7 太陽の衣装
サンライトシルク。
これはFBOでは上級者に仲間入りする段階で手に入るような代物だ。
エンチャントのかけ方次第では最終戦まで使用できるほどの高性能素材。
同じクラスの鎧と比べると些か防御力が劣るが、こと耐性面で言うのなら破格の性能と言っていい。
まず、全属性に30パーセントの耐性。
この時点ですべての属性攻撃に対して三割もダメージをカットできる。
次に状態異常耐性が40パーセントもついている。
毒や眠り、さらには呪いにデバフ系にも耐性を付けられる段階で弱いとは口が裂けても言えない。
広範囲に満遍なく、それゆえに完全耐性というわけにはいかないが基礎スペックでこの性能。
物理ダメージ防御力は沼竜装備の+100程度と布系なら破格と言っていい防御力。
魔法ダメージ防御力はクラス7の装備の中でも中の上くらいに位置する。
さらにこの布はクラス7の素材と言うことで、この素材で装備を作ればエンチャントが最大七つ付与できる。
少なくとも今の俺たちが持っていい装備ではない。
「見て見てリベルタ君!!すっごい!!綺麗!!」
「ああ、確かに綺麗だな」
「!えへへへ、でしょう?」
いま、アミナが着ているのはそのサンライトシルクを使った舞台衣装。
動きやすさを優先して、スカートの丈は膝上と短め。中身が見えないようにショートパンツを履かせ、上の部分は俺の現代でのアイドル衣装の記憶を参考に、学生服をアレンジしたようなものに仕上げた。
アイドル衣装といっても、その中身は戦闘でも使えるようにエンチャントも施してあるから実質戦闘服だと言ってもいい。
白をベースに所々に赤い刺繍を施し、オレンジ色や黄色など暖色でまとめたアミナの勝負服。
少し大人の雰囲気を出しつつ可愛らしさを押したデザインに仕上がったその衣装の名は。
〝サンライトライブドレス〟
彼女の戦闘スタイルに合わせてエンチャントしたときの完成品を命名した精霊たちのネーミングセンスに俺は笑うしかなかった。
エンチャントするにはスキルスクロールや、その効果を持つモンスターの素材などがいる。
俺は精霊たちのライブにかける熱量を甘く見ていた。
「歌唱系スキル効果60パーセント上昇、踊り系スキル効果35パーセント上昇、バフ効果30パーセント上昇、物理防御25パーセント上昇、魔法防御力25パーセント上昇、常時リジェネ効果5パーセント、魔力自然回復50パーセント上昇・・・・・これ公爵閣下にお見せしたら気絶されるんじゃないか?」
俺が欲しい素材リストの中には当然だが、このサンライトシリーズを作った際のエンチャントに必要な素材もリストアップしている。
「いいえ、リベルタ。気絶することはありませんわ。代わりに何が何でも作ってもらおうとするでしょうね」
「そうですよねぇ。いやぁ自重を捨てすぎました」
「その割には、後悔しているようには見えませんわね」
最低限のエンチャント素材から、これができれば理想というような素材までピックアップした。
エスメラルダ嬢もその素材によってエンチャントを施された装備を身に纏っている。
片足をスリットで大胆に出したドレス。
この世界の貴族の女性として見るのならありえないと言えるようなデザインだが、ドラムをたたくにはどうしても足を自由に動かすための可動領域が必要になる。
一回パンツスタイルというのも考えたが、それだとなんだからしくないという俺と三姉妹の意見を吟味した結果生まれたのがこのスリットドレスタイプの衣装と言うことになる。
可動領域のことを考え、さらに動き回れるようにも配慮した俺たちの自信作。
サンライトシルクの白色をベースに、エスメラルダ嬢の色合いは黄色と水色をイメージ色に組み込んだ魔法使い向け特化の装備。
「ここまで来て自重して手を抜いたら素材を集めてくれた精霊たちに顔向けできませんし、何より俺が自分を許せませんので」
「なるほど。そう言うことですのね」
「ちなみに、そのドレスの着心地はいかがです?」
