19 攻略手順
「なかなか手ごたえがありました」
「・・・・・手ごたえがあったじゃないですよ!なんで持久戦に持ち込んでいるんですか!?というか、なんで勝てるんですか?普通は勝てませんよ、普通は」
俺はクローディアというキャラを勘違いしていたかもしれない。
ティア1に選出されるほど優秀なアタッカー兼ヒーラーである彼女。
FBO時代にNPCの彼女には散々お世話になったことから、その性能はお墨付き。
そんな彼女に向けてちょっとした出来心で、低レベル撃破のノウハウを教えてしまったのが運の尽きか。
ミスリルナイトゴーレムを撃破し、そしてダンジョン内で一晩キャンプして休んでからダマスカスゴーレムのダンジョンに挑んだのは良い判断だった。
黒色の波打つ様な特殊な文様が全身に浮き出た鋼の巨人。
今まで戦ってきたゴーレムとは比べ物にならないほどの強度を持つモンスター、ダマスカスゴーレム。
クラス5のモンスターと言うことで、沼竜と同格のモンスターとの戦闘に俺たちも緊張感をもってこのダンジョンに挑むことにしていた。
幸いにしてこのダンジョンのモンスターの数はそこまで多くない上に、クラス5のダンジョンにしてはダンジョンの面積もそこまで広くはない。
展開パターンから、ダンジョンの道筋も頭の中に入っているから、迷う心配もない。
問題なのは、やってしまいましたと笑顔で首を可愛くかしげるクローディアだ。
「アクセサリー使ってくださいって言いましたよね?」
「消耗品なのでもったいないかなと」
「……デバフアイテム使ってくださいと言いましたよね?」
「アミナさんのバフと私のデバフだけでダメージが通りましたので行けるかなと」
うつぶせに突っ伏し、徐々に黒い灰になっている巨大なフルアーマーダマスカスゴーレムを見れば倒していることは明白、ただそれを討伐するのに三時間もかけてまで倒す必要があったかという話だ。
こうなった原因はなんとなくわかる。
昨日ミスリルナイトゴーレムを倒したが時間が掛かったことで、クローディアの疲労に配慮して一晩休むことにした。夜のミーティングで次のダンジョンのボスであるフルアーマーダマスカスゴーレムを倒すための手順を説明した際に、彼女はやたら熱心に俺に質問していた。
敵の行動パターンから、攻撃スキルの詳細、さらには弱点部位と色々と聞いてきていた。
俺も安全な攻略のためにその質問に逐一答えていったから、少し寝るのが遅くなったくらいだ。
しかし翌朝は問題なく起きれて、体調も万全。そして今日中に天拳のスキルを獲得しようと行動を開始した。
道中は何ら問題なく、進むことができた。
ダマスカスゴーレムの耐久値は確かに高いし、その重量も相まって攻撃力も高い。
パワーアーマーという吹き飛ばしに対しての耐性をもつ性質もあって、物理攻撃では相打ちで反撃されてしまうと被弾率も上がってしまう。
しかし、こっちには魔法使いのエスメラルダ嬢もいれば、ヘイトダウンを覚えて注目を浴びなくなった俺がゴーレムコアに心臓打ちをぶちかまして一撃で倒すという方法もある。
基本的には俺とエスメラルダ嬢の二軸で攻略していった。
クラス5のモンスターと言えど、攻略手順を踏めば危険を冒さず討伐はできる。
それは沼竜で証明している通りで、ゴーレム系にもしっかりと攻略手順というものが各々存在する。
基本的に鈍足であるのと、関節部位が比較的脆いということでそこら辺を重点的に攻撃してさらに動きを遅くすることができる上に、関節を壊してしまえば自重で損壊してそこから先が動かなくなるのだ。
そうやって行動制限して、ゴーレムコアを集中攻撃すれば物理でも倒し切ることはできる。
しかしそれだと時間がかかるので、俺のような防御無視攻撃とエスメラルダ嬢のような魔法スキルを使うのが定石。
あくまで物理でも倒せますよという理屈でしかない。
そんな感じでボスの居るエリアまで向かい、そしてボス戦はクローディアの主戦場となるはずだったのだが・・・・・
「このあと天空石のゴーレムと戦うって言うのに、その前に疲れてどうするんですか」
「殴りがいのある敵がいたら真っ向勝負で倒したくありませんか?」
