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20 ビッグマッシュルーム

 

「クラスアップしたら、修練の腕輪をつけて各自得意な武器に移行!」

「私は上がったわ!!」

「僕も!」

「私もです」


 まさかあそこからチェインするとは思わず、思わぬ大混戦になったが、敵が遠距離型ということでエアクリーンで攻撃を防ぎながら、クラスアップを終えてすぐに修練の腕輪を装着するのは容易だった。


 全員これでクラス3に入る。


 となれば本領発揮ができる装備に切り替えるのが吉。


「ネルとアミナはポジション交代!イングリットは刀を解禁!!アミナの直援に回って!!」


 ネルにハルバードを持たせ直接のアタッカーに変更、アングラーにアミナを乗せ、そしてイングリットを護衛に回してエアクリーンの移動の幅を少なくする。


「クローディアさんは前衛で攻撃に回ってください!ここからは効率優先で一気にボス部屋まで行きます」

「待っていました」



 アミナの歌による注目効果で、マタンゴの視線を集めつつ俺たちの装備換装を終えれば、攻勢にでる。

 俺は鎌槍を、ネルはハルバード、イングリットは仕込んでいる刀を振るえるようになったら、胞子による毒の攻撃を無効化されデバフ攻撃にも対策されているマタンゴなど敵にもならない。


「一気に殲滅が楽になったわね」

「アングラーは移動速度が遅いからなぁ。パワー型の宿命で近寄ってくる敵には強いけどああいった遠距離攻撃型とは相性が悪いんだよね」


 仕方ないこととはいえ、殲滅速度は下がってしまう。


 本領を発揮できる装備になってしまえば、俺たちの動きに窮屈さは無くなり、チェインしているマタンゴたちも鎧袖一触で倒すことができる。


「ステータス振りは後ででいいよ。BPも4だから振ると後で計算するのがわかりにくくなるから」


 ドロップ品は魔石と胞子団子でなかなかの量、マジックバッグに次から次へと放り込み、買い取りはジンクさんのお店の近所にある薬屋に頼めばなかなかの稼ぎになるのではと思う。


 この世界って意外と特殊ポーション系の素材が出回っていないから買い取り額も期待できるんだよね。


「それはいいね!!」

「アミナは後でネルと一緒に算数の勉強な」

「ええ!?」


 ステータス計算が苦手なアミナの喜ぶ声を抑え、マタンゴ殲滅の効率が上がって移動速度が一気に早くなったので、早々にダンジョンの奥に歩を進める。


 アングラーの重い足音を響かせているからか森の中からマタンゴが攻撃してくることも多い。


 その都度対応するよりも、敵を森から釣り出してある程度集まってから殲滅した方が効率がいいので進軍速度は格段と早くなる。


「……あははは、ごめんなさい」


 集中してダンジョンを攻略している最中にくぅーっと可愛らしい音が響いた。

 アングラーの上でお腹を押さえ恥ずかしそうに笑うアミナ。集中力も切れかかっているようだし、ここいらで休憩するのもいいだろう。


 安全地帯まではまだ距離があるが、こういう時に便利なのがモチダンジョンの鍵というわけで。


「良いところまで来たし、ここらでお昼にしようか」


 マジックバッグからその鍵を取り出し休憩を提案した。


「では昼食の準備をいたします」


 ダンジョンの中にダンジョンを作る。

 この面々ではすでに当たり前になっている常識だ。


「それじゃ、サクッとカガミモチだけ倒して、水を汲んでボス部屋で昼食にしようか」


 モチダンジョンをマタンゴダンジョンの一角に作り、そしてさっさと中に入る。


「うーん、こっちの方がやっぱり空気が良いね」

「それはそうだろ。あっちは胞子の舞う空間、こっちは光属性の清らかなモチ空間。空気が違う」


 空気の清潔具合と言えばいいだろうか、空中に漂う物がないだけでだいぶマシになる。


 マスクを取り払い、深呼吸するアミナ。


 それを機に全員がマスクを取り外しつつ、道中のモチは無視し先を進む。


「えい!」

「あっさりだね」

「ここまでレベル差があるとなぁ」


 モチダンジョンの面積は他のダンジョンよりも狭いのであっさりとボス部屋に到着、そして中のカガミモチをネルが一刀両断で倒す。


「うーん、銀ね」

「いや、銀箱でも出るのは普通にすごいからな?」


 出てきた銀の箱に渋い顔をするネルに突っ込みつつ、俺はマジックバッグから敷物を取り出してその場に広げる。


「アミナ、そっちを持ってくれ」

「はーい」

「水を汲んできました」

「助かります、いまコンロを出すので」


 そしてイングリットが今朝作ってくれた弁当と、カセットコンロのような魔道具を出す。


 クローディアが安全地帯にある泉から水を汲んできてくれた。


 それをイングリットが受け取って鍋に入れ、折りたたみ式のテーブルに置いたコンロの上に設置した。


「ダンジョンの中でこうすれば安全に過ごせるんですね」

「クラスが上がれば上がるほど、ダンジョンの広さは変わりますからね。クラス6までならまだ一日か二日かければダンジョンボスのところまでたどり着けますけど、それ以上になると一週間、二週間は覚悟しないとダメな長期戦になりますよ」


