24 幽霊ゴミ屋敷
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FBOには、えっ?こんなクエストもあるのか!と制作者の頭を疑うようなクエストがある。
南の大陸の首都レンデルで有名な物と言えば、ゴミ屋敷クエストだ。
正式には、クレルモン伯爵の嘆きというクエスト名だけど、俺たちFBOプレイヤーはゴミ屋敷清掃クエストと呼んでいた。
なんでファンタジーなクエスト名をゴミ屋敷清掃なんて不名誉極まりない俗称で呼んでいるかというと、このクエストの会場であるこの首都レンデルの貴族街の一角にある屋敷が、ありとあらゆるゴミまみれの屋敷になっているからだ。
クエストの始まりはこうだ。
『貴族街の北にあるクレルモン伯爵の屋敷で当主だったクレルモン伯爵の幽霊を祓ってくれ』
冒険者ギルドにこんな依頼が入ってきたと、受付嬢から説明されてそれを受けたプレイヤーたちに待ち受けていたのはゴミ屋敷だった。
多額の報酬に目がくらんだプレイヤーたちの嫌悪感を刺激するほどの汚屋敷。
俺も初めて見たときはゲーム内だというのに鳥肌が立ったよ。
「あそこは人が行く場所じゃねぇ。ゴミもそうだが、除霊しようにも、クレルモン伯爵の幽霊はゴミの中に隠れて見つけられねぇし。隠れながらする攻撃手段は汚物と化したゴミだから誰もやりたがらねぇし、ぶつけられたやつは三日三晩高熱でうなされた。屋敷ごと燃やそうと考えた奴もいたみたいだが、あそこであの量のごみが燃えると周りの屋敷にも飛び火して最悪王都全体の大火事になるってことでそれもできてねぇ」
その悪名はこの世界でも轟いているようで、デントさんも酒がまずいと害した気分を少しでも和らげるように片手に持った酒をあおった。
ここまで聞いてまだ伯爵のクエストは攻略されていないのがわかった。
ひとまずは安心。
そんなものはないと言われたら、ちょっとどころかだいぶ予定を変更することになるからな。
不幸中の幸いか、ゲーム時代から伝わる悪名ゆえにこのクエストは高難易度クエストと認定されているようだ。
これはますますどうにかして道を聞かねば。
冒険者ギルドから払われる報酬は正直どうでもいい。
欲しいのは屋敷の中にあるアイテムだ。
クレルモン伯爵は収集癖のある貴族という設定でそれはとあるお宝を手にしてから始まった。
しかし、お宝を見る目がなく幾多の商人に騙されお宝というガラクタを購入し続け破産。
けれども、そこで素直に成仏せず、まだ集めないといけないという強迫観念が伯爵を悪霊と化し今もなおお宝もゴミも関係なく収集し続けているという。
「だからな坊主、お前のような子供が近づく場所じゃねぇんだ。宝探しなら今度俺が外で適当な遺跡に連れてってやるから我慢して家に帰りな」
「はい、そうします」
ここでデントさんに粘って場所を聞いても教えてくれないだろ。
なら、ここは素直に聞いたつもりで一度撤退、時間をおいてここから探した方が賢明か。
「おい待て」
「ぐぇ」
踵を返し、元来た道を戻ろうとしたが襟首をつかまれて止められた。
「やけに素直に帰るじゃねぇか。女を買うことをあんなに慌てて訳を話してたというのに」
それがかえって怪しまれたか?
