25 ふと思う
ライブの練習もいいが、レベリングをないがしろにするわけではない。
俺が次に挑むべきクラスは4であり、ネルたちがすでにクラス4のレベリングを完遂しているということは、その手段を持っているということだ。
「ネルには足を向けて寝れないね。本当に感謝してますよ」
「これくらいなら任せてちょうだい!!」
そのダンジョンの鍵を手に入れた張本人に感謝の言葉を述べつつ、今回の現場に挑む。
今回戦う敵は、ゴーレム種だ。
ゴーレム種と言うとはにわを思い浮かべるが、今回も少しと言うか、一風変わったゴーレムを相手にする。
ゴーレムはこのFBOの世界では各大陸ごとに特徴が出るタイプのモンスターで、今回ネルに頼んでダンジョンの鍵を狙ってもらったのは南の大陸限定のゴーレムビッグヘッドだ。
このゴーレムは、王都から南の街道を進み、そして街道の途中から枝分かれする山岳ルートに入り、その山岳地帯の中にある古代遺跡の残骸付近にその湧きスポットがある。
転移のペンデュラムで指定位置を確保して、修練の腕輪を装備した状態でネルにダンジョンの鍵確保に走ってもらったが、まさか一日で達成してくるとは思わなかった。
ネルほど勝利のブイサインが似合うキャラはいないだろうなと実感させる、そのぶれない強運はRTA走者なら血涙を流すほど欲しがる才能だろう。
そんなネルが確保して来てくれたビッグヘッドダンジョンの鍵で生成されるダンジョンに生息するモンスターは、その名前通り頭がでかいゴーレムだ。
一応アイアンゴーレムの派生形ということで、全身が鉄でできている。
しかし一番の特徴は、胴体が省略され巨大な頭部から直接ごつい手足が生えているという、なんでそんな設計にしたんだというツッコミ待ちをしているとしか思えないその姿だ。
考察班曰く、ネタモンスターか、あるいはコスト削減のために胴体を省略された悲しい過去の時代の遺物ではないかと評されるモンスター。
しかし、戦闘能力はそこそこ高く、その珍妙な見た目に騙されて返り討ちにされるプレイヤーは結構いた。
主な攻撃手段はアンバランスなほど太く長い腕から繰り出される直接攻撃。
特技となる強力な攻撃は、その丸みを帯びた顔を抱え込むように抱き、足を丸めた状態で勢いよく転がるローリングアタック。
そして残りHPが一割を切ると手足をロケットパンチのように放ってくるという謎仕様。
最終的には頭だけで転がり戦うというシュールな光景が展開される。
そんなビッグヘッドであるが、クラス4のEXBP獲得条件に合致し、そして効率的にレベリングをするという点でこのモンスターは重宝する。
今回は特殊環境下と謂うわけでもないので、イングリットとアミナにはスキルとステータスをリセットしたクローディアとエスメラルダ嬢のクラス0からのレベリングとスキル育成を任せ、俺はアイテムドロップに一家言あるネルを引き連れて、ギルドのダンジョン開放エリアでビッグヘッドダンジョンの攻略をしている。
「お、いたいた」
ビッグヘッドダンジョンは、採掘場みたいな洞窟を進む系の閉塞型ダンジョンだ。
決まった通路を進めばダンジョンボスの元まで進めるが、行き止まりもあれば遠回りの道もありそこにモンスターが配置されている。
クラス4のEXBPの条件は四つ。
一つ目はジョブ及び称号を獲得していること。
この条件は二つとも確保していないとEXBPが確保できないが、今までの条件から見るとゆるく見える。しかしクラス3でしっかりと確保しないでクラス4でジョブや称号を確保しようとすると取りこぼすパターンが出てしまう。
二つ目は亜種モンスターが出現するダンジョンであること。
「今回は普通のビッグヘッドだな」
「私たちがレベリングをしているときは、そんなに出なかったわよ?せいぜい十体くらいね」
「それは十二分に多いんだけどな」
亜種モンスターと言うと、モチダンジョンで現れる黄金モチを想像するかもしれないが、あれはレアエネミーで別個体カウントだ。
亜種モンスターは、同種個体で一部通常モンスターと異なる部位を持っていたりするモンスターのことを指す。
主にゴーレム系統がわかりやすいな。
ハニワだとドロップしたパーツを装着すると別種扱いになってしまうが、ビッグヘッドは出現する個体でごくまれに体に別のパーツがついていたり違ったりするものがいて、亜種モンスター扱いになる。