「いや、まぁ、理解もしますし納得もできますけど・・・・・」
しかしまさか、クローディアがゲーマーの中でもガチ勢がやるようなやり込み勢の性質を持っているとは思わなかった。
クローディアがやったことは、当初予定していたアイテムを駆使して相手を弱体化させるような戦いではなく、正面からの真っ向勝負。
アミナの歌でバフがかかり、そしてなおかつ惹きつけ効果で注目を分散させてもなお、ヘイトを稼ぎ続けるほどの猛攻をクローディアはフルアーマーダマスカスゴーレムに対して敢行した。
思わずクエストを失敗するのも良しとして戦いに割り込もうとしたが、一見無謀に見えるような戦い方であっても俺の目には、完全に計算しつくされたような動きでフルアーマーダマスカスゴーレムを翻弄し続けているように見えたから、横から手を出せなかった。
外部装甲を崩さないと決定的なダメージを通せないが、関節部位だけはある程度露出している。
そこに魔力で強化した貫手を通して、徐々に歪ませ動きを鈍くさせる。
その動きは、俺の知るベテランゲーマーたちの洗練された闘い方を彷彿とさせる。
『マジか』
とその動きを見て思わず唖然としてしまった。
外部装甲の一部が開放され、そこから放出される魔法攻撃も、予見したというよりは最初から秒単位で攻略手順を計画しあらかじめこう回避すると決めていたかのような動きによる最小限の労力で受け流し、そして再び関節攻撃へ移行する。
この人、敵にチーターが現れたら嬉々として、殴り続けても絶対に死なないんですね!!でしたらコンボの練習台になってください!!って感じで削りきれないことをいいことに、時間制限目一杯使ってHPを削り続けてチーターに勝つタイプの人だとこの瞬間に確信した。
レベルが高くなろうが、ステータスで補強しようが、本来であれば金属の塊を素手で削り倒そうということ自体が馬鹿げている。
しかし現実では、クローディアが殴りつければそこから火花が散り、そして関節が徐々に削れ、動きが鈍くなるボスの姿があった。
その動きは洗練されていて、無駄なく命を削るベテランプレイヤーたちの動きとダブる。
「私、ダマスカス鋼が素手で砕ける物だと初めて知りましたわ」
「私も、初めて知ったわ」
「僕も」
「無知であったと、今自覚しました」
「いや、クローディアさんが凄いだけで、普通はこんなことできないからね?」
その結末が、強化アクセサリー無し、デバフアイテム無しで、しかも武器なしの素手によるフルアーマーダマスカスゴーレム討伐というとんでもない偉業として、彼女たちの常識という名の辞書に新たな一文を追加した。
冷静にツッコミを入れつつ、この後どうしようと悩む。
「ゲート出ましたね」
「出ちゃいましたねぇ」
時間が思ったよりもかかったこともあるが、この調子でクローディアを挑ませて良いものかと悩んでいる部分もある。
本来であれば、ボスを倒せば宝箱が出て脱出用の魔法陣が出るはずなのに、今回は宝箱は出ずゲートだけが出現した。
これすなわち、しっかりとユニークスキルを獲得するための条件を達成した証拠だ。
この後の戦いははっきりと言えば命懸けの激戦になる。
本来であれば完全武装でしっかりと準備して挑まないといけない敵だというのに、素手縛りで挑まねばならない。
フルアーマーダマスカスゴーレムを完封して見せた動きから察するに今の彼女の調子はいい。
かといって、さっきまで戦っていたゴーレムとこれから現れるゴーレムは別種族だと言っても過言でないほど強さが違う。
「では、早速行きましょう」
「一応、確認しておきますけどアイテム、使いますよね?」
「……」
「使いますよね?」
「最初は様子見と言うことで?」
「今使いましょう。大丈夫ですクローディアさんが節約してくれたので制限一切なしの状態で使っても問題ありませんので」
しかし、なぜか負ける気がしないのも事実。
なので俺はアイテムを使うことを条件にしてこの後の戦いに挑むことを許可した。
天空石のゴーレム。
正八面体の空色の水晶のような本体と三対のクリスタルの翼。
