12 ひと汗かいたら
総合評価10万pt突破!!
皆様のご愛読に感謝感激でございます!!
「ほらほら!!さっさと地面に潜らないと大事な根っこが無くなるぞ!!」
嬉々として鎌を振り回す子供という絵面。
おまけに笑みというには些か邪悪すぎる表情。
完璧に弱いものをいじめる子供という見た目の悪さを披露しながら、相手は街を危機的状況に陥らせている邪悪なモンスターであるので世間的に見れば俺は正義という矛盾した絵面を作り出した。
振るった鎌槍によって本体から切り離された根っこは黒い灰と化し、その都度嫌がるように人面樹が俺を排除しにかかるが。
「隙だらけです」
「こっちもいくわよ!!」
人面樹のヘイトが俺の方に割かれると、根っこが減った分の隙を突くように跳びかかる女性と少女。
人面樹の本体を挟み込むように回り込み、ネルがハルバードを横から振り切った際に響く音とクローディアの踏み込みからの妙に重い打撃音が人面樹の体から響く。
人面樹の幹にある苦悶の顔がより一層歪んだように見えるのは気の所為ではないだろう。
「リベルタ様、根からの攻撃の数も減ってきたようです」
「だいぶ切り払ったからな、攻撃手段も防御手段も取り上げたらこっちに攻撃する暇なんてないだろうさ」
もし仮に、モンスターの体の一部が切り離しても灰にならずその場に残っていたら、きっと大量の根っこがそこら中に散らばっていたに違いない。
それくらい元気に切り払ったからな。
クローディアが拳や蹴りを叩き込むたびに防御デバフがかかるから俺の攻撃でもすんなり入る。
防御力が低い根っこ部分っていうのもあるんだろうけど。
「こうなってくるとDPS上げて、さっさと倒した方が良いか?」
ダメージの入り具合からして、そろそろ倒れてもおかしくはない程度にはダメージを入れたはず。
地道にこのまま削りきるのもいいが、サトスという依頼主には早急に解決することを要請されている。
なのでのんびりと時間をかけて倒すのは良くない。
「クローディアさん!」
「なんでしょう?」
互いに飛んでくる根っこを捌きながらの会話。
ついさっきまでは雨あられと激しく飛び出てくる根っこだったが、自分の自爆攻撃で地下に張り巡らした根っこを掘り出してしまった所為でこっち側の伐採祭りイベントが発生した。
おかげさまで、こうやって足を止めて攻撃を捌き、会話する余裕が生まれているのだ。
「大技行ける魔力ありますか!?」
「ようやくですか、いつ放つのだろうと待ちくたびれてました。ええ、体も温まり十分に魔力もあります。いついかなる時でも」
そして、俺が機会を作ると言っておきながら待たせてしまっていた所為で、少々ストレスをため込んでいたクローディアはニヤっと楽しみが来たという喜びにしては少々黒い笑みを浮かべた。
ちょっと嫌な汗が背中に流れたが気にしないでおこう。
「どちらにしましょうか?タイミングを合わせてくれるのなら両方というのも」
「上から落下しているときに根っこで串刺しは避けたいので、咆竜双打掌でお願いします」
「……わかりました」
こんなちょうどいい敵に対して全力攻撃ができないことが残念だと言わんばかりに、しぶしぶといった感じで戦いに戻る彼女の背中を見送り。
ひとまずは。
「イングリットは根っこを捌いてくれ、俺は人面樹のヘイトを俺に向ける」
ヘイト管理から始めますかね。
くるりと槍を華麗に回して、気分を上げる。
かっこいい動作というのはついやりたくなる。
元の体で現実でやろうものなら鋼を用いている鎌槍ではできなかっただろう、竹槍でもやれるかどうか怪しい。
だけどステータスの上がった今の体ならそれができてしまう。
槍を握る指先の感覚は長い時間をかけてゲーム時代に培ってきた感覚、槍を操る全身の力感覚はこの世界で培ってきた。
綺麗に背後で槍を一回転できたのでドヤ顔を決めたくなるが、それをネル達に見られたら台無しなので、そのまま前に駆けだす。
「近づくのはNGなのね」
トレント系はとにかく接近戦を挑まれるのを嫌う。
中距離戦を主体としているから当然で、近づかれたら根っこで剣山作って迎撃することくらいしかやることがない。
後は枝木を振り回しての攻撃か。
どっちにしろ近づくだけでヘイトを貯めることができるのは便利でいい。
「でも、近づかないとダメなんだよね」
うちのタンク役のアミナが空で歌っているため、もうちょっと激しめに攻撃しないと俺にヘイトは引けない。
「さてさて、やりますかね」
ダメージはそこそこでいい、必要なのは。
「すぅ」
ヒット数。
大きく息を吸い込み、そして一気に集中力を上げる。
「っ!」
息を止めての無酸素運動。
槍の間合いまで一気に踏み込み、まずは一突き。
マジックエッジで槍先も延長され、間合いも広まっている。
