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27 ファンクラブ

 

 ファンクラブと言えば、公式、非公式問わずアイドルや俳優、お笑い芸人や、バンドなど、有体に言えば推しを応援する集団だと考えればいい。


 その集団に属することで、推しの情報を得られたり、場合によってはそのファンクラブに所属することによって得られる恩恵がある。


 今回俺が作ろうとしているクランは、その要素よりも運営側のサイドに近い組織だ。


 アミナファンクラブ設立宣言の翌日。


 俺たちは再び精霊王のもとに来ていた。


「と、言うことで俺たちは新しいクランを作りたいんですけどいかがでしょう?」


 さすがにあの場でクランを作ってメンバーはどうするかと決めることはできない。

 なので詳細は後日発表。まずは精霊王様にアミナファンクラブ設立の許可を戴いてからと言うことで、しっかりとアミナのお手伝いをする組織を作ると説明して、精霊たちには納得してもらいその場は解散となった。


 善は急げと、精霊たちが立ち去った後に俺は早急に企画書を作った。


 内容はもちろん、アミナファンクラブの設立の趣旨、クランとしての活動内容と運営方法、そしてファンクラブの会員としてクランに所属してもらった際の会員特典や入会に関する条件だ。


 プレゼン資料として見せるのなら、本来であれば会社の利益や、市場効果、そして実施する際のコストなど様々な情報をしっかりと調査したうえで臨まないといけないのだが、今回は場合が場合なのでさすがにそこまで詳細な情報を盛り込めてはいない。


 さすがに俺もファンクラブを作るなんてことはしたことはないが、クランを作った経験はある。


「同胞たちの行動力も予想を上回ったが、リベルタの発想力にも驚いた。さすがは知恵の神の使徒と言ったところか」


 その経験を活かしてファンクラブの概要を決めて、精霊たちにやってほしいこととこっち側で与えられる報酬を吟味し、それを書類にして精霊王に謁見を申し込んだ。


 そして精霊たちの行動に関して把握し、俺の作ったプレゼン資料を読んだ結果がこの言葉だった。


 顎に手を当て、悩むような仕草こそ見せているが反応は悪くない。


「ファンクラブにやってほしいことは大まかに分けて三点。一つ、ライブ会場の設営、二つ、ライブを含めるイベント運営の補助、三つ、ライブをするための時間を確保するための俺たちパーティーの活動支援になります」

「問題点をあげるとしたら、最後の三つ目だな。活動支援という言葉では些か範囲が広すぎる。最初の二つ、ライブ会場の設営や運営の補助という点に関してはライブをやってもらう側としてその手伝いをすることは道理であると理解する」


 しかし、完全に賛同を得られているというわけではない。

 精霊の立場は少し特殊だ。


 様々な力を持つがゆえに、その力を悪用されると世界のバランスが崩れる。

 精霊王のノリだから、では我が会員番号1番だな!!と言うかと思ったが、それよりも先に組織の大きさによる世界のバランスへの影響を気にしてこうやって懸念点を指摘してきた。


「しかし、パーティーの活動支援となると話は変わる。まずはここの具体的な話を聞かねばこの世界でクランを設立することを許すわけにはいかぬ」


 クランを設立するためには、その国の最高権力者の正式な許可が必要だ。

 精霊たちが主軸となるクランなので、当然だけど、クランの本部は精霊界に設置することになる。


 となれば精霊王の許可なしにクランは設立できないわけで。


「当然ですね。その点に関しても説明させていただきます」


 納得と理解、その両方を得なければ活動そのものを行うことも難しくなる。


「まず初めにお断りしておきますが、自分たちは戦闘集団でありそれが本業です。決してライブ活動が本業ではなく、戦い強くなることが主体です。これは絶対に譲れない一線です」

