25 勝つためのロードマップ
精霊王の協力で、南の大陸のアジダハーカ復活の候補地点に精霊の偵察隊を送り、情報収集をしてもらえることになった。
『現地と時間の進み方に大きな差を作ってあるから偵察隊が戻ってくるまでには時間がかかる。その間にできることはしておくぞ』
「よろしいのですか?取り越し苦労になる可能性もあるにはあるんですが」
『その可能性はないと思っているくせに、そのようなことを言うな。何もないのなら、それでいい。今一番やってはいけないことは、どうせ何もないと思って何もしないことだ』
神の言葉というのは本当に影響力が恐ろしい。
精霊王が積極的に手を貸してくれるなんて、FBOではありえなかった。
「確かに」
『まずは情報だ。リベルタ、お前の知る限りでいい。アジダハーカに関しての情報はないか?』
「有ります。ですが、俺の知っているアジダハーカと今回のアジダハーカに違いがある場合もありますので、その点は留意しておいてください」
『当然だ。あくまで一つの情報として考慮するだけだ。しかし、お前の情報を軽く扱うわけでもない』
「わかりました」
精霊王というキャラはゲーム時代においては、お助けユニットという立ち位置のキャラだ。
所謂、味方に入っていたらチートと言えるようなキャラだと言うことだ。
世界の自然と精霊界の維持に大半の力を持っていかれているが、それを差し引いてもその戦闘スペックは高い。
この状態でもクラス9程度の実力はある。
精霊界の内部であれば、疑似的にクラス10のスペックも叩きだせる。
そんな相手が協力してくれるというのだ。
隠し事をするわけもないし、むしろこのまま完全に巻き込む勢いで情報を吐き出す。
「アジダハーカ。そのモンスターは世界を滅ぼす大災害の具現化と言われる存在。完全体のレベルは推定クラス9の420前後。邪神本体ほどではないにしろ、その差は誤差程度だと言えるような強力なステータスを保持しています」
頭の中から俺の知るアジダハーカの情報を引き出し、言葉にする。
EXBPは完全獲得していないというのが何度も戦ってきた検証班の推測。
タンクとアタッカーを用意し、与ダメと被ダメの両方から検証しステータスを推測した。
「スキル構成は、呪い系のデバフが六割。攻撃系スキルが二割、身体強化系が一割、回復系スキルと防御系スキルで残り一割です」
スキル構成は全て丸裸にされている。
スキル総数は全部で40個。
クラス9までで取れるスキルスロット完全習得状態。
本当に手加減無しの破壊の化身と言った感じの構成だ。
「呪い系のスキルは24個。その内訳はアクティブ系が22個、呪極術、闇魔極術のパッシブスキルが2つ、攻撃系スキルが8個すべてがアクティブ、身体強化系のスキルはアクティブ系が3つ、パッシブで状態異常耐性強化がついています」
プレイヤーのキャラメイクでデバフ系のキャラを作るときに参考になるほどの呪い特化型ボス。
ボスのステータス1.5倍補正が入るからよりその強さが凶悪になる。
「そして一番の問題である4つのスキル。一つは常時発動型回復スキル、ハイリジェネ。これは1分間に1パーセントのHPを回復するスキルです」
『アジダハーカのレベルを考えればその生命力も膨大。僅かな回復率とは言え一度で回復する量は計り知れないか』
『陛下、リベルタの言っていることが真実であるのなら我々は呪いを受けつつ戦わねばならないということで、本来の攻撃をできるとは思えませぬ。威力が下がった攻撃、そして再生能力。この組み合わせは苦行と言わざるを得ない』
「おまけに、首が8つあるんで常に八方向から攻撃が飛んできます。ワンターン八回行動とか馬鹿かと言いたくなりますよねぇ」
デバフをかけながらこっちに一撃で致命傷の攻撃をしてくるし、おまけに常時回復状態とか、こいつを生み出した奴は本当に馬鹿かと言いたくなる。その上に攻撃が八回もあるとか、バランスブレイカー過ぎるとツッコミたくもなる。
