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その76

「キャロル先生! こちらです!」


 入り口に引っかかったままのキャロルさんをリズさんが嬉しそうに呼ぶ。

 キャロルさんの事大好きなんだね。ホントに可愛いよあの人……


 呼び声に気づき、体を横向きにして入り直したキャロルさんが近づいて来る。

 一歩一歩に木製の床が悲鳴を上げている。抜けちゃうんじゃないか?


「あれ? ライナー生きてるじゃん。王族に喧嘩売ったって聞いて飛んで来たんだけど……。ああ、勘違いしないでよね。私はリズの心配をしてただけだから」


 セリフこそはツンデレのそれだが、どうやら本心からの言葉のようだ。

 見た目と違い、結構冷たい人なのかな?


「ひでえな……。喧嘩なんて売ってねえよ。まあ、でも、さすがに今回ばかりは死を覚悟したんだが」


「リズさえ無事ならもういいや。んで、何があったの? それに、こっちの子とメイドさんは何?」


 え? 私?


「こちらの可愛らしい方は、シラユキ姫様ですよ、先生」


「は、はじめまして、シラユキ・リーフエンドです」


 座ったままで失礼だけど、ぺこり。


「そうなんだ? へー……。はあっ!?」


 あ、いい反応。

 やっぱり同じエルフの人はいいね。大きな声出されても全然怖く見えないや。


「ちょ、ちょっとアンタたち! 何同じ席に、って言うか何こんな場所に連れて来てるのよ!!! リズ! アンタがいて何で!? 失礼はして無いでしょうね!? って今現在この状態が失礼よ!!!」


 おおう、ミランさん以上の反応だ。この反応も久しぶりだね。


「こんなに慌てるキャロル先生、初めて見ました、可愛いです……。大丈夫ですよ、私も、ライナーさんも、シラユキ様のお友達に、なったのです」


「面白ぇな。ま、色々あったんだよ、気にすんな」


「お友達ぃ!? ちょっ、何よそれ! 羨ましい!! ……じゃないわ!!! ちょっと、そっちのメイドさん! いいんですかこれ!? ……ってなんで顔隠してるんです?」


 シアさんは顔を横に向け、片手で隠している。見て一瞬吹いてしまった。


 やばい、何だろうこの面白さ楽しさは!


「私の事などお気になさらずにお席へどうぞ姫様とお話でもしてください私は少し席を外しますね」


 一息で言い、逃げようとするシアさん。何で逃げるかなあ……


「え……、え? 嘘!? シア、姉様……!? 嘘! ほ、本当に!?」


 さすがにあっさりバレる。

 ライナーさんが言うには、当時と髪型も全く同じで、服装しか変わっていないらしい。それでごまかすには無理があるよ……


 ん?



 シア姉様……だと……?




 シアさんは観念して、キャロルさんに向き直る。


「ふう、やはりバレましたか。久しぶりですね、キャロ。元気にして」


「シア姉様!!!」


 走って抱きつこうとするキャロルさん。


 そしてそれを軽く避けるシアさん。


「シア姉様……?」


「シアさんなんで避けるの!? さすがにそれはひどいよ!!」


「姫様、すみません。ですが……。キャロ、まず武器を置きなさい。私を潰すつもりですか」


 ああ! 確かにそうだ! あの重量の武器が二つだよ。さすがのシアさんでも潰れちゃうわ。


「ご、ごめんなさい!!!」


 武器を二つとも床に、ズシン、ドズンと降ろす。置く音がおかしい! ゆ、床が抜ける!!!



「あああ、あの! シア姉様!! だ、抱きついても、いいですか!?」


「相変わらず子供のままですねあなたは……。ほら、来なさい」


 両手を広げるシアさん。キャロルさんはまっすぐシアさんに抱きつく。


「シア姉様!! 会いたかった! 会いたかったです……!! ずっと探していたんですよ……。どうして何も言わずに……、う、うう……」


 子供の様に泣き出してしまった。

 約二百年ぶりの再開か……。どれだけ寂しかったんだろう……




「す、すげえモン見ちまったな。あのキャロルが泣き出すとは……」


「でも、嬉し涙ですよ。よかったです」


「ええ、本当に……。ありがとうございます、シラユキ様」


 何故か私にお礼を言うリズさん。


「何で私? 私は何もしてないよ?」


「多分姫さんのおかげだな。うまくは言えねえけど、姫さんがいたから俺がバレンシアに会って、問題起こして、こいつが飛んで来れたんだろ」


「はい。ですから、ありがとう、なのです」


「うーん? よく分かんないけど、いっか。キャロルさんもシアさんも嬉しそうだしね」



 シアさんは、私に見せるような笑顔でキャロルさんを抱きしめ、撫でている。

 これが私のおかげって言うなら、いい事をしたみたいで気分がいいね!






