32 風竜
四半期総合ランキングで1位獲得!!
これで日間、月間に続き三つ目の1位で三冠達成しました!!
皆様の応援とご愛読ありがとうございます!!
ああ!クソッ!本当に戦うのが風竜で良かったよコンチクショウ!!
心の中を少しでもポジティブにしようと必死にメリットを上げ続けて絶望しそうになっている俺の気持ちを鼓舞する。
この広場はそこまで広くはない。
規模的には住宅街にある小さな公園程度の広さ。
小さな子供であれば鬼ごっこができそうだけど、中学生くらいになれば物足りなさを感じる程度の広さだ。
両端に俺が両手を広げても隠れるような大岩が二つ、少し姿勢に気を付ければ立った状態で隠れられるような岩が中央に一つ。あとは俺が屈めば身を隠せそうな岩が点在するように四つ。
これがすべて破壊不能オブジェクトだ。
そして同時にこれが俺の鎧であり、盾だ。
「火竜だったら、ここは火の海になってたよなぁ!!」
小さな岩の裏側に体を滑り込ませて、飛んできた風竜のウインドカッターを防いで、屈んだままの姿勢で襲いかかってきた飛竜を狙撃。
「水竜だったらそもそもフィールドが水辺だから溺れてたかもなぁ!!」
ヘッドショットにはできなかったけど、喉元にある逆鱗を射貫いて喉を貫通したからかその飛竜は真っ逆さまになって落ちていく。
「地竜ならってぇ!?」
少しでも風竜と戦って良かった点を他の竜で比べようとした。
その途中で撃った飛竜が谷底に落ちたことを確認する。
横目でチラ見程度だけどその飛竜も仕留めようとしたところで、風竜のモーションを見て全力でダッシュする。
転がり込むように今度入り込むのは中央にある体を調整すればすべて隠れるであろう岩の裏だ。
魔法の次に放たれるブレスがその岩に直撃したけど、ダンジョン構造に組み込まれているこいつは壊れる心配がない。
ダンジョンの外であるならこの岩も普通に消し飛ばすくらいの威力はある。
「ダンジョンで良かったよ!!本当に!切実に!!」
遠距離攻撃に終始してくれているから、こうやってまだ生きている。
風竜が接近戦を挑んできたらそれでも対応しないといけないけど、遠距離戦の方がまだ何とかなる。
と言っても、風竜が接近戦をしかけてこないのは、空を飛ぶ飛竜と一緒でそこまで接近戦に長けているわけじゃないからだ。
背中に翼を生やし、四肢をもち手で攻撃できる前腕もあるのだが、そのスタイルはすらっとして他の属性の竜と比べれば線が細い。
空を飛び速度を出すことを想定しているような流線形のスタイルは、軽さが必要な故かほかの竜と比べるとパワー不足になり、空を飛べるというアドバンテージを捨ててまで接近戦をしようとも思っていないのだ。
地水火風の竜種の中で一番速く、そして遠距離戦を主体にする空を駆る竜。
距離とはある意味物理的な防御手段になりえる。
理不尽な攻撃を繰り返す風竜に向けて中指を立てたい気持ちを我慢しつつ、ブレスが終わったら全力で防御範囲の広い大岩を目指す。
「邪魔だ!!」
その道中でこっちを攻撃しようと、風竜の攻撃範囲から逃げる俺の前に回り込んだ飛竜には全力で殺意を伝えてヘッドショットをお見舞いする。
その一撃は頭に当たると確信して放てた。
そして予想通り、綺麗にヘッドショットを決めることができた。
もしかして、今の俺は覚醒状態に入っているのでは?