ぐさりと刺さった感触を感じる前に引きの動作を合わせ、連撃で人面樹の体を削りにかかる。
当然このまま攻撃され続ける相手ではないのはわかっている。
ボコりと足元が膨らむ。
そのコンマ数秒後には根っこが飛び出てくるのもわかる。
だけど、大きな回避動作はいらない。
足を動かし、体を右に逸らす、攻撃の手をわずかに緩め、再度加速。
一本の根っこは、返す鎌の刃で切り捨て、黒の灰にして消し、そして再び攻撃を開始。
今度は足元から三本出てくる気配。
相手の行動パターンから次はそう来るかと予測できるからこそ、その攻撃の中心部の空間に体を運び、飛び出してきたタイミングで鎌一閃。
回るように足を運び、そして魔力でできた刃は飛び出してきた根っこを切り裂き、俺の周囲に灰が舞い散る。
『■■■■■■■!!!』
「怒れ怒れ、敵はここにいるぞ」
ふぅっと一息吐き出し、そして再び息を吸う。
その一呼吸のテンポがちょうどいいんだ。
呼吸をした直後に来る振り回してきた枝をかがみこむように潜りぬけ、そしてそのまま体を滑り込ませるようにさらに一歩踏み込み、鎌槍を振るって幹に十文字の傷をつける。
嫌がるように、幹を揺らし、反対側に生えた枝を振り下ろしてくる。
「させない!」
その枝を割断するネル。
俺にヘイトを向けた故に、ネルへの攻撃がおざなりとなり、断裂戦斧によって貴重な攻撃手段がまた一つ減った。
空中に舞う、一本の枝。
それは本体から切り離されたことによって徐々に灰と化していく。
だが、枝は一本だけではない。
まだあると言わんばかりに、体を捻り勢いづけて、枝を叩きつけようとしてくるが。
「届かせません」
その前に躍り出て、イングリットは怯えることなく、正確に箒を振るって枝を逸らした。
合計三度、攻撃を防がれ、苛立つように人面樹は幹を揺らしているが。
「お前、意識から外したな?」
これを待っていた。
ヘイトが一定ラインを越えれば、彼女から意識を逸らすことができる。
範囲攻撃と多対戦が得意なトレントであっても、まったく攻撃をせず距離を取っていたクローディアよりも俺の方を優先する。
だけどな、クローディアにとってたかが十数メートル距離を取ったからって彼女の危険度が下がるわけではない。
むしろ、助走をつけられる分やばいことになってるからな?
バチリと静電気がほとばしるような音が響く。
その音の正体を俺は知っている。
直後に響くのは地面を硬く踏みしめるような震脚だろう。
両手にため込んでいる魔力は、一撃の重さを象徴するかのように光を放っている。
というか、クローディアさん。
あなた、俺と戦ったときそんなもの叩き込もうとしてたの?
両手を腰だめにして、あとは突き出す姿勢で、クローディアは雷歩によって人面樹の懐を取った。
一瞬で踏み込むようなスキルである雷歩であるがまっすぐにしか行けないという欠点もある。
その分加速力もすさまじいのだが、さすがに根っこが飛び出るような空間での使用は難しい。
人面樹の注意をこちらに惹きつけ、クローディアが技を放つチャンスと判断したからこそ。
「はぁ!!」
高速で踏み込み、その勢いのまま両手にため込んだ魔力を解放して人面樹の幹に叩き込むことができる。
竜の咆哮を受けるがごとくの打撃音。
「うぁ、ネルが止めてくれて本当に良かった」
「本当よ」
その結果を見てしまった俺は、本当に心の奥底からあのとき咄嗟に止めてくれたネルに感謝するのであった。
自分の口元が引きつっているのがわかる。
「うん、ノーリッジの街で観光できそうだったらなにか甘いものでも奢るわ」
「あるかしら?今大変な時だろうし商売できている人は少ないと思うけど」
俺とネル、そして背後に控えているイングリットでさえ口を手で隠すような仕草で驚いている。
「なかなか、良い手応えでした」
クローディアはゆっくりと攻撃を加えた姿勢を解き、そして人面樹から振り返った。
その笑顔は何とさわやかなのだろう。
強敵を打倒した、その達成感に満ち足りた表情。
これだから戦いは止められないという、真夏のビール並みの解放感を感じ取っているのではないだろうか。
「ふむ、中央大陸に戻ったらトレント種との戦いを組み込むのもいいかもしれませんね」
そんな顔を見せる理由が彼女の背後にある。
幹の半分以上を消し飛ばした大穴。
人間であれば腹部のほとんどを失ったようなものだ。
ゆっくりと倒れる人面樹は、すでに灰になりかけている。
だが、体自体がすぐに灰になるわけではない。
重力に従って崩れ落ちる人面樹が地面につくとそれ相応の重量の音を響かせる。
討伐完了。
その四文字が頭をよぎるが、それよりも先に彼女の必殺技とも言える技の威力に驚愕せざるを得ない。
アレをもし、あの時まともに受けていたら、上半身が丸ごと消し飛んでいたのではないだろうか?