「歌姫に商人、さらにはメイドを引き連れた集団が戦闘集団と申すか」

「実際にダンジョンに挑み強くなっているので。そして俺自身の目標の一つに邪神討伐も入っています。その事実は揺るぎません」

「神の使徒であるのだから、その目的を持つのも致し方ないな」


 これから始めることを理解してもらうためには共通認識をもつ必要がある。


 精霊の中には俺たちがライブをするためだけの集団だと思っている存在もいるだろう。

 だがそれは間違いで、俺たちはしっかりと冒険をするための集団として活動している。

 ライブはあくまでアミナを育成している過程で必要なイベントなだけだ。


 アミナの称号である駆け出しアイドルは、ライブといった歌と踊りが絡むイベントを実施しないと成長しない称号だ。

 加えて至高の歌姫のレベルも同じような方法で上げないといけないのだから、何度も何度もライブを行う必要がある。


 成長するための手段がライブなだけであって、そこが終着点ではないのだ。


「その点を踏まえ、ライブだけに集中するわけにはいかないんですよ。戦い成長し、スキルを育て装備を用意し、上を目指す。このままだとライブをするためだけの集団になりそうなのでそこは釘を刺しておきます」

「それを否定したらどうなる?」

「決して精霊王様に対して謀反を企む心はないと前置きし、さらに不敬と思われても仕方ありませんが、精霊へのライブの無期限の開催見送りを発表せざるをえません」

「……それをされてしまえば我に苦情を訴える精霊がこの先数百年後を絶たないだろうな」


 ここで相手の言い分をすべて受け入れるということは、俺がやりたいことができなくなることを意味する。

 譲れない一線というわけだ。


「自分としては、こうやって今回の精霊たちの不満を解消するための方法を精霊王様にご提出したことで自分の役割は最低限果たせたと思っておりますが」

「事実、同胞たちはそう受け取るだろう。昨日の出来事から早々に行動し、有言実行して見せたことは評価する」


 そしてその一線を守るために行動したことで、最低限精霊たちには約束を守る気はあるという姿勢を見せることもできた。


「だからこそ、危険でもある。リベルタ、お前の行動を否と突きつけることは容易だ。だが、否と突きつけてしまった結果を考えれば否と言えない。この世界の王としてお前の行動力が今後の精霊の価値観を歪な方向に誘導しかねないことを懸念する」

「アイドルのライブにどっぷりとはまるくらいに娯楽に飢えている環境って言うのが一番の問題だと思うんですけど」

「それを言うな。悠久の時を生きる我ら精霊は長く続けられる趣味を持つことが難しいのだ。いかに面白い物語でも何度も聞けば飽きる。しかし、新たな物語が出ればもう一度楽しめる。それを痛感しているのだ」


 あとはファンクラブを設立できるか否か。


「それに関してですが、もし活動を支援していただけるのならアミナの完成形を見ることが早まりますよ?」

「それはどういうことだ?」


 俺としてはここで大きな支援組織を確保できることは、今後の活動にかなり有用だと思っている。

 ゆえに精霊王への説得にも力が入る。


 某箱根の司令官のポーズを取り、眼光を少し鋭くして精霊王に提言すると俺の言葉にさらに興味を持った精霊王がズンと体を乗り出して話を聞く姿勢になった。


「いずれご覧に入れることになりますが、今のアミナの歌も踊りもまだ未完成です。ステータスも不完全、スキルも不完全、さらに踊りや歌はまだまだ発展途上。それでもこの盛り上がりです。これがもし、俺たちの目指す究極の頂に到達したならどうなると思われます?」

