14 ハニワレボリューションVerスラッシャー
ハニワは前にデントさんと同僚の冒険者と一緒に狩った俗にいう雑魚モンスターだ。
それと再会することになるのは俺の中では既定路線だった。
「久しぶりにこれを使うわね」
スリングショットを持ち、その使い心地を確認するネルの視線の先には。
『はにゃぁ』
今日も平和にハニワが動き回っている。
牧歌的というのも何かおかしいが、ドロップも経験値も美味しくないハニワしかいない古代遺跡は、相も変わらず不人気で冒険者が寄り付かず、人の気配も他のモンスターの気配もないから風が吹き渡るだけで静かなものだ。
「リベルタ様、まずはパーツを集めるのですよね?」
「ああ、まずは十二種類のパーツを集めるぞ」
この古代遺跡の周辺は出現するのがノンアクティブモンスターのハニワだけなので、冒険者にとって美味しくないエリアだというのもあるが、王都から日帰りできる距離ではないのでここまで来るのは面倒だという理由もあって、ここら辺は相変わらず閑古鳥が鳴いている。
この環境はこれからやろうとしていることに対してかなり都合がいい。
「ネルとイングリットは一応クローディアさんの目の届く場所でそれぞれハニワを倒してくれ。それでドロップしたパーツはこの袋の中に入れて回収するように」
「わかったわ」
「かしこまりました」
「アミナはクローディアさんの側で追い風の歌を頼む。クローディアさんは毎度になりますけど周囲の警戒お願いします」
「はーい!」
「任せてください。ですがクラス4のハニワの戦闘には参加していいのですよね?」
「はい、是非に」
誰もいない、自由に使える狩場、それはゲーマーからしたら天国のような場所だ。
自分のテンポで好きなように狩りをすることができる。
安全マージンは充分に取れているから危険性もそこまで高くない。
それぞれに指示を出して、俺は鎌槍、ネルはハルバードをそしてイングリットは仕込み箒をとそれぞれの武器を持ち行動開始。
『はにゃ!?』
相手はノンアクティブモンスター、先制の鎌槍で攻撃してやれば一撃でハニワは砕け散り、そして黒い灰となって消える。
ダメージ的にはオーバーキルなのだが、ハニワの数が多いからドロップアイテム回収の回転効率は高い。
「最初は角か」
ハニワのドロップアイテムは十二種のパーツと魔石、そしてレアドロップでハニワの鍵だ。
ハニワの鍵もあれば後々の育成に役に立つから、ここらで一本か二本欲しいところだ。
パーツはほぼ確実にドロップする、それと合わせて何が出るかという話になるのだ。
ドロップ運が悪い俺でもこういった作業は手伝うことができる。
「また角か」
できる。
「次も角?」
できるはずなんだ。
「角」
できるよな?
「……」
ごめんちょっと自信がなくなってきた。
五連続で角パーツがドロップしてちょっと心がくじけそうになった。
これって運が悪いというべきなのか?
それとも同じアイテムが五連続で出ているから運がいいと言うべきなのか。
「これで七種類目!!」
「さすがですネル様。私は二つほどかぶりましたが、少しずつ種類が増えております」
ネルは最早運命の神様に幸運の数値を操作されているのでは思うくらい順調にアイテムの種類を増やし、イングリットはこれが普通という感じでアイテムを確保していく。
「ようやく別のパーツが出た」
それに対して俺は六体目にようやく別のパーツが出る。
「……もしかしてこの後もこういう感じか?」
ネルが操作されているのなら俺も意図的にドロップが偏っているのではと、ゲームをしているときに運営の思惑を感じたような感覚をなぜか今感じてしまう。
『はにゃ!?』
そんな悪い予感を感じつつ、それでも手早く近くにいたハニワを倒せば。
「さすがに杞憂だったか」
角と、さっき出たウイングパーツと違ったゴーグルパーツが出る。
うん、ちょっと偏ってただけだな。
「さぁって、気を取り直して集めるぞ!!」
その流れに俺の不安は払しょくされ、アミナの歌を背に受けて全力でハニワを狩る。
時間にして一時間ほどだろうか。
「角が多いね」
「すまん、俺だ」
クローディアのところに、袋をドロップアイテムで満杯にした状態で集まった俺たちは袋の中身を出して、種類別で並べた。
その結果偏りが出るのはドロップ確率的には仕方ないのだ。
しかし角の数だけがやたら多いのは解せん。
アミナのツッコミにスッと視線を逸らしてつい謝ってしまう。
