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その91

「次はどうするよ? そろそろエディも討伐系連れて行ってもいいんじゃないか?」


「と、討伐系!? 俺、実戦なんてまだストレイドッグとしかやったことないんだけど、大丈夫かな……」


「あたしはまだ、採取メインで夜営にもっと慣れさせた方がいいと思うけど……。変な意味じゃないよ? 夜営中に襲ったりしないよ? 精々手と口で……、何でもない」


「襲うなら俺を襲え。採取もなあ、凍らせる魔法が使えないとやっぱな……。ああ、勘違いすんなよ? 実力は付いてきてるさ。俺の言えたセリフじゃないんだけどさ、魔法って大事だぜ? 燃やすのと凍らせるのは特に必須の魔法なんだよ」


「多少冷やす、くらいは出来るようになってきたんだけどなあ……。完全に凍らせるのはまだまだ出来そうにないよ。やっぱその二つは使えないとマズいよなあ……」


「そうですね。採取した依頼品を持ち帰ってみたら腐っていました、などではお話になりません。明かりは炎でも代用が効きますが、風の魔法では多少冷ます程度、凍らせるのは無理ですからね。物の温度を下げる、という魔法は本当に冒険者には必須の魔法なんですよ」


「メイドさん補足ありがとな、助かるよ。俺たちそういう細かい説明が苦手、と言うか、頭から抜けちまうんだよな」


「そうなんだよねー。戦い方や逃げ方は教え易いんだけどね。夜の方もいい加減教えてあげたいんだけどな? そろそろ観念しちゃいなよ、毎晩でも優しく教えてあげるよ?」


「しないって!! ヤりたくないって言ったら嘘だけどさ、やっぱナナシさんとはできないって」


「オイやめろ馬鹿。シラユキちゃんの前では控えろって言ってるだろ。ナナシは今晩俺が相手してやるから我慢しろよ」


「あ、ごめん! つい、ね。それじゃ今晩を楽しみにしとこう。ふふふ」




 今日も私とシアさんは冒険者ギルドに来ている。ラルフさんたち三人組は、エディさんの育成のためにあまり町から離れる依頼は受けないのだ。大体週に一日決まった日には、冒険者ギルドで他の冒険者も交えて、エディさんの今後の育成計画などを話し合っている。エディさんの顔なじみを増やす、という理由もあるんだと思う。ラルフさんはそういうのをちゃんと説明してあげないと駄目だよね……


 まあ、いい、それはひとまず置いておこう。実は最近とても気になる事があるのだ。

 それは、ラルフさんとナナシさんのこと。二人に会うたびに毎回思わされる事なんだが……


 この二人って、付き合ってるんじゃない? 恋人同士なんじゃないの?






 ここで本人たちに直接聞く様な馬鹿な事はしない、簡単に答えが出ては面白くないからだ。以前までの私ならきっとすぐに本人たちに確認をとっちゃっていただろうね。

 でも今の私は違うのよ! 何事も自分で調べて、楽しんでみるのだ。……決して勘違いで笑われるのが怖いのではない! ふう……


「私、ちょっとミランさんと話してくるね、シアさんはそのまま続けてていいからね。エディさんに色々細かい所を説明してあげて」


 エディさんに聞くのが一番良さそうだが、本人たちの目の前と言うのはいけない。連れて離れるのも不自然すぎる。そうなると残る選択肢はミランさんしかない。


「はい、分かりました、お気をつけて。ですが、他の冒険者が近付いて来たら、カウンターに隠れるか、すぐにこちらに戻って来てくださいね? 泣き出しでもしたら血の雨が降ることになりますよ……」


「わ、分かってるよ、怖いなあ、もう……。じゃ、行ってくるね、って言ってもすぐ目の前なんだけど」


「珍しいな、いつも興味深そうに聞いてるのにさ。冒険者の話もさすがに飽きてきたか?」


「う、あたしのせいかな、ごめんね? Hな話ばっかしちゃってさ。ついつい出ちゃうのよね、これが」


「ううん、大丈夫ですよ、冒険者についてのお話ももっと聞きたいです。でも今日は、ミランさんとお話がしたくなっちゃって」


 言いながらパタパタと歩き出し、カウンターの中、ミランさんの近くへ向かう。

 ナナシさんはあれでも精一杯ぼかした話し方をしてくれてるみたいだしね、人の性格を曲げてまで強制させようなんて思わない。私もそう言った事に興味が無いと言えば嘘になるしね。