 イングリットが家であらかじめカットしていた食材を沸騰した鍋の中に入れて、野菜スープを作る最中、ダンジョンの中で休憩できることにまだ違和感を覚えているクローディアは敷布の上に座りあたりを見回していた。


「クラスが上がるほど長期戦ですか。このダンジョンはまだまだ小さいということですか」

「はい、このダンジョンはあと一時間ほどでボス部屋に到達できると思いますし、クラス3のダンジョンの中では広さは中間くらいですかね」


 ダンジョンに挑むコツはいかにして万全な状態を維持し続けられるかだ。


 回復用のポーションや予備の武器とかもそうだが、こうやって休憩できる方法を用意することも重要になる。


 場合によっては寝られる場所も確保しないといけないから、携帯に便利でなおかつ寝床と水場を確保できるモチダンジョンというのは安全なキャンプ地として優秀なのだ。


「え、もうすぐボス部屋につくの?」

「ああ、そこまで離れてないと思うぞ」


 こうやってゆっくり食事したり休憩できる安全地帯を確保できるし、ボス部屋の扉を閉めれば外から入ってくる心配もない。

 脱出は今も輝く脱出用の魔法陣に入れば解決。


「確か大きなキノコの化け物よね」

「そうそう、名前はビッグマッシュ。マタンゴをシンプルに大きくした感じのボスだ。攻撃手段はマタンゴのきのこ胞子のバリエーションが増えて、眠り、痺れ、毒の三種類。さらに魔法で土魔法のストーンバレットと土回復魔法のアースヒールサークルを使う」


 そんなモチダンジョンの中で休憩しつつ英気を養い、イングリットの野菜スープが出来上がるまでマタンゴダンジョンのボス攻略のおさらいをする。


「あとは、普通に巨体になったぶん物理攻撃も火力が上がってるから注意が必要だ。速度はそこまで早くないけど、その分タフさと攻撃力がマタンゴの十倍近くあるからネルとイングリットは接近戦になるときは注意してくれ」

「わかったわ」

「かしこまりました」


 ビッグマッシュの攻撃パターンは胞子を散布し、相手を近づけさせないように魔法で牽制、接近してきた敵には手で振り払うようなモーションをしてくる。


 一定のダメージを負うと回復魔法を使って、消耗戦を挑んでくる敵だ。

 対策なしだと、常に状態異常にさらされ、そしてじわじわとHPを削られながら遠距離から攻撃される。

 さらに一定のダメージを負ったら回復までするという少し慣れてきたプレイヤーに情報収集と準備の大事さを説くボスキャラでもある。


「胞子はイングリットが対応できるし、回復魔法はクローディアさんのスタンで妨害できる。注意すべきはイングリットのエアクリーンエリアから出ないこと、無理に連続でダメージを与えないこと。これさえ守っていれば確実に勝てる」


 そんなボスの欠点は、まず挙げられるのが鈍足だ。

 クラスが上がれば巨体でも動きの速いボスはいるが、でかい早い強いなどという三拍子そろった敵がクラス3でそうそういるはずもなく、ビッグマッシュは移動速度と行動モーションが遅い鈍足系のボスだ。


