8 虹への挑戦
金演出の輝き。
反射的に叫んでしまうくらいに俺の興奮は一気に頂点に達した。
何事かとエスメラルダ嬢とイングリットが調理場からこっちを見ている。
だけど、俺は目の前で黄金の輝きを発するスキルスクロールから目を離すことができない。
「び、びっくりしたわ」
叫んだ所為でネルを驚かせてしまった。
「すまん、つい」
「もう、リベルタ君いきなり叫ばないでよ。この子たちもびっくりしちゃったよ」
金演出の価値を正確に理解しているのは俺だけだから、パーティーメンバーである彼女たちと精霊たちはなぜここまで俺が喜ぶのかを理解していない。
温度差があるのは仕方ない。
そして、そんなことを気にしている場合じゃない。
虹演出ででるスキルには一歩譲るが、金演出で出るスキルもかなり有用なスキルが多い。
一線級と言ってもいい。
今のクラスであれば、十二分に戦力を強化してくれるスキルであるのは確実だ。
「悪い。だけど今はスキルの確認を優先させてくれ」
オークションで手に入れた古代の武具の時の赤演出の比ではない。黄金の輝きに魅入られた俺は皆への謝罪も少しおざなりになってしまう。
「そんなに気になるの?」
「ああ」
スキルスクロール化した、写し紙だったものをネルから受け取り固唾を飲みゆっくりとスクロールを開き中身を確認すると。
「ヨッシャァアアアアアア!!!!!」
再び叫びガッツポーズを取ってしまった。
ネルは両手で耳を抑え、アミナはびっくりする精霊たちをなだめている。
「ありがとうネル!お前は幸運の女神だった!!」
そのまま興奮が冷めやらず、思わずネルを抱きしめてしまう。
「え、ちょっと!?」
そしてそのまま回転する。
クルクルと回っている間、俺の高笑いが辺りに響き困惑したネルの顔が周囲にさらされる。
回って、回って、そして数秒間も笑いながら回っていると。
「お、落ち着いた?」
「ああ、少し興奮してるけどマシになった」
多少は冷静になる。
だけど、表情はさっきからニッコニコと笑顔を維持している自覚がある。
「どうやら良いスキルが出たようですね」
会話ができるようになったと判断されたか、クローディアが苦笑しつつ話しかけてきた。
「ええ、それはもう。これがあれば今後の戦いはかなり楽になりますよ」
「あなたの喜び方から察するに、あなたが使うスキルのようですね」
浮かれた俺に対して周りはそういう冷静な対応になってしまうのも仕方ないとは思いつつも、俺は堂々と手に入れたスキルスクロールを見せる。
「ミラージュフェノメノン、このスキルがあれば手数が倍増するっていう強力なスキルですよ!!」
日本語直訳で幻影の現象。だが、効果的には鏡の現象の方がより近い。
このスキルは攻撃スキルに反応して、任意の位置に鏡を出現させ写しの攻撃を発生させる。
俺の場合は首狩りや心臓打ち、そしてマジックエッジも適応されるが、このスキルで重要なのは鏡の出現場所と写せるスキルだ。
俺の切り札となるスキルは首狩りとか心臓打ちとか相手の急所にピンポイントで攻撃を叩き込むことが多く、躱される場合も多い。
相手も急所を攻撃されるのを避けたがるのだから当然と言えば当然だ。
それをこのスキル、ミラージュフェノメノンがあれば命中率を格段に上げられるし、場合によっては写した攻撃で同時に二発の攻撃を当てられるようになる。
これに無名の暗殺者が手に入れられるユニークスキルが合わさるとやばいことが発生する。
「ネルやイングリットにも使えるスキルですけど、二人の場合だとちょっとスキル相性が悪いのでここは俺が使わせてもらいます」
「聞いたことのないスキルですし、実際に使って見せてもらったほうがいいのは確かですね」
「ネル、いいか?」
「そんな不安そうな顔をしないでよ。リベルタが使った方が良いって言うなら反対しないわよ」
「助かる。これで間違いなく俺は強くなれる」
出したのはネルで、このスキルはネルも組み込もうと思えば組み込めるスキルだ。
