2 育てるダンジョン
運動会の次の日は休み!!
なんてよくあることかもしれないが、俺も一つのイベントを達成したことによってひと段落した。
「本日はアイテム収集です!!」
そしてぐっすり眠って一日休めば、子供の体は元気になる物で。
にっこりと笑顔でダンジョン攻略を宣言すると。
「はい!」
「はい、アミナ君」
「リベルタ君、なんで精霊さんがいっぱいいるの?」
アミナが挙手して質問してきたので、俺は指をさし発言を許可する。
そして他の面々も気になってますと言わんばかりにアミナに同意するほど、パーティーメンバー以外に泡沫のダンジョンの花畑には精霊たちが大集結している。
下はアミナが契約しているような低位精霊から、上はアミナのライブにいつも来てくれている常連の風の上位精霊まで、各属性の精霊たちが勢ぞろい。
「うん、素材集めに一緒に来る?って闇の上位精霊さんに言ったら、手伝えばもっとイベントが増えるか?って聞かれて、迂闊に俺がうなずいてしまったからだなぁ」
恐るべきは前回の運動会イベントの経験から、俺が少しでも手隙になればもっと面白いことをしてくれるのではと彼らが気づいてしまったこと。
さすがの俺でも毎度違うことを企画することは難しいが、それでもまだまだ俺の頭の中にアイディアは眠っている。
湯水のごとく消費されたらさすがにきついが、それでもこの精霊界にいる間彼らを楽しませるくらいのアイディアのストックは存在する。
次のイベントを企画するネルにアドバイスできるようにしておいて本当に良かった。
『レベリングを手伝うことはできないと言われたが素材を集めることは某らにも出来ることだ!!君が少しでも楽になれば某たちも楽しめるという物!なぁに安心してくれ!!暇な精霊しかここにはいないからな!!』
「しっかりと安全マージンをとって、俺の指示した方法でやってくださいね。怪我したりしたらアミナが泣くんで」
『無論!』
代表して風の上位精霊と闇の上位精霊が前に出て、数百人はいるであろう精霊たちを取りまとめてくれている。
「それじゃぁ、集めて欲しい素材のリストを作ってきたのでこの通りお願いしますね。モンスターとの相性を属性ごとに割り振っていますので、パーティー編成で行動してください。残った精霊の皆さんは交代要員として待機していてください」
いや、俺としてはかなり助かるよ?
ぶっちゃけ、ゲームではクランをかなり育成しないとできない自動で素材を集めるようなコマンドを選べるって、現実でもかなり有用だと思うし。
安全マージンとして低位精霊が素材を集める場所には、低位精霊四人に中位精霊が二人の六人編成。
中位精霊が素材を集める場合は中位精霊が五人に上位精霊が一人という割合のパーティー。
上位精霊だけのパーティーは討伐するモンスターとの相性を考慮した編成で、さらに格下のモンスターだけを相手にするようにお願いしているから事故る心配もないと思う。
『うむ、引き受けた』
『某たちに任せておくとよい!素材を山のように集めて帰ってくる!!』
特殊な素材集めじゃない限り、これで基礎的な素材は集められる。
これで本命のスターリーシルクが収集に面倒な手順を踏まないような素材だったら精霊たちに任せたいのだが、やり方的に少し不安が残るのでまずは手順に間違いがないか俺たちで確認する。
任せる素材は基本的にダンジョンの中に存在して採取するような素材かモンスターを倒せば確率でドロップする素材ばかりだ。
「さてと、精霊たちを見送ったことだし俺たちも行こうか」
泡沫のダンジョンを作るために花冠の作り方と泡で作るモンスターのイメージを伝え。
一通りの精霊たちがダンジョンに挑むのを見送ってようやく俺たちもダンジョンに挑む。
まずは花冠を作らないといけないんだけど、そこに関しては。
「リベルタ様、こちらの方に指示された花冠を作っておきました」
「いくつか作っておいたけど、これでいいのよね?」
ネルとイングリットの二人に指示した花を使ってすでに作っておいてもらった。
