第六十三話 今日のことを思い出すわたし
その日の夜。
わたしはベッドに横たわり、今日のことを思い出していた。
マクシノール殿下。
もともと悪役令嬢として位置づけられたクラデンティーヌ。
マクシノール殿下と婚約はしていても、結局、キスやそれ以上の世界どころか、心を通わせることもできなかった。
そして、自分の行ってきた悪行により、婚約を破棄されてしまう。
それだけではなく、さらなる悪行の積み重ねで、領内に反乱が発生してしまい。処断をされてしまうキャラクター。
そのキャラクターに転生したということを把握した時は、もう前途には何も明るい材料はないと思っていた。
それでもわたしは、運命を好転させるべく、一生懸命努力をしてきた。
最悪の場合でも、処断されるのだけは避けたいと思っていた。
少しずついい方向に向かい始めていたところで、今日のマクシノール殿下との謁見をわたしは迎えた。
今日の謁見については、わたしが今までマクシノール殿下にも認識されていたわがままで傲慢であるという最悪のイメージの状態から、マクシノール殿下の婚約者にふさわしい女性に生まれ変わろうと一生懸命努力していることを、理解してもらえればいいと思っていた。
もちろん今日一日で、わたしの最悪なイメージが払拭れるとは思っていない。
わたしの心がいい方向に変化し、もとのように悪行をすっるような心に戻らないことを、時間をかけて認識してもらう。
しかし、それでも恋人どうしになった状態で結婚式を迎えるのは難しいと思う。
マクシノール殿下は、もともとクラデンティーヌのことに興味を持たなかった
婚約をした頃は、まだクラデンティーヌがそれほどの悪行をしていなかった時代。
それでもマクシノール殿下は、クラデンティーヌと話をする時でも、興味がなさそうに振舞っていた。
その時代でも興味を持っていなかったのだから、わたしの評判が最悪になっているところから、興味を持ってもらう存在になることすら大変なことだ。
それを相思相愛のところまで持っていくことなど、絶望的だ。
現実的には、普通の女性のイメージにまで持っていくのが精一杯だと思う。
恋というところからかなり遠い状態だ。
こういうわたしの方も、転生のことを思い出してからは、二度目の転生の影響で。「恋愛」というものに、怖いイメージを持ってしまっているところがあるし、長年の悪行の為、マクシノール殿下にはふさわしくない女性なのでは、という思いがあった。
もともとマクシノール殿下は推しであったし、好きだったのだけれど、恋となると話は違ってくる。
その為、
「マクシノール殿下に恋をすることができるのだろうか?」
ということを思うようになってきていた。
この状態である限り、マクシノール殿下とわたしは、結婚できたとしても、マクシノール殿下が言っていたように、「形式結婚」「白い結婚」になってしまう可能性は強いと思っていた。
でも一方では、違う思いも持っていた。
結婚生活は、一年、二年の話ではない。
十年、二十年、それ以上と続くものだ。
この間に長い時間をかけて、心の距離を縮めていけばいい。
この思いは、楽観的に思い過ぎるかもしれない。
でも、婚約破棄を避けることができて、結婚にまで進むことができれば、心の距離は縮められる可能性はあると思っていた。
わたしがマクシノール殿下と仲良くなりたいという意志を持っていれば、次第にマクシノール殿下の方も、心をわたしの方に傾けていくだろう、という気持ちは持っていた。
その気持ちを持って、今日の謁見にのぞんだのだけれど……。
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