1 やっちまったぜ
新章突入します!!
ノリと勢いで風竜を討伐してから一月の時間が経ち。
世間は猛暑が過ぎ去り、秋の空気が流れ始めている
その間どうしていたかと言えば。
まず最初に俺はロータスさんと一緒に公爵閣下に風竜を倒してしまいましたと謝罪しに行き、驚かれた。
公爵閣下の依頼は竜殺しの大弓を作ること。風竜の討伐は依頼には入っていないし、竜殺しの大弓も一張りしか作れていない。
公爵閣下はロータスさんの報告で、デュラハンのダンジョンの消滅が確認されたことにまずは驚き、そして俺は依頼の失敗を謝罪し、風竜の素材と竜殺しの大弓を渡した。
『何故謝るのだ?』
これは単純に俺の気持ちの問題だ。
クエストはしっかりと達成したい。
そんなわがままに似た、俺のポリシーでしかない。
風竜も倒して、そしてダンジョンも攻略したのだからいいじゃないかと思われるかもしれないが、それはそれだと思う。
『いや、風竜討伐の王命を受けていた公爵家から獲物を横取りしたことになりますし、名誉的な話で問題があるかなぁと』
それに、元からエーデルガルド公爵家で対応しようとしていて、実際に兵や冒険者を動かしている。
名誉というのは、いわば実績だ。
エーデルガルド公爵には風竜を倒すことができる実力があるという今後に響く影響力に関係してくるのだ。
俺はあくまで公爵家と関係のある協力者であって、配下ではないのだから。
その計画を潰してしまったという後ろめたさがあるのだ。
『・・・・・そんなことを気にしていたのか?』
そんなことを気にして、頭を下げたのだが、公爵閣下は苦笑と脱力を一緒にして問題ないと言ってくれた。
『貴族なら重要ですよね?』
『たしかに重要ではあるが、今回なによりも優先すべきは危険なダンジョンを排除し民へ安心を与えることが第一だ』
しかし、闇落ちしていない公爵閣下は民を守るのが貴族だと断言してくれた。
『それに、今回の件はそこまで悪い結果とも言えん。総合的に見れば良いとも言える』
『と言いますと?』
『危険を冒したお前の前で言うのもなんだが、兵と冒険者の損耗が想定よりもだいぶ少ない、加えて費用の方もだいぶ余った』
その民思いな一面を見せつつ為政者としての顔も見せ、人材の損耗と経費を抑えることができたと教えてくれた。
『俺一人が動くのと、軍を動かすのじゃコストが違うって言うことですか?』
『ああ、そうだ。その事実は当家が名誉を取り逃したという事実に目をつむれる理由になる』
あくまで例外に数えられる結果という前置きで、軍団を動かすよりも個人が動いて解決した方がお金も人的資源もかからないと言ってみれば、公爵閣下は頷く。
『我が家はほかの貴族から見れば金も人材もある。だが、どちらも湯水のように湧いてくるわけではない。金は稼がねばなくなり、人は失えば補うのに時間がかかる』
俺の行動の結果、エーデルガルド公爵家の損耗が予想よりも大幅に抑えられた。
『それが回避できた上に、形式上お前は私の依頼であのダンジョンに潜っていた。言い方を変え、少々誇張してやれば私の手柄にもできる』
その事実に満足し、少しだけ手間を掛ければ今回の件はある意味で最良の結果になったと言ってくれた。
『唯一、問題があるとすれば今回の件で手柄をあげようとしていた部下たちや報酬を求めてダンジョンに挑んだ冒険者たちの不満だが』
『ああー、大丈夫ですか?』
そんな結果でも失態はある。
公爵閣下の中で一番の懸念点は、手柄を上げ出世を考えていた兵士や騎士に、ダンジョン攻略をして生活を豊かにしようと一攫千金を夢見た冒険者たち。
一生懸命やっているところにいきなり横から現れて、先にダンジョンを攻略されてしまったらふざけるなと言わざるを得ないだろう。
『そちらも問題なかろう。冒険者には今回の依頼料に少し色を付けてやればいい。奴らからすれば予定していた拘束時間よりも短く解放され、それでも満額以上の金が手に入るのだ。抑えられた予算から捻出してやれば問題ない。部下たちには休暇と慰労金という名目でボーナスを与えればいい』
その気持ちを解消するのもまた俺が早急にダンジョンを攻略したからお金で対応できるということ。
『それなら良かったです』
『ああ、今回は苦労をかけた。お前にも報酬に上乗せしておこう。兵もクローディア司祭に鍛えられこちらとしてもいい機会になった』
結果良ければすべて良し。
