13 精霊王の招待
『こっちこっち!』
『もうちょっと大きくした方がいい?』
『お馬さん大丈夫?』
精霊回廊を使わせてもらえるとは、アミナが契約精霊から相当な好感度を稼いでいないと、ここまで協力してはくれなかっただろう。
だけど、アミナと契約した精霊たちは率先して俺たちの脱出を手伝ってくれた。
今も精霊回廊を迷わず進めるように先導してくれている。
その先導を頼りに、俺は馬車を操る。
道幅はそこまで余裕はないが、それでも馬車一台が通るには十二分なスペースが存在する。
御者席で馬を操る手綱を握る俺は、馬を心配するフーちゃんの姿を見つつ、精霊石によって輝く回廊を進んだ。
今回の件の反省を、ネルたちは次回に活かせと言ってくれた。
なら、その反省をしっかりと活かすべきなのではないか。
今回は土壇場で精霊回廊という安全に逃げ出すための経路が確保できたが、次も同じようにできるとは限らない。
となれば今後の安全の確保のため、レイニーデビルみたいな巨大な敵にも対抗するために必要な戦力を用意する。
レベルも装備も重要だが、シンプルに戦力を確保するには、やはり人数を揃えるというのが必須になる。
「問題は山積みだけどなぁ」
理想を言うなら、クランを設立したい。
クランは冒険者ギルドや商人ギルドとは違い、プレイヤーが設立する組織だ。
簡単に言えば会社を作るような物だ。
設立するための条件はいくつかあるが、重要なのは拠点だ。
拠点の大きさによって所属できるクランメンバーの人数が決まるから、そこそこ大きな施設が必要になる。
あと、国への申請。
組織を作るにあたって、拠点のある国に申請を出して許可を貰わないといけない。
この許可をもらうためにはいくつか国に貢献クエストをしないといけないんだけど、そこら辺は公爵閣下に手回ししてもらえば楽に通せそうだが。
「でも、一番の問題は人材だよなぁ」
そうやってクランを作るための事務処理の方は、そこまで問題ではない。
俺が頭を抱えるのは信頼できる人材を確保できるか否か。
誰彼構わず呼び込めば、注目されている現状どこぞの貴族様が獅子身中の虫を送り込んできそうな気がする。
かといってエーデルガルド公爵家の身内で固めるのもどうか。
いっそのこと完全に狙い撃ちで戦力的にティア1のネームドキャラを全員集合させてみるか?
国家転覆どころか世界征服できそうな面々が揃ってしまうと、全面戦争待った無しになりそうな予感しかしないが。
一人で悶々と悩んでいても仕方ない。
こういう時に相談しろと言われたので、精霊回廊は暫くの間直線が続きそうなので、御者台から馬車の中を覗く。
「エスメラルダさん、クローディアさん少しいいですか?イングリットも」
マダルダから脱出できたとはいえ、まだ安心できていない面々が、静かに馬車の中で座っていた。
俺が突然声をかけてきたので、その沈黙は破られ名前を呼ばれた面々が反応してこっちを見た。
呼ばれていないネルとアミナが私は?と聞いてきたが、人脈という面ではさすがに二人を頼るわけにはいかないので苦笑気味に笑って今回は御免と謝る。
「実は悩みがあって」
「リベルタの悩みですか」
「私でどうにかなるかはわかりませんが、伺いますわ!」
「微力ながらお手伝いさせていただきます」
俺の悩みは一体どれほどのスケールで考えられているのか、まずはそこを聞きたいが、世界征服が出来そうなメンツを揃えると妄想した自分が少し前にいたためそこはグッと堪える。
「今回みたいなことにも対応できるように、クランを結成した方がいいんじゃないかって思って」
まだ構想段階であることを前提に、どうにか信用のできる人材を集められないかとざっくりと話した結果。
「グリュレ家の人間でしたらその点に関して言えば自信をもってご紹介できると思います」
真っ先に提案してきたのはイングリットだ。
