋な物理ダメージを上げる体力にステータスを割り振った方が、今回の敵のプレイヤー相手には有効だ。
戦いながらステータスを割り振るなんてことをやりつつ、クローディアが最後の男性型プレイヤーを殴り飛ばして今回の戦闘も無事に終了した。
「最初は一体ずつ倒していましたが、レベルが上がるにつれて複数体でも対応できるようになりましたね」
「倒す速度も上がってきましたし、そのおかげかレベルの上がるまでの時間も早まった気がしますわ」
「それでもレベルが上がりにくいわ。前まではなんだかんだで三体くらい倒せば1レベル上がってたけど、今は十三体倒してようやくレベルが上がるって」
「経験値テーブルを弱者の証で最低値に固定してそれだからな。ステータスは下がるけどそうやらないと本当にきつい」
「ですが、弱者の証を装備できるのは二つまで、そのレベルダウン効果も200までです。それ以降になりますと経験値テーブルも上がるのですよね?」
「そう言うこと。後半戦はクラス5のレベル五十の経験値テーブルでレベリングをする必要があるからな。装備全部に弱者の証を融合させてさらに下げるという手法もあるけど現状装備の能力を下げるのは避けたい」
休憩を兼ねて連携を確認する。
アミナが引き寄せ、ゴーレムで防御しつつエスメラルダ嬢が牽制し防衛線を構築。
その間にクローディアとネルで挟み込み、俺が背後から奇襲、イングリットが危険な場所のサポートに回り倒し切るという戦闘方式で、一気に五体のプレイヤーを倒すことができた。
「でも、どんどん敵が多くなっていってるよね。このままのペースで大丈夫?」
亀の頭の上に座っているアミナが、ペース配分に関して心配してくる。
ダンジョンは奥に進めば進むほど、敵が多くなる仕組みだ。
この石畳の迷宮タイプのダンジョンだと、それが顕著に現れる。
奥に進めば進むほどエンカウント率が上がるのは、純粋に敵の数が増え迂回路を封鎖しているからだ。
「今のところ多くて5体の群れが基本だが、これ以上進むと6から7体の群れになりそうだな。今日はここら辺でレベリングをして150くらいになったら少し進もう」
さらに迷宮タイプは入り組んでいるから曲がり角も多く道を曲がる際には注意しないといけない。
相手は浮遊しているから物音がしない。
曲がった瞬間にばったりと会うなんてこともあり得る。
そうなってくると本当に偵察系のスキルが必要になってくるのだが、暗殺者のジョブに入っているんだよ。
だから斥候役は俺が担うことになるのだが、スキル編成的に偵察ができるスキルも取得するから問題なし。
今回取得したのは気配探知。このスキルはゲーム時代はレーダーマップみたいなものが表示されてスキルレベルが高いと壁越しでも探知してくれるという優れ物。
欠点は相手が隠密系のスキルを持っていると探知しにくいって言う面があることだが、スキルレベルが高ければこっちの方が優先されるし、ステータスが高ければその欠点も埋めることができる。
なんでこんなスキルを取っているかって?将来的に煙幕みたいな視界妨害系のスキルを取る予定だから、その時に敵味方の位置を把握するためだ。
煙幕の中を気配探知で相手の位置を把握、サイレントウォークで足音を殺して接近、影法師でフェイントを掛けてからの首狩り殺法、これ最強。
「リベルタ様。この調子で今日中に予定のレベルまで行けますか?」
「無理だろうな。予測だと120を超えるくらいだろう」
「二日でそこまで上げられるのはかなりハイペースだと私は思うのですけど、リベルタは不満ですの?」
「不満はないですよ。むしろレベリングは順調にいっていると思いますよ」
そしてダンジョンに突入して代り映えのしない光景を見続けても体内時計は一応動いているので、今は午後三時くらいだと推測される。
切り良く150までレベリングしたいところだが、時間とモンスター討伐のペースを考えると難しそうだ。
イングリットの疑問に答えた口調的に、不満があるのかとエスメラルダ嬢に勘違いされたが、レベリングはどちらかと言えば順調に進んでいる。
では、なぜ不満そうに聞こえたかと言えば。
「次のレベリングのダンジョン選定に悩んでいまして」
「余計な思考は事故を招きますので後回しにしてくださいまし」
「あ、はい」
単純に今後のプランで悩んでいるからだ。
レベリングするにあたって、クラス5のレベリングの場所はプレイヤーダンジョンにするとは決めていたが、次のクラス6のレベリング場所の選定に悩んでいる。
アジダハーカ攻略の準備期間は精霊王の時間進行の速度調整のおかげで確保できているが、それでも無限にあるわけではない。
今後のスキル育成やスキル確保のことを考えると時間はいくらあっても足りない。
なのでついつい先のことを考えてしまう。今をおろそかにして事故ったら目も当てられないのでエスメラルダ嬢の忠告には素直に従っておこう。
そうして、休憩を終えてからもプレイヤーを倒し続けると、あっという間に時間は過ぎる。
「レベル124、時間的にそろそろ止めるか」
さて、ここで一つ問題だ。
ゲーム時代、こんな長期的攻略が必要なダンジョンがあって、プレイ時間の確保ができない人はどうしていただろうか?