「全身を国宝級の装備で固めるという変な緊張感がありますわね。驚くほど体に合っている上に布の感触も素晴らしいこの装備に文句などありませんわ。ただこの装備の価値を正確に把握しているわけではありませんが、それでもこの装備が我が国のどの装備よりも価値があるのは分かりますので、その点で緊張感があるということですわ」
「物理と魔法防御上昇は全員共通にして、魔力自然回復50パーセント上昇はアミナと一緒です。けどそこからは完全に魔法使い仕様ですね。魔法スキル攻撃力30パーセント上昇、魔法スキル使用魔力量25パーセント減少、魔力総量上昇20パーセント上昇、オートマジックシールド付与、うん、我ながらいい仕事をしました」
「リベルタが自重しなくなるとこうなるということを、まさかこういう形で実感するとは思いませんでしたわ」
「最高でしょ?」
「ええ、伝説と向き合っていると思えば最高ですわね」
俺たちの装備を強化するために用意してもらった素材。
それはダンジョン攻略の現場責任者である風の上位精霊には耳にタコができるほど安全第一を言い聞かせたうえで手に入れてもらっている。
俺たちの素材のために精霊たちが犠牲になるのは絶対にダメだと。
それなのにもかかわらず、精霊たちは俺がこの段階で手に入れられる最高の素材を用意してきた。
だからこそ、エスメラルダ嬢の笑顔も苦笑から、誇りに思うと胸を張る笑顔へと変わる。
本当にこの装備を作るのに必要な素材は手に入れるのが難しい素材ばかりだ。
ドロップ率が低い物や、宝箱からしか出てこないが確率が低い物、ダンジョンを何度も攻略して低確率でフィールドに出現する物。
それを俺が指定した数をこのたった一カ月で用意してくれた。
俺はそれに報いたい。
精霊たちの努力に、献身に、そして期待に。
だからこそ、俺は装備づくりに知識を惜しまなかった。
雷三姉妹と連日連夜デザイン案を出し合い。
闇さんとはエンチャントの手順の確認や、エンチャントの組み合わせを打ち合わせ。
そしてさらにライブで使う楽器の調整もした。
その結果生まれたアミナのライブドレスを含むパーティーメンバーの装備は、現段階でできる最高の仕上がりになったと自負している。
「それにしても、みんな統一感があっていいわね」
「まぁ、一つのグループって言うことで雷の三姉妹が統一感を出してくれたって感じだな」
そこでデザインに一つの共通点があることにネルが気付く。それはパーティー全員上着がブレザーのようになっていることだ。
多少デザインは違うものの、ベースになった部分は一緒。
ネルの衣装は前回の沼竜の装備のデザインが引き継がれ、ライダースーツをイメージした物になっているが、上着の部分はジャケットのような形になっている。
色も白をベースにしているのはみんな共通なんだが、ネルの場合はその赤い髪に合わせて様々な赤色が使われ綺麗なかっこよさを演出している。
この衣装でベースを持つと、将来女性を魅了するような女の子が爆誕する未来が見えた。
サイズに関してはさすが服飾に何百年と精霊生を賭けた雷三姉妹だけあって、一番体に密着するような形だというのに寸分たがわずフィットして動きに支障はなさそう。
「うん、とってもいいわ!」
「そいつは良かった。ネルの装備は前衛仕様ってことになっている。共通の物理と魔法防御上昇はマストとして、速度30パーセント上昇、物理攻撃スキルダメージ30パーセント上昇、状態異常耐性25パーセント上昇、常時リジェネ効果5パーセント、ヘイト上昇抑制30パーセントがついている」
ネルはうちのメインアタッカー。ヘイト抑制は絶対に必要だ。
攻撃力もうちのパーティーの中で一番高いからヘイトを買いやすい。
それを抑制するための素材を精霊たちが確保して来てくれたのは本当に感謝しかない。
ぴょんぴょんと跳ねたりするネルの動きを見つつ、問題はなさそうと言うことで右を見たらそこには自然に立つイングリットがいた。
「イングリットは、うん、メイドだな」
「はい、メイドでございます」
ドラゴンメイドから通常のメイドに戻ったイングリット。クラシカルメイドの格好になったが、それが逆に上品に見えてしまうから不思議だ。
白と少し落ち着きのある青と紺色で作られたクラシカルメイド服。