信用と信頼、この二つで存続してきた貴族の家系。
真面目こそ美学と言うのがこの家の家訓だ。
「たしかに、イングリットさんのお家でしたら間違いありませんわね。他の貴族が何か言ってきてもグリュレ家だから信頼したと言えば黙りますわ」
この提案は俺からしたら割とありな選択なんだよな。
どんなに才能があっても裏切られたら目も当てられないが、イングリットの家ならその点の心配がいらないのは大きい。
育成環境も考慮すれば、まだ人を受け入れるには不安があるが、ある意味でクランの構成員の最有力候補だと言ってもいい。
「ちなみに、何人くらい呼べそう?」
「若く、そして私のように外に出れる人員となりますと・・・・・三人ほどでしょうか。親戚にいないか父に確認すれば正確な人数がわかると思いますが、いかがいたしますか?」
「実際に会ってみないと何とも言えないから、とりあえず面談って形で会うことはできる?」
「かしこまりました。屋敷に戻り次第手配します」
「頼む」
その人材を確保できたのは大きいと判断し、次にエスメラルダ嬢の方を見たら、彼女は苦笑して首を横に振った。
「おそらく私の場合はお眼鏡にかなう人材はいませんわ。貴族は良くも悪くも家に縛られるものです。グリュレ家のように積極的に契約を結べて信頼を勝ち取るような生き方もできませんわ」
「教会の人間も似たようなものです。神に仕える身として、あなたの秘密を秘匿することを確約できる人材はそう多くはありませんね」
「ですよねぇ」
三人だけでも確保できたのは大きいか。
「そうなると、クランが結成できない」
クランの結成条件の中に最低人数というのがある。
これは二パーティー以上が結成条件であり、二パーティーなので最低十二人が結成する際の下限になる。
「リベルタ、人を集めるのもいいですがお金は大丈夫ですの?拠点を用意するとなるとそれ相応の予算が必要になりますわよ」
「そこら辺は大丈夫です。金を稼ぐ当てはいくらでもありますので」
そしてクラン結成には何かとお金もかかる。
ゴーレムを作ったり、装備を作ったりと何かと出費が多い昨今。
そしてネルがゴールドスマッシュを使うから着実に貯蓄は減っている。
一応精霊石とかモンスターの素材とか売れる物は売っているが、精霊石は最近ダブつき始めクラスの低い物は値段が下がりつつある、収支はまだ黒字だが、ここで拠点とか設備を整えると一気に赤字になるのは目に見えている。
強くなるってお金がかかるんですよと心の中で言い訳しつつ。
「公爵閣下には買い取っていただきたい物がいくらでもあるんですよね」
「我が家を破産させるおつもりですか」
「しっかりと換金できるアイテムを選びますよ?」
頭の中で換金系のアイテムを手に入れる方法を模索し。
「おすすめのゴールデンゴーレムの核とかいかがです?」
「クラス6のモンスターではありませんか。いったいいくらになるかわかりませんわ」
手っ取り早く金を売るのがいいかなぁと思って提案したが、エスメラルダ嬢は頭を抱えてしまった。
「リベルタ、お金に関しては後にしましょう。クランを設立するにあたって人材確保に関して少しだけ案がありますので」
「案ですか?」
俺なら口にしたアイテムなら確保できるのが目に見えているので、本当に持ってこられたらどうしようと悩むエスメラルダ嬢を脇目に、クローディアが苦笑しつつ人材の確保の案を提示してきた。
「今の学園は実家の権力がそのままヒエラルキーになっています。才能は有れど家格が低いことによって、満足に実力を発揮できていない人も多いと聞いています」
「耳が痛い話ですが、私が在籍していた時もありましたわ。才能が有りそうな子はエーデルガルド家でもスカウトしていますがすべてというわけにはいきません」
クローディアの言いたいことはなんとなくわかった。
実際にゲーム時代にもそんな設定のネームドは何人かいたし、そういうキャラほど有能だったりする。