「いやだなぁ、デントさんの忠告を無視するほど俺もバカじゃないですよ?」
「そうだよなぁ、だけどな普通の冒険者のガキどもは俺たちは大丈夫だって過信して俺たちに食って掛かるもんだ。だけどお前は、違う。さっさと帰ろうとして、出直そうとした。オラ、吐け。お前、いったい何を隠してやがる?」
うん、俺はただのガチプレイヤーであって役者じゃない。
誰かをだますということはできないし、そもそも向いていない。
「商売のタネをタダで教えるって冒険者の間でもやったりすることなんですかね?」
「ああー、そういうこと言うか。いっちょまえにそういうこと言うかね」
なのでどうせならデントさんというベテランの冒険者を引き込む方向にシフトチェンジした方がいい。
「言いますよ、子供でも明日のご飯がかかってるんですから。ただで教えてお腹すいたとかシャレになりませんって」
「そりゃそうだ。俺でもふざけるなって怒るわ。で?」
「で?とは?」
「とぼけんな。お前の話しぶりからして、俺を巻き込もうって魂胆だろ」
歓楽街の入り口付近は少し目がある。
子供の襟首掴む冒険者という光景も醜聞になる。
「聞きます?俺のもうけ話?」
「ただじゃねぇんだろ?」
「ええ、ひとまず離れません?結構目立ってますし」
「……それもそうだな」
実際娼婦っぽい女性から結構険しい目でデントさんは見られている。
これ以上乱暴っぽいことをしたら人を呼ばれそう。
それを感じ取ったデントさんは面倒だがと言って俺の襟を離して、先に歩き出す。
「俺の行きつけでいいか?」
「子供は入れます?」
「入れる」
「変な店じゃないですよね?」
「疑り深いな……安心しろ、冒険者は信用第一だ」
ジンクさんが信用している冒険者なのでその言葉を信じて後をついていけば。
「デント!!あんたついに結婚したんかい!?いつのまに!?」
「ちげぇよ!!俺のガキじゃねぇ!!」
「なんだい、やっと身を固める気になったとあたしは思ったのにねぇ」
恰幅のいいおばちゃんがいる店に連れてこられた。
「なんだよその目」
「いや、てっきり酒場にでも連れていかれるかなって」
「ガキを連れて入ったら俺はいい笑いもんだよ」
そこは洒落た喫茶店のような雰囲気で、北区の中でも少し落ち着いた雰囲気の店だった。
俺が意外だという視線を向けていたのがわかったのか、デントさんが少し不満顔で悪いかと聞いてきたから俺は首を振って意外だと伝えた。
「ったく、一番奥の席を借りるぜ」
「いいけど、あんた、ついに男の子に」
「手なんてださねぇよ!!俺はこっちが山盛りじゃないと興奮しないんだよ!!」
そのやり取りに俺とデントさんが知らない仲ではないと察した女将さんはまさかと疑いの目を向けてきたが、デントさんが大声で否定して手で胸元に山を作るようなジェスチャーをした。
「それなら安心だよ。あとはあんたもいい年なんだから結婚しなよ」
「余計な世話だ!!」
随分と気安い会話をしているな。
そこまで常連なのだろうか?
「何するんだい?エールは夜からしか出さないよ」
とりあえず一番奥の席に案内されて、注文を聞かれる。
「俺はこれがあるから、こいつに果実水とあとは摘まみで木の実を出してくれ」
「持ち込みも本当はだめなんだけどね。まぁ、いいよ」
案内された席は店の角の席、普段だったらあまりいい場所じゃないけどちょっと秘密の会話をするには都合のいい感じの配置。
女将さんが注文通り果実水と木の実を持ってきたのを確認したデントさんはズイッと身を乗り出す。
「それじゃ、話してもらおうか」
「まぁ、いいですけど」
儲け話を嗅ぎつけたデントさんの顔は真剣そのもの。
「話す前にいくつか約束しません?話した後に抜け駆けされたら俺もシャレになりませんし」
「……ま、いいけどよ」
クレルモン伯爵の嘆きについて語るのは問題はない。
だけど、それで抜け駆けされて欲しい物が手に入らなかったらシャレにならないからな。
「一つ目はあの屋敷をどうやって攻略するかの方法に関してですが、これは当日に伝えることです」
「……それで俺に信用しろっていうのか?それは都合がよすぎるぞ」
だからこそ、ここで最重要な部分はギリギリまで言わないと約束させる。
普通なら方法はある。
だけど、今は言えないなんて詐欺の定型文みたいな言い回しだ。
「俺も、デントさんもたった一回一緒に出掛けただけの仲ですよね。ジンクさんのことは信用してますからデントさんもある程度信用しています。ですけど、それとこれは話は別です。こっちとしてはデントさんが協力してくれれば楽になるだけで、苦労はするけど攻略はできるんです。無理して話す必要もないんですよ」
しかし、ここの部分だけは絶対に譲れない。
このクエスト、ゲーム時代では推奨レベルがクラス4/レベル80と中級者の入門編みたいな感じで表記されているが、一定の方法を使うと嵌め殺しができて俺たちみたいなレベル無しでも簡単に攻略で来てしまう上に、用意するアイテムもそこまで高価な物ではないというお墨付き。
それなのに、報酬がかなりうまいという、美味しいクエスト。
この一線だけは絶対に死守しないといけないのだ。
だからこその強気。
「……」
「……」
あくまでデントさんは、こっちのクエストに協力するという立場だ。
