15 ハニワソード
『ハニャァ』
黒い仮面をつけてシューコーシューコーと呼吸する黒い騎士のように、籠った鳴き声を漏らすジェ〇イハニワ。
クラス4の強さは伊達ではなく、赤く輝くエネルギーソードを構えるその姿に迫力すら感じる。
「それじゃ、手はず通り」
「わかりました。では、一番槍を頂きます」
強者の雰囲気を醸し出すジェ○イハニワの迫力に、楽しみだと言わんばかりにクローディアは軽やかな足取りで一歩前に進む。
「アミナ」
「うん!」
そして戦闘シーンを盛り上げるBGMのようにアミナが歌い、その歌声で俺たちにバフが乗る。
その歌に引き寄せられて、周囲のハニワも寄ってくる。
「イングリットはアミナに寄ってくるハニワを排除してくれ、ネルは俺と一緒にクローディアさんの援護だ」
「かしこまりました」
「まっかせて!!」
イングリットをアミナの護衛に残し、俺とネルもクローディアの後に続く。
お互いゆっくりと歩み寄るクローディアとジェ○イハニワ、そして互いの距離が五メートルを切ろうとした瞬間。
「ふっ」
『はにゃ!』
互いに凄いスピードで動き出す。
それと同時に、俺とネルも左右に分かれ背後から奇襲をかけられるようにポジションを取る。
雷歩で一気に間合いを詰めたクローディアの先制攻撃に、ジェ〇イハニワは反応する。
やっぱり摩訶不思議な力で相手の動きを感じ取って未来予知みたいなことをしているのかね。
クローディアの鋭い踏み込みからの右拳の攻撃に対して、エネルギーソードの斬撃をカウンターで合わせてくる。
だが、それをダッキングで躱し、さらに懐に踏み込んだクローディアの左拳の一撃がジェ〇イハニワの腹部に入る。
ズンと重い一撃だとわかる打撃音が響き、そのまま流れるように左右からの拳撃を一発、二発とつなげるが。
『ハニャァアアア!』
クローディアの重い連撃を、ゴーレム系特有の打たれ強さで耐えきり、エネルギーソードを振り回しクローディアを引きはがした。
「ネル!あの武器と打ち合うなよ!!」
「わかってるわ!」
戦いの注意点を確認した俺たちは、そのタイミングで二人同時に仕掛ける。
ジェ〇イハニワの持っているあのエネルギーソードは特殊ドロップ品という枠で手に入る物だ。
正式名称、マジョリティックソードタイプL。
長ったらしいので、ハニワソードとかエネルギーソードみたいな通称があるが、古代兵器の一種としてカウントされる、ゴーレム系がドロップする消耗品武器だ。
「へいへい!背後がら空き!!」
攻撃の間合い的に俺の方が先に刺突を放ち、ジェ〇イハニワの背を貫こうとした。
『はにゃ!?』
「おっと」
それに反応して、振り向きざまに俺の鎌槍をエネルギーソードで弾こうとしたが、俺は寸前で槍を止めて空ぶらせる。
この武器をドロップさせる、正確に言えば機能した状態でドロップさせるために必要なこと、それは打ち合う、攻撃を受けるという武器の負担に該当する行為を一切させずこのジェ〇イハニワを討伐することなのだ。
「断裂戦斧!!」
ジェ〇イハニワが空ぶった隙に、ネルが接近して横薙ぎ一閃で腹部に一撃を叩き込むが、痛みを感じないゴーレム種は怯みモーションが物理的な衝撃分しか発生しない。
痛みに悶える要素がないから当然だ。
クラスが上がった分体力のステータスも上がり防御力が上がる、だけどEXBPでステータスを割り増しした俺たちの攻撃なら。
『はにゃ!?』
明確にダメージを通すことができる。
脇腹に防御ダウンデバフ付与。
すかさず振り払うようにエネルギーソードでネルを引きはがすが、ヘイトをネルに向けてしまうと。
「ふん!」
またもや踏み込んできたクローディアの一撃が叩き込まれる。
しかも、今度は崩拳からの崩蹴撃へのコンボ技で防御ダウンのデバフの掛かる連撃。
ここだと思った瞬間にすかさず俺も前進した。
ハニワは顔と胴体が一体化していて、首そのものがない。
首のない種族のモンスターは色々といる、トレントなんて樹木だし、スライムは首?何それ美味しいのといいたくなる形状、タコやイカみたいな軟体動物系モンスターにも首はない。
首狩りは使えない
そう思われるかもしれないが。
俺はマジックエッジを起動、鎌槍に大きな鎌の刃を形成。
「首狩り!!」
そしてスキルを発動する。
狙いはジェ〇イハニワの首、ではなく。
「狙い通り!!」
エネルギーソードを持つ手の付け根、手首だ。
スパッと小気味のいい音がしたと同時に、切り取られる両手首。
