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第七十八話 病床のマクシノール殿下

「クラデンティーヌ様、マクシノール殿下が倒れてしまいました、昨日の夜のことです」


 マクシノール殿下の使者の言葉。


 わたしは、ギョーネさんと一緒に使者の話を執務室で聞いていたのだけれど、驚きのあまり、卒倒しそうになった。


 健康であったはずの、マクシノール殿下が倒れてしまうとは……。


 マクシノール殿下に夢中になっていると言っていいわたしには、あまりにも衝撃的な話だった。


 しかし、わたしまで倒れてしまっては、マクシノール殿下にそれこそ申し訳ないことだ。


 なんとかその寸前で踏みとどまる。


「マクシノール殿下は、それで、意識の方はあるのでしょうか?」


「侍医が、最善を尽くしておられますが、高い熱を出しておりまして、意識を失うこともあると伺っております。マクシノール殿下は数日前から体調があまり優れなかったのですが、『わたしは大丈夫』とおっしゃられていたので、周囲のものも、あまり深刻には受け止めておりませんでした。しかし、昨日の夕方から急に体調が悪化してしまったのです。わたしたちも、急激な体調の悪化ということで、大変驚いております」


「わたしも急な病状の悪化ということで、大変驚いております」


「マクシノール殿下は、意識のある時は、ずっとクラデンティーヌ様の名前を呼んでおられているということです。その一途さに王妃殿下は心を動かされまして、クラデンティーヌ様をマクシノール殿下のおそばに呼ぶべきだとおっしゃったと伺いました」


「王妃殿下が?」


「そうです。国王陛下もそのご意見に賛成されましたので、それで、わたしがここに来ることになったのです。クラデンティーヌ様、急いでくださいませ。準備ができ次第、わたしがマクシノール殿下の病室までご案内いたします」


 わたしはまだ婚約者でしかないので、あまり重くない病気であれば、わたしを呼ぶことはないと思う。


 わたしを呼ぶということは、それだけ病状が重いということだろう。


「わかりました」


 わたしは、執務室を出ると、別の部屋で、着ていたドレスを侍女のドディアーヌさんが持ってきた地味なものに着替えた。


 そして、準備を整えると馬車に乗り、使者の案内で王宮のマクシノール殿下の病室に向かう。


 わたしは馬車に乗っている時、マクシノール殿下のことが心配でならなかった。


 意識がなくなりかけているということは、相当病状が重いということ。


 生命の危機ということだ。


 もう少しで相思相愛になろうとしているのに、なんで……。


 しかし、今そう言っていてもしょうがない。


 わたしは、とにかくマクシノール殿下に会いたかった。




 馬車は王宮に着き、使者によって、わたしはマクシノール殿下の病室にたどり着いた。


 使者は部屋をノックする。


「クラデンティーヌ様をお連れいたしました」


「どうぞ」


 部屋の中から女性の声が聞こえる。


 使者の先導で部屋に入ると、そこには、ベッドの中にいるマクシノール殿下と、そのベッドのそばにいる侍医、そして、マクシノール殿下の母親である王妃殿下がいた。


 先程の返事は王妃殿下のようだ。


「王妃殿下、クラデンティーヌでございます」


 わたしはそう言って頭を下げる。


「よく来ていただきました」


 王妃殿下はそう言ったのだけれど、看病疲れなのか、言葉のあまり力がない。


「それで、病状の方はいかがでしょうか?」


 わたしがそう言うと、侍医は、


「マクシノール殿下は、今は意識を失っておられます。なにぶん、熱が下がらないのです。その為、意識が一時的に戻っても、食欲はほとんどない状態が続いております。このまま熱が下がらないと、生命の危機に陥ってしまう可能性もないとはいえません」


 と言う。


「面白い」


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