「でも、俺まだ学園に入れる年じゃないですよ?」
学園に入れるのは確か十二歳からだったはず。
俺の実年齢がわからないから、何とも言えないが。
「そうですね、ひとまずは成長を待ってからという話です。慌てて人を集めても碌な組織になりません。ゆっくりと着実にが良いと思いますよ」
「学園に入るのならエーデルガルド家が後見人になりますわ。陛下も平民の受け入れを推奨しておられますし、試験もリベルタなら問題なく突破できますわ」
少なく見積もっても二年、あるいはそれ以上の時間が必要になるはず。
俺の身体は成長に伴って、どんどん体格は良くなっているが。
「むしろリベルタの場合はやりすぎに注意した方がいいかもしれませんね」
「試験官を倒すのは当然として、その勢いで教官全員を倒してしまうかもしれませんわ」
「全員倒して、早々に卒業ですか。斬新ですね」
「あり得ないと言えないのがリベルタですけど」
「お二人とも聞こえてますよー」
まだ入学ができる年齢には達していないと思う。
クラン設立はできれば早くやりたいけど、慌てても意味がないのはクローディアの言う通りだ。
揶揄われているのはわかるので、俺も笑いながら注意する。
クランの設立は思ったよりも前途多難になりそうだ。
人材、お金、拠点と考えることが多そうな未来に苦笑しつつ、クローディアの提案について考える。
学園に入ることは元々中央大陸への渡航資格を手に入れるために考えていた。
中央大陸は一般人が立ち入ることを禁じられている危険地帯。
冒険者であっても、おいそれと足を踏み入れることを許されていない。
東西南北の大陸の渡航権とはまた別の物。
それ以外で学園に魅力を感じるのはやはり人が集まるということか。
ネームドだけではなく大勢の人が集まり、そして交流できる環境。
そこに信頼できる人がいるかどうかは定かではないが、街中でスカウトするよりは接触はしやすいか。
手綱を握り、前を見つつそのことも考えていると精霊たちの様子が変なのに気付く。
「どうかしたか?」
手綱をゆっくりと引き、そして馬車の少し前で止まってしまった精霊たちに声かける。
『『『・・・・・』』』
俺の声掛けに、困ったような顔で精霊たちは顔を見合わせる。
俺に言いづらいことか?
「アミナ!精霊たちが困っているみたいだ。悪いが話を聞いてやってくれないか?」
精霊回廊で置き去りと言うことはないだろうが、何らかのトラブルが起きたのは間違いなさそう。
「みんなどうしたの?」
俺の呼びかけで馬車から降りてきて精霊たちに駆け寄るアミナの姿を見て、精霊たちも彼女に駆け寄った。
『あのね、あのね』
『王様が呼んでるの!!』
『アミナのお歌が聞きたいって、王様が呼んでるの!!』
さて、何が起きたかと思ったらすごい名前が飛び出してきた。
精霊が王様と呼ぶ存在は一つしかいない。
精霊王ディヴァン。
元々精霊回廊は俺たちの世界と精霊たちの世界、精霊界を繋げるための通路だ。
精霊界とこっちの世界を繋げる際に、間にある亜空間を移動するための通路、それが精霊回廊。
今回はレイニーデビルから逃げるために、裏技で横移動という方法で世界の裏側を通っているのだ。
そんな精霊回廊にいる精霊に呼びかけられる存在は、精霊界を統べる精霊王しかいない。
マジかよと心の中で驚く。
人が精霊界に行くには王の許可が必要。そのためには何度も何度も精霊に関するクエストを行い大勢の精霊の推薦を受け、そして精霊王に陳情してようやく精霊王からの手紙で仮免ということで精霊界に出入りできるようになる。
そのクエストの名は『精霊王の招待』
それと似た形でこのタイミングで招かれるとは思っていなかった。
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