そんな言葉が思いつくような、行き当たりばったりの結果だった。
『できれば二度とやりたくないですね。今回は本当に死ぬかと思いましたし』
『私としてもそうそうこんな仕事は受けたくはない。最近の酒がまずくて仕方なかったのだ。リベルタ、お前のおかげで今日は久々に美味い酒が飲めそうだ』
だけど、クエストが達成認定受けたのなら俺からすれば万々歳だ。
公爵閣下が笑顔、そして俺も報酬を得て笑顔。
これでこの事件も解決だ。
そう思っていたんだけど。
「王からの呼び出しがかかった。明日、王城に向かうぞ」
「えー?」
事件というのは忘れたころにやってくるんだ。
事が動いたのは公爵閣下にダンジョン攻略を報告し、依頼達成を認められてから一か月後の話。
最初の三日ほどはゆっくりと休んで、そこからずっとクラス3へ上がるために昇段のオーブを得るために必死にモチダンジョンを周回し、気分転換で沼竜を狩ったり、約束していたお菓子作りをしたりと日常を取り戻していた。
だけど、そんな日常が公爵閣下からの呼び出しで脆くも崩れ落ちた。
「どういうことで?」
緊急の用件で、公爵閣下に呼び出されいつも通りクローディアと一緒に向かってみると、腕を組んだ公爵閣下に、開口一番にそう言われた。
この国のトップからの呼び出し。ネルやアミナそしてイングリットとクローディアと一緒に過ごしている俺が犯罪に手を染めているわけでもないので悪いことで呼び出されたわけではないのは確か。
「お前のことが王の耳に入った」
「「……」」
となると心当たりは、風竜のことくらいしかない。
沼竜のことがばれた可能性も考えたが、そっちでばれたのなら俺の方に直接来るはず。
公爵閣下経由で通達されるということは、風竜関係しか思いつかない。
「風竜を倒したことも大まかに把握されているご様子だ」
「「・・・・・」」
予想は的中、無言でクローディアと一緒に聞いていると、ため息と一緒に答えられた。
箝口令が布かれているのなら俺の情報が洩れる心配はないと思っていたが、王様の耳は思ったよりも遠くの声を拾えたらしい。
「なぜこのタイミングでリベルタが呼び出されたのでしょうか?最近の彼は大人しくしていたはずですよ」
「おそらく、噂が耳に入ったのが最近だからだろう」
「最近?」
その情報がどこからともなく拾われて俺までたどりついたとのこと。
「ああ、娼婦に自慢気に語る冒険者がいてな。その者はダンジョン攻略に参加していた」
「その人が俺のことを漏らしたと?」
「いや、その者もリベルタのことを正確に把握しているわけではない。娼婦に自慢していたのは大半が自分の武勇伝だと聞いている。その武勇伝の大半は聞き流し、娼婦が覚えていたのは、小人族の戦士が風竜を倒したという話とその小人族の戦士が我がエーデルガルド家とつながりがあるという話だ」
その情報源が閣下の部下の兵士からではなく、俺が疲れて油断していた時を目撃した冒険者からだという。
冒険者というのは自分を大きく見せるために自己顕示欲が強い。
弱く見せると仕事が入ってこないのだからできるだけ無謀にならない程度で自慢話をする。
その相手が色気のあるお姉さんなのは納得だ。
「なぜ娼婦の話を陛下がご存知なのです?」
しかし、それはあくまで庶民の話。
箝口令も冒険者ならこれくらいなら大丈夫だろうという油断でポロっとこぼれてしまったのも理解できる。
不思議なのは、その噂話がどうして国王陛下の元までたどり着いたかという話だ。
「まさか」
クローディアがその部分に触れる際、仕方ないとわかっていても呆れた雰囲気を纏ってしまうのは仕方ない。
「断じて司祭が考えているようなことはない。これは、なんというか、数奇な偶然が重なった不運だ。その娼婦を別の男が買ってその男が城勤めの兵士で、その噂話をその上官が聞き」
「その流れで陛下のお耳に入ったと?」
「ああ、そういうことだ」
もしかしたら国王陛下が件の綺麗なお姉さんを買いに行ったのかと疑うような視線を向けたが、さすがにそれはないと、クローディアが言葉にする前に公爵閣下が否定した。
そして語られた俺の情報源はそんな偶然で流れてきた噂話を信じたところから始まったという。
「最初は疑っていたが、最近入ってきたアレが原因で藁にもすがる思いだという話でな」
「アレですか」
「ああ、アレだ」
そんな噂を信じないといけないほど、この国は切羽詰まっているのか?
