16 アイドルの雛鳥
総合評価2000突破!!
感謝感激でございます!!
FBOが良ゲーと呼ばれているのはストーリーやキャラクター、そして世界観が良かったからだ。
では逆に、FBOがクソゲーと呼ばれている所以は、主にゲーム性だ。
いや基本的な動作やグラフィックという点ではバグとかは一切ないけど、ゲーム制作陣が意図的に隠したと思われる、様々な隠し要素の所為で育成をやり直さなければいけないという現実がこのゲームにクソゲー認定の判を強制的に押させていた。
時間をかけて、それこそ寝食を削って根気強くレベリングして最後までストーリーをクリアして、満足感に浸っていると解析班から実はこんなことが発見され、今の育成は実は最強じゃないと知らされたときは多くのプレイヤーを発狂させた。
しっかりと隠し要素を告知しろよとクレームもいれたが、公式からは。
『隠し要素を知らされることほど残酷なことはないと思っております。まだまだ多数の隠し要素が組み込まれていると周知するだけでそれ以外の回答は控えさせていただきます』
ゲームを楽しむのなら至極当然の回答。
この公式の対応に仕方ないと割り切れる人もいれば、ふざけるなと怒り心頭になる人も続出。
あとからプレイヤーによって発見される要素に、一喜一憂する者もいれば、クソゲーだと認定して去る者もいた。
「なんで壊れねぇんだよ。ふざけてるのかこの竹槍は」
そして、その隠し要素に理不尽だと嘆く人がここにも一人。
「ふざけてないんですよねぇ」
あの決闘の後に向かったのはガンジさんの鍛冶屋。
次のクエストは発生するまでの条件達成がまだなので、普通の客としてここに来た。
俺がネルと一緒に来たときは女連れで来るとはいいご身分だと皮肉交じりの挨拶をされて、奥さんに頭を叩かれていたが、仕事を依頼しに来たと言い、お金を支払えばしぶしぶとはいえ仕事はしてくれる。
依頼したのは武器強化。
FBO時代でもあったシステムで、魔石を経験値に見立て、鍛冶スキルの一つの武具強化スキルで武具のプラス補正をかけることができる。
いわば魔石を消費して武具を強化しようというシステムだ。
俺の竹槍ならこれで強化すると。
『弱者の竹槍+10』
みたいな表記になる。
+の後に着く数字の最大値は百。
これによって得られる恩恵は武器なら攻撃力と耐久値、防具なら防御力と耐久値がそれぞれ強化される。
それもクラスイコールプラス補正になる。
クラス1の武器なら、プラス補正がかかるたびに攻撃力と耐久値が1上がるという具合だ。
しかし、この強化にもやはりデメリットも存在する。
プラス補正が上がれば上がるほど、失敗する可能性が増える。
一定値までは成功しやすい、それが+10というラインだ。
これはどこのクラス武具でも共通の成功ライン。
ここから先はクラスが上がれば上がるほど失敗する可能性が増える。
失敗には三パターン存在する。
一つは何も起きない。
素材は失うが、逆に言えば損失はそれだけ。
二つはマイナス補正
素材を失い、追加した補正も下がるという結果。
正直に言えばこの二つはまだましだ。
恐ろしいのが三つ目。
武具損壊。
三つのうち一番の低確率であるが、プラス補正があればあるほどこれも確率が上がるという、めちゃくちゃ強化した後に壊れてなくなるという下手をすればプレイヤーに引退を覚悟させる最悪の結末。
しかし、最高補正を手に入れるにはこれは避けて通れないのだ。
そしてこれを避ける方法がある。
そう、不壊スキル。
これさえあれば、上げ下げを繰り返し、素材さえ用意すればしっかりと最高峰の補正を受けることができる。
武具強化スキルを上げるために弱者シリーズを全クラスの武具で用意するくらいに便利なのだ。
まぁ、落とし穴として、弱者の証はクラス一のアイテムなので格上の武具と合成する際に失敗確率が上昇して、失敗すると武具の方を損壊させるという特大のデメリットもあったりするけど。
これで、いったい何人の鍛冶師プレイヤーが泣いてきたか。
一応鍛冶スキルの補正次第では、クラス5まではほぼほぼデメリット無しで成功させることはできる。
長々と説明したけど、今俺とガンジさんの目の前にあるのが現実。