白い花、黄色い花、そして緑色の花。
そこに蝶の羽のような花弁のついたものを選んでいれば問題なく星屑の芋虫ことスターダストキャタピラーの出現するダンジョンを作り出すことができる。
「ああ、そこまで広いダンジョンじゃないし。このダンジョンは黄金モチダンジョンと一緒でリポップしないダンジョンだから一周するのにそこまで時間はかからないよ」
イングリットから花冠を受け取り、近くの泡を掴みモンスターをイメージ。
黒い夜空のような体色に星のように白い斑点が散らされた、猪ほどの大きさの芋虫。
イメージができて、そして泡が形状を変えその姿になった瞬間花冠に与えると泡沫のダンジョンは姿を現す。
「森林系のダンジョンですか」
「背が高い木ですわね」
そのダンジョンの入り口を潜り抜ければ、森の中に切り開かれたような広場に出る。
周囲はエスメラルダ嬢の言う通りの背の高い木々に囲まれて視界が悪い。
このダンジョンは全部で三層しかないダンジョンだ。
一階層目はこの森林エリア。
獣道というしかない細い道が四方に一本ずつ伸びているのが特徴だ。
「どちらに参りますか?」
「うーん、このパターンだとこっちだね」
一見どの道に行けばいいかわからないようになっているダンジョンだが、俺はそんな森林に走る獣道の中に正解を示す空色の花を見つけて、入り口から右手の獣道を指す。
「どうしてそっちなの?」
四方の道から一つ選んだ理由を、ゴーレムを召喚して精霊たちに中に入り込むように頼んでいるアミナが首をかしげて尋ねてきたので、指をさしていた方向を少しだけ動かしてさっき見つけた空色の花を指さした。
「あそこに空色の花があるだろ?あれは日暮れ花って言ってな。空の日暮れ具合に合わせて色が変わる花なんだが、スターダストキャタピラーの放出する体液がないと咲かないんだよ」
星屑の芋虫のダンジョン内にはモンスターと共生しているとしか思えないような特徴の花が存在する。
日暮れ花と呼ばれるこの花もそうだ。
近寄ってしゃがみ、そして摘んでやると。
「あ、色が」
たった数秒でその色が変わり始める。
綺麗だった空色の花弁は、徐々に白くなりそしてくすんだ灰色へと変貌する。
現実ではありえない現象だけどこの世界はファンタジー、これくらいは起きる。
アミナが目を見開き驚くのに満足して、獣道の方を見る。
「地面に付着しているスターダストキャタピラーの体液を吸収して色が変わっているからこの先にスターダストキャタピラーがいるって言うわけ。花の数的に敵は三から多くても五体くらいだ」
このダンジョンは入り口の広場から四方に獣道が続いているが、そのどれにも次の層に行くための階段のようなものは存在しない。
「敵の攻撃方法は至ってシンプル、体当たり、糸を吐く、噛みつく、のしかかり、この四つくらいしかない。動き自体はそこまで早くはないから注意していれば負ける心配はない」
最初に見つけた時はこの森だけの一層しかないダンジョンかと思われていたが、とある手順を踏むと次の層への入り口が現れることが発見された。
逆に言えば、その次の層の入り口を出現させずその層のモンスターをすべて倒すとダンジョンの脱出用の転移ゲートが出現するという仕組みだ。
「とりあえず、俺が戦うからやり方を見ててください」
そして獣道を進むこと五分ほど、その道中に何かあるわけでもなく、最初に入った広場よりも狭いが戦うには十分な空間が現れた。
そこにはむしゃむしゃと草を食むスターダストキャタピラーの姿があった。
敵の数は四体。
全員が食事に夢中でこっちに気づいていない。
俺は手ごろな木の枝を切り、そしてそれを片手に普通に歩み寄り。
ペチンと軽く叩いた。
これも立派な攻撃モーション。
そしてスターダストキャタピラーはリンクモンスター。
最初は非アクティブモンスターだけど、攻撃することによって周囲の同種族のモンスターと呼応して反応する。
