28 面接
精霊王はクランに入れない。
これはFBO時代にもあった設定だ。
そもそもの話、クランというのは国を治める者の許可により設立を許される組織だ。
トップがいて、メンバーがいて、まぁ有体に言えば会社のような組織を想像してくれればわかりやすいか。
会社を設立するのにその国のトップ、総理大臣で例えるがその人物に許可を取ったとする。
その会社に総理大臣自身が一社員として入ってこれるかという話だ。
「そればっかりは、俺にはどうにも」
「そこは知恵の女神の使徒として知恵を出さないか!?」
「そんな無茶な」
これが普通のファンクラブとかだったら個人の趣味でと片付くが、クランとなるとしっかりと上下関係が存在している。
作り立ての会社に現役総理大臣がヒラ社員で入社してくることがいかに不自然かという話だ。
身分を隠すことも考えたが、精霊王の力を考えるとそれも難しい。
いかに俺の攻略知識があったとしてもさすがにこの常識を覆すことは無理だ。
「無茶か?」
「無茶ですね」
「どうしても無理か?」
「どうしても無理ですね」
そもそもの話、一応このアミナファンクラブのクランリーダーは俺なのだ。
そんな組織に精霊王が入るとか頭を抱える問題になる。
「精霊王様御自らライブの会場の設営をなさるんですか?」
「我は精霊一の力持ちであるぞ?」
「……王様御自ら自分たちの依頼をお受けになるんですか?」
「そこらのモンスターであれば鎧袖一触で殲滅してくれようぞ!!」
いや、ユニットとしてはかなりというか最終兵器だと断言できるほどの強いユニットなのだ。
仲間にはならないが、ストーリーでは精霊王が助っ人で参戦してくれる戦闘はある。
その際にとんでもない性能を披露されて唖然とした記憶がある。
ネームドユニットの完成系。
ステータスがEXBP搭載型の最終到達値を叩きだしていて、精霊王の特権から得られるユニークスキルの数々は瞠目すべきものだった。
それが精霊王という存在だ。
それでいて、雑用にすら忌避感のない王様なんて、できるものなら正直メンバーに欲しいと思わせる存在だ。
「どうだ!我、有能だろ!?」
「有能ですね」
「なら!?」
「立場で完全にアウトです」
「ガーン!?」
「いや、ガーンって口でおっしゃいますか」
しかし、仲間に入れられないのはゲームのシステム上の縛りというだけで、現実的には組織に入れること自体は可能なのだ。
「うう、我を仲間外れにするのか?」
「仲間にしてほしそうな目線で訴えてきてもダメです」
ゲームのシステム上不可能だっただけで、現実世界であれば物理的には精霊王をクランメンバーに抜擢することは可能だ。
「ライブでは貴賓席をご用意しますのでそれで我慢してください」
「それは用意してくれ。ついでにクランの席を用意してくれ」
「逆になんでそこまでこだわられるんですか。ライブに参加できないって言うわけでもないですし、お祭りにも参加できますよね」
だが、本来できない筈のことを無理矢理やろうとした反動で、なにかこの世界のシステムにバグが生じるかもしれない。
そのデメリットを考えるとこの判断は間違っていない気がする。
「長年王をやっていると、何でもかんでも指示を出すだけなので現場の楽しさが恋しくなるのだ。祭りというのは、準備期間を含めて楽しむものであろう?万事椅子に座って良きに計らえでは味気なすぎる」
ショボーンっと擬音のするような様子を見せるとは、最初に会った時の威厳はどこに消えたのやら。
落ち込む精霊王は、ぽつりぽつりとその理由を話し始める。
永い時を生きる精霊は楽しいことに飢えている。
それは王である彼も例外ではない。
楽しむのであれば、自分も全力で楽しみたい。
その純粋さが伝わってくる。
感情に絆され、デメリットを無視するのはあまりしたくはないことではあるが。
何百年何千年と、俺たちには想像できない程永い間王を続けている存在が、楽しみを我慢し続けることのつらさが伝わってくる。