『弱者の竹槍+100』
クラス 一
攻撃力 百三
耐久値 不壊
スキル レベル減少(一)
レベル上昇制限(一)
武器装備拘束制限(二十四時間)
弱者の証を混ぜた意味を知らないガンジさんは頭の上で疑問符を浮かべ続けている。
クラス一の武具を最高補正まで持っていくのは素材的にはそこまでの量は必要ない。
ガンジさんの店にもしっかりと強化用の魔石はあるみたいだし、お金を払えば少し割高だけど奥さんの監視のもと正当な価格で武器強化をやってくれる。
先日の商売のときのお金だと、少し足りないかなぁって思ってたけどまさかの臨時収入でここまで持っていけるとは思わなかった。
「おい小僧、どうやったらこんなことが起きる?吐け」
「作ってもらったガンジさんが一番よく知ってると思いますけど」
「作ってるから余計にわからねぇんだよ」
この世界、もしかして不壊スキルってあまり普及していないのかね。
料金を払っているんだから、早く返してほしいのに、さっきから竹槍を返してくれない。
「ねぇ、リベルタまだ?」
「ガンジさんが竹槍を返してくれればすぐに帰れるんだけど」
武器強化に時間がかかりすぎて、最初は楽し気に武器屋を見て回っているネルも飽きて帰りたがっている。
しかし、種と仕掛けを教えない限り返さないと言わんばかりに竹槍を取り上げるガンジさんにどうやって説得しようと思っていると。
「まったく、何やってるんだよあんたは!」
「あいた!?」
二度目のフライパンアタックがガンジさんの脳天にさく裂した。
「あんただって鍛冶の秘伝を教えられないだろ!!それをあんたはお客さんの武器を取り上げて脅すなんて職人として恥ずかしくないのかい!!」
「う、それは」
「わかったのならさっさと返す。そっちのお嬢ちゃんも待ちくたびれてるよ!!」
普段だったら痛みで怒鳴り返しているが、今回は完全にガンジさんが悪い。
あくどいことをしている自覚があってか、奥さんに強く出られずしぶしぶと俺の竹槍を渡してくれる。
普通に弱者の証の効果の所為だと気づきそうなものなんだけど、なんで気づかないのかね?
「ごめんね、お詫びに今度来た時サービスさせるから」
「いえ、強化してくれれば俺としては問題ないので」
根底としてこの世界の人たちにとって弱者の証の価値が低すぎるというか、デメリットのアイテムだという認識が根付きすぎているってことかな。
着けるとレベルが下がって弱くなってさらには一日は外せない上に壊して外そうにも壊れないからなぁ。
普通に考えて要らないデメリットアイテムなんだよな。
だからこそ気づかないのか。
奥さんの謝罪を受けつつ、目的は達したので早々に店を後にする。
「ずいぶんと時間かかったね」
「強化に時間がかかったからな」
午前中に決闘、そのあとに武器強化とやればこれから何かをやるにしてもそこまで時間の余裕はない。
「退屈だったろ?」
「んー待っているのも途中までは楽しかったわよ?」
「そうか?」
「うん、武具の目利きの勉強も商人には必須なの!」
俺の用事は終わったから、ジンクさんに相談しに行くのもありと言えばあり。
「ネルは何かやりたいことある?俺はとりあえず、最後に薬屋さんでポーションが買えれば用事が終わるけど」
「んー」
だが、それは俺一人で出かけている場合だ。
今日はネルも一緒に来ているから彼女が行きたい場所があるならそこに行こう。
ネルが考えているあたり、どこか行きたい場所があるのだろうか。
「この時間なら……いるかもしれない。リベルタこっちに行こう!」
「いいけど、どこに行くんだ?」
「内緒!」
うんと頷いて、決断した彼女は俺の手を引いて小走りで路地を曲がった。
引かれるがままに進んでいくが、だんだんと見覚えのない道に入りゲーム時代の知識も役に立たないエリアに足を踏み込んでいる。
しかし、治安が悪いというわけでもなく。
浮浪者みたいな人が寝転がっている場所ではないので、ひとまずは安心。
「……歌?」
しばらくなすがままにされていると、どこからか歌が聞こえてきた。
澄んだ綺麗な声とでも言えばいいのだろうか、耳心地のいい声、いったい誰が歌っているんだ?