答えは普通にセーブポイントを作れるアイテムが売られていました。
ダンジョン内でそれを使えばそこでゲーム終了できたし、なんならそこから再開できました。
さらに上のアイテムになると、中継地点みたいな感じで魔法陣を展開して一旦ダンジョンの外に出てゲームを止めることもできました。
だけどこっちの世界に来てから、普通に雑貨屋とかに売っているはずのそれは忽然と姿を消したんですよ。
その時はなんでだと愕然としたが、今はそれはそれでどうにかするしかないと割り切っている。
「それじゃ、ダンジョン開くね」
「では、私がボスを倒してきましょう」
「私は水場に行き夕食の準備に取り掛かります」
「僕も手伝う!!」
「それじゃ、私も行くわ」
「では、私は魔除けのアイテムを入り口に設置しますわ」
そしてそのログアウト用の代用品は、序盤からお世話になっているモチダンジョンというわけだ。
俺がマジックバッグから鍵を取り出し、ダンジョンを作ると女性陣はすぐにキャンプの準備を始める。
「俺たちは、テントの設営を始めようか」
『『『はーい』』』
この作業は最早それぞれの役割が決まっているから、それぞれ迅速に動くことができる。
ゴーレムたちを入り口の近くに配置して、ゴーレムコアに接続する形でエンカウント回避アイテムの闇さん特製の魔除けを設置。
レベリングをしていない状態であればエンカウント回避アイテムを使ってもEXBP取得に問題ないのは、このサバイバルレベリング中だと神裁定すぎる。
移動しながら使うとその効力が下がるエンカウント回避アイテムだが、こうやって拠点に設置するとその効力を最大限発揮してくれる。
ボスを倒したダンジョンには入らないモンスターの習性があったとしても万が一を気にかけないといけない。
設置はエスメラルダ嬢がせっせとやってくれているのだが、貴族のお嬢様なのにこういう下働きに対して文句ひとつ言わずやるんだよなぁ。
そこから少し離れた場所で、俺は精霊たちと一緒にテントの設置をする。
キャンプ道具はマジックバッグの中ではなく、亀ゴーレムの甲羅の中のカーゴスペースに収納してある。
こういうのがあるから大型ゴーレムは便利なんだよな。
アミナの召喚でこういう道具を色々と呼び出せるのは、長丁場のダンジョン攻略には本当に便利だ。
その代わり、しっかりとそういう装備を持ったゴーレムを用意しないといけないんだけどね。
こうやって、精霊たちと楽しくテントを組み立てるのはゲームでは体験できない経験だ。
ゲームだとワンクリックならぬ、ワンタッチでテントが組み立てられてあっという間にログアウトという流れだから情緒も何もない。
「さてと、イングリットたちが夕食を作り終えるまでに終わらそうな」
『『『はーい!』』』
そんな環境でこうやって協力し合うのは中々楽しいのであった。
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