21 称号
「オーク狩りじゃぁ!!」
精霊石を確保して、そして公爵に渡してしまえば依頼は完了。
ノーリッジへの往復は馬車でやっていたから、なかなか移動に時間を取った。
おまけに疲れたため、三日ほど休んでから行動を再開したので気合も十分。
ダンジョンを開放する地区の確保が約束されたのなら、この中途半端なレベルを解消しておくべきだとしてオークの湧き地点までもう一度足を運んだ。
「クローディアさん、周囲への警戒よろしくお願いします」
「任されました。気兼ねなく戦いなさい。あなたたちの戦いを邪魔する輩は私が成敗します」
今度は横殴りをされる心配はない。
保護者であるクローディアに周囲を警戒してもらう。
これでアレスの時のようにいきなりレベリングを邪魔される心配はない。
と言っても、俺含め全員カンストまでもう少しだから時間的にもそこまでかからない。
「それじゃ、アミナ頼む」
「まっかせて!!」
やる手順は前と一緒、まずは全員修練の腕輪を装備。
アミナの歌によっておびき寄せられたオークを仕留める。
それだけの話だが、前回と今回の違いは。
「やっぱりステータスが違うと余裕に差がでるわね」
「はい、私たちが各々一体ずつ相手をすればオークの群れにも簡単に対応できます」
俺たちが強くなっているということ。
前は強さの問題で連携で一体を仕留めていたが、今はそれぞれ単独で倒せるようになった。
注意すべきはそれぞれが倒すのを早めすぎて、連続討伐条件が達成されないということ。
すなわち、一撃で倒そうと思えば倒すことはできるがそれをすると一つの条件が達成できなくなってしまう。
ゆえに、次のオークのお代わりが、連続討伐タイミングエリアに来るまで対応しているオークを倒さずに相手しないといけない。
「ま、それが強くなるっていうことだからな」
それを踏まえても余裕で討伐できる。
次のオークが来たタイミングでオークの首を鎌で斬り飛ばし、そして灰になるオークの脇を通り抜けて次のオークの足を槍で突き刺し、勢いを止める。
「そうね、最初は大変だと思ったけどこうも違うのね」
次の接敵まで十五秒から二十秒。
そこからはチクチクと相手を削りながら槍を振るい、相手に何もさせないように行動する。
ネルはハルバードをうまく使って、足払いをかけて転ばせたと同時に、石突でオークの顔面を強打。
ふらつき、立てなくなったオークの前で武器を構え、次のオークが来たら一撃で屠るというスタンスだ。
「リベルタ様、これで私はクラス2のレベル上げは終了となります」
イングリットは、ある意味で一番効率的にオークを狩り続けた結果、俺たちの中で一番最初にクラス2の限界へとたどり着く。
複数のオークを転ばせ、そこに攻撃を加え、起き上がろうとしたら再び転ばせるということを繰り返すことによって、ずっとストックを抱え込んで、連続討伐を達成した。
華麗に納刀し、そして周囲のオークは灰となり消える。
「俺ももう少しで終わる」
「私はこれで終わりよ!!」
効率の差が出て、最後が俺ということになったが、それでもわずかな時間でクラス2のレベル上げは邪魔も入らず、終わることとなった。
「アミナはどうだ?」
「バッチリ!!」
アミナが歌うのを止めれば、オークたちも森の中からは出てこない。
完全に途切れたことを確認し終えて、そっと構えを解き、後方で歌ってくれていたアミナにも確認すれば、彼女は笑顔で大きく手を振った。
すなわちステータスを確認して問題なくクラス2をレベルカンストしたということになる。
「ずいぶんとあっさり終わったわね」
「そうですね、転移までの時間もありますがどうしましょうか?」
元から残りわずかなレベル。
ステータスを割り振るのもあっという間に終わる。
『リベルタ クラス2/レベル100
基礎ステータス
体力240 魔力160
BP 0
EXBP 0
スキル4/スキルスロット7
槍豪術 クラス10/レベル100
マジックエッジ クラス10/レベル100
鎌術 クラス10/レベル100
隠形術 クラス7/レベル15 』
これでいいかと思いつつ、ふと、アミナが心配になった。
彼女は数字に弱い。俺とネルで教えてはいるが自信は一向につかない様子。
大丈夫かなと思っていると隣から気配を感じそっちを見れば。
「えへへ、見てもらっていいかな?」
困り顔で、おずおずとステータスを見せながら聞いてきた。
間違えないように聞いてくるのは良いことだ。
「教えようか?」
「ううん、いつまでもリベルタ君に頼りっぱなしはダメだからね!!見てて!あ、間違えそうになったら止めてね」
「わかった」
おまけに、自分で努力しようとする姿勢もある。
数字への苦手意識がなくなる日も遠くはないだろうな。
「えっと、体力がこうで、魔力が」
比率の計算は苦手な人は苦手だ。
コツを掴めばわりと簡単にできる項目ではあるが、それをやれと強制するのはやる気をそぐ。
ちらりと視線で確認してくるたびに頷いたり、間違えそうになったら違うと優しく指摘して。
「できたぁ!!」
「やればできるじゃないか」
とつい思わず、頭を撫でてしまった。
努力した子を褒める気持ちで、つい。
「えへへへ」
は!?これってもしかしてセクハラになるのでは?