そう思うと背筋が寒くなる。
「あ、湯気が」
そんなことを考えていると徐々にだが、視界があけていくのがわかった。
「おーい!終わったぁ!?」
「ああ!降りてきていいぞ!!」
そうすれば空に舞うアミナも俺たちを見つけることができて、完全に人面樹が灰になったのを確認して手を振ってやればこっちに向かって降りてくる。
「ふぅ、空からじゃ下が全く見えなかったら困ったよ。僕の歌聞こえてた?」
「おう、しっかり聞こえてたぞ。バフありがとうな」
「そう?それならよかったよ!!」
合流して、全員集合とくればあとは楽しみのお時間だ。
「さぁてと、ドロップ品の確認をしようか。トレント系は有能な素材をいっぱい出すから楽しみだ」
山の中を全力疾走させられて、さらにそこからの戦闘。
なかなかてこずらせてくれた分の労力に見合うようなものが出てくれることを祈りつつ、人面樹の本体があった場所に向かう。
「トレント種のドロップ品は木材や薬草といった植物由来の素材が多いですが」
「クローディアさん的には何か欲しい物あります?一番の功労者だから、欲しい素材があったら優先的に回しますけど」
ぶっちゃけ、今回の討伐はクローディアの火力頼りだった。
彼女がいなければ、ゴーレムを取りに戻って、そこからいかにして足の遅いゴーレムを被弾させずにトレントの元に運ぶかという判断になっていた。
それをやってたら今回みたいに簡単に倒せていたかは怪しいし、そもそも討伐を引き受けていたかも微妙だ。
灰が消え去り、そして人面樹がいたであろう大穴の底に転がる中々の量の素材。
「人面樹の木材だと、杖とかにすると中々いい装備になる。デバッファーなら中盤まで使える一品だな」
まず目に入ったのがトレント系ではお約束の木材。
なんでこんな整然とカットされているかは不明だが、あれだけ折れ曲がった人面樹からは考えられないほどまっすぐな木材。
「それが四つね。マジックバッグに入るかしら?」
「全部は無理だな。一本か二本が限度だろ」
杖系や槍といった武器に使いやすい。
「こちらは薬草ですね。何の薬草でしょうか」
「見せてくれ、お、ラッキーだな上級ポーションの素材になるやつだ。いくつある?」
「一つですね、別の薬草が三つほどありますが」
「そっちは、少し特殊なポーションの素材になるな。公爵閣下が喜びそうだけど」
「喜ぶ?」
「解呪のポーションの素材になるんだ」
次は薬草系だ。
一つは上級ポーションの素材、残りは解呪のポーションの素材だ。
どっちも需要があるけど、今の俺たちじゃ使い道がない。
設備も他の素材も揃っていないから使おうにも使えないのだ。
「あとは」
他にあるのは定番のドロップ品だけだけど、量的には十分な量が出ていると言ってもいい。
沼竜とは比べ物にならない量。
トレント系の特徴だ。
「リベルタ!鍵があったわよ!!」
「いや、ネルさん、なんで出るんですかね」
「?出てたわよ」
そんなネルの片手には木製っぽい鍵が握られていて、本当にこの子のドロップ運がどうなっているか不思議でたまらない。
しかもよりによって、人面樹のダンジョンって。
「とりあえずマジックバッグにしまっておくか。使うか使わないかは後で考えよう」
そのダンジョンのボスを知っている身としては、美味しいけどやばいダンジョンなんだよなと思いつつ快晴の空を見上げ問題を先送りにするのであった。
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