1 挑戦
新章突入です!!
こんなことをしていると、俺たちは戦闘をメインにしているパーティーではなく、音楽をメインにしているグループかと錯覚しそうになる。
「みんな!!今日も全力で楽しもう!!」
大勢の観客。
眩いスポットライト。
『『『『『『『『イエエエエエエエ!!!!』』』』』』』』
アミナの掛け声で会場全体に響く歓声。
俺たちが用意したアミナのキャラクターTシャツを着こんだ精霊たちや、団扇を掲げる精霊たち。
なんというか、異世界の精霊たちは完全にアイドルという物にドはまりしているというのがよくわかる光景。
娯楽が少ないこの世界にアイドルやら、ガチャなんて物をぶっこんだ俺が言うのもなんだけど、人生ならぬ精霊生を楽しんでるなぁ。
「さぁ参りますわ!!」
「行くわよ!!」
そのボルテージを冷まさないように、エスメラルダ嬢の太鼓とネルのカホンがリズムを刻み始める。
力強い二人の音に精霊たちも体を揺らし、サイリュームを振り、歌が始まる前だというのに目を輝かせている。
ここから始まる時間を最高の物に変えよう。
アミナと会場が一体化することで、楽しいを伝播させよう。
そんな気持ちをぶつけられてしまえば、演奏をする俺たちの胸にも熱い何かが沸き立つ。
最近は色々とありすぎて気疲れしてたから、きっかけは少し強引だったが、こういうライブで盛り上がるのも皆の気分転換になって良いものだ。
二人の刻むリズムに合わせ、俺のリュート、イングリットのハープ、そしてクローディアの笛の音色が重なる。
全ての楽器に拡声のスキルを付与しているから、精霊たちが丁寧に作った舞台から観客席全体に楽器の音を響かせることができる。
なら、たまには頭を空っぽにして音楽を楽しむ。
これもまたゲーマーの性なのかもしれない。
「♪~」
アミナが歌い始める。
最初はやっぱり定番の曲からと、前回のライブのとき受けが良かった曲を先頭に持ってきた。
それに加えて今回は、アミナが軽快にステップを刻み始める。
イナゴ将軍のレイド戦の時のように少し不器用なステップではない。
踊ることを体にしみ込ませた綺麗な踊り出し。
クラス4になりステータスに余裕ができ、スキルで舞踏術を取ってさらにスキルショップで見つけたボルテージダンスを取ってやれば、アミナのアイドルとしてのスタイルはようやく完成形に近づいてきた。
ボルテージダンスの効果は味方全体に、補正力は低いが持続時間が長いステータスアップを与える。
継戦能力の向上を狙ったスキルなのだ。
歌って踊ってこそのアイドルで、これで歌スキルと踊りスキルが揃ったわけだ。
踊りに関しては俺が仕込んだ。
え?俺が踊れるのがおかしいって?
これでも一応ブレイクダンスや、タップダンス、さらにオタ芸やらと様々な分野のダンスを網羅してきた男だ。
なぜそんなことができる?必要だったからだよ。
踊りスキルって歌スキルと一緒でガチの実力勝負になるビルドだから、このビルドで活躍するためには踊りもできるようにしないといけなかったんだよ。
幸いにしてVRゲームの中でフルダイブ型ダンスゲームがあったから、そっちに出張して覚えました。
一種の音ゲー感覚でやりはじめたらドはまりもしましたよ!!
その時はFBOとそのゲームの二足のわらじで、寝不足だったな。
おかげで社会人になってからは宴会芸でブレイクダンスを披露するという役立ちがあった。
まぁ、ゲームと違って、体が思ったように動かず、何とか披露しても次の日は筋肉痛で悩まされたけどな。
「次の曲は、なんと新曲です!!披露するのもここがはじめてだよ!!」
それが今では全力で演奏しても指がつることもなく、もたつくこともなく軽快に演奏できるんだからな。
一曲、二曲くらいであれば日本にいたころでもなんとかできたかもしれないが、それ以上になったらもう体力はついてこなかっただろう。
「まだまだ行くよ!!」
この世界にはライブに時間制限なんてない。
アミナが楽しくて仕方ないと言わんばかりに全力で歌い、そして汗を流し、それでも笑顔で次を求める。
楽しむということを全力で成し遂げている。
なんだろう、最近は色々と周囲に振り回されている俺とは違ってアミナは初志貫徹を体現している。
歌いたい、楽しみたい、聞いてほしい、聞きたい。
彼女の望むすべてを実現できている。
対して俺はどうだ?