「二つ目は、首の再生用の再生魔法ですね。これを使ってる間は一つの首がそれに専念するんでチャンスと言えばチャンスですけど」
『それを許せば、こちらの攻撃で首を落としてもまた本数が戻るということか』
『魔力が底を突くことはあり得るのか?』
「闇さん、そんな都合のいい展開があると思いますか?アジダハーカは自分でばらまいた呪いを捕食して自分の魔力を回復する行動があるんですよ?しかも首の一つが食べた呪いがそのまま本体に入って魔力回復するからすべての頭がしっかりと魔力が回復します」
『むぅ』
苦労して首を落としても、その首が復活してくるのだからシャレにならない。
アジダハーカには即死耐性はない。
だが俺のメイン攻撃スキルの首狩りで仮に一本叩き切ったとしても死にはしない。
心臓打ちをしようにも、本体は八本の首が守っているうえに。
「おまけに、残り二つの防御スキルが厄介極まりない。一つ、メタルスケイル。これは純粋な防御力アップ。行動速度が低下する代わりに、一分間防御力が五割増します」
『さらに硬くなるということか』
「一度使うと、次に使えるのが5分後というリキャストタイムがありますけど、その間に倒し切るのは現状難しいですね」
『リベルタ、もう一つの防御スキルはなんだ?』
本体そのものが硬くて、生半可な攻撃じゃダメージが通らない。
しかも相手は呪いを振りまいて全体に継続ダメージを負わせるという最低最悪の害悪行動をしてくる。
闇さんは腕を組み、眉間に皺を寄せて険しい表情で勝てるかと呟いている。
精霊王は残ったスキルを確認してきた。
「身代わりという防御スキルで、ダメージを別の物に肩代わりさせるスキルです」
なので、アジダハーカのスキルの中で俺が個人的に一番厄介だと思うスキルを言う。
害悪行動に拍車をかけさせるのがこの身代わりというスキル。
「アジダハーカは単体では行動しません。眷属という取り巻きを召喚して周囲を固めさせます」
『だが、必ず倒す必要はないのであろう?ある程度倒しアジダハーカ本体への道さえ確保できれば』
「確かに、それだけならまだ何とかなるんですよ。アミナの歌で眷属だけを呼び寄せて引きはがしたり、他にも挑発系のスキルを駆使すれば戦わず引きはがすことは可能なんですけど、この眷属を放置できないのは身代わりの対象がこの眷属だということ。アジダハーカに与えるダメージを全て眷属が肩代わりしちゃうんですよ」
『なん、だと』
闇さんが愕然とするのも無理はない。
グランドクエストで南大陸のラスボスであるアジダハーカを含め、残りの大陸の同格のクエストモンスターたちも害悪であるが、こと生き残ることにかけての能力の高さで言うのであれば、アジダハーカがダントツで高い。
『すなわち、すべての眷属を倒してからではないとろくにダメージが入らないということか』
「その口ぶりですと、精霊王ご自身はアジダハーカと戦ったことがないと?」
『ああ、戦ったのは先々代精霊王だ』
プレイヤーたちからもその性能に関して言えば不評であった。
あまりにも倒すのに手間がかかると。
『もう数千年かそれ以上前だ。当時を生きた精霊はもうほとんど残っていないが、記録を残している精霊のおかげで我もその存在を知っていた』
「そう言うことですか」
そして、手間がかかるというのであれば、より効率的に倒す方法を模索するのがゲーマーという物だ。
「当時はどうやって倒したのですか?」
『神々が選定し遣わされた使徒と協力して倒したと聞いている』
「まさに、今のようにという感じですか」
『ああ、そう言うことだ』
「俺の知っている情報との誤差を知りたいので、その記録を見ることってできます?」
『許可しよう。あとで記録の間に連れていく』
「ありがとうございます」
神の神託でも聞いたネットスラング、美味しい蒲焼はこの試行錯誤の結果から生み出された物だ。
「話をまとめます。とりあえず、俺たちはアジダハーカと戦うことを想定します。なのでまずは倒し方ですが」
