5 昔取った杵柄
様々な武器のあるゲームだと、つい好みの武器ばかり使ってしまう傾向があるのはゲーマーなら覚えがあるだろう。
見た目が好き、強そうだから、他のゲームでこれを使っていたから、あるいは事前情報でこの武器が強かったからなど理由は様々だ。
俺はというと、とりあえず一通りの武器は使っておこうと目についた武器は触るようにしている。
「おいおい、本気で使えるのか?」
「ご安心を、五本の指に入る程度には得意な武器なので」
その中で気に入った武器を使うというスタンスでやっていたからか、槍以外にも使える武器は結構あったりする。
この前使った弓もそうだ。
あれはあれでお気に入りの武器だったから、キャラも作って使い込んだ思い出がある。
今回使う大槌は弓ほどには使い込んでいないが、子供に大槌という珍妙な組み合わせにニヤニヤと嘲るように笑い、油断しきっている兵士十人をボコボコにするには十分だ。
「ジャカラン殿はこれ以上の人数を一人で倒し切ったんだ。俺たち程度に苦戦しないでくれよ英雄さん?」
完全に舐め切っている。
「そうですかぁ、ちなみにそのジャカラン殿はあなたたちを何分ぐらいで倒したんですか?」
きっとボルトリンデ公爵もそこそこ腕利きの兵士を用意して、エーデルガルド公爵のメンツを潰そうと画策しているのだろう。
見た感じ、クラス3と言ったところ。
ゲームのNPCならそこそこ優秀な兵士と言ったところか。
一人、一番奥でじっと俺を見ている輩だけには注意を払っておこう。
嘲り、笑い、俺を挑発してくる兵士たちとは違い、片目を眼帯で覆ったその男だけは俺を観察している。
「一分もかからないよ!あの人は正真正銘の英雄だからな!」
ジャカランの暴力性に何を感じ取っているのやら。彼らは己を鍛えて今より強くなることを諦め、己の限界を超えることをせず、ジャカランの残忍な強さに羨望の眼差しを向けている。
「そうですか、では、三十秒であなたたちを倒しましょうか」
「は?」
その態度に、俺の気持ちは冷めた。
余興として用意された場所だけど、さっさと効率的に倒すことを決めた。
敬語を使っているのは敬っているのではなく、言葉で距離を取りたかったから、こういう人と仲がいいと思われたくないから。
「舐めてんのか?」
「舐めてませんよ、事実を言っただけですので」
対話するのも、なんとなく相手の強さを測るための行為でしかない。
大槌を後ろに回し、構える。
「ちっ、子供だからって手加減されると思うなよ!!」
これ以上は話す気はないと言外に伝えてみると、なんというか当て馬の見本かと言いたくなるくらいに綺麗な三下ムーブをして武器を構え始める。
けれど言葉に反して、装備と動きは本気だ。
おー、何とも大人げない。
子供相手にガチの編成できてるな。
盾と剣を持った前衛が三人に、槍持ちが二人、弓が二人、ヒーラーっぽい格好のやつが一人と杖をもった魔法系が二人、警戒すべきはあの魔法使い系の眼帯の男。
見るからにリーダー格なのはあいつか。
不意打ちをされないように、盾持ちをしっかりと前にそろえて後衛を隠しているのを見るあたり、連携も取れている。
子供一人に大人十人、絵面だけで見れば弱い者いじめに見えるだろうね。
審判は近衛騎士の人なのだろう。
少し心配そうに俺を見て、そのあと本気で戦うのかと兵士の方を見て、双方引かないことを確認し、一度目をつむり。
「決闘の女神の御照覧の元、双方正々堂々と戦うように!それでは」
御前試合を始めるために、審判の騎士が右手を大きく上げ。
「はじめ!」
振り下ろした。
「はぁ!」
その瞬間にダッシュし、正面から盾持ちの兵士の盾を、大槌を横にスイングする形で叩く軌道で攻撃する。
「馬鹿が!ヘビースタンス!」
俺の攻撃に対抗して発動させたスキルは自身の重量をあげて吹き飛ばしを防ぐためのスキル。
これで大槌の一撃を防いで、後方に控える槍持ちが攻撃しようというつもりなのだろうが。
そんな堂々と動きません宣言をされれば、盾ではなく思いっきり脛を殴りたくなるじゃないか。
横スイングを少し軌道修正、斜め下に振り下ろすようにしてやれば。
ボキっと思いっきり骨が折れましたという音が鳴り響く。
「!?!?!?!」
声にならない叫びで表情が真っ青に染まる盾男、すぐに他の兵士がサポートに入ろうと動き、そして回復役が盾男の足を治そうとする。
だけど、一度動き始めた大槌使いに不用意に近づこうとするのはいただけない。