 しばらくして、泣き止んだキャロルさんがこちらを向く。


「大変お見苦しい姿を見せました。シラユキ様、申し訳ありません」


 深々と頭を下げるキャロルさん。


 見た目と違って中身は凄く大人だこの人!


「わ! だ、大丈夫ですよ! 頭を上げてください!!」


「頭を上げなさい、キャロ。余り畏まりすぎるのも失礼に当たるものなのですよ?」


「ご、ごめんなさい! すみませんシラユキ様!!」


 また謝っちゃってるよ。早く自己紹介でもして打ち解けなきゃ……



「姫様、これが私の弟子のキャロル・ウインスレットです。小間使いのように扱い、お使い捨てください。キャロ、こちらのお方は、リーフエンド国だけではなく、全世界の宝とも言える、いえ、宝その物、シラユキ姫様です。失礼を働いた場合は死んで償う覚悟でお相手するように」


 どんな紹介の仕方よ!!


「ははははい!!! きゃ、キャロルと言います! ……あの! その! 死んだ方がいいですか!?」


 真に受けちゃってる!?


「死んじゃ駄目! シアさんも変な事言わないの!! あっさりいつものペースに戻っちゃって……、もう!」


 多分キャロルさんも私と同じ様に、日常的にこうやってからかわれて来たんだろう。

 背の高さといい、シアさんをお姉さんの様に思っている事といい、本当にいいお友達になれそうだ。



「えと、シアさんの言う事は話半分で流しちゃっていいですよ。できたら、キャロルさんも、リズさんライナーさんと同じ様にお友達になって欲しいです」


「王族、つっても姫さん普通の子供だぜ? ちょっと頭良すぎる気はするがな。敬語で話されるのも逆に困るっぽいしもっと気楽に付き合えよ。バレンシアもそうだが、お前の畏まった喋りも違和感がすげえ」


「アンタと一緒にするなアンタと!! ……失礼しました。ええと、シラユキ様?」


「私は敬語なんて使わずに話せるお友達になって欲しいんです。名前も呼び捨てでいいですよ? えっと、お友達になって欲しいな、キャロルさん」


「は、はい、分かりました。それでは、……こほん。私はキャロル・ウインスレット、冒険者ギルドAランク、二つ名は『双塊』と呼ばれています。背は低いですが、年は、ええと、三百四十くらいです。えーと……、よろしくお願いします、シラユキ様。すみませんが敬語抜きは難しいです……、お許しを」


 シアさんに似てまじめな人だなー。いや、似てないか? 敬語はどうしようもなさそうだね、ちょっと残念。ゆっくりと慣れてもらう事にしよう。


「うん! よろしくね! キャロルさん!! ふふふ、嬉しい!!」


 やった! 今日はお友達を一気に三人もゲットだ! 嬉しすぎる……!!



「な、何この可愛い生き物……。これが本物のお姫様ってやつか……。私も自分の可愛さに自信があった方だけど、こりゃ絶対勝てないわ」


 私は子供だし、キャロルさんより背も低いからね。そう見えちゃうんだろう。


「姫様と比較するなどということ事態が愚かな行為。身の程を知りなさい」


 シアさんその言い方はちょっとひどいよ……

 まあ、お弟子さんだし、いいのかな?


「キャロル先生も、とっても可愛いですよ。でも、シラユキ様は、ちょっと、別格と言いますか……」


「俺にはどっちも子供にしか見えねえよ。ま、よかったな、キャロル。探してたバレンシアにも会えて、さらに王族と友人関係だぜ? このまま国に仕えるのもいいんじゃねえか?」


「子供言うな、私より年下のくせに。でも、確かにそれもいいかな、冒険者なんて辞めて、シア姉様と一緒にシラユキ様のメイドでもやろうか。リズもどう?」


「素晴らしい、ですね。是非お願いしたい、です」


 え!? キャロルさんライナーさんより年上? み、見えないわ……


 キャロルさんとリズさんもメイドさんになって私の家族に、か。いいねそれ。

 リズさんはエルフじゃないけど、私が我侭を言えばきっと認められると思う。




「何をふざけた事を……。姫様のメイドになりたいのなら、最低でもSランク程度軽くなって見せなさい。リズィーさんもですよ?」


「最低Sランク!? シア姉様、さすがにそれは無理が……」


「私もまだ、Aランクにあがったばかり、なのですがー……」


「や、やっぱ王族はメイドもすげえんだな。そういや、エネフェアさんに付いてたメイドもやばそうな強さに見えたしな。さすが最強の国リーフエンド、バレンシアクラスも珍しくないのか……」




 何か盛大に勘違いされてるね。クレアさんとシアさんは何と言うか、メイドさんだけどメイドさんじゃないよ……

 でも、面白そうだ、このまま勘違いさせておこう。ふふふ。




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