6 垣根を超えた連携
まさか読者さんにホ〇グレンの被害者がいるとは・・・・・
感想を読んですっごく懐かしい気分になりました。(笑)
さて、一日がかりのルナライトシルク製作作業で精魂尽き、神経を使い果たした俺たちがどうしているかといえば。
『本当に見事な生地だ。この世に生まれ出て初めて見る。美しく力強い、それでいてまだ余裕があるようにも感じる』
「一度もないんですか?」
完成したルナライトシルクの品評会となり、防護服を脱いで別室に移動。
テーブルの上にルナライトシルクを置いて、闇さんと、雷三姉妹、そこに俺が混じり布の出来具合を確認していた。
ストーリーで何度もこの作業を繰り返した俺の目から見ても、問題ないと言える出来栄え。
一度に全部作ったから品質は均等になっている。
かなり質のいい生地だと言っていい。
色々な素材を混ぜ込んだ液体であるルナファクターにつけ込んでいるが、それでも汚れを一切受け付けないような優しい白い輝きを放つルナシルク。
これこそ正に純白だと言っても過言ではない、その白い生地に闇さんも感嘆するしかない。
『ああ、少なくとも某は見たことがない。雷の姉妹。お前たちは某よりも布に詳しいのであろう?これを見たことはないのか?』
『『『ない』』』
そして俺たち以上に、凝視するように布を観察するのが世界中の布を見てきたと言っていた雷三姉妹だ。
最初に出会ったときは、創作意欲もなにもない、まさに電池切れと言っても過言ではない無気力な状態だったが、俺がデザインしたアミナの衣装をライブで見てから創作意欲が再燃し、今ではもはや暴走モードの三姉妹だった。
騒がしく、興奮しやすい、それが俺の中での雷三姉妹のイメージだったが、それを覆すように静かに、そして端的に闇さんへ返事をしても布から一切目を逸らさない。
『……と、何百年と生きた精霊の中でも布に興味を持っていた三姉妹が知らぬ素材だ。この布を貫くとなれば某とて少し本気にならねばならぬほどの強度だ。某たちよりも下の精霊であれば・・・・・そうだろうな衝撃はともかく火なら火傷を負う心配はないだろう、風の刃を防ぎ、雷も通さぬ、それでいて肌触りもいいときた。まさに素晴らしい一品だと言える』
「これでも完成形ではないんですけどね。もう一段階、明日挑んでもらいますけど」
『うむ、そのために光の精霊が部屋を全力で掃除しているのであるからな』
「俺からしたら本当に助かりますよ。素材から設備、さらには職人まで用意してもらえるなんて、これでライブを失敗したら周りの精霊からフルボッコにされそうです」
『そうかもな。いや、ある意味で失敗も受け入れて楽しみそうな気がするが』
「それは、さすがにないでしょ」
『いや、某たち精霊なら、その失敗も楽しむのだ』
「闇さん?」
俺と闇さんが会話する傍らで、興奮するのも煩わしいと言わんばかりにルナライトシルクに夢中になっている雷姉妹たちに気づき、それ以上話しかけない方がいいと判断した。
だから、闇さんとの会話に集中しようと思ったが、それもちょっと不思議な雰囲気になった。
『会長、精霊の死とはどういう物だと思う?』
「精霊の死ですか」
ルナライトシルクはそうそう汚れるようなものではないが、それでももう一段階進化させないといけないことを考えて、飲み物やお菓子などは一切用意していない。
ただテーブルの周りに俺たちがいるだけの空間で闇さんはいきなり重い話を持ち込んできた。
FBOでは蘇生魔法という物が存在して、ストーリーでよほどのことがない限りはそのキャラがいなくなるということはなかった。
だから死生観で言うのなら。
「なんでしょう・・・・・怪我を負ったとか病気にかかって結果的にというようなとか、そういうのですか?」
『それもあるが、某たち精霊は自然に還るのが最も多いのだ。そしてそうなることが多いのは、長い時を生き、この世界に退屈し、無気力になり、徐々に意識を手放し身動きができなくなった精霊が自然に還るからなのだ』
生物学的にいえば生命の活動を停止するというのが死という意味になる。
だが、闇さんはそういうのを聞いているのではないのはなんとなくわかった。