ここ最近は仕方ないにしろ、だいぶ振り回されているような気がする。
その事を考えると俺も行動指針を今一度考え直す必要があるのではないだろうか。
指が音楽を奏で、頭の中はだんだんとそっちの方に集中していくが、これからのことに思いを馳せたその部分だけはしっかりと記憶に残す。
結局のところ、俺たちはレベルを上げすぎた故に。
「あー、もう、朝だぁ」
「徹夜でライブをするとか、マジで何やってるんだろうな俺ら」
精霊たちが用意してくれた休憩用の山小屋でぐてーと体を投げ出すのであった。
「う、腕がもう上がりませんわ」
「私も掌の感覚がないわ」
被害甚大なのは、アミナではなく打楽器担当のエスメラルダ嬢とネルだった。
リズム隊の二人のうち、エスメラルダ嬢はもうすでに握力もなくなって飲み物すら飲めない状況。
ネルも掌の感覚が無くなってしまっているほどカホンを叩きすぎて、手が真っ赤だ。
「止め時を決めておくべきだったな。アンコールが鳴りやまないからって飛ばしすぎた」
心地よい疲労感はとっくに過ぎ去っていて、やりすぎた感が半端ない。
「とりあえず、アミナはポーションを飲んでおけ。これからも歌いたいんだろ?」
「ありがとう。うん、さすがに僕も歌いすぎたよ。楽しかったけど」
俺はひとまずマジックバッグからポーションを取り出し、皆に配った後に俺も飲む。
「はぁ、ポーションが身に沁みますわ」
「大丈夫ですか?だいぶ辛そうでしたけど」
「このような疲れ方は初めてですが、良い物ですわ。もう、こんな楽しいことを今までやってきたんですの?」
お嬢様育ちのエスメラルダ嬢は、俺たちパーティーで一番ステータスが低いのだがそれでもついて来れていた。
その理由は間違いなく楽しいという感情が先行したからだろう。
本当にそれ以外の理由で、ここまで頑張れた理由がわからない。
「うん!といってもこうやってライブをやるのは二回目だけどね。あとは戦いながら歌うことが何回かあったよ」
「戦いながら歌うんですの!?」
「リベルタ君たちに守ってもらいながらだけどね。僕の歌がみんなの力になるんだよ!!」
「普通にバフ効果がえぐいんですよ」
王都のスタンピード防衛戦の際に商店街で歌うアミナを見ている筈だが、あらためてアミナの説明に驚くエスメラルダ嬢もなんだか新鮮だ。
普通に考えて歌手が戦場にいること自体がおかしいのだ。
しかし、バフを振りまくという点においては歌い手はFBO最強格なのだ。
よく物語とかで、歌うことで応援するとかそういう演出があるけど、アミナの場合は物理的に味方を強くして援護するからな。
歌わせない理由がない。
「リベルタ」
「あ、はいなんでしょう?」
そうやって徹夜明けのテンションに浸っている最中に、クローディアが水の入ったコップを机に置き話しかけてきた。
「今回のライブで、あなたが頼まれていることは一通り片付いたと考えてよろしいのですか?」
「一応、終わったと思っていいですよ。文官育成のマニュアルは作って公爵閣下に渡してありますし。ヒュリダさんたちのことはひとまず公爵閣下にお任せしておけば問題ないでしょう。公爵夫人のお願いは実質いつ受けるかは決めてませんから」
その内容は今後の俺たちの行動指針の話だ。
前にも話したが、その時と今では状況もだいぶ変わっている。
「では、今後についてはもう決めているのですか?」
「壁越えの準備期間に入ろうと思っています」
偶然にも風竜や狂楽の道化師と戦うことになって、低レベル撃破なる縛りプレイを実行してしまった。
やらねばならない。そう思ったからやりきったが実際は綱渡りの連続だった。
強くなることで安全になる。
その認識を再度して、頭の中には常に育成プランを走らせ続けた。