 さらに攻撃方法も少なく、対処法もマタンゴと同じ方法で対処できてしまう。


 そうなってくると予想される行動パターンもそこまで多くない。


 拳の振り下ろし、踏みつけ、ボディープレス、ストーンバレット、ごくまれに尻もちをつく際に攻撃が来ることもある。


「攻撃パターンとしてはこんな感じで、立ち回りは」


 そんな感じにボスの説明をしていると鼻孔に香るいい匂いが漂ってくる。


「リベルタ様、スープができましたので」

「ああ、アミナのお腹も限界みたいだし、まずは食事して戦いに備えようか」

「はい」

「わーい!!お昼ご飯だ!!」


 器にスープをよそって、そして人数分配る。

 戦場で体を休めて暖かい食べ物を食べれるというのはかなり贅沢なことだ。


「お肉も入っているわ」


 そしてスープの具材も豊富となればネルもにっこりとほほ笑む。


「あとはサンドイッチもあるからな、これだけ食べれれば昼の戦いは万全だな」


 さらに食事はスープだけではなく、弁当箱に入ったサンドイッチもある。

 最近ではこの硬さがいいんだよなと思い始めるほど顎の強化に役立つ固めのサンドイッチ。


「それでは、今日も神の恵みに感謝し」

「いただきます」

「「「いただきます」」」


 クローディアの祈りに合わせて、食事が始まり各々のペースで食べる。


 そして食べ終わり、休憩を終えたら。


「いよいよボスね!!」


 ダンジョン攻略を再開する。


 体力、気力、魔力、すべてが回復した状態でのダンジョン攻略の再開。


 元々マタンゴとの戦闘は順調だったが、ますます攻略速度が上がり、そして一本の大きな木がそびえる広場までたどり着くことができた。


 気合十分のネルだけではなく、全員怪我無く、そして状態異常にもかかっていない。


 ゲーム風に言えばHP満タンの状態でボス戦に挑むことができるというわけだ。


「それじゃ、サクッと倒しますかね」

「おー!!」


 気負わず、そして過度に緊張しないようにあえて軽いノリで宣言するとアミナが元気に返事をしてくれる。


 ボスエリアに一歩踏み込み、そして全員がボスエリアに入った途端、ドスンドスンと大きな足音が聞こえ始める。


 オープンフィールドタイプのダンジョンのボスの出現方法はいくつかある。


 大きく分けて、あらかじめそこにいるか、どこかから来るかの二つだ。


 前者はトレントなどの移動できない系のボスだ。

 そして後者は移動できる系のボスというわけで。


 どんどん足音が大きくなり、その巨体は現れる。


「お、大きい」


 普通のマタンゴの大きさは一メートルにも満たない、小さな子供サイズ。

 しかし、ビッグマッシュの大きさはその十倍以上、全長十メートル越えの巨体だ。

 マタンゴをそのまま巨大化した姿。


 バランスの悪い手足の長さに、すこし歪な顔。


 ボスらしい禍々しさを現した巨大キノコの化け物が木々をかき分け、現れた。


 ビッグマッシュが現れたとRPG風のメッセージが流れそうなこのシーン。


『キィエエエエエエ!!!!』


 かん高い奇声が、戦闘開始の合図だ。


「追い風からの喝采の歌!!」

「うん!まかせて!!」


 戦闘開始と同時に、まずはアミナの歌でバフを振りまき始める。


「クローディアさんとネルで防御ダウンのスキル攻撃!!特に片足を重点的に狙ってくれ!重心バランスが悪いからあっという間に転ぶ!!」

「わかったわ!!」

「任せてください」


 そして駆け出す前衛三人、俺、ネル、クローディアはイングリットがビッグマッシュに接敵できるように調整したエアクリーンゾーンの中を駆ける。


「はっ!!」


 雷歩からの雷掌波、レベル差もあってその巨体をわずかだが動きを封じるクローディアの先制攻撃。


 あいも変わらず、回復役なのに俺たちの中で一番のダメージディーラーなんだよな。


 そこから連続で始まる右足に重点的に当たる連打攻撃。


 鈍足ゆえに一度攻撃を中断させられると次の攻撃が遅くなる。

 だからこそ格闘家タイプのクローディアの連打攻撃が決まり。


『ギャ!?』


 いきなり右足の力が抜けるようにビッグマッシュが横転する。


「ネル!顔面攻撃だ!!」

「まかせて!!」


 そのタイミングでネルがビッグマッシュの前に躍り出てハルバードを振り上げる。


「断裂戦斧!!」


 防御ダウン効果と、クラス2までのEXBPのステータス上乗せ分をしっかりとその威力に確保した一撃がビッグマッシュの顔面にめり込み痛烈な一撃を発する。


「回避!」

「!」


 そして二発目を放つ前に、俺は叫びネルは咄嗟に跳び下がる。


 ビッグマッシュの左手が振り下ろされ、さっきまでネルがいた場所を叩きつけ大きな音が響く。


 だけど、俺にとってはちょうどいいタイミングで手が下りてきたと言うこと。


「その手首、もらうぞ」


 鎌槍にマジックエッジの刃を作る。


 そして持ち上げるよりも前にその手にたどり着き。


「首狩り!!」


 手の付け根、手首にめがけてそのスキルを発動する。


 ザンッと勢いよくその刃を振るえば、防御無視の攻撃は伊達ではなくまるで豆腐を切るかのようにビッグマッシュの左手首は両断されるのであった。


「手足がある敵は俺にとってはカモなんだよ」


 さぁ、効率的に狩っていこうか。




楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
そういえばオープンフィールドDの時、扉の開閉できないからそれの宝箱の補正ボーナスどーなるの?
モチダンジョン内でダンジョン解放する案は今後使われるんじゃないかなって思いますね。 ただ、今回は初めてのダンジョンでクローディアさんの目があるから救援がある環境下での攻略にしたんじゃないかと思います。
モチDの中で上位D作ればいいじゃんと思ってたけど、安置目的でモチD展開する戦法を活かすためには使えない手か モチD→稼ぎ用D→モチD二本目が可能なら問題解決だけど 秘匿性も安全性も完璧だと思う
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