意図的にやったわけじゃない。
だけどネルだけではなく、イングリットにも平均的と言えるようなドロップ率を示されるとなぜか罪悪感が。
「リベルタ大丈夫よ。私が頑張るから!!」
「うん、マジで頼むわ」
昔はこうじゃなかったんだけどなぁと回顧しつつ、用意できたセット数を数える。
「試行可能回数は十三回か、うん。十分だな」
十二種類のドロップを一セットにして、用意できた数は一時間で十三セット、かなり順調だと言える。
さっきも言ったが、場合によってはドロップに偏りが出て、ゲーマーの天敵物欲センサーが立ちはだかるときがある。
あと一種類、あと一種類が出ないんだと嘆き、睨みつけようにも敵は見えざる敵、物欲センサーだ。
それが立ちはだからない。ネルのラックがおかしいのは重々承知だけど、ありがたやとつい合掌して拝んでしまう。
「ネル、ありがとうな」
「いいのよ!でも、その手は何?」
「感謝のしるし」
「そう?でもなぜかしら、ちょっと違うような気がするんだけど」
気にしないでくれ、おそらくどんなゲームでもドロップ運を上げてくれるようなキャラがいたら何が何でも手に入れて祭り上げること請け合いだろう。
もしネルがソシャゲキャラなら天井までガチャを回すようなぶっ壊れキャラに認定されていてもおかしくはないだろうし。
「気にしないでくれ、さて、さっそくハニワにこのパーツをぶつけるんだけど」
そんなことを考えつつ、俺は一つのパーツを手に取る。
「打ち込むパーツの順番は気を付けてくれ」
「何か違いがあるの?」
「ああ」
手に取ったのはベルトのようなパーツ。
と言っても腰に巻くには短く小さすぎるし、何より硬い。
ワッペンのような形状の物体を手に取りつつ、説明を始める。
「ハニワは全部で三段階進化して、最終的にすべてのパーツを合体させるとクラス4のモンスターになる。だけど、そのクラス4になる進化系が全部で五つある」
ゴーレム系の中でもハニワはかなり特殊なモンスターだ。
「合体させるパーツの順番によって、その進化系の最終段階の型が変わるんだ」
一段階目、クラス2の進化系で別れる派生は近距離型か遠距離型かの二択。
「こっちのパーツが近接型に進化しやすいパーツで、こっちのパーツが遠距離型になりやすいパーツ」
十ニ種のパーツをちょうど半分に区切るように間で手に持ったベルトのようなパーツで線を引く。
「それで次の進化で近接型でもスピード型、パワー型で別れて、遠距離型も一緒」
そしてさらに四等分するように線を引く。
スピードパーツが三つ、パワーパーツが三つ。
これは遠近一緒の割合だ。
「これで四つの派生型ができて、三段階目の進化は二段階目の進化が強化される形になる」
「リベルタ君、それだと四つだよね?残りの一つは?」
「万能型と言われる進化系だな。遠近速力すべてを均等に与えたやつで、一番厄介な敵だ。まぁ、今回狙うのは近接スピード型だから気にしなくていい」
進化系はこれで全部。
後はこの進化のさせ方を実践するだけだ。
「出現の仕方は、簡単だ。パーツを四個合体させると一段階クラスアップする。その時に進化させたい系統のパーツを最初に選んで合体させるんだ。その次は与えたパーツで順番が決まるんだけど。今回は近接スピード型にしたいから、最初に近接スピードパーツ、次に近接パワー、遠距離スピード、遠距離パワーって順番にする」
ハニワの進化は、遠近と速力でも優先順位があって、遠近が上位、速力が下位の優先になる。
「あとは、やって見せるか。ひとまず、あのハニワでやるから戦闘準備!」
ここら辺は口で説明するよりも、実際にやって見せた方が早い。
ちょうど孤立してテコテコと動くハニワを見つけたので、戦闘態勢を皆がとったのを確認して手に持っているベルトのようなワッペンパーツをスリングショットにセットして狙いを定める。
そして放てばまっすぐにゆっくりと動くハニワに当たり、そして進化の輝きを見せる。
この進化の過程で注意すべきはできる限り、周囲に別のハニワがいないように気を付けることだ。
万が一外して別のハニワにパーツがヒットすれば、その個体と合体されてアイテムを消費してしまう。
そうなるとワンセットが欠けて、最終形態まで持っていけなくなるのだ。
なのでこいつを進化させる際はスリングショットによほどの腕に自信があっても周囲から孤立したハニワを用意すべき。
