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17 挑戦

 

「催し、催しかぁ」


 ひとまず精霊王との会談は俺たちにとって十分な成果を上げる形で終了できた。

 依頼された内容のことを考えると、一応思いつくことはいくつかあるから、そこから何をするかという流れになるかと思われる。


 精霊王の側近らしき、雷の上位精霊にしばらく滞在できる一軒家に案内され、馬車と馬をそこの庭先につなぎ、俺たちは家の中に入って今後の予定を考える。


「何か案はあるの?ライブの方も衣装も、楽器も、何もないわよ」


 俺たちは戦いに来るためにマダルダに向かっているから、当然だがライブ用の道具なんて手元にない。


「一応案はあるにはあるし、衣装と、楽器に関して言えば心当たりはある。精霊界に娯楽は少ないとはいえアイテムを作れる精霊がいないわけじゃないからな」


 精霊王に頼めば楽器の一つや二つ用意できるだろう。

 ライブをするにあたって伴奏は重要だ。


「衣装に関しては、まぁ、最悪布さえあれば俺が作るし」

「作れるの!?」

「そりゃぁ、まぁ、デザインからおこさないといけないけど」

「何でもありですわね」


 衣装に関して言えば、俺が作ればいいし、作る際にはネルたちに手伝ってもらえば何とかなる。

 エスメラルダ嬢は、俺の引き出しの多さに目を見開き驚いているが、この程度で驚かれても困る。


 FBOをしているとただただ単純作業のように戦うというのは飽きが来るのだ。

 そこで気分転換になるのがモノづくり系のスキル。


 FBOは結構細かいところまでクリエイト要素がふんだんにちりばめられていたから、そこら辺も色々とできるようになっていた。


 となれば、戦うことをひととき忘れて自分の装備つくりに夢中になってドはまりするなんて、FBOを長年やっているプレイヤーなら『あーあるわぁ』と共感されること間違いなしだった。


 幸いにして俺は手先が器用な部類だ。

 だからこそ、作ることが楽しくなって戦いはもっぱら素材集めの時しかやらなかったという時期があって、その経験が今役立っている。


 一回、リアルでコスプレの衣装が間に合わないと友人に泣きつかれて一緒に作ったこともあった。

 あの時は徹夜テンションも相まってとんでもないクオリティを発揮したなぁ。


 ゲーム内で言えば、今考えると黒歴史で封印したい記憶と思えるが「僕が考えたカッコいい装備」を三日三晩徹夜で仕上げたこともある。


 そんな俺からしたらアイドル衣装の一つや二つ仕上げること自体はそこまで難しい物ではない。


「しかし、道具はどうするのです?リベルタが作れるとしても、裁縫道具が無くては」

「そこら辺はさすがに精霊王にお願いして用意してもらいます」


 そして精霊界と言えど、街が存在し、そして精霊たちの生活環境が存在する。


 物作りは精霊たちもする。

 娯楽という分野に飢えてはいるが、そういうことをする精霊がいないわけではないのだ。

 すなわち、この世界にも道具がないわけではない。


「楽器も用意していただけばよろしいのでは?」

「そうだけど、今までの楽器だとアミナの歌唱力に負け始めているんだよな。こっちもそれなりのものをそろそろ用意すべきだと思ってるから、この際楽器も作ろうかなと」


 そして道具があればある程度の物は作れるのだ。


「作ると仰るのは簡単ですが、リベルタ様のご負担が大きすぎるのではないですか?いくら精霊界で時間があるとはいえ、本来であればアイテムを作れるスキルを持った者がすべきことをスキル無しで行うのですから。私共でお手伝い出来ることはそこまで多くありませんし」


 しかし、イングリットの言う通り道具をスキルの補正無しで作るのは並大抵の苦労ではない。


 だけど。


「大変なだけだ」


 苦労するだけの話だ。


「今までやってきたことも大変なだけでできないことではなかった。負担が大きくても、やらなければより良い未来は手元にやってこない」


 苦労を嫌う者はFBOでは大成しなかった。

 色々とコツコツと努力を積み重ねることが多いFBO、色々と根気がいることが多いFBO。


「あれもこれもやってたら、中途半端になるかもしれない。だけど、あれもこれもできるようになれば最強になれる」


 苦労してこそのFBO、苦労した先にこそ達成感がある。

 チートを与えられて、努力しなくても寝て起きたら最強になっているってのも物語のパターンかもしれないが、それでは面白くない。


「なにより」

「なにより?」

「そっちの方が面白い!」


 自分の手でやってきて、そして面白いことをする。

 それができれば最高ではないかと、俺は皆に向けて笑って見せる。


「面白いかぁ、それは重要だね!!」

「そうね、楽しんでやった方がいいわよね」


 アミナとネルは、俺の言葉に共感して頷いてくれる。


「では、それを含めて今後の計画について一つ私から提案があるのですが」

「クローディアさんの案ですか」


 人生楽しんだものが勝者だ。

 そんなことを宣言して、場が和んだタイミングでクローディアからの提案。


 全員の視線が彼女の元に集まったタイミングで彼女はその案を語りだす。


「私たちがこの精霊界で強くなるためにやるべきことは大まかに分けて三つです。一つ、ライブ、二つ、精霊王を含めた精霊を楽しませるための催しを行うこと、そして三つ、我々が強くなるための修行です」


 人差し指、中指、薬指と指を立てながら大枠で俺たちがすべきことを共有してくれる。


「現状、このどの行程にもリベルタが絡み、主軸になっているために彼に負担を強いている状態になっています。それが最善だというのがわかっているからこそそれも仕方ないと言えばそうなのですが、ここは少しでも貴方の負担を軽減できるように動くべきなのではと」