だけど、優先して使っていいと許可が出るのなら遠慮せず使わせてもらおう。
「覚えたの?」
「ああ」
そしてスクロールを消費して、しっかりとステータスにスキルが追加されたのを確認する。
「さっそく使ってみるか」
幸い、ここはダンジョン内。
馬車を収容したこのエリアにもたまにモチが跳ね回っているが、奥の方に行けばさらにモチがいる。
イングリットたちは夕食の用意をしていて手が離せないが、ネルにアミナ、そして精霊たちの後ろにクローディアと続き、俺の新スキルを見ようとついてくる。
モチはあっさりと見つかり、無邪気に跳ねている。
その一体に狙いを定め、俺は鎌槍を構える。
普通に攻撃しても一撃で屠ることのできる雑魚モンスターであるが、今回はスキルを使っての攻撃。
発動させるスキルは心臓打ち。
「え」
その突きを発動させ、攻撃に移る直前にミラージュフェノメノンを起動させる。
アミナの驚きの声が聞こえるが、突然鏡が俺の隣に出現し、その鏡に映し出された俺の像が俺と同じ動きをする。
突然分身した俺の攻撃は、ほぼ同時にモチに直撃し中心部を捉えモチは灰となり消え去る。
「これがミラージュフェノメノン。最低レベルだから発動できる範囲も狭いし、起動時間も短い。おまけに発動させると鏡の消費魔力に加えて、攻撃二回分だから合わせると単体のスキル攻撃の使用魔力の三倍は持っていかれます。鏡に写した側の攻撃力も現状では元値の十パーセントとかなり低い」
レベルが低いから欠点が目立つようなスキルだけど、普通に考えて、いきなり攻撃が二つに増えるというとんでもない攻撃スキルだ。
「有用なスキルというだけありますね。初見で出されれば私でも避けられるかどうか」
真っ先にこのスキルの有用性に気づいたのはクローディアだった。
攻撃の手数がいきなり増える。
接近戦でのこのスキルの優秀さというよりは、怖さに気づく。
「鏡の像を攻撃されたらどうなります?」
「物理的な実体がありますけど、攻撃力全振りなのでそこまで耐久値はありませんね。普通に攻撃されたら消えます」
「となれば全体攻撃で迎撃は可能ということですか?」
「全体攻撃って結構モーションが大きいので、接近戦状態だと対応できなくはないけど難しいといったところですね。今は鏡に写した側の攻撃力が低くなりますけど、クラス10まで上げれば攻撃力は減少しなくなりますし、攻撃速度はクラス1でも変わらないですよ」
このスキルの優秀なところは、任意の場所に鏡を出現させることができること。
クラス10まで上げることができれば、自分の半径五メートル地点までは出すことができる。
それこそ、いきなり相手の背後に出して不意を突くなんてこともできるようになる。
「おまけにこの鏡、クラス5で出せる枚数が一枚追加されて、クラス10でもう一枚増えます」
「本体も含め同時攻撃が四方向から来るということですか」
「まぁ鏡を出した分魔力は消費しますけどね。その消費魔力を気にしなければ、上下左右自在に四方向同時攻撃ができるっていう激やばスキルです。おまけに出せる枚数も調整できますんで」
「相手は四方向を常に意識しつつ、使い手は枚数を調整してかく乱できるということですか。槍の刺突攻撃だけではなく、リベルタの場合は鎌の横薙ぎもある分厄介ですね」
対人戦とか乱戦向きのスキルなのだが、今後のことを考えるとこのスキルをこのタイミングで手に入れられたのはかなり大きい。
「そう、厄介なんです!!敵から言われる厄介っていう言葉、正直俺からしたら誉め言葉なんですけどね!!」
使い方はかなりコツがいるが、成長して使いこなすことができると大化けするスキルでもある。
おまけにクラス10まで育成すれば心臓打ち×4というバカみたいな火力を叩きだせる。
シンプルに攻撃力が四倍になるというおかしいスキルだ。
代わりに、消費魔力が鏡一枚につき鏡を出現させる魔力プラス心臓打ちの魔力と、合わせると三倍になるから、それがさらに鏡三枚分となると魔力消費がヤバイ。