ここで注意点なのが、ダンジョンそのものに亜種個体が出現するという条件が入っていればいいだけで亜種個体だけでレベリングをする必要はないのだ。
ただしここまでレベリングをしている人なら見つけることができるかもしれないが、この条件がアクティベイトされる条件がある。
さっき亜種個体だけでレベリングをしなくていいとは言ったが、倒さなくていいとは言っていない。
「じゃぁ、今回は私が倒すわ」
「頼む」
亜種個体を倒すことによって、さっき言った二つの条件がアクティベイトされ、残り二つのEXBPの条件にも適用される。
最初に見つけた個体は、通常種のビッグヘッド。
間違い探しみたいに、よく見ないといけないのも今回のレベリングの大変なところだが、ビッグヘッドの強さもクラス4というだけあって、ステータスは高め。
「せーの!!」
今回は沼竜装備に加え、攻撃力が高く地属性のビッグヘッドに特効作用を持たせるために風属性の武器を特注した。
それでもゴールドスマッシュを使わないとはいえ、ネルの攻撃を真正面から受け止めるタフネスを持つのはシンプルにすごい。
ガツンと大きな打撃音が響く。その音は洞窟中に響き渡り、遠くにいるビッグヘッドを呼びよせる。
「んー、五発から六発ってところね」
しかしネルのステータスがカンストしている分、倒す時間はそこまでかからない。
「ネルのステータスもだいぶ育ったからなぁ」
クラス4のネルのステータスは、このダンジョンに入る前に確認している。
『ネル クラス4/レベル200
ジョブ 万能の商人
称号 開拓者
基礎ステータス
体力1600 魔力400
BP 0
EXBP 0
スキル10/スキルスロット14
槍豪術 クラス10/レベル100
斧神術 クラス10/レベル100
断裂戦斧 クラス10/レベル100
水鎧 クラス10/レベル100
パワースイング クラス10/レベル100
ゴールドスマッシュ クラス3/レベル12
バンク クラス1/レベル1
空歩 クラス10/レベル100
露店 クラス1/レベル1
目利き クラス3/レベル45 』
体力ステータスは四桁越え。
いくら物理耐性が高めのゴーレム種であっても、通常攻撃火力がパッシブスキルで加算されていてはあっという間にそのタフネスを削りきってしまう。
もうね、通常攻撃でモンスターのHPバーがゴリゴリと削れてしまうんですよ。
ビッグヘッドもそうだが、だいたいのゴーレム種は攻撃力と防御力、そしてHPは軒並み高いが、行動速度と回避能力は低いんだよね。
そこに高速で接近して物理攻撃でも高火力を叩きだせるネルは、ビッグヘッドでも真正面から戦え、経験値効率を爆上げしてくれるメンバーだ。
「ドロップ品は魔石だけね。鉱石がもっと出ればいいのに」
「黄金ヘッドも出るといいな」
「そうね!!黄金モチよりも強いけど、ドロップ品はこっちの方が美味しいわ!」
さらにドロップ率もけた違いに高いから、ここでも昇段オーブを確保できるという点で活躍している。
黄金シリーズは、すべてのモンスターに適用されているのではないが、それなりの数がいる。
ビッグヘッドもその一体だ。
俺は黄金ヘッドと呼んでいるが、正式名称はゴールデンビッグヘッドだ。
FBOプレイヤーの中には長いということでゴッドというやつもいたし、御神体っぽい黄金の姿から一時期その呼び名も流行った。
ゴーレムと言うことで、モチよりは倒しにくいが、それでもネルの見ての通りの高火力でごり押しできるのでそこは問題ない。
黄金ヘッドのドロップ品は、魔石となぜか落ちる黄金餅。そして黄金ヘッドの鍵に、ごくまれにだがスキル昇段オーブも落としてくれるのだ。
オーブに関して言えば、かなりの低確率。
パーセントで言えば0.0025パーセントくらいだ。
それでもネルは一回だけどドロップさせているのだから恐ろしい。
美味しい発言はここからきているのだ。
黄金ヘッドのポップ確率はかなり低かったはずだし、ダンジョンが生成されたときにしか出現しない。
その低確率の出現モンスターからかなりの低確率ドロップ品を引けるのは選ばれしネルだからできる芸当だ。
普通のプレイヤーなら、何回も試行錯誤をしてやっと出たと検証動画を取れるレベルの試行回数が必要になる。
そんな低確率すら引けるネルが今、ごつい鉄顔に手足が生えているモンスターを物理的にボコボコにしている。
なんというか、自分で育てておいてなんだが、アニメとかの狐娘キャラってお札をもって魔法で戦うパターンの方が多いのでは?