嬉しそうだが、止めた方が良いよなぁと手を離そうとしたら。
「む、もっと撫でて!」
頭に押さえつけるようにアミナの両手で俺の右手は覆われてしまった。
嫌じゃないなら、いいかと思い。
気が済むまで撫でるかと思いつつ、アミナのステータスを見る。
『アミナ クラス2/レベル100
基礎ステータス
体力160 魔力240
BP 0
EXBP 0
スキル5/スキルスロット7
杖豪術 クラス10/レベル100
錬金術 クラス10/レベル100
歌唱術 クラス10/レベル100
喝采の歌 クラス10/レベル100
追い風の歌 クラス10/レベル100 』
ここに精霊術を備えていれば、あの時に何人かの精霊と契約出来て、アングラーを精霊に操作してもらえればもっと戦略に幅が出るんだろうけど。
ないんだよなぁ精霊術。
この世界では人と精霊との関連が薄いからなのかどうかわからないけど、精霊術のスキルスクロールが中々出回らない。
召喚術も同じでない。
公爵家にないかロータスさんに聞いてみたけど在庫がないと返ってきた。
もしかしたら、西の大陸の方でなら手に入るかもしれないけど、そっちにわたる術が今はない。
アミナを強化する方面は、ゴーレムを強化するか、歌関連のスキルを充実させるかの二択になっている。
可能なら精霊方面の開拓も。
「あ」
「うん?どうしたの?」
「そう言えばあったなぁって」
「だから、何が?」
アミナの頭を撫でていた手がピタリと止まったと同時に俺が変な声を出したから、アミナも何事かと俺の方を見る。
「うん、アミナが精霊術を取る方法。そうだ、そうだよ。完全に忘れてた」
精霊術は言っては何だけど、不人気ビルドの必須スキルだ。
ゆえに、プレイヤーの総人口に対しての割合が少なく開拓する人も少ない。
相対的に情報も少なくなってくる。
俺も精霊術を使おうとしたときに調べた知識であったが、メインで使っていなかったから完全に忘れていた。
「精霊術を覚える方法?でも前にスクロールが手に入らないから当分は無理だって言ってなかったっけ?」
「ああ、スクロールを手に入れるための方法も結構難易度が高いから諦めてたけど、少し手間がかかるが精霊術を手に入れる方法があったんだ」
しかも手順が多いから、手間も多い。
だけど、この手順を踏むことでアミナが強化されるのなら十分に良いことではないか?