とそんなことを思いつつ、一つまた一つとパーツを打ち込み。
『ハニャァァアアアア!!』
「大きくなったわね」
「はい、それと武装も確認できました。兜と盾と剣ですか」
クラス2に進化したハニワは元気に産声をあげた。
クレイゴーレムVerソルジャーだ。
俺たちプレイヤーは長ったらしい名称を呼ぶのが面倒なので近接ハニワで通している。
「気をつけろ!進化したハニワはアクティブモンスターになってこっちに襲い掛かってくるからな!イングリット!前に出て足払いを頼む!」
「承りました。参ります」
進化してもノンアクティブのままでいてほしかったが、そうは問屋が卸してくれない。
俺たちを敵と認識した近接ハニワは、のっしのっしと少し重めの足音を響かせてこっちに向かってくる。
「次はこいつだ!!」
そして今度俺が手に取ったパーツは背中に生やす鉄の翼のような物だ。
雑なつくりで、これで飛ぶことなど欠片も考えられていないような出来栄え。
それをスリングショットにセットし撃ち出すと。
『ハニャァアアア!?』
再び発光し始める。
ロボットアニメとかだと合体シーンには攻撃をされることはほぼないのだが。
「隙アリです」
イングリットは容赦なく、埴輪の足元を箒で払い除けスパンと小刻みのいい音がしたら近接ハニワがこけてしまった。
ハニワの発光は続き形状は変化するが、変身合体中にも関わらず攻撃するのはロボットアニメのお約束がないこの世界だからこそできる芸当だな。
イングリットが攻撃しては飛び退き、近接ハニワが転倒して動いていない隙にまた一つ、二つ、三つとパーツを打ち込み。
『ハニャァアアアアアアアアア!!!』
「今度はスリムになったね」
「そうね。でも顔はハニワね」
大きくはならなかったが、形状が一気に変化し、近接ハニワはスピード型ハニワに進化した。
部分的に騎士の鎧をくっつけたような格好になったのだが、顔はデフォルトのハニワフェイス。
体も少し細身になり、元の三頭身から四頭身くらいのバランスにはなった。
クレイゴーレムVerナイト。
兵士から騎士へと昇格したが、これまたフルネームで呼ぶのが面倒なので騎士ハニワと俺たちは呼んでいた。
騎士に進化したからと言ってアミナとネルには評判が悪いフォルム。
これは微妙という二人の表情が、騎士ハニワのアンバランスさを物語っている。
そして合体途中に転ばされたことに怒りを覚えた騎士ハニワが片手の剣を地面に突き立て、起き上がろうとする。
「ほいっと」
そんな隙を放っておくわけがないだろ。
進化フェーズを作れば、強制的に隙だらけになるのだから、容赦なく次のパーツを打ち込む。
「イングリット!!」
「かしこまりました」
そして次もまたイングリットが前に出て起き上がろうとするために突き立てていた剣を持つ手を剣から払いのけ、バランスが取れなくなった騎士ハニワは。
『はにゃ!?』
コントのように顔面から地面に倒れた。
二度も同じことをやっていれば、三度目も同じ流れで順番を守りつつ再びパーツを打ち込む。
『ハニャアアアアアアア!!!!』
そして全身に力がたぎるぜと叫んでいるようなハニワの雄叫びと同時に、今までにない強烈な発光がハニワを包む。
「イングリット下がって」
「攻撃をしなくてよろしいのですか?」
「そうよリベルタあんなに隙だらけなのに」
「絶好の攻撃の機会だと思うのですが?」
「うん、進化しきってから倒さないと欲しいドロップアイテムが出ないから少し待ってね?アミナは進化が終わったらすぐに歌いだして」
変身合体にかける男のロマンを女性にもわかって欲しいとは思わないし、この世界が異世界だからロボットアニメの合体シーンのお約束の良さがわからないのも理解できる。
だけど、うちの女性陣の容赦のなさはどこから来るんだろう?
「わかった!」
まぁ、俺としてもドロップテーブルが変わらなければ、こんな隙モーションを持っているモンスターはさっさと倒して経験値に変えたいくらいなんだけどね。
『ハァニャァアアアアアア!!』
そして俺たちが見守る中、ハニワはついに最終進化を遂げる。
クレイゴーレムVerスラッシャー
盾を捨て、ブオンブオンと唸りをあげる魔力でできた両手持ちのエネルギーソードを持つ近接スピード型ハニワ。
通称。
ジェ〇イハニワ。
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