13 苦労の省略
前話を読みなおしまして、少し口が悪いと思いましてネタ方向に修正しました。
「まぁ、無事かどうかはともかくとして、招福招来を手に入れてネルも晴れてユニークホルダーになりました!!皆拍手!!」
なんていうか、ネルという少女が原作にいない理由に触れて、さあここからはシリアスモードになるかと思いきや。
「おめでとうネル!!」
「おめでとうございますネル様」
「いつかは伝説のスキルを獲得する日を見れるとは思っていましたが、本当にできてしまいましたわ」
「それがリベルタですから」
そんな悲愴な雰囲気は欠片も感じさせず、和気あいあいとお疲れさま会に興じている。
クローディア以外は果実水を手に夕食を摘まんでいる。
いや、まぁ、どんよりと暗い雰囲気でシリアスモードに入るよりもいいけど、皆さん気楽に過ごしすぎじゃありませんかね?
「そうね、リベルタだから」
いや、ネルさん。
今日は少し距離感が近くありませんか?
あなたの問題には対応できる自信があるんで問題はないんですけど、さっきからご機嫌だと示すように尻尾が振られているんですが。
「まぁ、今回はだいぶ楽できたし。明日はイングリットのユニークスキルを取りに行くぞ」
「パーフェクトクリーンでしたか」
「そうそう。ダンジョンのモンスターを全滅させてクリアすると手に入るスキルだ」
「確か、五つほど攻略する必要があるとうかがっておりましたが、ダンジョンのモンスターは基本的に随時追加される仕様になっております。それを全滅させるとなると、この前倒したスターダストキャタピラーのようなダンジョンを対象にするということでしょうか?」
「その通り。あそこみたいにリポップしないダンジョンはいくつかある。パーフェクトメイドのジョブを持っている人物をパーティーに参加させた状態で連続五回、規定時間内に攻略すれば、最後のボス戦後に特殊宝箱が出現して手に入るって言う仕様だ」
そこには触れずに、明日イングリットのユニークスキルを取りに行くスケジュールを立てる。
スキルを取る当人であるイングリットが正面に立ち、質疑応答する形で明日の段取りの確認をする。
「規定時間というのはどういう物でしょうか?」
「合計五つのダンジョンを攻略するための制限時間だな。制限時間は72時間。その時間内に攻略する必要がある」
イングリットのクエストはなんていうか効率を優先させるような意識が垣間見える。
綺麗にするだけではだめ!的確に効率的に!という気迫を感じさせる。
「72時間・・・・・低位クラスのダンジョンでしたらそれも可能でしょうか?」
「そうは問屋が卸さないのがこのクエストのいやらしいところでね。ダンジョンの最低条件って言うのがあってクラス4以上が絶対条件なんだ」
だったらもう少し楽させろとは思うが、この世界の神様はそこら辺に妥協というのを知らないようで割と容赦ない条件を突き付けてきやがる。
「さらに言えば、これはダンジョン内の時間だけじゃなくて生活時間、要は飲食や睡眠の時間も込みの制限時間だ」
「生活込みでクラス4以上のダンジョンの攻略をしないといけないということですか」
これが本当のRTAってな…ってやかましいわ!!と誰にというわけではないがツッコミを入れつつ。
「普通に考えたら無理難題ですわ。クラス4以上のダンジョンを五つも三日で攻略、それもただ攻略するのではなくすべてのモンスターを倒さないといけないというのが足かせとなりますわ」
「えっと、僕が歌ってダンジョンのモンスターを全部呼び寄せる?」
「それができれば理想形ですが、それだと打ち漏らしの可能性が出てきます。やるのでしたら絶対に間違えない方法で倒す必要があります」
クラス4以上になるとそれ相応のダンジョンの広さを誇る。
普通にやったら間違いなく、攻略することは難しい。
