2 古代遺跡マダルダ
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かつて南の大陸はいくつもの国に分断統治されていた歴史がある。
いまでこそ一国に統一統治されているが、今の国は五百年ほど前の群雄割拠の戦国時代に現れたとある英雄が、長い戦乱の末に一国にまとめ上げて生まれた国だ。
マダルダという国は戦乱の時代に滅んだ国の一つで、主に大陸の南西沿岸部を統治していた小国家だ。
はにわが住み着いている遺跡のように、マダルダのあった地域には過去の栄えた時代の遺跡がいたるところにあるのだが、今回はその中の一つ、マダルダの都の城塞都市の古代遺跡に挑戦しようというわけだ。
「リベルタって馬車も扱えたんだ」
「踊ったり、楽器を弾けたり、料理も作れて、リベルタ君ってできないことがないの?」
「俺にも苦手なことはあるぞ」
「例えば?」
その場所に移動するのは、毎度のことだが馬車を使っている。
俺が王都を離れることに公爵閣下たちは微妙な顔をしていたが、遠征を制限できる理由がないのと、兵士の訓練と謂う仕事と家族が安心して住める居住地を与えてくれた公爵閣下に感謝しているヒュリダさんが俺の留守の間のフォローをしてくれると謂うことで納得してもらって、俺を含め六人で旅をしている。
エスメラルダ嬢は公爵令嬢なので護衛が必要かと思ったが 、
『お前ならエスメラルダを守ってくれると信じている。第一お前よりも強い輩がそうそういてたまるか』
とのことで半ばあきらめ顔ながら、外装こそシンプルにしているが軍馬と野営用の設備がついている軍用の馬車を用意して送り出しているあたり、娘のことはしっかりと心配している。
二頭立ての馬車であっても引いているのは軍馬。
力がありかなりスムーズに旅することができている。
「うーん、掃除とかあんまり好きじゃないから手抜きしちゃうね」
「その点に関しましては私がおりますのでお任せください」
「確かに屋敷で働くメイドよりもイングリットさんの方が綺麗に掃除していますわね」
荒れた道も何のその、素直に言うことを聞いてくれるし見た目がごつい軍馬と軍用馬車のおかげか襲われる心配もあまりない。
御者席には俺だけしか座っていないが、窓が御者席のすぐ後ろについていて会話ができるようになっている。
「パーフェクトメイドの二つ名は伊達ではないんだよな。生活スキル関連の補正は随一。さらに、器用補正と速度補正、スタミナ補正も入るからメイドならこの二つ名以外ありえないしな」
主である俺に御者をさせることをイングリットは王都から出発する際には難色を示していたが、護衛も無し、それでいて女性の御者というのは安全面のことを考えるとあまりよろしくはない。
それなら完全武装の沼竜装備を着こみ、さらに槍を持っている俺が御者をした方が、小人族の戦士が護衛していると勘違いしてくれて安全と判断して納得してくれた。
「パーフェクトメイド・・・・・取るのに苦労しました」
イングリットのジョブ獲得には俺の次に時間がかかった。
アミナとネルが一発で取ってしまったから、意外と最適二つ名のジョブ獲得は簡単なのかと勘違いしがちだけど、本来であれば何度もリセマラして獲得するのが常だ。
俺は少し時間がかかり過ぎだが、イングリットも少しトーンが下がるくらいには苦労はしている。
とは謂っても獲得に要した期間は三週間と、平均よりはだいぶ少ない時間だ。
取った二つ名はパーフェクト。
完璧を意味するこのジョブ効果はさっき言った通りで、獲得条件は四つ。
一つは生活スキルをアクティブ、パッシブ問わず三つ持っていること。
これはエアクリーン、サーモコントロール、生活魔術の三つを持っているから問題はない。