首狩りスキルは、首認定があればどこでも防御無視の攻撃が入る。
普通に部位破壊もできるスキルなんだよね。
手首に足首と、首という名称が入る部位になら特効攻撃が乗る。
さすがに即死効果は入らないけど、こういった部位破壊の際にはかなり重宝するんだよね。
両手を付けたまま宙を舞うエネルギーソードを横目に、俺は距離を取る。
「パワースイング!」
下がる俺と入れ替わるようにネルのハルバードが振りぬかれ、吹きとばし効果でエネルギーソードとジェ〇イハニワが切り離される。
『は、はにゃぁあああああ!!!』
卑怯だぞと言わんばかりに、手が無くなった腕で俺を指すが、それでエネルギーソードが返ってくるわけもなく。
「よそ見はいけませんね」
『はにゃ!?』
しまったと驚くジェ〇イハニワは、コントのような驚き方をした後、クローディアのフルコンボをくらい。
『は、はにゃぁ』
無念と言ったような気がする鳴き声を残して灰となった。
「なかなか、良い手応えでした。鍛錬にはちょうどいい相手かもしれませんね」
強さ的には少し物足りないが、体を動かすにはちょうどいい相手だったようで、クローディアも満足げに頷いている。
「出たわよ!!」
「おー、やっぱり出たかぁ」
そして条件を満たしたからと言って、ドロップ確率は五パーセント。
そう簡単に出るものではないはずなのに、ネルがハルバードを片手に保持しつつ空けた左手で柄だけの剣を振って俺に見せてくる。
「これでいいの?」
「ああ、間違いない。壊れている様子もないし。うん、目的の物だ」
マジョリティックソードタイプL。
光属性の魔力で形成した刃を作る魔導武器だ。
「これで依頼達成だね!でもまだまだいっぱい余ってるよね」
ネルからドロップアイテムを受け取って状態を確認すれば、壊れた状態のマジョリティックソードタイプLではなく、きちんと使える正式なやつだとわかる。
ドロップ条件である、過負荷を与えた状態で倒すと高確率で破損した遺物というアイテムがドロップする。
何かに使えるのかと思いきや、これがインテリアアイテム。
修理することもできない。
ようはお飾りにしかならないアイテムになるのだ。
しかし、しっかりと条件を満たし、敵を倒すことができれば稀にだが使用可能状態でドロップすることがあるのだ。
ネルが戦闘に関わっている段階でこれが一発で出るのは、なんとなく予想できていたが、こうも予想通りだと逆に怖い。
「いい機会だ、緊急時用の武器としてもう何本か狙ってみるか」
しかし、風向きがいいのならその波に乗ってしまうのも一興。
使いきりの消耗品だけど普通に強い武器だしな。
「手順はさっきと同じでよろしく!」
「はーい!」
「任せなさい!」
「ふむ、ではもう少し強く攻撃してみますか」
「サポートはお任せください」
マジョリティックソードタイプLは、柄の部分にバッテリーみたいなものが内蔵されていると思われるエネルギーソードだ。
思われるというのは、古代の武具というのは未解明な部分が多く、とくにこういったエネルギー系の武具はプレイヤーメイドで再現するには必要なカンストステータスにカンストスキルがごろごろと並び、そのうえで製造系ユニークスキルを両手指に届くような数を揃えないといけないのだ。
加えて、情報のほとんどは古代の技術でうんたらかんたらと少し古風に書かれているフレーバーテキスト頼りで手探り製作になるのだからプレイヤー泣かせのロマン武器。
「二本目!!」
こうやって四体目で新しくドロップしてくれるのは本当にまだいい方で、下手するとゲームでストーリー攻略中には出会わなかったというライトプレイヤーもいたくらいだ。
高々と掲げるネルの笑顔にサムズアップしておくが、俺は知り合いのライトユーザーがゲームクリア後にこの武器の存在を知ってガチギレした記憶も思い出されてしまう。
ここまでで、マジョリティックソードタイプLがかなり貴重な武器だとわかってくれるだろう。
しかし、ここで一つ疑問が生まれる。何でドロップ品の古代武具が消耗品のカテゴリーに入るかだ。
普通にエネルギーを補充すれば再利用できるだろうし、弱者の証を混ぜ込めば壊れることもないのではないかと思われるだろうが、そう都合よくいくものじゃないんだよね。
槍を振るい、戦いながらマジョリティックソードタイプLの欠点を思い出し、メインウェポンとしては使えないことに対して思わずため息がこぼれる。