「そこら辺は心配しなくていいよ。固定モンスターしかいなくて、しかも絶対に取りこぼしの無い方法で攻略出来るクラス4以上のダンジョンっていう都合のいいのがあるから」
そう、普通にやれば。
この方法は割と簡単な方法で見つけられたやつで、あれ?これでやればよくね?とプレイヤーが試した結果普通にできてしまった方法だ。
「それはどういうダンジョンでしょうか?」
「俗にいう、ボスラッシュ系ダンジョンだ」
「……?」
「あ、はい。説明させていただきます」
ゲーム時代にもボスを詰め合わせました!!っていう感じのボスラッシュ系のダンジョンというのが存在していた。
「ボスラッシュって言うのは、文字通りボスと連戦できるダンジョンのことを指すんだよ。種類も豊富で、闘技場みたいなエリアで戦うから、遮蔽物もないし相手を見逃すことは絶対にない」
それだけ聞けばボスの素材集め放題!!と思うかもしれないがこのダンジョンの最大の欠点は鍵を入手する困難さだ。
入手方法は、三つ。
一つはイベントの際に手に入る交換アイテムとして手に入る物だ。
イベント時のみ使える貨幣を用いて交換する品目の中にある。
これは定期的に手に入るが、個数に限りがあって頻繁に使用できるものではない。
ボスラッシュ系のダンジョンの鍵は弱者の証や不壊のエンチャントができづらい仕様で、理論上はできるが確率は黄金の鍵とどっこいどっこいだ。
では他の二つはどうなのかと言えば。
二つ目は課金アイテム。そう、お金を払えば手に入るんですよね。
クラスごとで値段が異なるけど、安いのは五百円ほど、一番高い鍵だと千五百円ほどで買えて、FBO廃課金ユーザーたちはこれで素材周回をしていた。
俺?ボーナスを溶かしましたが何か?
そして三つ目は。
「クラス制限はかかるけど、泡沫のダンジョンでそのダンジョンを作り出すことができるんだよね」
この精霊界に来ることで、一定クラスまでだがボスラッシュダンジョンを作ることができる。
花冠のレシピが難しい上に、さらに泡のイメージも複雑ときた。
だけど作ることができるんだよね。
通常モンスターでしか手に入らない素材もあるから、ボスラッシュだけをやればいいってわけじゃないけど、スクロールとかを手に入れるのならボスラッシュダンジョンを攻略した方が効率的だ。
しかし、腐っても相手はボス。
危険度が高いから精霊たちにも作り方を教えていなかった。
「ボスとはどれほどの強さになるのですか?」
「最低でもクラス4のダンジョンのボスラッシュとなると、ビッグマッシュルームくらいの強さのボスが合計5体連続で出て、最後はクラス5のボスが待ち受けているって言う感じですね」
正直、連戦でのボス戦は前までの装備だったら絶対にやりたくなかった。
沼竜の装備は優秀であり、尚且つEXBPで強化していてもだ。
「注意点として言うなら、このボスラッシュダンジョンのボスは通常のダンジョンのボスよりも強化されているんですよ」
「強化ですか、それは一体どれほど」
「従来比、二割増しくらいですね。ラスボスは五割増し。事実上クラス6ほどのステータスがあります」
だけどそれはこのダンジョンも一緒で、やり込み要素として用意されているからか、そこに出現するボスたちは通常ダンジョンに出現するボスよりも強化されている。
嬉々として挑んで行ったプレイヤーたちが、痛い目に遭うまでがFBOではおなじみの光景だ。
サンライトシルクで作った装備がない限りは最低クラスであってもボスラッシュは挑まないつもりだった。
「クラス6相手でも勝てるのでしょうか?」
「メタにメタ張って、安全かつ効率的に倒します。ついでにネルの招福招来を使ってドロップ品もいただきますよ」
装備が整い、そしてレベリングも最低限はできている。
そしてダンジョンを厳選すれば無難にこなすことはできる。