二つ目は秩序関連を統括している女神メーテルの分神殿で祈りを捧げ、指定された箇所の環境を一定期間保全すること。
三つ、環境保全は一人で行うこと。
「四つ目の条件が鬼畜だったよなぁ」
「はい、心が折れるかと思いました」
一つ目は達成済みで、普通のメイドになるのなら二つ目までの条件で大丈夫。
三つ目の条件で二つ名が付与されるようになり。
「四つ目の条件、誰が見ても文句を付けられないようにする。うん、絶対に文句を言ってくるような輩がいたら成功しない条件だよな」
一定期間という条件は、試練を受注するたびに設定されるから運要素になるが、最大で一週間、最小で三日だ。
ここはまだいい。
問題は環境を保全する場所なのだが。
「大通り一本を一週間保全し続けるのは無理でした」
「しかも無休で無賃金だしな」
「……あと二日というところで失敗してしまいました」
イングリットが最初に女神メーテルから与えられた環境保全箇所は、王都の中で南門から中央に伸びる大通り。
物理的な面積も広ければ人通りも多い。
清掃活動だけでも一人でやるには広すぎるし、人通りも多いということで正直外れ枠だ。
そんな場所でも五日間、ステータスをゴリ押しして朝、昼、夕と三回に分けて清掃活動と困った人を助けるという慈善活動をし、俺たちもイングリットのサポートに回ったが。
「あの喧嘩さえ、あの喧嘩さえなければ」
予想外のことは常に起きる。
イングリットが失敗した原因は、荒くれ者同士の喧嘩が発生したことだ。
当時は衛兵もでるほどの騒動になり、道は騒然、そして実況見分ということで現場封鎖。
それは仕方ないだろうとツッコまれそうな内容だけど、そこは神の試練。
完全を目指すなら、それくらいは対応しろと言わんばかりにその時の試練で得られたのは別の二つ名。
「三週間で取れたのは御の字だよ。俺は三か月かかったからな!!」
そのあとの試練受注で最低数の三日を引いて、無事にパーフェクトの二つ名を獲得できたことは嬉しい限りだ。
『イングリット・グリュレ クラス4/レベル200
ジョブ パーフェクトメイド
称号 働き者
基礎ステータス
体力1000 魔力1000
BP 0
EXBP 0
スキル11/スキルスロット14
杖術 クラス10/レベル100
刀神術 クラス10/レベル100
居合切り クラス10/レベル100
調理術 クラス10/レベル100
料理 クラス6/レベル60
解体 クラス10/レベル100
エアクリーン クラス10/レベル100
サーモコントロール クラス10/レベル100
生活魔術 クラス10/レベル100
清掃 クラス8/レベル98
気配り クラス5/レベル28』
そんなイングリットであるが、無事にレベルはクラス4カンストでスキルも一定水準の欲しいものは得られている。
二つ名獲得試練中は、一瞬の不祥事にも対応しようと気を張っていた所為かピリピリしていた。
あんな切羽詰まった雰囲気を漂わせるイングリットは初めて見た。
下手したら殺意の〇動なんてものに目覚め、環境を保全するために邪魔する輩は全て掃除しなければなりませんとか言い出さないかちょっと冷や汗をかいたのは秘密だ。
「あの時はご迷惑をおかけしました」
「仲間だろ?それに一緒に頑張るのって楽しいからな!」
それを助けてあげたいと思ったのは普段の生活で本当に世話になっているからだ。
炊事洗濯掃除。
本当だったら俺もやらないといといけないことをイングリットは自分の仕事だと言い、俺の方が忙しいからと文句の一つも言わずに完璧に仕上げてくれる。
そのおかげで、公爵閣下からの依頼やネルたちの育成に集中できる。
サポートしてくれることは本当にありがたいことだ。
何かプレゼントでも考えるべきか?