この感覚には覚えがある。
集中力が極限まで高まり、できることできないことの区別が瞬時にできている。
エナドリを大量にキメたときに入れるような、一種の極限集中ゾーン。
自分の身体の動きが仔細まで認識でき、満席の聴衆を前にしたピアニストのように研ぎ澄まされた指先の感覚は、FBOのプレイヤーランキングを駆け登っていた頃の俺の全盛期が戻ってきたことを確信できた。
土壇場にこの覚醒は正直ありがたい。
だけどいつまで続くかはわからない。
「はぁはぁ」
呼吸も荒く、そして汗の量もひどい。
摂取したエネルギーに対して、消費したエネルギーの比率が釣り合っていない証拠だ。
いくらステータスを手に入れたとしても、無限に体力があるわけではない。
体の稼働限界はそう長くないと、激しい鼓動を響かせる心臓が教えてくれる。
呼吸を必死に整えながら、少しでも体にエネルギーを回すために水筒をマジックバッグから取り出し一口水を含む。
しまう暇はかろうじてある、水筒をマジックバッグに放り込み、そして代わりに取り出したドライフルーツを口に放り込む。
僅かな甘みが体に浸み込み、それが即座にエネルギーになるような錯覚を味わい、まだ大丈夫だと体に言い聞かせる。
実際に即座にエネルギーになるわけじゃないが、それでもあとあとこの一口と一粒が必要になる。
そんな気がして、攻撃の手をほんの少しの間止めて確保した。
「オーケー俺、まだいけるな」
その予感を大事にできる。
こういう時のこういう予感は、思考ではなく本能から来るもの。
追い詰められているときに理性は無駄を省こうと思考を狭めるけど、いまはその予感が必要なものだと本能から訴えかけられていて、俺はそれを拾えている。
それは俺にはまだ余裕があるという事実を裏付けていることになる。
体のギアをトップに入れつつ、それでも頭は冷静に、これが今の俺の状態。
その状態を維持するには多大なるエネルギーが必要。
気を抜けば、ころりと解除されそうな危うさもあるけど、その集中を維持し続けないといけない。
集中を維持するには、無駄な力を抜き、余計な思考を挟ませず、目の前の出来事に専念する。
「外す気がしないなぁ!!」
テンションをあげて、叫ぶことで心を維持する。
精神論かもしれないが、疲れを無視する方法が今はこれしかない。
飛竜を撃ち落とし、そして仕留める。
その手際の良さを自画自賛して、これでいいと言い聞かせ、そして。
「そこぉ!!」
ハイテンションに持ち込むことによって、直感的な部分も磨きをかける。
視野を広げ、そして走り回り、常に風竜の正面を維持しながら飛竜の位置を把握。
思考を高速で回すから、鼻血が出るのではと心配になるくらいに頭に熱を持っているのがわかる。
それくらい体を休めている場所がない。
ここに至ると、直感的に放った矢の先に飛竜の頭が来て、そこに矢が突き刺さりそのまま飛竜が墜ちてゆく。
「ダウンバーストか!?」
この直感の次に来るのは、相手の行動パターンを読んで次の動きを選択する理性。
横からの攻撃の次に来るのは上からの攻撃。
空気が消失してはいないのでエアゼロフィールドではないと判断した俺は、空から降り注ぐ空気圧を避けつつ、それに巻き込まれ地面に叩きつけられた飛竜の頭にヘッドショットをかます。
「落ちなければ、やっぱ倒せないか」
攻撃力という点で、普通なら即死級の箇所に矢を叩き込んでもこの世界でのモンスターの生命を刈り取るには足りない。
落下ダメージ込みで、撃破を考慮しているから仕方ない。
代わりに取り巻きの飛竜を風竜の魔法に巻き込むように立ち回ってみたが、少しダメージが足りない。
「二本、必要か」
もう一本矢を脳天に直撃させて、ようやくそれで灰となって消えた。
その瞬間。
「ん?飛竜の様子が変わった?」
さっきまで一気呵成に攻め立てるように俺を攻撃していた飛竜が、一瞬だけど戸惑いを見せた。
仲間を目の前で殺したから?
いや、それはない。
ずっと取り巻きの飛竜にヘッドショットを決められて、それでもひるむことなく俺を襲い続けた。
ダンジョンのモンスターはボス以外は時間経過でリポップされるようになっている。
無限に湧いてくる兵士と言えばいいだろうか。
だからこそ、損耗を恐れないと言える。
そんな飛竜たちが、一瞬とはいえ俺への攻撃を躊躇った?