足を砕くために振りぬいた姿勢は絶好の隙だと言わんばかりに左右から攻撃が来る。
このままいけば、これで終わりだけど。
「ほいっと」
大槌を振った勢いを利用して回し蹴り、最初に足を砕いた盾男の顎を蹴りぬいて、意識を刈り取り。
「プレゼントフォー・ユー」
下手な発音の英語を披露しながら、左側から接近するチームに押し付ける。
「うお!?」
「邪魔だ!」
それを払いのけるのにはコンマ数秒の時間が必要になる。
そのコンマ数秒があれば十分。
「はい、二人目」
大槌を使いこなすコツは、遠心力を殺さないように流れるように回転を操作することだ。
一度作ったスイングの勢いを殺さず、止めるのではなく流すように導く。
柄を持つ場所を調整して、クルリクルリと大槌を動かし、右側から迫ってきた槍使いの突きをステップで躱し、すれ違いざまにカウンターで肩付近を痛打してやる。
「んがぁあ!?」
手応え的に肩が砕けたか。
これで2人戦線離脱。
盾と槍持ちを倒すのにかかった時間は五秒かそこら。
この勢いの乗った回転は止めない。遠心力を加速させればさせるほど、大槌という武器は威力を増す。
しかし一定方向ばかりだと行動パターンが読まれやすくなって回避されてしまう。
大きい武器って言うのは、攻撃の隙も大きいのだ。
それを解消するために技術は必要。
「もらったぁ!!!」
「いやぁ、ごっつぁんです」
FBOのPVPじゃ、俺の攻撃後の隙を隙とは呼ばなかっただろうな。
迂闊にも飛び込んでくる、右側に配置されていた盾持ち。
小柄な体を軸にして、腕で回すのではなく全身を駆使して大槌をスイングし、その力に逆らわず、その流れを変えることだけを考える。
「三人」
「ぐほぉ!?」
盾を構えながら、剣を突き出すのは基本に忠実、訓練の賜物と言うべき綺麗な攻撃だ。
ゆえに、読みやすい。
遠心力がふんだんに乗った大槌に∞を描かせるよう軌道を変え、その勢いをそのまま盾持ちの男に叩きつける
斜め上から振り下ろした一撃で盾越しに衝撃が伝わり、あまりの勢いに体がぶれる。
「がっは!?」
そのまま地面に叩きつけて、その勢いを利用して空中に飛ぶ。
「飛んだ!?」
近づくのが危険だと思って咄嗟に止まるのは良いけど、そこで驚いて受けに回るのは良くないかなぁ。
「ヘビースタンス!ガードムーブ!フォートレス!!」
持っているスキルで、全力防御をしているんだろうけど、ステータス差的に防ぐのは難しいと思う。
重力加速度に遠心力も加えている。
ステータス差から考えると、上からくる大槌の攻撃を盾を掲げて防ぐには。
「その盾じゃ不十分」
木製の訓練用の盾、鉄で補強はされてはいるが。
だけど、目の前の男の対応は普段使いの実戦装備の動きだ。
もっと強固な実戦用の盾ならこの木製の大槌の攻撃を防げたかもしれないが。
「!?」
今回はそれができないんだよね。
フォートレスは吹き飛び防止のスキルで、一見よさそうに見えるけど、その場にとどまるからダメージが逃げないんだよねぇ。
腕の骨ごと盾を砕いて、痛みで目を見開く男の顔を柄で殴り飛ばす。
「四人目」
大槌はこういう吹き飛ばしの演出が派手でかっこいいから使うのが楽しいんだよな。
大型モンスターとかにも有効な場合が多いし、上手く使えばこうやって高火力の打撃を連続で繋げて、大ダメージを狙うことができる。
吹き飛ばし効果も優秀だし、スキルを組み合わせると武器破壊とか防具破壊もできる。
「ひっ!?」
さっきまで子供として俺を侮っていた顔はどこにいったのか。
怪物を見るようなまなざしで俺を見て、腰が引けてしまった槍使い。
同じ槍使いとしてその佇まいに思うところがないわけではない。
「五人目」
だけど、ここに戦いに来たのなら手加減はしない。
慌てて突き出した攻撃を躱し、カウンターで腹部に大槌を叩き込む。
「っ!?」
鎧越しでもその衝撃で肺の空気が押し出され、一時的に呼吸が詰まって悶絶してそこでうずくまり、動けなくなる。
これで残ったのは弓二人と魔法系二人と回復役という後衛だけ。
「手は緩めませんよっと」
「ヒューディを守れ!!」
狙うはうかつにも治療のために一歩前に出た回復役だ。
どうやらヒューディというらしいな。
瞬く間に前衛が全滅。慌てて眼帯男が指揮を執って、残った戦力で戦おうとするけど。
「ちょっと、遅いね」
陣形を組んでいるということは、仲間と仲間の距離が近いということ。