俺の提案が嫌なら自力で攻略すればいい。
こっちはキーアイテムは揃っているんだ。
何とでもなる。
「……はぁ、わかった。じゃぁ、話せるところだけで判断するわ。少しでもきな臭いと思ったら俺は手を引くぞ」
「それでいいです」
その態度で俺が絶対に言わないとわかったデントさんが引いてくれた。
「じゃぁ、まずは報酬の話をしましょう」
「そうだな、取り分的に俺とお前たちで山分けって感じか?」
正直、まずは話を聞くと冷静に大人な対応をしてくれるデントさんはありがたい。
「いえ、少し特殊な分配になりますけど、今回のクエスト、ギルドから発行されている依頼報酬はデントさんの総取りでかまいません」
「おいおいおい、ちょっと待てよ」
だからこそ、ここで一歩俺が引く。
ギルドの発行している依頼額が、俺が知っているゲームの額と一緒なら。
成功報酬は二十万ゼニだ。
さらに、屋敷の中に眠っている宝を無事回収でき依頼主に渡せば追加で三十万ゼニ。
合計五十万ゼニという大金が払われる約束になっている。
俺は両方とれる自信がある。
そして俺が手に入る物を考えると、そこはデントさんに譲渡しても構わないと思っている。
「まさかお前、俺を盾にしようって魂胆じゃないだろうな」
「そんなことをしたら俺がジンクさんに殺されます」
美味しい話には裏がある。
それはこの世界でも共通の話で、デントさんも多額の報酬分配に疑ってくる。
「報酬の分配をすべてデントさんに譲る代わりに俺は屋敷の中にある物の中からいくつか欲しい物があるんです。それを確実に譲ってほしいんです」
ゴミ屋敷クエスト中はクレルモン伯爵の幽霊と戦いながら屋敷内を探索することができる。
一見すればすべてゴミ。
だけど、下手な鉄砲数撃てば当たるとはよく言ったもので。
そのゴミの中には数少ないけど、かなり有用なアイテムが眠っていたりもする。
「もともと、依頼書の中にゴミの処理も含まれていると思うんで、その時に屋敷の中の物を回収しても問題ないはずです。それは構わないでしょ?」
「……その欲しい物を言うつもりは?」
「今はないです」
デントさんは俺のことを物の価値のわからない子供とは思っていない。
だからこそ五十万ゼニという大金を放棄しても欲しい物が眠っているという言葉に魅力を感じている。
「今はないってことは当日には言うつもりがあるってことか?」
「はい、ない可能性もありますし、それにどっちにしろ幽霊を討伐した後にゆっくりと探すつもりなんで」
かなり無茶な交渉だ。
だけど、これを無視してデントさんの頭の中で幽霊屋敷を攻略する算段もないようだ。
酒を一口、そこから顎を撫でるように悩み始める。
「……自信があるんだな?」
「あります」
時間にして数分。
悩みに悩んだ結果、前向きには検討してくれるようだ。
「だがなぁ、仮にも貴族の屋敷だぜ?今はゴミ屋敷でもその中にお宝が眠っているのは誰でもわかる。それをいくら大金とはいえ無制限に譲れっていうのは」
「ギルドに依頼成功報酬に評価も上がるっていう成果もあるじゃないですか」
「評価が上がるっていうのも考えものなんだぜ?今回の成功で、俺に任せればおんなじことができるかもって思って指名依頼を出してくる可能性がある。厄介ごとが来ることを考えればそれもリスクだ」
しかし、報酬の分配に関して、金よりも価値のある物の方に興味が傾いている。
「そう考えると、そっちが欲しい物の全取りっていうのは割に合わないぜ?」
「……」
これはちょっと面倒だな。
頭の中にクレルモン伯爵の屋敷の中で手に入れることができるアイテムのリストをざっと思い出す。
その中で確実に必要なアイテムは三つ。
総数は十九。
内、十個は換金アイテムや金銭だ。
狙うは……
「それじゃぁ、優先権として十五個でどうでしょう?」
「多いな、五つだ」
良し、ひとまず最低ラインは突破。
「それだったら俺たちだけでやった方がいいですね。十三個」
「伯爵の屋敷に堂々と入るにはどうやっても依頼書がいる。受注できる俺を外すデメリットを考えろや。七つだ」
「でも、デントさんだけじゃできませんよね?十二個」
「さてな、いずれふとした拍子でできるようになるかもしれんぜ?八つ」
「その前に攻略しますよ。十個」
「あんなところ子供がウロチョロすれば一発で目立つ、それに俺はお前が探している場所に心当たりもあるしな。九つだ」
慎重な交渉。
ここにネルがいればもっとうまく交渉できるかもしれない。
だけど、俺としては及第点のラインまでこれた。
「じゃぁ、今度また護衛の依頼をするのでその時無料で護衛してください。ついでに信頼できる人も二人ほど紹介してください。それで九個で手を打ちましょう。嫌なら、十個です」
「……厄介な場所じゃないだろうな?」
「初心者向きの場所ですよ。狸のいる森の少し入ったところです」
「ああ、あそこか。ならいいぜ。今回で懐は温かくなるだろうしな。じゃぁ優先権九つで」
ここいらが落としどころ、俺はデントさんと握手をして報酬の分配を了承。
そこから今後の予定を詰めるのであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