俺の声が聞こえたのか、走りながら振り返ったネルは笑った。
どうやらネルはこの声の持ち主のもとに向かっている様子。
「アミナー!!!」
そして、大きな階段があるちょっとした広場に出た。
階段の中ごろで歌う少女にめがけてネルは大声で名前を呼んだ。
ピタッと歌が止まる。
観客はいない。
大通りから離れた人通りの少ない場所だからか、その綺麗な歌声を止めて少女はこっちを向く。
鳥人。
腕が翼になり、足が鳥のような三本指のかぎ爪になってる獣人種。
FBOでもコアプレイヤーが好んで使っていた。
顔と胴体は人そのものだが、手足が鳥という少し特徴的な種族。
茶色い毛並みの彼女は、ネルを見つけると笑顔を見せてその翼を広げた。
「ネルだー!!」
そしてそのまま階段から飛び立ち。
「わっぷ」
ネルに抱き着いた。
「あははは!ネル元気だった!?ダッセたちが来てから来なくなってて心配してたんだよ!」
それは友愛の証なのか、翼でネルを包み、思いっきり抱き着いている。
「うん!元気だよ!ごめんね心配した?」
「そりゃ、もう!だけど、こうやってここに来てくれたからもういいよ!!」
随分と明るい子だな。
ネルに友達がいないみたいなことをテレサさんは言っていたけど、こうやってネルを心配してくれる子はいるじゃないか。
完全に俺のことを忘れられているのは、どうすればいいか困るところではあるが。
「ところで、君は誰?ネルの友達?」
しばらくじゃれ合っている間に、立ち往生している俺に気づいたアミナと呼ばれた少女がこっちを向いてくれた。
未だ抱き着いたままだけど、そこはツッコまない。
「俺はリベルタっていうんだ。わけあって今はネルの家の馬小屋に居候中だ。ネルとは……うん、友達兼仲間って感じかな?」
関係性を聞かれれば、精神年齢的年の差を考慮すればこういうのがいいだろう。
一瞬保護者と答えそうになったけど、それは踏みとどまった。
「……ふーん、君はダッセと違って意地悪そうじゃないね」
「リベルタは違うよ!!」
「うん、わかってるよ。ネルが手を引っ張ってここに連れてくるくらいだもん。ネルと君は仲良しさんだ」
そんな自己紹介をした俺の目をじーっと見つめた後に彼女はニカッと笑って、大丈夫だと言ってくれる。
「でも、僕の方が仲良しさんとしては先なんだぞ~そんな友達を放置したネルはこうだ!!」
「わー!もう、アミナってば!!」
これは身内として認められたってことかな?
翼を器用に使って、ネルの顔を撫でまわす光景を見せられてそんな感想しか抱けない。
さすがにここで俺もと割って入ることもできないし、このまま何をするのかと考えるが。
「なにそれ、ずるい!!僕も行きたい!!あと、ダッセのやついい気味!!」
結局のところ、ネルが最近ここに来れなかった理由を説明する流れになってちょっとした冒険と交渉、さらには今日のダッセとの決闘に関して話すことになった。
「ふふん!!すごいでしょ!!」
「いいなぁ、いいなぁ!ねぇ!次冒険行くとき僕も連れてってよ!!」
多少誇張表現したところはある。
特にダッセ何某との決闘のところは、いかに無様だったかをこれでもかって誇張して伝えようとしていたのがわかる。
だけど、一番盛り上がっていたのは、丘の先でやった隠れ狸狩りだ。
この世界の人たちは大なり小なり冒険者に憧れがあるんだろう。
「アミナさん、レベルは?」
「アミナでいいよ!!僕はリベルタ君って呼ぶけど、気にしないでね!残念だけど僕はこの街の外に出たことがないからね、お兄ちゃんたちはレベルを持っているけど僕はまだレベル無しさ」
「私もリベルタもまだ、レベル無しよ」
「え!?さっき冒険したって言ったじゃないか。なんで?」
「うーんと、リベルタの都合があってまだレベル上げしないって言って私も一緒にレベル上げしたかったから我慢したの。修練の腕輪をつければレベルも上がらないようにできるし」
「へー、だったら僕も一緒にレベル上げたい!レベル上げればいろいろな歌のスキルが取れるって聞いてるしね!!」
女の子でもモンスターと戦うことに関して忌避感とか恐怖を感じている雰囲気がない。
この二人が特別なのかもしれないけど。
「歌スキルか。良い趣味してるね」
「本当!?君、良い人だね!ダッセとかほかの人は戦いに使えないスキルとかいうんだよ。ほんと、失礼しちゃうよね!」
「そりゃ、失礼だな。歌スキルはかなりすごいスキルばかりなのになぁ」
「そうだよね!!」
「きゃ!?」
「うお!?」
いつまでも立ち話は何だと思って、ネルを中心にして階段に座ってスキルに関して話しているとアミナが身を乗り出して、ネルを通り越して俺に迫ってきた。
その目は歌スキルに関して語りたいと物語っている。
あ、もしかして帰るのギリギリになる流れなのかこれ?
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