人とは違う方法で精霊が天寿を全うするということ、それ自体はストーリーで触れられることはなかった。
長い時を生きる、この先もずっとと語られることが多い精霊。
物語の中で精霊の死が描かれるのは、戦闘で誰かを庇って致命傷を負ったり、力を使い果たしたりしてプレイヤーの前から煙のように消えていくパターンが多かった。
『退屈とは某たちにとっては死神のようなものでな。我々は自然から生まれ、そして自然のためにこの力を貯めそして自然に還り自然を豊かにする。世界はそうやって豊かになっている』
「……」
これはこの世界のシステムについて語っているのだろう。
そしてその情報は俺も聞き覚えがある。
精霊から聞いたのではなく、とあるエルフの研究員が語っていたストーリーだ。
魔力という不思議な力が世界に満ちているのを当然のように受け止めていたけど、それは根本的にどうやって生み出されているか。
それを研究するために生きてきたエルフが、精霊たちが魔力を生み出しそして世界に循環させているのではと言っていた。
検証班もそれを調べたが、情報量が少なすぎて憶測にしかならない推論だけで終わってしまった。
これはそれを真実だと裏付ける情報だ。
『実際某もアミナちゃんのライブに出会うまでは、錬金術をするのにもほぼ飽いて、次に何をするか考えている間に徐々に意識を維持している時間が短くなっていた。そこで分かったのだ。ああ、もうすぐ某も自然に還るのだと』
役目を終えた。
次の世代に託すという意志を見せていた。
だが。
『まだ残りたい。まだ某にもやれることがある。まだやりたいことがあると会長やアミナちゃんは生きる意志を与えてくれた。これは多くの精霊たちが思ったことだ。特に長く生きている某たちみたいな精霊はな』
『私もよ』
『私も』
『もちろん、私も』
俺たちがやろうとしたことが、精霊たちに生きる活力を与えたと言われなんだか少しだけ照れくさくなった。
『感謝している。こんなに楽しいことを教えてくれて、そしてまだまだいろいろなことを見せてくれると希望を与えてくれて』
ルナライトシルクを見ていた雷姉妹も、観察を止めて俺の方を見ていた。
『『『ありがとう』』』
そしてにっこりと笑って感謝してくれた。
「でしたら、あと百年は生きれますね。アミナの完成形を見せますし、もっといろいろなことをするつもりですし・・・・・あれ?下手したら百年じゃ足りないかも」
『ハハハハハハハハ!!それはいい!!百年か。まだまだそれだけ楽しめるのか!!』
『いろいろ・・・・・よだれが』
『服も作る?』
『まだアイディアあるのね』
「ええ、なんならアミナの後続アイドルグループの衣装を作ってたら永遠に退屈しないかもしれませんよ」
『それはいい』
『もっといろいろな服を作れる』
『滾る』
照れ隠しを交えて、ちょっとだけ盛大な目標を打ち立てておく。
「そのための第一歩を踏み出す明日に備えて、今日は早めに休んで英気を養いましょうか」
『うむ、そうだな。某も今日は休むとしよう。魔力を万全にするには眠ることが一番だからな』
『アミナちゃんの子守歌が聞きたい』
『それいい』
『それがあれば万全』
「頼んでみます?」
『『『『是非に!!』』』』
「闇さんもですか?むしろ興奮して眠れないのでは?」
この作業の勝負は明日。
素材は揃っている、手順も確認している。
後は万全の状態で挑むだけ。
太陽の衣と呼ばれる素材、サンライトシルク。
俺が考え得る限り、この精霊界で手に入る最強の布系防具素材。
それを作るために今日はここで切り上げて、早めに休もうということになり俺はアミナを呼びに一旦家に。
子守唄を歌ってくれなんて変な頼みかもしれないが、それを引き受けてくれて精霊たちに聞かせると闇さんと雷三姉妹は、俺の予想とは裏腹に安らかな顔で眠りについた。
まるで天寿を全うしたかのような眠りのつきかただったが、しっかりと胸が上下しているところを確認して俺はホッとして俺も今日は休んだ。
サンライトシルクの合成は日が昇る前から始めないといけない。
「良いですか、サンライトシルクは日の出から始めて、太陽が頂点に来る時を中心にして前後一分以内に完成しないとダメです」