一斉に威嚇の声として、キーキーとかん高い鳴き声を響かせて、まずは叩いたスターダストキャタピラーが俺に襲い掛かってきたが俺はそれを回避。
そうしたらもう一体の別の近くにいた個体が俺に突進してくるがそれをサイドステップで回避。
猪系のモンスターと比べればその突進の速度はかなり遅い。
このモンスター自体はそこまで強くないが唯一厄介なのが、頬袋を膨らませた時に発生する攻撃モーション。
こうやって他の個体に意識を取られているときに第三の個体が行う遠距離攻撃。
『キシャアアア!!』
咆哮とともに吐き出される粘糸。
粘性があり、そして弾力もある。
引っ張っても早々に切れないから、拘束系のスキルとしては結構優秀。
燃やそうとしたら可燃性も高いので拘束された個体がダメージを負ってしまうというかなり面倒な拘束攻撃だ。
吐かれた粘糸に当たらないのは当然だとして、そしてもう一つ厄介なのは地面に落ちた粘糸が設置罠としても活用できることだ。
俺にめがけて飛んで来るその糸を空歩で上空へと回避したのは地面にまき散らされた罠攻撃を回避するためだ。
そうすると最後の個体が、空にめがけて糸を吐き出してくるがそれも第二歩で空中でサイドステップをすることで無事に回避。
そうすれば近くにいた個体にその糸は覆いかぶさり、その個体は糸だらけになる。
身動きが取れなくなり悲鳴のような鳴き声をまき散らす個体にめがけて第三歩で空中から奇襲。
マジックエッジで強化した鎌槍で、殺さないように気を付けて急所を避けて胴体を攻撃。
ザクっと刺さる感触と同時に、そのまま背後に回り込みもう一撃。
『キー!?』
レベル格差がある分、その攻撃はあっという間にスターダストキャタピラーのライフを危険域に持っていく。
後一撃、それでこの個体は命を散らす。
ここで追撃とせず、俺はあえて一歩引き他の個体に攻撃を仕掛け始める。
狙うのはこっちに来ようとして、味方がまき散らした糸に足を取られて悶えている個体。
俺が向かっているのに気付いて糸を吐き出すが、一度糸がついていない地面に足をつけてリセットした空歩で再度空に逃げてそれを回避する。
「首狩り」
そして今度は手加減せず、目の前の個体に突進し、鎌槍のマジックエッジを槍の刃から鎌の刃へと変化させ、地を這わせるように低空軌道を描き、下から上に振り上げる。
鎌槍の刃は、顎の下を掻い潜り、真正面からスターダストキャタピラーの太い首を捉え、豆腐を切るよりも簡単にその首を搔っ切った。
「……」
その一撃で、レベル差も相まってその個体は何も言わぬ黒い灰と化した。
そして次はお前だと、振り返って攻撃の意志を込めた視線を向けると。
『キィーーーーー!?』
怯えたモーションを見せて、瀕死のスターダストキャタピラーは空にめがけて糸を吐き始めた。
それは自分自身に纏わせるような糸の雨。
そして傷を塞ぎ、回復するようなモーション。
それを見届けた俺は、残った二体の個体を見て、さっきと同じ手順で攻める。
その結果生み出されるのは。
「繭が二つできたわね」
「ちなみに、こうなったらもうすでに別種のモンスターとして認定されているから」
「と言うことは、これがライズコクーンというモンスターなのでしょうか?」
「その通り。この状態になると、攻撃力とか素早さとか諸々犠牲にする代わりにすさまじく防御力と耐性が上がってな」
ライズコクーンという進化形態になる。
そんな繭にめがけて、軽く鎌槍でつついてやると柔らか気な見た目には反してカンカンとまるで金属を叩いたかのような音が響く。
「この状態にして、ライズコクーンを倒すと」
そしてしっかりと進化したのを確認すると、腰だめで槍を構え。
「心臓打ち」
防御無視の心臓狙いの一撃を叩き込むと。
「あ、ゲートだ」
特殊条件達成となり次の階層へのゲートが出るのであった。
うん、ゲームと条件は変わらないな。
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