「っと、見えてきたぞ!」
さすがにここで強さに直結するような系統のアイテムを贈るよりも女性が喜ぶものがいいよなとか思っている最中に目的地が見えてきた。
「あれが、マダルダ」
「大きい」
「意外と形が残っておりますのね」
ハニワの生息するダンジョンとは違い、ここの遺跡は原形が残っている。
城塞都市だったマダルダの都はその堅牢さから数百年の年月を経てもなおその原形を残している。
「住むにはモンスターの沸きポイントが出来すぎて難しいけどな」
と謂っても城壁は崩れ落ち、あちらこちらから入り込むことができる上に城塞都市周辺にはいくつかのアクティブモンスターの沸きポイントが発生してしまっている故に都市部内にもモンスターが入り込んでいる。
「モンスターが多いのだったら冒険者も来てるの?」
「んー、ここは複数のモンスターを相手にしないといけないから少し特殊なんだよ。おまけに安全地帯がないから、休憩するにもマダルダから離れた場所に野営地を築かないといけないから狩り効率も悪いんだ」
「街からも離れているから補給も難しいのね」
そうなれば冒険者にとって美味しい狩場になってもおかしくはないのだが、生憎とこの世界の冒険者にとってはここはあまり美味しいとは言い難い。
互いのモンスター同士で戦いあい、数を減らし合っている中でごくまれに進化した強い個体が徘徊しているということも相まって危険地帯と化している。
だいたい強さの均衡が保たれているから早々にバランスが崩れることはないので、ここら一帯を管轄している貴族も巡回の見張り兵を置くだけで済ませている。
「街道が一応モンスターの縄張りの境界線になっているから街に入ること自体は難しくはないんだけど、街に入ったらモンスターに襲われるからそろそろ準備してくれ」
ここから先はモンスターの縄張り。軍馬はモンスターにも怯えずしっかりと進んでくれるから助かる。
「わかったわ」
「では、私は馬車の上に参りますわ」
「僕も!」
「ええ、一緒に参りましょう」
ここから先は戦闘態勢に入る。
それと一緒に遠くから狼の遠吠えが聞こえ始める。
「見つかったな」
マダルダ周囲にいるモンスターは全部で五種類。
北から時計周りに、狼系のモンスターであるグレイハウンド、猿系のモンスターであるスロウモンキー、鳥系のモンスターであるバレットクック、猪系のモンスターであるヘルメットボア、そして一番面倒なモグラ系モンスターであるスポットトンネラーだ。
警戒心が強いのは狼であるグレイハウンドだ。
ちょうど街道が北東から伸びているから、片側に接する縄張りがグレイハウンドのものでそこに触れるように動いている俺たちを警戒しているのだろう。
「リベルタ」
「大丈夫、街道を通っている間は攻撃してこないよ」
反対側に接するのは猿系のスロウモンキーの縄張り。
この二種は文字通り犬猿の仲。
互いに入り込んだら人間などお構いなしにモンスター同士で戦いあうゆえに、お互いに境界線である街道は襲わない暗黙のルールがある。
馬車を一旦止めて、周囲を警戒するネルが耳を動かしているということは、こっちを見張っている個体がいるということ。
馬もそれに気づいて気が立ち始めている。
ハルバードを握りしめ、警戒するネルは俺の言葉に頷くがそれでも周囲への警戒は解かない。
気を張りすぎていないのがわかっているからそれ以上言わず、馬車をマダルダに進める。
「止まって!城門のところで誰かが戦っているよ!」
そしてこのままいけばモンスターがはびこるマダルダに入り込めそうというタイミングで馬車の上で警戒しているアミナが翼で城門の方を指さすと、確かに人型の何かがグレイハウンドの群れと戦っているのが見える。
「冒険者でしょうか?」
馬車の左側を警戒していたイングリットが御者席の隣まで進み前を見るが。
「いや、あれもモンスターだ」
「あれが?人のように見えますが」
「まぁ、見た目は人型に見えるけど中身がなぁ」
そこには槍や剣を振るう鎧を着こんだ兵士のような恰好をした奴がいた。
一見すればそれはここいらを警戒する兵士の部隊とも見えるが、よく見ると武具は錆びて、攻撃も力任せなのが多い。
「アレが目的のモンスター、ミミックアーマーだ」
人の姿をして、人を騙し、人を襲うモンスター。
あのモンスターこそが今回の目的のモンスターだ。
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