この工房には屋根をくりぬき天窓から太陽が入るようになっている。
そこに特殊なレンズを装着し、錬金台に日光を集中するように工夫してあるわけだ。
「早すぎてもダメ、遅すぎてもダメ。合成時間はかなりギリギリ、一つのミスが失敗に繋がります」
このサンライトシルク作製で一番重要な要素は日光に含まれる太陽の魔力。
それを増幅するために作るのが昨日つくったルナファクターと一緒の、サンファクター。
「それを踏まえて、今日もよろしくお願いします」
『任されよ』
『『『やるよ!』』』
英気を養い、気合十分。
俺たちは日の出前に作業の準備を済ませ。
「日が出ました!始めます!」
『『『『おー!!!』』』』
窓の外をじっと見て太陽の先端が山の端に出始めたことを確認して一気に始める。
「日光草は茎と葉で分けて、茎はみじん切りで、葉はすり潰して」
『みじん切りは私が』
『すりつぶすのは私が』
「その間に聖光水を寸胴鍋に入れてください」
『私が入れる』
「お願いします。入れたらコンロで魔力を注ぎつつ混ぜ続けてください。日光の魔力をどれだけ入れられるかが重要なんで、鏡の位置、レンズの位置を随時調整しながらやってください」
『わかった』
「次に火山岩をすり潰して」
『では某は火山岩をすり潰す』
『みじん切りが終わったよ』
『こっちもすり潰した』
「じゃぁ、茎には火の精霊石クラス6をすり潰して粉状にした奴を混ぜて、葉の方には風の精霊石クラス6をすり潰した奴を混ぜてください」
手順は頭の中に完璧に入れているが、それでも時間との勝負。
日光をふんだんに部屋の中に取り込むようにしているからどんどん部屋の温度が上がっていく。
だけど、ここで冷ますようなことはしてはいけない。
むしろ少しでも温度が下がらないように気を使わないといけない。
汗が垂れ、そして喉も乾くが、これはステータスのごり押しでどうにかするしかない。
「作ったやつは長女さん、次女さん、闇さんの順番でゆっくりと混ぜていってください。一度使った器具は脇に除けて新しい道具を使ってください」
工房の部屋はそこまで広くはない。
五人が動き回るための動線を確保するので精一杯。
だけど、あらかじめ順番を決めているからそこまでトラブルはない。
『あ』
そう思った矢先、次女さんが振り返って次の素材を取りに行こうとした際に肘にすり鉢があたり、テーブルから落ちた。
スローモーションに見える光景。
「大丈夫ですか?」
俺は咄嗟に左手を伸ばしてそれを地面に落ちるギリギリでキャッチした。
『ご、ごめんなさい』
「大丈夫、慌てなくてもまだ余裕はあります。慌てず、しっかりとやれば次女さんなら問題なくできます」
『会長』
こういう時に大事なのは、心の余裕を維持し、全体をフォローすることだ。
ここで怒って場の雰囲気を乱すのは一番ダメなこと。
笑って、次のことを頼むと、次女さんはすぐに気を取り直して続きの作業に入ってくれた。
俺はそれに頷き。
俺もそのまま作業を続ける。
この暑さ、そしてミスれないという緊張、集中力が乱れ、やはり所々でミスする。
だけど、その度にフォローしあい。
「ま、間に合った」
『ギリギリであるが』
『大丈夫』
『成功』
『する』
気温と俺たちの気合の熱気に包まれ、天窓から降り注ぐ日光がついに頂点に達する頃合いに、ゆっくりと丁寧に混ぜ続ける三女さん以外の手には、ルナライトシルクが握られ。
「今だ!!」
『『『『!!!』』』』
太陽が頂点に差し掛かった直前の僅かな時間、合図をした瞬間にここまで合わせてきた連携を見せて素早く丁寧にルナライトシルクを寸動鍋の中に入れ。
ふたを閉め、この瞬間中に太陽の魔力がふんだんに込められ、それを増幅するためのサンファクターを用意し。
俺は咄嗟に祈るような姿勢を取った。
「闇さん!」
『うむ!行くぞ!錬金!!』
レシピは問題ない、作業手順も問題ない。
スキルも設備も大丈夫だと思っても一抹の不安が残った一瞬。
気合の入った声で、闇さんの声が響くのであった。
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