「間にあったか!」
その様子を見て、俺は確信した。
反撃の狼煙を上げる時が来たと。
「竜殺し!」
焔魔の大弓だったものが、竜殺しの焔魔大弓に進化した。
つい思わずそう叫びながら矢をつがえ、そしてそのまま飛竜にめがけて矢をぶっ放す。
竜殺しの効果が付与され火力上昇したからといって、一撃で飛竜が倒せるわけではない。
だけど、一矢一殺に近づいたのもまた事実で。
竜を殺せと殺意の乗った矢は、先ほどよりも速さを増し、そして速さが増したということは威力も増したということ。
さらに竜種にだけ特効が付与される。
それによって生み出された矢の一撃は、飛竜の顔を貫いた。
そう、刺さったのではない。
貫いたのだ。
顔面に風穴を作り出した一撃。
仕留め切れなかったけど、威力は理解できた。
ヘッドショットというクリティカルヒットであっても、この攻撃力の上がり幅は演出的にも美味しいものがある。
まぁ、顔面に穴開けても生きている飛竜の生命力にドン引きだけど。
灰になっていないということは生きているということで、そのまま落下していくのを横目に、ようやく俺にも風竜を攻撃する準備ができた。
『■■■■■■■!!!』
風竜が咆哮した。
気をつけろと取り巻きに注意を促したのだろうか。
生憎とFBOのベテランプレイヤーでも最後までモンスターの言語を解読できた奴はいなかった。
なのでなんとなく妄想で意訳している感は否めないがあながち外れているとも思わない。
実際飛竜の動きが変わった。
俺が守りから攻めに転じた原因が俺の手元にある弓だと察したからだろう。
こういう行動パターンはFBOでもあった。
竜殺しという竜に対する特効を野生の勘で感知すると言えばいいだろうか、特効武器は属性武器と違ってそのモンスターに対して殺意みたいな波動を放っていると言われている。
○○殺しと名がつくのだ、その仮説を否定するプレイヤーはいなかった。
実際、ただの武器を持っている場合と○○殺しという特効武器を持っているのとでは相手のモンスターの行動パターンは変わる。
具体的に何が変わるかと言えば、攻撃割合が減り、回避や防御のモーションが増えるのが検証でわかっている。
実際、大弓でさっきまで撃ち落とし続けてきたけど、うかつに攻撃されるような位置に飛竜が近づいてこなくなった。
溜める隙ができるブレスも撃たず、個人プレイをするような個体もいなくなった。
俺の周囲を囲み、隙を窺う姿勢。
それだけで、俺としては動きやすくなる。
「どうせなら、これに怯えてこのまま逃がしてくれるなんてことは・・・・・ないよな」
だけど、包囲網は緩まず、むしろ逃がしてなるモノかとさっきよりも監視されている。
目的を達成できた身としては、早々にここから撤退したいところだけど、天敵となった武器を持っている人物をそう簡単に逃がしてはくれないようだ。
なら、風竜を倒して俺自身で退路を開いて帰るしかない。
頭の中で思い出すのは、毎度おなじみの低レベル撃破動画などの参考資料の数々。
数多のプレイヤーが血と汗で積み上げてきたボス戦の記録は、今この瞬間で言えば財宝の山よりも価値がある。
風竜の行動パターン、取り巻きとなった飛竜の動き、そこから導き出される最適解。
仮定の推論を作り出し、それを実地でひたすらトライアル&エラー。
その結果が動画となり数多のプレイヤーたちに還元されていった。
その知識を軸にすれば勝てる可能性はわずかだけど、ある。
「ふぅ、それじゃ、やりますか」
条件が揃ったが、万全とは言い難い。
だけど、これ以上の好条件が揃うのを待てば自分の命が先に尽きるのも目に見えている。
好転させるには、自力で現状を動かさないといけない。
一回大きく深呼吸をして、そして。
「勝負!」
風竜に向けて初めて駆け出した。
『■■■■■■!!』
そしてそれに呼応して風竜も飛竜に発破をかけ襲わせ、自身も魔法を使い俺に攻撃を仕掛けてきた。
初撃を躱し、そして反撃としてまずは一矢。
飛んできたウインドカッターの隙間に体を潜り込ませて、射撃姿勢になり放つ。
放った矢はすごい勢いで風竜のもとまで飛ぶ。
距離が離れ、動き回る風竜に対してヘッドショットを決めることは難しい。
だけど、胴体には当たる。
そう思ったときに、わずかに矢がずれる。
「ウインドベール、やっぱり使うよな!」
風の守りが、風竜を守り、矢は逸れ風竜の体を掠めるように弾かれた。
ダメージは入らない。
入ったとしてもゲームなら「1」とエフェクトでダメージ表示される程度。
風竜を攻略するにあたって、この防御魔法を攻略しなければ勝ち目はない。
正面から挑むには俺の火力が足りない。
あの魔法を貫通させるようなスキルもない。
攻撃を風の流れで受け流すというウインドベールというスキル。
初見であれば絶望したかもしれないが、あれにも弱点は存在する。
「そこぉ!」
まず一つは、あれは永続できない。
効果時間は風竜で三分。
リキャストタイムは一分。
エフェクトを見て、解除された瞬間に矢を放ち。
『■■■■■!!?』
今度はしっかりと、胴体に矢が突き刺さった。
全身を覆うように纏っている間は様々な攻撃を受け流し軽減してくれるスキルだが、こういう効果範囲の広い魔法は当然だが消費魔力も大きい。これが二つ目。
いかに魔力が豊富にある風竜であっても何度も使うことができない。
そして三つ目。
「ブレスはチャンスってね!!」
魔力を口に集めるという行動をとるブレスとは相性が悪い。
攻撃されて怒った風竜がブレスを吐こうとしたが、その間はウインドベールを纏うことができない。
完全に無防備になった風竜にめがけて、竜殺しの矢を、俺は再び射かけるのであった。
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