 カウンターの中に入るまで、いや、入った後もシアさんの視線を感じる。ラルフさんたちと会話をしながらも、注意は全て私の方へ向けているのだ。全てじゃないか? 多分99.9%くらい、ほぼ全て、だ。


「シラユキ様? どうしました? 私に何か……?」


「ふふ、ちょっとミランさんとお話がしたくて、来ちゃった」


「う、嬉しいです……。どんなお話ですか?」


 勝手にカウンターの中に入り込んできた私を咎める様な事もせず、ミランさんは普通に話しかけてきてくれる。



 本当は、ギルド関係者以外はカウンターの中へは入っていけない決まり。でも何故か私だけは例外とされていて、カウンターの中だろうが奥の部屋だろうがどこに入っていってもいいという事にされている。書類だって触ってもいいらしい。普通は絶対駄目、という以前に大問題になるはずなんだが……。リーフサイドの冒険者ギルドのギルド長の決定だ、問題は無い。


 最近ギルド長が交代になった。以前の小物臭漂う人は、リズさんの提案どおりブールジーヌと言う山奥の小さな村に飛ばされたみたいだ。顔も知らない会った事も無い人だ、どうでもいい。そしてあっさり決まった後任の新ギルド長は……、こちらも知らない人だ。

 知らない人のはずなんだけど、着任早々その日のうちにまず決めたことが、私のギルド内での行動は一切制限しない、という決まりだったらしい。新ギルド長……、一体何者なんだ……



 能力で仕舞っておいた、私用の小さめの椅子を取り出して座る。これも何度かは驚いてくれたのだが、今はもう全くの普通、当たり前の行動として捉えられてしまっている。寂しいね。


「ねねね、ミランさんミランさん。ラルフさんとナナシさんって、どう思う?」


 この位置からラルフさんたちのいるテーブルまでの距離はかなり近い。小声でミランさんに問いかけてみる。


「どう? ええと……、二人ともCランクで……、あ、性格かな。二人とも面白いいい人たちだと思いますよ? ラルフさんは以前と違って、エルフの女性とも普通に話が出来るようになりましたし、評判も中々です。ナナシさんは、その、シラユキ様にはできたらあまり積極的に話して欲しくないと言うか……。でも、いい人には変わりないですね。明るくて可愛らしくて、っていう年齢でもないか、素敵な女性だと思います。求婚もかなり受けている筈ですよ、今は全て断っているみたいですけど。ふう、まったく羨ましい……、私なんて……」


「ええ!?」


「姫様!?」


「な、何でもない! 大丈夫だよ!!」


「何でもないです! な、投げないで!!!」


 危ない! ナイフ出してたよ!!



 どうやらナナシさんは相当モテる人みたいだ。

 明るくて可愛らしくて、Hが大好きな猫系の獣人の女性、さらにCランクでも中堅クラスの実力者と来た。ああ、モテない筈が無いか……

 そういえばラルフさんはエルフ好きだったっけ? いくらエルフ好きでもこんなに素敵な女性が近く、いや、隣にいるのに好きにならないとは考えられない。

 ラルフさんとナナシさんは、何年も前から組んでてかなり仲が良い、親友と言ってもいい冒険者仲間なんだよね。まさか、友達関係が長すぎてお互い告白できずにいるのか? 話を聞いてる限りじゃHも普通に、と言うか、結構頻繁にしてるっぽいんだけどね……。それってセフ、うわ、変な事考えちゃったよ恥ずかしい……