そして付随する二対のクリスタルの剛腕。
こいつに限って言えば、数多のガチ勢プレイヤーであっても低レベル及び素手で攻略できた例は、両手で数えられる程度しかない。
まぁ、その低レベルって言う部分は今の俺たちよりもクラスが2つほど低い状態を指すのだが。とある猛者はクラス1のレベル1で挑み三日三晩かけてプレイヤースキルだけで倒そうとした。
結果だけで言えば素手ではできなかった。
しかし、ダメージを通せるナイフを一本携え、そしてスキルも空歩だけ装備して再戦したら最低レベルで攻略はできた。
ただし、そのプレイヤーが世界でもトップクラスの腕を持つガチ廃人であるからできたこと。
この戦いで、クローディアにその手の廃プレイヤーに共通の匂いを感じつつあるがゆえに、彼女の不満顔を差し置いてせっせと補助アクセサリーとアイテムでバフをかけていく。
「あとは相手にデバフをかければ、勝てるとは思いますんで。行動パターンは頭に入ってますよね?」
「ええ、問題なく」
念には念をと、不満はあるかもしれないが命にかかわることなのでと言えばクローディアは納得し理解も示してくれる。
昨夜のうちに、フルアーマーダマスカスゴーレムと天空石のゴーレムの行動パターンと攻略法は伝えてある。
というか、この二体の詳細情報を伝えていたから寝るのが遅くなったと言っても過言ではない。
「まずは叩き落とすことに集中してください。そうじゃないと高度を取られてまず勝ち目が無くなります」
「わかっていますよ」
飛翔型のゴーレム種。
地を歩くだけがゴーレムではないと言わんばかりにクラス6になっていきなり現れるゴーレムだ。
おまけに遠距離攻撃も持っているからまず真っ先に飛翔ユニットである翼をもぎ取らないと勝ち目がない。
このクエストで武器は禁止だが、防具に関しては一切妥協はしていない。
遠距離攻撃である魔法攻撃の威力を減衰させるためのサンライトシリーズ。
そしてダメージさえ受けなければいいのだからそれ以外の補助アクセサリーも消耗アイテムも妥協していない。
本来であればもうちょっと消費しているはずなのに、クローディアが使わなかった所為でアクセサリーもアイテムも使い放題の本当に万全の状態で挑めてしまう。
その点に関して言えば、クローディアの行動には感謝するしかないけど・・・・・
「それなら結構です。この後は俺たちはアミナの護衛にかかりっきりになりますんで。危なくなったら助けに入りますけど」
「ええ、それはお願いします。ですが」
使えるアイテムの数が多ければ多いほど、戦いは楽になるからな。
「その心配を杞憂にしてみせますよ」
そして、この男前の発言。
キリっとした顔で言われると、ついさっきまでのバトルジャンキーだった印象が薄れるから不思議だ。
「そうしてくれると助かりますね」
そのまま全員でゲートを潜り抜ける。
「風が」
「ここ、なに?」
そしてアイテムの使用を確認し終えゲートを潜り抜けると突風が吹き付ける。
辺りを見回すと、さっきまで戦っていた洞窟の中とは打って変わり雲一つない青空が見える。
俺たちが通ったゲートは消え去り、ここを出るためにはここに現れるボスを倒すしかない。
野球場ほどの広さを持った広場。
遮蔽物無し、外壁無し、切り立った巨大な岩山の頂上に作られたボスエリア。
「ここが戦場だ。下手に縁に近づくなよ。落ちたら最後戻ってこれない急斜面が待ってるから」
「「「・・・・・」」」
あまりにも高度の高いエリアに生唾を飲む音が聞こえたが、俺はそれよりも空を見上げる。
「さて、ボスのお出ましだ」
空からゆっくりと下りてくる物体。
光を反射し、青く輝くその体が徐々にはっきりと見えてくる。
正八面体のクリスタルを中核にして接触していないのにも関わらずクリスタルの翼で空を飛ぶゴーレム。
天空石のゴーレムが俺たちの目の前に現れる。
その巨大な剛腕で手を打ち鳴らし開戦の合図を知らせると同時。
「参ります」
クローディアが弾丸のように前に飛び出すのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。