〝ジャカラン〟
今俺たちの中で目の上のたんこぶになっている存在だ。
名前すら呼びたくないという俺と公爵閣下のやり取り。
「そんなにひどいんですか?」
「ひどい、という言葉ですら足りん。あのダンジョンで暴れられなかったのが相当気に食わなかったようでな」
王は信じていないが、城蛇公爵ことボルドリンデ公爵家が推す神託の英雄候補の少年。
その少年は最近はより一層悪さに拍車がかかっているそうだ。
「兵士の訓練場に入り込んでは兵士をボロボロにしていくようだ」
「……問題じゃ?」
「問題にはならん。ボルドリンデ公爵の私兵の訓練場で起きた出来事だ。内々で解決してしまえば咎める者もおらん。だが、簡単に調べるだけで私の耳に入るほどだ。兵士にも相当不満がたまっておる」
仲間であるはずの兵士をサンドバッグのように自由に攻撃し、暴行して気を紛らわしているとのこと。
「狩場に連れ出したら体力が尽きるまで暴れまわり冒険者といざこざを起こしそのまま冒険者を殺しそうになった」
外に出せば、それはそれで問題を起こす。
奴には理性がない、感情のままに人生を生きようとしている。
「綺麗な女性を見れば、恋人がいようがお構いなしに連れ去ろうとする」
「……英雄候補なのですよね?」
「司祭の疑問はもっともだ。ここまで見ればただの力を持った犯罪者予備軍だ。瀬戸際で止められているに過ぎない。しかし、最近奴はいくつか手柄を立てている。先日は、グルンド盗賊団をたった一人で壊滅させた」
その生き様は人との共存を一切考えてない。
公爵閣下の口から語られる内容はどれも迷惑行為を通り過ぎて、犯罪と言われてもおかしくない内容ばかりだ。
「グルンド盗賊団ですか、この大陸でも有名な盗賊団です。懸賞金も相当なものでそれに見合う規模だったはずですが」
その悪印象を少しでも拭うためなのか、あるいは暴れるための口実か。
一応人のためになることはしているようだが。
グルンド盗賊団。
その名は俺も聞いたことがある。
ゲームでも出てくるほどのネームドエネミー。
何度倒しても不死鳥のごとく再結成される盗賊団だ。
頭であるグルンドは、一見すれば人当たりのいいおっさんという人物。
しかしその正体は、悪人特化で人を誑し込むことができるカリスマ性を持っている。
盗賊をあちこちから拾ってきて、盗賊団を一定の規模まであっという間に回復させる手腕は見事だと俺たちプレイヤーは認めている。
だが、人柄がいいかと言えばそういうわけではない。
人を利用するのが上手く、危機察知能力に長け、部下に信頼させ死兵を作ることが上手いクズだ。
略奪なんて日常茶飯事、生産性の欠片もないゲームでは中ボスポジのクズ。
潰れた方が世のため人のためになると思われるほどだ。
だが、実力はそれなりにある。
「それを一人で?」
「ああ、力任せの強引な戦法で暴れまわったらしい。包囲が完了している状態で奴を一人盗賊の根城に送り込みそのままというのが流れだ」
それを仕留められるのだから災害と呼ばれるだけの実力はあるということだ。
ジャカランの使い方をボルドリンデ公爵は把握している。
仮にあいつを使うとしたら連携は一切期待できない。
暴れることしかできないやつを使うとしたら単騎殲滅しかない。
ゆえに盗賊団が逃げられないように包囲網を敷き、盗賊が集まっている場所に投入した。
その時の光景が目に浮かぶ。
狂ったように楽しみながら盗賊たちを屠っていく少年。
破壊が嵐のように襲い掛かった根城は血の海になり、誰一人まともな死に方はできない。
「首領であるグルンドの死も確認されている。それをもって盗賊団を壊滅したということになっている」
「?首領が死んだ?」
だけど、俺の中であの男グルンドだけは生き残っていたと勝手に思っていた。
あいつはゴキブリ並みの生命力と悪運の強さを持っている。
おまけに逃げることに関して言えば、FBOでは右に出る者がいないと言われるほどの逃走巧者。
そんな奴を仕留めたということに俺はつい首をかしげてしまうのであった。
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