連携を取るためにある程度の形が決まっているからそれを崩すと途端に機能不全を起こしてしまう。
「くそぉ!!!」
なりふり構わず、やけくそ気味に回復役のヒーラーは杖を振り回して攻撃してくるが、そんな攻撃など杖ごと潰せばいい。
「六人目っと」
弓と魔法攻撃は間に合わない。
ヒーラーはお空へフライアウェイ。
「おっと、矢じりが潰してあるって言っても当たったら痛いからなぁ」
その攻撃の直後に飛んで来る矢を躱し、射かけられた方向を見てみると残された後衛が一塊になって防御している。
「撃てぇ!!近づけさせるな!!」
眼帯の男の掛け声で一斉に魔法と矢が俺にめがけて放たれる。
質よりも量、俺の防御力が低いのを見てか、速射と弾幕を意識してスキルを使っている。
「うーん、デバフ系じゃなくて一安心だな」
眼帯の男がデバフ系の魔法使いだったら嫌だったけど、火系統の魔法スキルを撃ってきているところを見るあたり普通の魔法使いっぽいな。
二人の弓兵と二人の魔法使いからの遠距離攻撃の弾幕は、狙われれば近づけなくなるほど面倒だけど俺のスピードなら走れば躱せる。
「それじゃ、大槌の遠距離攻撃見せますか!!」
大槌だからと言って遠距離攻撃がないと思われるのは心外だ。
スキル攻撃にはきちんと大槌にも遠距離があるけど、大槌スキルは一切ない俺は手近に転がっていた手ごろな石を見つけると。
「やっててよかったゴルフ!!」
地面すれすれに大槌の頭を振るって、拾い上げるように石を叩き。
「!?避けろ!」
「え?」
一人の弓兵の腹部に直撃して、弓兵は腹を押さえて悶絶する。
「七人っと!へいへい!次行くぞ!!」
攻撃役が一人減るとその分だけ、弾幕も薄くなる。
再び走り出して、弾幕が薄くなった空間をかける。
「ああー、三十秒過ぎたかも」
目標タイムを切れなくて、少し残念に思いつつ敵を見るが、俺が攻撃してきたのにもかかわらず変わらず固定砲台となって弾幕を張っている。
固定砲台は確かに使い方次第では強くなるが、防御が甘いと絶好の的になるんだよ。
固定砲台をするなら盾役を置いて、守りをしっかりと確保してやるべき。
まぁ、肝心の盾役は俺の所為で地面に転がっているけど。
「まぁ、いっか!八人目ぇ!!」
その盾役が装備していた兜が地面に転がっていたので、これ幸いと再びゴルフスイング。
「ぐは!?」
直撃したのは眼帯じゃない方の魔法使い。
眼帯男は俺がスイング体勢に入ると回避姿勢に入っていた。
反応がずいぶんと早いこと。
「次っと!」
しかし、これで弾幕はさらに薄くなった。
「うああああああ!!」
俺の接近に闇雲になった弓兵の攻撃を躱し懐に潜り込み、そして。
「九人目!!」
再びお空へフライアウェイ!
大槌の腹部への一撃で、弓兵はくの字に折れ曲がってそのまま練兵場の端に吹き飛ばされ壁に激突して失神する。
そして残るは眼帯の男だけだが。
「降参だ」
彼はあっさりと杖を手放し、両手を上げ審判の方に顔を向けて降参した。
「わかった。勝負あり!勝者リベルタ!!」
その対応はちょっと意外。
貴族のメンツがかかっているこの戦いに降参が認められているのか。
最後の結末がこんなあっさりしたものでいいのかと思いつつ、控えていた救護班が一斉に会場に入り込み、俺がボコボコにした兵士たちの治療を始めた。
「ずいぶんと派手にやりましたね」
「英雄っぽかったですか?」
「どちらかというと、野盗に襲われている子供が大槌を振り回して撃退という感じでしたね」
「あー、そうですね、見た目だけで言うんだったらそう見えるかぁ」
戦いは終わった。
ジャカランの記録は塗り替えられたかはわからないが、これで多少実力は認められただろう。
拍手も歓声も何もない、ただ貴族たちのざわめきだけが残る結末。
こんな戦いで英雄と認められるわけがないのはわかっているが、何とも味気ない結末だ。
「エーデルガルド公爵が待っていますので移動しましょう」
「はい」
しかし、これで貴族たちは俺のことを認識してしまったかぁ。
「……はぁ」
「どうしました?ため息をついて」
「いえ、貴族に顔を覚えられてしまったなぁと」
「ここで嘆くのがあなたらしいですね。普通は平民は貴族に顔を覚えてもらうために努力するのですが」
厄介ごと、起きなければいいなぁ。
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