「ここから先は、成長がしづらい時期に入ります。敵は強くなり、成長は緩やかになり、リスクとリターンのバランスがリスク側に傾き始めるのに対応する必要があります」
疲れた体であっても常に考え続けていたことだから、すらすらと言葉は出る。
計画はあくまで予定、この現実の世界でその予定が常に実行されるとは思ってはいない。
「そのためにはこのクラス4での育成が重要になります。ステータスだけではない。スキル、称号、ジョブ、武器、アイテム、そして経験」
ゲーム難易度的にクラス4まではチュートリアル的なラインだと俺たちFBOプレイヤーは思っている。
「クラス5になれば這竜や沼竜と謂った中ボスクラスのモンスターが通常の対戦相手になります」
「「「「・・・・・」」」」
ボスモンスターとして戦ってきたモンスターがモブに成り下がる。
風竜の取り巻きとして飛竜と戦ってきたが、特化火力を出してもすべてを掃討しきることはできなかった。
「その中ボスクラスを余力を持って倒せないとこの先には進めません。ここからしばらくは地盤固めです」
我ながら駆け足で進んでこれたと思うが、その足を一度止めるタイミングが来たということだ。
「地盤固めですか。その点に関しては私も賛成します。なにをするつもりですか?」
スキルスロットはひとまず全部埋め、そしてパッシブスキルは一段階の進化余地を残して全部神級まで持っていく。
武器もいろいろなクエストに手を伸ばして揃えられるところは揃える。
しかし、何より優先すべきことは。
「はい!古代武具集めです!!」
ガチャだ。
「「「「「?????」」」」」
ここまでのしっかりと計画はありますと言っているような口ぶりから一転、なぜガチャ要素の大きいアイテムを収集するという話になるのか女性陣はいっせいに首を傾げた。
「狙いは序盤チートです!!」
「序盤チート?リベルタ、何それ」
「序盤では手に入らないような代物を手に入れることでそのレベル帯での戦闘を格段に楽にすることだ」
レベル的に今まで避けていたが、強さ的には安全マージンは確保できた。
古代の武具集めには一定の強さが必要だが、今の面々がいれば十二分に周回してアイテムを集めることができる。
ゲームをしていると経験があるかもしれないが、明らかにその時のモンスターで手に入る金額を大幅に上回る装備が店で売っていたり、ちょっとした方法を試すと中盤の後半で手に入るような装備が序盤に手に入ったりすることがあるだろう。
FBOでそれができるのは古代の武具、所謂、チートスキルが低確率であっても封入されているアイテムだけだ。
クエストではある程度、上位クラスの装備は手に入れることはできるが、やはりそのレベル帯にあった装備しか手に入れることはできない。
であればスキルをチート化して、現状の戦闘バランスをリスクからリターン側に天秤を傾ける必要がある。
「それって、前に言ってた天声術のこと?」
「他にもいろいろあるが、そう言うことだ」
そのために必要なクエストは公爵閣下には内緒で調べてある。
さすがに今これらのクエストを荒らされるのは勘弁願いたいからな。
「アレがあればアミナの歌スキルが格段に強くなるからな。他にも魔法スキルでチート級の物もあれば、武闘関連スキルでやばいスキルも色々とある」
かなり運要素が必要になる方法で、普通に攻略した方が早いだろとツッコミが入るが。
「そのための鍵となるクエスト」
それでもやらねばならない時がある。
「古代遺跡マダルダ発掘クエストをここで攻略する!!」
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