「クローディア様、それに関しては私も思うところはありますが、問題はどうやって負担を軽減するべきかという点ですわ。リベルタの知識や発想はそう簡単にマネできることではありませんし」


 それはわかりきった行程であるが、改めて認識の共有をするというのも悪いことではない。


 ただ、エスメラルダ嬢の言う通り彼女たちにもできることとできないことがあって、そこで何かできるかどうかという点で不安が残る。


「はい。ですがこのままリベルタに任せ続けるのもパーティーとして不健全だとも思っています。なんらかの事故でリベルタとともに行動できなくなったりした場合にパーティー全体が機能不全になる。その未来を懸念すれば、この期間にある程度皆がそれぞれ自分で行動できるようにするというのは悪くないことだと思います」


 しかし、ずっとこれからも俺におんぶにだっこと謂うことにも不安が残るとクローディアが言えば、確かにその通りだ。


 ここまでは俺の知識でできるだけ最高効率で強くなってきた。

 しかし、それは俺という知識と経験というチートを持った存在がいたからこそできる行為である。


「もちろん、すべての行為から脱却出来るとは思っていません。強くなる方法という点では現状ではリベルタの知識から脱却することはできません。その点で私たちが勝手にやってしまえば彼のこれまでの努力を否定することになりますし、私たちとしてもいい結果を招くとは思いません。しかし、それ以外の点でもすべて頼るのは危険です」


 頼らないといけない部分は確かにある。

 だけど、裏を返せばそれ以外で考えて自立できるようにすべきだとクローディアは言っている。


「私やエスメラルダさんはこれまで生きてきた経験がありますから、自立した判断能力はあると思います」


 クローディアは一人旅の武者修行によって、培った経験。

 エスメラルダ嬢は貴族令嬢として貴族社会で培った価値観。


「イングリットさんもいざという時はリベルタを止められるだけの覚悟があります」


 そしてイングリットもグリュレ家の教育で判断基準を持っている。


 問題はとクローディアが見たのは、経験も浅く価値観も形成中で、判断基準が俺の考えに依存し始めているネルとアミナだ。


「ネル、アミナ、あなた方はまだ学ぶ側の存在です。ですが、ここで一つ自分の意志で動いてみるのもいいのではありませんか?」


 俺がいるから大丈夫、そして俺がいなかったら不安だという二極化をクローディアは避けたいと言っている。


「私たちで動く?」

「……」


 アミナは何をすればいいのかと素直に疑問を抱いているが、ネルはその先に不安を抱き、沈黙した。


「はい。もちろん私たちもできるだけリベルタの負担を減らせるように自立できる点は自立しますし、彼にない視点で意見を言えるようになろうとします。ですが、その成長幅はあなたたち二人には及びません」


 レベルという点ではここにいる面々は全員が発展途上と言える。


 だけど、価値観という点で言えば、クローディアたちに較べてネルとアミナはまだ不確定の部分が多い。


「今回の修業期間はレベルを上げるというだけではなく、学ぶという面でもいい機会になるでしょう。そしてあなたたち二人の成長が、未来のリベルタの負担を減らすことに繋がります」


 未来がある。

 将来に期待がある。

 そう言ったクローディアはここまでで一区切りして、ネルとアミナに向けていた視線を俺の方に切り替えた。


「なので、今回の催しとライブの企画はリベルタが行って、二回目の催しとライブをネルとアミナを主体に企画して私たちがサポートするというのはいかがでしょう?」


 クローディアの提案は、強くなるためのことに俺が集中できるようにするための環境づくりをしようというモノだった。


「ネルは商人として、催しを企画することは良い経験になるでしょう。アミナは歌い手としてライブの運営を経験すれば、どのような舞台になればいいかと考えることで良いライブができるようになります。そしてこの二つを彼女たちで自立できるようなれば、リベルタの負担も減ると私は考えます」


 悪くない、いや、俺的には良い案だと思う。


「……やるわ。ううん、リベルタ」


 しかし、二人にできるかという不安があって、もう少し経験を積んでからでいいのではと思い様子見を提案しようとしたが。


「やらせて!」


 それを言わせないように、ネルが不安を振り払ってやる気を見せた。


 堂々と胸を張って、やりたいと宣言する彼女は挑戦することを恐れていない。


「いきなりできるとは思ってないわ。何度も何度も相談すると思うけど、リベルタの隣にいるのならここで逃げちゃだめだと思うの!」


 やれることは挑戦すべきだというネルの宣言に、俺は懐かしい物を見た気がした。


「そうか、ならやってみるか?」

「ええ!やらせて!」


 それは、なんなのかと考えた。


「僕も、ネルには負けられないよね」


 ネルに触発されたからか、それともこのままではいけないとアミナも思っていたのか。


「うん!歌に関してずっとリベルタ君に任せっぱなしって言うのは良くないよね。僕もやってみる!」


 彼女もフンスと鼻息を荒くしてやる気を見せた。


 その言葉に、ふとFBOをやり始めた時の仲間の顔が思い出された。

 ああ、そうか。

 確かにゲームをしているとき、あれやこれやと指示してやるのは効率的だが、新しいことに挑戦するという楽しみは無くなってしまう。


 不安はある、だけど、それ以上に面白そうという感情が勝っている。


 懐かしい、俺もそういう思いがあったなと笑い。


「ああ、頑張れ。何かあったら相談に乗るからな」


 彼女たちの背中を押した。


 となれば、彼女たちの指標となる俺がこけるわけにも行かないな。


「その前に先陣を切る俺が成功させないとネルたちにつなげないからなぁ」


 ちょっと冗談交じりに言いつつ、俺もやる気のスイッチを入れるのであった。





楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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