「!?」


 そして俺が提示したのは多忙型アイドルビルドの最終形態によるライブ公演。


「今よりも成長し洗練された、心に響くアミナの歌。その歌をさらに華やかにする華麗な踊り、時に激しく、時に優しく、そして皆のためにと全力で魅せるアミナのライブ」


 成長の余地がまだまだあるからこそ、まだまだ楽しみがある。

 それを指摘することで精霊王は生唾を飲み込むような仕草をした。


 ここだと瞬時に悟った俺は一気に畳みかけることにした。


「その成長過程を見たくありませんか?」

「見たい」

「その先にある頂を見たくはありませんか?」

「見たい」

「もし、ここで止まってしまったらそれが見れなくなるかもしれません。それでもよろしいですか?」

「良くない!!」


 今でさえ、精霊たちは夢中になっている。

 それをさらに楽しい高みを目指せるというのは精霊たちにとって一番致命的クリティカルヒットする話題だろう。


「それに加えて」

「まだあるのか!?」

「はい、もし仮にファンクラブが結成され支援体制が確立した暁には後継の育成にも力を入れることが可能になります」

「なん、だと」


 そして俺の中ではクラン戦を想定して、アイドルユニットを編成することが視野に入っている。

 アミナだけではなく、いずれは才能のある歌姫のアイドルユニットで一つのパーティーを組めるようにしたいと思っている。


 今はまだ一日で一つのダンジョンを攻略できているが、いずれは数日どころか下手すれば数か月単位でダンジョンに籠る必要が出てくる。


 その際にアイドルビルドがアミナ一人だけだと、タンクやバフ担当として負担に偏りが出てしまう。

 レイニーデビルのような大型モンスターを相手取る際にもアミナ一人だけでは心もとないと言わざるを得ない。


「アミナが引退することは今のところあり得ないと言えますが、それでも見たくはありませんか?もっとたくさんのアイドルたちを」

「見たい!!」


 それを加味すると、いずれ新しいアイドルを発掘し育成する必要が出てくる。

 その際に後援組織があるのとないとじゃ育成環境に雲泥の差が出てしまう。


 精霊王の想像の中ではどんなものが思い描かれているかはわからないが、クッと悔しがりつつも、少なくとも心は欲求に素直だと言わざるを得ないように断言をする。


「俺たちのパーティーを支援するというのは、そういうメリットもあるということです。探すのに時間の掛かるアイテムの収集を手伝ってもらえれば、俺たちもその分だけライブの方に時間を割くことができる。アイテムを作るのを手伝ってもらえれば、その分だけ新しいアイドルを育成する時間が増えるということです」


 精霊王の中での揺らぎを的確に刺激し、誘導する。


「もちろん、不安があるのも承知しています。ですが、このファンクラブは自由に脱退できます。その上、協力いただくのはあくまでしてもいいという内容に限り、俺たちの方から強制することはない旨、ファンクラブのルールに明記します。ですから、こちら側からこんなことをしてもらえたらこんなお礼をしますよと依頼を出すことはしますが、裏を返せばやるかやらないかの判断基準は精霊たちに委ねる組織と言うことになります」

「む、むぅ」


 腕を組み、悩む精霊王。

 この世界の管理者として、精霊を束ねる者として、新しい組織の誕生には慎重にならざるを得ないのだろう。


 俺としては薬草採取とか、ポーションの錬金とか、簡単な素材の収集をやってくれたり消耗品を作ってくれるだけでも万々歳。


 おまけにイベントスタッフとして活動してくれるだけでもこっちの時間に余裕を生み出してくれるのでかなり助かる。


「いかがでしょうか?」

「許可してやりたい。我としても、リベルタの運営する組織が悪しきものではないのは理解した。だが」

「まだどこかに問題が?」


 しかし、そのクラン設立にあと一歩何かが足りない。

 それは何か。


「ある、大きな問題が一つ」

「それは?」

「それは」


 その問題点さえクリアすれば、クランを設立できると今度は俺が前のめりになって精霊王の言葉を待つと。


「精霊界の王である我がファンクラブに入れないことだ!!」

「……」


 一国の王でしか味わえない悩みをぶつけられることになるのであった。






楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
というか後続とか作り出したら人口過多か内部分裂しそう
さすが知恵の神の使徒   汚い
ほなノウハウ聞いて精霊王がファンクラブ作れば良いのでは?
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