物理アタッカーの狐娘というのはなかなかレアなのでは?と思いつつ次のビッグヘッドを探すと、戦闘音に引き寄せられズシンズシンと足音を響かせて接近するビッグヘッドが一体。
「あ、腕が違うわ!!」
「アンバランス系か」
その個体は亜種だった。
こんなに早く見つかるのはネルがいるからか、それともただ単に運が良かったからか。
右腕が妙に太く動く際もバランスを崩しがちな存在だ。
「とりあえずサクッと倒してくるわ」
「頑張って!!」
「おう!」
これで三つ目の条件を満たすことができる。
修練の腕輪はそのままで槍を構え、ネルの応援を背に駆け出して。
「心臓打ち!」
心臓と言いつつ、鼻の部分に思いっきり鎌槍を突き立てるとするりと刃が顔に刺さりゴーレム種の弱点であるコアの部分に防御無視攻撃が入る。
ゴーレム種はその耐久力の高さゆえに、物理アタッカーは敬遠しがちのモンスター。
だけど、ネルみたいに防御力を上回る火力を出せるアタッカーや、俺みたいに防御無視系のスキルを持つアタッカーからすれば効率よく倒せるモンスターになる。
「ここから三十分が勝負!!」
三つ目の条件、亜種を倒した後の三十分以内にレベルを上げることで三つ目の条件のEXBPを確保することができる。
これは一レベルにつき一体の亜種を倒す必要があるのではなく、一体倒せば三十分間は継続する条件で、その条件時間内に亜種を倒せば再度三十分挑戦できるようになる。
まったく、この条件を考えた奴はひねくれすぎだろ。
そして肝心の四つ目のEXBPの条件は。
「向こう側に三体の群れよ!」
「良し!突撃するぞ!!」
「わかったわ!!」
三体以上の群れに挑むこと。
クラス2の時は連戦を強いられたが、クラス4では多対戦を強いられるというわけだ。
判定には、戦闘開始時に相手の数が複数いないといけない。
ここで注意するのは俗にいうトレイン行為でモンスターを集めても意味はないことだ。
戦闘開始時に敵が三体以上の群れでいないといけないので、アミナの歌の誘因効果で敵を集めても意味がないのだ。
なので、三十分以内に複数体の群れがいるエリアに突撃しないといけないのだが、このダンジョンにはゴーレムが固まっているエリアが最初から一定数設置されている。
その位置は毎回ランダムだが、一定の法則はある。
加えて、移動速度が遅いビッグヘッドなら多対戦でも立ち回りが簡単だ。
防御力を破る能力があるのなら、クラス4でのレベリングに好都合且つ運が良ければ黄金ヘッドと出会ってドロップ品も狙える。
「あ!次の亜種見つけたわ!!」
「お!運がいいな!!」
いくつか群れを討伐して、レベルも上がる。
もうそろそろで時間切れというタイミングで群れの中に潜む亜種を発見。
今度の個体は異様に目が大きい。
索敵範囲の広いビッグヘッドであっても死角は存在する。
足音を消し、そして死角に入り込み。
「心臓打ち」
背後から一突きで仕留めて時間を確保。
このペースで早々に終わらせようか。
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そして誤字の指摘ありがとうございます。
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