「我は国を守る精霊の王であるが、国を守るために感情を捨て去ったわけではない。この精霊界を守ることは全力で全うするが、余裕があるのであるのなら楽しんでも良いではないか」
仕事は仕事、プライベートはプライベートと区別している精霊王の言葉に俺は腕を組みなるほどと理解することはできた。
そして、同情もした。
「……まぁ、精霊たちの監視役ということで参加していただいた方がいいか」
「おお!」
さっきデメリットがあるとは言ったが、精霊王の加入に関して言えばこの世界のバグに関わりそうな戦闘能力面のリスクを除外すれば、大きなメリットも存在する。
それがこの後待っている精霊たちのクラン加入の組織作成に関してだ。
これから待っているのは地獄のような名簿作成作業。
そしてどの精霊がどの役割を担えるかの作業振り分け業務。
人材が圧倒的に不足している現状、精霊王の助力があった方がスムーズにクランを作れるのは明白。
むしろ嬉々としてそこら辺の差配はしてくれそうな気がする。
打算を含めてゲーム時代にはできないことに挑戦するという考え方は危ういかもしれないが・・・・・
「わかりました。特別名誉顧問という形でクランに入っていただきます」
「おお!さすがリベルタ!話が分かるではないか!!」
「クランに入る以上、ある程度の貢献はしていただきますので覚悟してくださいよ。王権を振りかざしてクランを好き勝手にされるようでしたら追放処分もあり得ますから」
「わかっておる。そんな空気を読めないようなことはしないぞ」
ここまで来たら逆に挑戦した方がいいような気もしてきた。
仲間にできないユニットの参戦、それはある意味ゲームではロマンと言えるような光景だ。
「では、さっそくのご依頼よろしいですか?」
「うむ!何でも言ってくれ!」
仲間にできないユニットが仲間に入る。
それはなんてすばらしい光景なのだろうか。
王として堂々と胸を張る、精霊王に向かって俺が願うことは。
「面接お願いします」
「面接?」
「ええ。これから来るクランに入会希望の精霊たちの面接です。あの数の精霊を前に堂々と宣言したのできっと精霊界中の噂になっていますよ。ファンクラブに入れば色々と特典がもらえるかもしれないって」
ファンクラブに入る精霊たちの面談だ。
まぁ、主にどういうことができて、どういう方向で活躍できるかの能力チェックで基本的に落とすことはない。
「……」
さっきまで喜んでいた精霊王の顔が引きつる。
「ご安心ください。あなただけに仕事を押し付けることは決してしませんよ。エスメラルダさんとクローディアさんがレベリングしてクラス4になりレベルがカンストするまで、一緒に名簿作り頑張りましょうね」
なにせ、ここからは膨大な数がいるアミナのファンの精霊たちとただひたすら面接するという苦行が待っているのだから。
「いやぁ、良かったですよ。本当だったら俺とイングリットで対応しようと思ってましたけど精霊王様が手伝ってくださるというのなら心強い」
クランを作る際に必要な最低限の人数は十二人からだけど、上限はほぼないと言っていい。
クランの本拠地が大きければ大きいほどその制限はないとも言える。
本拠地はこの精霊界のあの小さな家であるが、さっきシステムの問題を無視すると宣言したばかり。
人数制限など気にせず来るもの拒まずでやるのが一番ではなかろうか。
にっこりと笑い、そしてようこそデスマーチの世界へと、ここから先に来るファンクラブ入会希望者との面接という総力戦を共に戦う強力なメンバーを出迎える。
「よろしくお願いしますね。特別名誉顧問。まさか、クランに入会した名誉ある最初の精霊であるあなたが逃げたりはしませんよね?」
「む、無論だ!!」
「震えてますけど?」
「武者震いというやつだ!!」
王として精霊と面と向かって会うこと自体はよくあるようだけど、さすがに企業の就活の集団面接みたいなことはしたことはないだろう。
「それなら問題ないですね。ちなみに面接会場の場所をお借りしたいんですけど」