まず第一に、エネルギーの補充だが、このエネルギーはおそらく魔力を使っているのだろうけど、補充するための設備、スマホなら充電器みたいな装置が存在しないんだよ。
ないのなら作るのがプレイヤーなんだけど、先ほど言った通りガチガチの生産系の廃プレイヤーがようやく作れる技術体系。
そう簡単に充電器みたいなものとはいえ作れると思うな。
今のレベル、今の錬金設備、そして素材。
どれをとっても作れる気が欠片もしない。
すなわち、現状だとエネルギーを補充するすべが一切ないのだ。
ゲーム発売当初に、このエネルギー武具を作ろうとしたプレイヤーは、悉くこの技術体系の前に製作を頓挫させていた。
中にはこのライ○セーバーそっくりな形態の武器にドはまりして、心血を注いでどうにか作ろうと躍起になりゲーム内財産を溶かしに溶かして、借金までしたプレイヤーもいた。
だけど、結局のところエネルギー問題が解決しない時点でこの武器が消耗品というカテゴリーから脱却する日は来なかった。
脱却できた時には、この古代武具は最前線で使うには火力が足りなくなっており、プレイヤーたちの産み出した魔改造武具の前にはネタロマン枠に収まるしかなかったのだ。
弱者の証もそうだ。
あれは不壊のエンチャント効果を与えてくれるけど、エネルギー切れは補填してくれない。
エネルギーの切れたマジョリティックソードタイプLなんてただの剣の柄でしかない。
混ぜても意味がないんだよね。
「三本目!!」
しかもマジョリティックソードタイプLは一度スイッチを入れたらエネルギーが尽きるまで電源をオフにできない仕様なんだよ。
なんで運営はそんな仕様にしたかは皆目見当もつかないと製作系プレイヤーの間ではよく呟かれるクレームだ。
九体目を倒し終え、五パーセントの確率とはなんぞやと疑問に思いつつ。
そんな見た目もかっこいい、威力もそこそこ、そして切り札としてビームも出せるという男の子が一度は憧れる武器なのだ。欠点も目立つ武器だけどね。
ゲーム攻略の実用品として使いこなすにはガチの製作系ビルドキャラが必須という、ロマン枠兵装。
「最後に出て良かったわね!!」
「本当に、ネルの運ってどうなっているんだろうな?」
全てのセットを消費し終え、角だけ大量に残った戦利品の脇に新たに戦利品が並べられる。
「魔石は全部ドロップして、エネルギーソードが四本、加えましてダンジョンの鍵が一本です。これだけでひと財産になるかと」
「神に愛されていると言っても過言ではありませんね」
それを確率五パーセントの壁を簡単に飛び越えて、四つも揃えてしまうネルさんパナイっす。
しかもちゃっかりダンジョンの鍵まで引っ張ってきている。
ジェ〇イハニワから出たから、ボスはクラス一つ上のハニワになるし、クラス4のハニワがうじゃうじゃといるダンジョンになるからそう簡単に挑むことはできない。
だが、ゴーレム系のボス宝箱は有用な物が多いから正直助かる。
クローディアが神に愛されていると評するのも過言ではないドロップ率だ。
「こんなものよ!!」
堂々と胸を張り、ドヤ顔を披露しても素直に拍手しか出てきませんよ。
「改造パーツセットも使い切ったし、撤退しようか」
ネルに感謝しつつ、ここでの目的は達したので撤収準備にはいる。
「帰ったら俺は依頼主にこれを届けてくるから」
時間的に王都に戻って配達するくらいの時間はあるだろう。
「私は今日のドロップ品の在庫表をつけておくわ」
「私は夕食の買い出しをしに行きます」
「あ、僕も行く!」
「私は少し教会に用事がありますので」
女性陣は、このロマン武器の性能には一切興味がないようで、一人で配達することが確定した。
うん、いつの世も男のロマンは女性には理解されないのだ。
少し寂しく思いつつも、転移のペンデュラムを起動させて家に帰れば、帰る前に言った通り各々の行動に移る。
「あ、リベルタ君もこっちなんだ」
「まぁ、方向は一緒だな」
俺は依頼の品を届けるためにとある路地を目指す。
その途中で市場を通るから、アミナとイングリットも一緒に行くことになったが。
「あれ?なんだろう兵士さんがたくさんいるけど」
「道路封鎖ですか、何か事件があったのでしょうか?」
「……」
俺の目的地に繋がる道路が兵士によって塞がれているのであった。
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