「うん、ついでにイングリットやネルも強化するためにやってしまうか」
「リベルタ君、自分だけで納得されても困るんだけど」
「おっとすまんすまん」
そしてその手順はアミナだけではなく、俺やネル、イングリットにも適用され、さらに場合によってはクローディアにも適用される。
「話が盛り上がっているところいいかしら?リベルタ、いつまでアミナの頭に手を置いているの?」
そんな感じで自己完結してたら、近くにいたのに無視されているようでご機嫌が斜めになりましたとネルがジト目で見てくる。
「おっと、すまん」
「えー、もう終わり?」
「終わり、終わりよ!」
確かにいつまでも女性の髪を触っているのはまずいなと思って手を退けるが、アミナは不満顔、そしてネルも別の意味で不満顔。
「ネル様もお帰りになったらしていただくのはどうでしょうか?」
「え、それは、リベルタがやりたいって言うなら、やらせてあげてもいいけど」
その不満顔を解消するためなのか、公平をモットーにと言わんばかりにイングリットが提案すると、ピンとネルの尻尾が立ったと思ったら頬を染めてチラチラとこっちと見る。
うん、鈍感系主人公ではないのでその感情はわからなくはないのだが。
中身がおっさんな俺がその気持ちにこたえるにはもう少し成長してもらわないと困る。
主に、この世界では何の役にも立たなさそうな倫理観というやつではあるが、あるのとないとでは精神的に大きく違う。
今の俺の心境的に言えば、親戚の子供に懐かれているおじさんという感じだ。
見た目は子供で年齢的にも一緒で、さらには肉体に精神がかなり引っ張られているが・・・・・
「おう!じゃぁ、帰ったらな!!」
「う、うん!」
だけど、ここで嫌だとか、ちょっとためらう気持ちを見せるのはダメだというのはわかる。
これはあれだ、濡れた髪を乾かしてやっているおじさん的な感じでやればいい。
問題はないはずだ。
「では私もよろしくお願いします」
「……おう!」
そこにイングリットも追加されたが、そこは笑顔でサムズアップ。
日頃のお礼だ。
料理とか掃除とかやってくれているのは彼女だからな、お礼にこれくらいはせねばな!
「日頃の感謝を込めてお礼をするのは結構ですが、リベルタ。あなたは先ほど何か思い出したのではないのでしたか?」
「あ、そうでした」
話が脱線した。
クローディアが苦笑しつつ、思い出させてくれた。
ちょうどいい、クローディアに質問しておこう。
「クローディアさん、思い出したついでに聞きたいんですけど称号って持ってます?」
「ありますよ。私の称号は鉄人、鍛錬の末に神に与えられた称号です」
「ありがとうございます」
俺が思い出したのは、称号というシステムだ。
この世界に来た時に、軽く説明した記憶があるが、モチでレベルを上げると弱者という称号がつく。
弱者の称号の効果は、レベルダウンとステータスダウンというデメリットしかない。
対して、クローディアの持つ鉄人という称号はシンプルに防御力が上がり、スタミナも上昇させるという継戦能力という面で大きく寄与する称号だ。
効果面で言えば、防御力が最大で十五パーセント上昇、スタミナが十パーセント、回復力が五パーセント上昇という称号だったはず。
「ということで、クラス2のレベリングが終わったので、クラスアップとジョブ獲得前に称号を取ろうと思う」
「それが精霊術と関係するの?」
「関係するんだな、これが。それに関しては後で説明する」
称号というのはプレイヤー、NPC問わず、一人につき一つ、ステータス持ちなら条件を達成することで得られる、様々な恩恵をもたらす神からのギフト。
一度付けたら外す工程を挟まないと他の称号がつけれなくなるという少々面倒な物であり、その称号の数は無数とまでは言わないが、膨大にあるとだけ言っておく。
「ひとまずは、俺の称号を取るところから始めていいか?ちょうどいいことに、ここでならその称号を取ることができるからな」
その中でプレイヤーたちの使用率が高い称号というのはいくつかある。
ネルやアミナそしてイングリットの目指す、戦闘型商人で定番の称号もあるし、歌姫につける定番の称号もあれば、当然のようにサポート型メイドと相性のいい称号もある。
「ちょっとそこで食事をするように気軽に言いますが、称号というのはそう簡単につけられるものではありませんよと、あなたに言うのは神に説法を説くようなものですか」
「すぐにとは言いませんけど、一時間、遅くても二時間あれば手に入りますよ」
そして、俺の首狩りアサシンと相性のいい称号というのもある。
「あそこには、良い鬼になるやつがいっぱいいますからねぇ」
「待ちなさい。あそこでオーガが出るという話は聞いたことがありませんが、まさか最奥部まで行くつもりですか?」
「いえ、入っても歩いて二十分くらいのオークの集団がいるところくらいですね」
それを獲得するためには〝鬼役〟となる存在が必要で、嗅覚と聴覚が優れ、さらに数がいて敵を見つけたら猪突猛進で追いかけてくるというのはかなり都合のいい存在だ。
オークという存在はレベリングでもそうだが、俺が欲しい称号を取るのにもかなり都合のいい存在というわけだ。
鬼とオーガ。
意味は一緒だけど、今回の場合はちょっと違う。
俺が欲しいのは鬼役であって、オーガは必要ないのだ。
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