「城の一部を開放しよう。そうすれば順番に相手をすることができる」
「助かります」
これも新たな経験として楽しんでもらうとしよう。
「ちなみに、この依頼の達成の報酬はどのような物がもらえるのだ?」
「そうですねぇ、自分としても精霊王様がクランに参加されることは考えていなかったので、咄嗟に依頼しましたが・・・・・」
しかし、本当にゲーム時代の自動でクラン加入状態を管理できるシステムは便利だった。
さすがにこの世界にデジタルツールなる代物はないので、ここは地道にクランの名簿を作ってさらにファンクラブ会員の証であるものを用意しないといけないな。
そこら辺も精霊王の力を借りるとして、ひとまず今回の面接官の報酬か。
「次のライブで出す屋台でのくじのチケットでどうです?百連分くらいはつけますけど」
咄嗟に思いついたのはゲームでの配布賞品だ。
精霊王はある意味、いろいろな財を持っている。
精霊にはお金という概念が無いから金銭は無いだろうが、貴重な宝物や珍味など一般に価値ある物は一通り持っていると言っても過言ではない。
そんな彼が喜ぶものを考えると、ライブの最前列のチケットだったり、個人ライブだったりとアミナ関連の物を思い付くが。
だけどそれではさすがに二番煎じ感が否めないので、ちょっとひねりを加えて提案してみた。
まぁ、さすがにこれからの仕事量のことを考えると少なすぎるか。
「それは、連続でくじを引けるチケットと言うことか?」
「え、まぁ、そうですね」
「賞品は前回のようなクリスタルの像を出すのか?」
「まぁ、出しますね。何ならアミナの姿絵とかも追加で発注しないといけませんけど。他にもいくつか新しい賞品も考えてますよ」
と、思っていたのだが精霊王の表情が一気に真剣なモノに変わって、報酬の内容が嘘ではないだろうなと念を押すようにズイッと前に踏み込んできた。
「今回のライブでその屋台は出るのか?」
「精霊界に絵を描けたり、彫刻が彫れる精霊がいればできますけど・・・・・」
精霊王の琴線に触れてしまったガチャチケット。
そのガチャを用意しないといけないのかと一抹の不安を覚えつつ、闇の精霊のように趣味で絵を描いたり、彫刻を彫る精霊はいたはず。
あながち無理な話ではないだろうけど、今回の面接のなかでその人材ならぬ精霊材を見つけることが出来たら最重要メンバーとして確保しておこう。
「では、その精霊を見つけよう!噂に聞くガチャ!!我もぜひ体験したいと思っていたからな!!」
そう心に誓いつつ、さっきまでは面接の数に怖気づいていた精霊王はいまではやる気を滾らせて面談に挑もうとしている。
「そのためには面接を終わらせないといけませんね」
「であるな!まずは御触れを出すか!!」
こういうやり取りをしていると、なんだか不思議な気持ちになる。
ゲームでは仲間にできない筈のユニットとの初めての共同作業がファンクラブ会員の面接というのは何ともおかしな展開だが、それもそれで貴重な体験だと思うことにしよう。
何やら力を練りだし、発光し始める精霊王に何をするつもりかと見守っていると。
『精霊界に住まう精霊たちよ!!我は精霊王ディヴァンである!!』
空から声が聞こえる。
運営の公式アナウンスのような技に、パチクリと何度か瞬きをしてしまう。
『此度は皆に良き知らせを持ってきた!!知っている者もいるだろうが歌姫のアミナちゃんを支えるためのクランをこの度設立することになった!そのクランに入るための面接を我が城で行う!!入ろうと思う有志諸君は我が城まで来い!!アミナファンクラブの特別名誉顧問となった我とクランリーダーであるリベルタが直々に面接する!!』
そして地味に自慢の入った精霊王の言葉の後に精霊界を揺るがすような歓声が響き渡る。
「この数と面接するのかぁ」
その歓声の大きさにとんでもない人数がいるとわかり、本当に精霊王を巻き込んでよかったと思うのであった。
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