大広間
急げ! 走れ! 追いかけろ!!
俺の気持ちが伝わっているのだろう。ゴ治郎は青梅ダンジョンの第二階層を全速力で駆け巡る。
モンスターが強力な代わりに、青梅ダンジョンの構造は単純だ。道は曲がりくねっているものの、モカの大きな体を抱えて抜けられる通路は限られている。
脇道から放たれるローパーの攻撃を躱して、前へ前へ。
ゴ治郎は集中している。
四方八方から鞭のようにしなりながら飛んでくる触手に一瞥もくれることなく、魔剣をぶつける。
蒼い光に当たると「ジュ」と焦げる音がして、触手は引っ込んだ。
「晴臣! モカは見つかった?」
ゴ治郎の遥か後方を走る武蔵。鮒田は状況が分からず焦っている。
「まだだ。しかし、モンスターの数がやたらと多い。何かありそうだ」
一瞬、テントの中に視界を戻す。
意識を失ったままのナンナ。とても苦しそうにしていた。
ダンジョンの中は益々敵影が濃い。
「ゴ治郎! 気合いを入れろ!!」
「ギギッギ!」
#
「こ、ここは……」
「どうした晴臣?」
「ローパーの巣穴みたいだ……」
ゴ治郎の視界越しに伝わってくる禍々しさに、鳥肌がたつ。
モカを追って行き着いた先は、ローパーの巣穴とも言える場所だった。今までの細い通路とは対照的に、大きく開けた空間の中、地面に壁に天井に。ビッシリ張り付くローパー達は波打つように一定のリズムで揺れている。
「モカはいるのか!?」
「あぁ。いる……」
いる。モカよりも遥かに大きなローパーが。こいつはなんだ? こんなモンスター聞いたことないぞ。
大広間の一番奥に鎮座する巨体のローパー。武蔵と比べても何倍もある。そいつに向かって、モカが運ばれているのだ。
モカの四肢には触手がびっしりと絡みつき、御輿のようにリズミカルに揺られている。「生け贄が来た」と、はしゃいでいるようだ。
もう一度視界をテントに戻す。
ナンナは更に苦しそうだ。顔から血の気がひいている。モカの状況とリンクしているのは間違いなさそうだ。ならばやることは一つ。
「ゴ治郎! モカを取り戻せ!」
「ギギッ!」
──ダンッ! と踏み込む音にローパー達が一斉に反応する。しかし遅い。ゴ治郎だけならばこいつらに捕まることはない。
「スペースが有れば──」
「ギギッ──」
ゴ治郎はどこまでも疾くなるんだよぉ!!
バキン! と空気を蹴るたびにゴ治郎は加速する。視界は何度も回転し、空気との摩擦音が喧しい。
「そろそろだ! モカに当てるなよ!」
「ギギッ!」
ドゴォォオオオォォォンンン!!
着地の衝撃で何体のローパーが煙になっただろう。ゴ治郎の足元は半円状に窪んでいる。そして投げ出されるモカ。
モカの巨体をゴ治郎が運ぶのは無理だ。しかし──。
「邪魔だぁぁぁー!!」
「ブイイィィィー!!」
棒状の大きな岩を振り回す武蔵が大広間に現れて、ローパーを潰し始める。
「鮒田! モカを頼む!!」
「ちょっと待ってろ! すぐそっちに行く!」
武蔵は旋風の如く、岩を振り回しながら敵陣に突っ込み、ローパーを叩く。さっきまで憎らしかったのに、今では少しローパーが可哀想な程だ。
──ドシャ!! っとゴ治郎の近くのローパーが潰され、肩で息をする武蔵がゴ治郎のすぐ側までやってきた。棒状の岩をローパーの集団に向かって投げつけると、武蔵はモカに駆け寄る。
「武蔵はモカをつれてダンジョンの入り口を目指せ!」
「ゴ治郎は!?」
鮒田の問いに、ゴ治郎は魔剣で標的を指した。大広間の奥、天井に届くほどに大きなローパーを……。
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