一定のレベル、そして一定の装備、さらに一定の行動ができるようになれば、後は簡単に倒せるように試行錯誤を繰り返し、攻略手順を構築する。
それが効率化だ。
アジダハーカもその効率化を追求するゲーマーの執念を適用された存在だ。
「手順としては単純です。眷属を殲滅し身代わりを使えないようにして、メタルスケイルが発動していない間にハイリジェネの回復を上回るダメージを重ね、命を削り切るそれだけです」
『簡単に言うが、無防備に攻撃を受け続けてくれるわけではないだろう?相手も抵抗し、攻撃も仕掛けてくる。呪い攻撃をどうにかできるというのなら話は別だが』
一見すれば、弱点が無いように見えるアジダハーカだが、弱点がないわけではない。
そもそもの話、呪いというかデバフというスキルは全般的に耐性スキルがあれば無効化できる。
「できますよ、呪いの無効化」
ただし、相手は完全に格上。
生半可な防具やスキル単体では無効化できない。
相手はパッシブスキルで強化しているうえに、ステータスがけた違いに高い。
しかし、高難易度というだけで無理というわけではない。
「そしておあつらえ向きの素材にも心当たりがあります」
運がいいのか、悪いのか。
俯瞰してみれば、明らかにトラブルにトラブルが重なっているから不運としか言いようがないが、不幸中の幸いとポジティブに捉えておこう。
『そんな都合のいい素材は精霊界には・・・・・』
「精霊界にはいませんよ。いるのは精霊界の外、俺たちが精霊界に逃げ込むきっかけとなったモンスター」
『まさか!?』
「はい、脅威の耐性を持つモンスター、ジェリークラウドレイニー、通称レイニーデビル」
これもネルが引っ張ってきた因果か、それとも転生者のお約束のトラブルか。
どっちでもいい、勝つための手段が転がっているのならそれをつかみ取る努力をするしかない。
闇さんが驚き、精霊王はなるほどとうなずく。
「そいつを倒して、耐呪い装備を作ります」
クラス9のモンスターを倒すためにクラス8のモンスターを倒す。
クラス4の人間が言うようなセリフではないが、それでも可能性があるとすればこの巡り合わせを最大限活かす他ない。
ワールドモンスターは一度移動すれば、次に会える可能性は低い。
その確率に賭けるくらいなら今、この時に倒すしかない。
『倒せるのか?』
「方法はあります。ただ、協力していただきたいことがあります」
『言ってみるといい。できるかどうかは判断するが、できうる限りは協力しよう』
のんびりと気軽にするレベリングはここで終了。
ここから先はガチでのレベリングモードに突入する。
見せてやる。効率厨になったゲーマーの本気って言うやつを。
「では、遠慮なく」
流石の俺でもまだ死にたくはない。
まだまだやりたいこともたくさんあるんだ。
ポケットからメモ用紙を取り出して、鉛筆のようなもので一気に必要な物を書き出し始める。
鍛冶師、細工師、裁縫職人、錬金術師と職人のリストを作り、さらにその職人に作ってほしい装備をリストアップ。
そしてさらに、素材採取のために必要な手順を詳細に書き込んでいく。
誰がやっても、同じような結果を出せるように、効率的にダンジョンを攻略し素材を最短で集められるように。
人海戦術で素材を集め、職人集団でメタ装備を作り、さらに上級のダンジョンを攻略して上級の素材を手に入れ、その素材でメタ装備を作ってという効率化を図るためのロードマップ。
「ひとまずこれを」
『ひとまずという量ではないな』
全力でリストアップした結果、メモ用紙にびっしりと書き込んだ内容を見て苦笑気味に精霊王は受け取った。
「ひとまずですよ。何せこのロードマップのゴールは」
ゲーマーの原動力は、何が何でも攻略してやろうという熱意だ。
その熱意に燃料を投下してゲーマーの魂に火の点いた今の俺は、固く握りこぶしを作り精霊王に宣言した。
「アジダハーカ完全攻略ですから」
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