「エスメラルダさんが使うと範囲魔法を四つ同時に放つこともできるんですか?」
「できますけど、一回で魔力が枯渇しますね。正直魔法使いとの相性はそこまで良いわけじゃないんですよ。元々魔力消費が多い魔法使いですし、このスキルが加わると一回の殲滅能力は上がりますけど、継戦能力は駄々下がりになります」
「近接攻撃のように、単体火力の魔法ならどうですか?」
「そっちを撃つなら範囲魔法を撃った方が燃費も火力も効率がいいんですよ。やっぱり三倍というコストが足を引っ張りますし、魔法使いみたいに遠距離職だと近接戦みたいに背後から不意打ちなんてこともできませんし、やるとしたら横一列に並べての絨毯爆撃みたいな使い方になるんですよ」
このスキルは燃費の悪さゆえに金枠のスキルだが、性能自体は虹級だ。
惜しむらくはその燃費の悪さが足を引っ張って、遠距離戦よりも近距離戦に向いているという点。
それを解消するために、ステータスを魔力全振りしてさらに魔力回復系統のスキルと魔力を増やすパッシブスキルを取り固定砲台ルートという方法もなくはないが、撃たれ弱さに定評のある固定砲台はこの世界ではリスクしかないので今回はスルーだ。
このスキルを手に入れたからには近接戦を主体とするミミックアーマーの狩り効率がうなぎのぼりとなるわけで、早く明日になってスキルを使いたいという欲求が湧き出てくる。
新しいおもちゃを与えられた子供のような感覚が強い。
しかし、興奮しているのもいいが、このスキル以外にもまだまだ取りたいスキルは色々とある。
「まぁこのスキルがかすむほど虹スキルっていうのは魅力的なんですけどね」
「これ以上ですか。あなたが言うのですから本当に強いんでしょうね」
「出てくる確率が低い上に狙ったものが出るかどうかはさらに確率勝負になりますけどね」
ネルとアミナ、イングリットとエスメラルダ嬢、そしてクローディアと俺を含めて六人分のスキルを獲得するとなればネルであっても出すのは時間がかかるはずだ。
初日からしたら幸先がいい駆け出しになるが、幸先が良い時は大抵その後が続かないパターンが多い。
明日は下手したら金どころか赤も出ない可能性も十分にある。
『アミナ、アミナ』
「ん?どうしたのミーちゃん」
明日はどうなるかと思っていると、アミナの腕の中に納まっていた水の小精霊のミーちゃんがアミナの服を引っ張った。
『雨が来る』
「え?」
そして彼女はダンジョンの外を指さして、天気が変わると宣言した。
「本当だ、空に雲が」
アミナはそのまま外に出て、空を見上げるとそこには晴れ渡っていた空から一転どんよりとした雲が来る。
『いっぱい、雨が降る』
「どうしようリベルタ」
その天気は本来であれば決してありがたい物ではない。
視界が悪くなればモンスターの発見がしづらくなり、音も聞こえにくくなるから不意打ちの危険性が高くなる。
雨で体が濡れれば体は冷える。
そうすれば自然と体力の消耗も激しくなる。
そして整備されていないマダルダでは、雨が降れば地面がぬかるみ普段通りの動きができなくなる。
普通に考えれば、明日が雨なら狩りを中止してこのダンジョン内に引きこもるのが上策。
「……ミーちゃん」
『ん?』
だけど、それは普通ならだ。
俺は真剣な顔で、アミナの腕の中に納まる小柄な水の小精霊に優しく問いかける。
アミナの友達という括りで、彼女は俺の方を不思議そうに見ていても質問には答えてくれる。
「いっぱい雨が降るんだよな?」
『うん』
「どれくらい降るかわかる?」
『んー、朝からずっと?』
「そうかぁ、ずっとかぁ」
その質問の答えを聞いて、俺はニヤリと笑う。
「明日は早起きだな」
そして雨が降るというのに俺は早起きを決めるのであった。
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