 見た目は完全に恋人同士に見える。座ってるときの椅子の距離も、なんとなーく近くにいるようにしてる気がするしね。うーん……、やっぱり怪しいな。


「あっと、違うの。そうじゃなくてね? その、あの二人の仲、どう見えるかな?」


「ああ、なるほど。うふふふ、シラユキ様も女の子ですね。やっぱりそういうのは気になっちゃいますか」


 ミラさんさんもやっと分かってくれたようだ。内緒話の様に話し方が小声になる。


「シラユキ様が思われてる通り、付き合っている様に見えますよね。でも、付き合ってはいませんよ、あの二人。お互い一人身、恋人もいない筈です」


「そ、そうなの? ミランさんはなんで分かるの?」


 受付でぼーっとしてるだけなのに、というセリフは飲み込んだ。危ない危ない、協力者を失うところだったよ。


「だって、ナナシさん未だに一晩の、こほん。恋人のいる身で受けるような物ではない雑務依頼があるのですが、ナナシさん、結構頻繁に受けているんですよ」


「な、なるほど、あの依頼ね。確かにラルフさんが恋人なら絶対止めそうだよね」


 一晩のお相手の募集の依頼か。

 いくらたった一晩で大金を稼げる依頼でも、恋人にそんな仕事はさせたくないよね。ラルフさんは多分だけど、恋人は大切にするイメージがある。冒険者を辞めさせてでも止めるんじゃないのかな。


「し、シラユキ様? え? なるほどって、え? 内容、知ってるんですか? 分かるんですか?」


「え? う、うん。一晩の、その、アレのお相手募集の依頼だよね」


 言わせないでよ恥ずかしい……


「わ、分かっちゃだめですよ! 誰に聞いたんですか!? まさか、ナナシさん!?」


「うぇ!? あ、あたし!?」


「ミランさんストップ! 落ち着いて! 何でもないよナナシさん!」


「ああ、うん……。死んだかと思ったよ……」



 ミランさんを落ち着かせて椅子に座らせる。

 あ、危なかった、そういえばミランさんも怒ると怖い人だったっけ? 受付兼Bランクの冒険者だっていう事忘れてたよ。


「誰から聞いたって訳じゃなくて、その、うーん、自然に?」


「何をどうやったら自然にそんな知識がついちゃうんですか……。うう、メイドさんの誰かかな……、シラユキ様にはまだまだ早いですよ……」


「そんな感じかな。ふふ、驚かせてごめんね? それじゃさ、ラルフさんはどう思ってるのかな。ラルフさんってエルフ大好きな人だけど、ナナシさんすっごくいい人だと思うよ?」


 もしかしたら、ナナシさんからは完全に脈無しなのかもしれないね、あんな依頼を受け続けてる訳だし。でも、それならラルフさんは?


「どうなんでしょう? エルフ好きなのは確かですけど、気が多い人というか、本命がいないんじゃないですか? いっその事当の本人たちに聞いてみましょうか」


「え? だ、駄目駄目! あのね、答えが分かるまでの過程をね、楽しみたいの。今ミランさんとこのお話してるだけでもすっごく楽しいんだよ? まだ答え聞くのは早いよー」


 こんなに楽しいお話になるとは思わなかった。お友達の恋愛話だからっていうのもあるけどね。




 ミランさんは右手に口を当てて、よろめくような仕草をする。


「か、可愛いすぎる……。な、撫でてもいいですか? はっ!? 私ったら何を……! すみません!」


「姫様を撫でようなどと、後百年は早いです。受付風情がおこがましい……」


「シアさんいつの間に!? 言い方もちょっとひどいよ!」


「ば、バレンシアさん!? あああああ、違うんです! あの! か、可愛すぎたんです!!」


「ミランさん落ち着いて! 撫でてもいいから! シアさんはいつもなんでミランさん驚かすの!?」


「打てば響く、素晴らしい音色を奏でる楽器があったとしたら、姫様はどうなされますか?」


「うん、納得しちゃった」


「が、楽器扱い!? ひ、悲鳴を上げろって事ですか? 苦痛に泣き叫べと!?」


「いいですね、それ。さすがミランさんです、表現がいやらしい」


「そういえばミランさんはいやらしい人だったね」


「いやらしくありません!!!」




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