「サイズは問題なさそう?」
「はい、問題ございません。動きやすく着心地も良いです。エンチャントの効果のおかげで体も軽くこれでさらにリベルタ様のお役に立てると思います」
そんなイングリットの装備は、ネル、アミナ、エスメラルダ嬢の三人と比べると見た目は少し地味なのだが、中身は全然地味じゃない。
「物理と魔法防御上昇はいいとして、速度30パーセント上昇、魔法スキル使用魔力量25パーセント減少、生活スキル効果60パーセント上昇、常時リジェネ効果5パーセント、魔力自然回復50パーセント上昇がついたメイド服って存在しないよね」
「はい、おそらく王家に仕えるメイドであっても持っていないでしょう」
「持ってたらおかしいよな」
「はい、近衛兵の装備を上回るメイド服と言うことになりますので」
「イングリットみたいなメイドが王様を守った方が確実かぁ」
「そうなりますね」
うん、同じ素材を用意しているから自然とスキルの使い回しになるけど、こんなメイドがいたらかなりやばいよな。
魔法寄りのエンチャントになったけど、イングリットのスキル構成を考えたらこうなるのも仕方ない。
一瞬脳裏に、近衛兵が全員メイドになる光景を想像したのはここだけの話だ。
「・・・・・」
そして最後に見たのはクローディアだ。
これはなんというか。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、姐さんと呼びたいなぁと」
「止めてください」
和洋折衷といえばいいか、俺としてはなんとなくこれが出来たらカッコいいよなという理由で雷三姉妹に提出してそれが採用されてしまった。
有体に言えば合気道の袴姿と肩にかけるように装備するジャケット。
袴の色は紺色にした。
そしてジャケットの色も紺色にすることで凛々しさが増したと言っていい。
この姿ならサックスよりも尺八とかの方が似合うかもしれないけど、サックスでもかっこいいから無問題だ。
高身長にすらっと立つ姿勢の良さ、これぞカッコイイと言わしめるような立ち姿に思わず感嘆の声とともに姐さんと呼びたくなった。
「最初は修道服にしようと思ったんですけど、それだとなんか違うなぁと思いまして」
「このような姿になったと」
「ダメですか?」
「いえ、露出も少ないですし、動きやすくもあります。この肩にかけているジャケットがなぜ落ちないのかという不思議がありますが。縫い付けてあるかとも思いましたが取ろうと思うと普通に取れますし、邪魔な動きもしません。どういう仕組みになっているのでしょう?」
「ああ、そこは闇さんが頑張ってくれまして。普通に留め具を作らずに魔道具にして肩につけて綺麗に着脱できるようにしました」
「魔力を消費しているようには感じませんが」
「なんと驚異のエコ仕様、空気中の魔力を吸収して使っているので使用者の消費魔力はゼロです」
「……さすが長年生きた精霊と言うことですか」
「かっこよさにも対応してくれる精霊の、ロマンを理解してくれる心には尊敬の念しか浮かびませんよ」
そして見た目だけにこだわっているだけではない。
きちんとエンチャントにも全力でこだわり。
「エンチャントの内容も聞いていましたが、私にも彼女たちと同等の物が?」
「そうですね。ほぼほぼネルと同じような内容ですけど、違いはヘイト抑制の部分が回復スキル効果30パーセント上昇になってるくらいですね」
現段階で用意できる最高品質を用意させてもらいましたよ。
そこで差別をする気は一切ない。
そうやって女性陣の装備が無事に完成して満足していると。
「そういえばリベルタ君の装備は?」
「そうね、リベルタの格好はいつもの格好よね」
「もしかしてないんですの?」
「それはいけません」
「私たちの装備を優先してもしや、自分の分の素材を使い切ってしまったと?」
「いえ、普通にできてますけど、俺の装備なんて別にみる必要は」
まさかの俺の方に飛び火するのであった。
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