「闘技場なら相手の有利な空間ではないですけど、空を飛ぶ系統や地面に潜り込む系統のボスは避けて、正面から戦えなおかつデバフを振りまかない系統のボスを選びます。取り巻きの出現は必須になりますけど、それを殲滅してからの戦いになるので」
次々にボスの条件を絞り込んでいく。
というか、イングリットのスキルを獲得するためのボスラッシュ用のダンジョンは限られる。
このレベルで装備がこれならこのダンジョンという感じで、条件から選定すればおのずと絞られる。
「ダンジョンに踏み込んだ瞬間にタイマーがスタートするし、そのタイマーは途中で一体でもモンスターが残された状態でダンジョンが攻略されるか、同じ種類のダンジョンを攻略し始めるとリセットされるから」
「となると、本日行った黄金猫御殿はカウントされないということですね。では明日ダンジョンに踏み込んでから一気にやるという感じでしょうか?」
「初日は比較的簡単なボスラッシュダンジョンを三つ攻略って流れで、残り二日で少し面倒なダンジョンを二つ攻略という感じかな。ボスラッシュは集中力が重要だから、しっかりと休息をとって万全の状態で挑むって言う流れが一番大事。むしろ一週間くらいかけて全部のダンジョンに慣れてから挑むって感じかな」
ダンジョンに挑む際はぶっつけ本番のようなことはしない。
ボスラッシュダンジョンにはボスラッシュダンジョンの難しさがあるから、時間に追われ焦るよりは、何度も同じダンジョンに挑んで慣らしてから挑んだ方が安全だ。
時間はあるし、むしろボスラッシュダンジョンでスクロールを手に入れてスキル強化をしてから挑んだ方が確実だ。
まだ四人分のユニークスキルのクエストが待っている。
「ネルのユニークスキルクエストがかなり短縮できたのは助かる。ここは慎重に攻略するのがベスト」
作戦はガンガン行こうぜじゃなくて、命大事にで。
「リベルタ」
「なんだ?ネル」
「そんなに招福招来使って大丈夫?ほら、良いことが起きすぎるとその反動で悪いことが起きるって言ってたわよね?」
「あれか」
ボスラッシュダンジョンを攻略するにあたって、ネルの招福招来は使った方が絶対にいい。
だけど、ネルはそれを使うことによって反動で悪いことが起きるのではと不安に思っている。
その気持ちはわかるし、その可能性は高いと俺も思っているが。
「そこまで気にしなくてもいいと思う」
悪いことと一括りにしても、様々なことがある。
もし仮に招福招来を使い続けて蓄積しても、それで悪いことが起きるとは俺には思えない。
そうだとしたらあのジャックポットキャットはそういう風に言うはず。
だけどあいつは運命に抗い続けろと言った。
となれば、招福招来を使ったとしてもそこまで大差ないではないかと俺は考える。
「そう?」
「ああ、それに何かあったらその時に何とかすればいいさ」
本音を言うのなら、そんなことを一々考えてスキルの使用を躊躇ったら他のスキルも一切使えなくなってしまう。
それならいっそ開き直って色々と手に入れて強くなった方がいい。
そもそも招福招来自体がそこまで回数を使えるスキルではない。
出し惜しみすること自体が間違っている。
ネルの不安もわかるから、ちょうどいい位置に頭があるので少し強めに撫でておく。
大人の姿でやったらこれヤバイよなぁと思いつつ、そこでふと女性は髪の毛を触られるのが嫌だという事実を思い出してハッとなり、手を離す。
「え、もう終わり?」
「いや、女の子の髪に触るのってあんまりよくなかったなあと」
「別に、リベルタならいいわよ」
「あ、そうなの?」
「そうなの!」
「では、ネル様の次は私が」
「はい!次は僕!!」
「なんで列になってるの?」
「でしたら次は私が」
「エスメラルダさんまで!?」
そうやって少し騒がしくも、時間は過ぎ去っていくのであった。
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