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その69

「こんにち、わ? あれ?」


 今日も冒険者ギルドへ遊びにやってきた。

 冒険者ギルドに遊びに来るお姫様……。いいんだろうか? いいや、深く考えない。私は私だ。

 世の中に一人くらい、そんな変わったお姫様がいてもいいじゃない?


 駄目なんじゃないかな……



 いつもなら入ってすぐ、カウンターにミランさんが見えるのだが、今日はいないね。お休みかな?

 うーん、どうしよう、とギルド内を見回してみる。

 ラルフさんもナナシさんもいないね。見知った顔も無い。うん? 全体的に人が少ない?


 いつもなら十人以上、多いときは二十人くらい座って、お酒を飲んだり、笑いながらお話してたりするんだが。


 お酒は酒場で飲もうよ、と言ってみた事はあるが、町の酒場は一般のお客さん用のお店らしい。武器を持った冒険者が座っていたら、営業妨害になってしまうのだ。

 意外だった、意外すぎた。冒険者と言えば酒場っていうイメージがあっただけにね。

 なので、冒険者ギルドはこんな、一見酒場の様な作りをしているらしい。


 なるほどね、これも現実か。もちろん宿に武器を置いて酒場に飲みに行けば問題は無いので、そうする人も多い。

 ギルドはお酒もおつまみも自分で持ち込まないといけないからね。酒場の営業が夕方以降っていうのもあるかな。昼間から堂々とお酒を飲んで騒げる場所は貴重なんだろうと思う。


 昼間、明るい内からお酒を飲んでるのはどうかと思い、実際に聞いてみた事はあるが……

 自分たちのお酒は私で言うオレンジジュースの様な物だと言われて納得してしまった。

 家に帰ってからなんか違うな、と思ったけど、まあいいやとこれ以上何も言わない事にした。




 その話はもう置いておこう。この人数の少なさは何だ? ひのふのみっと、六人しかいないね。

 カウンターも無人。いつもはミランさんがぼけーっと暇そうにしているんだけど……


「何かあったのかな?」


「ええ、恐らくは。どんな事情かまでは予想もできませんが、何か起こり、皆外へ出て行ったのでしょう。それでも何人か残っている様ですし緊急事態、という訳ではないと思いますよ」


 何か重大な事件では無さそうだけど、さすがに何があったまでは分からないか。ふむ、どうしたものか……


「聞いてみよっか。とりあえず、……あそこの人、一人だけだし話し掛けやすそうだよね」


 分からなければ人に聞く!

 丁度よく、一人ぽつーんと寂しく座ってる冒険者の人がいる。服の色からするとDランク以下の人っぽいね。黒い。


 男の人、人間かな? ここから見た限りじゃ動物的な特徴は見えない。年は若そうだね、成人したて? 初心者冒険者だろうか。


「では私が。姫様は少し後を付いて来てくださいね。あ、やはりお手を」


「うん。初めて話す人だしね、ちょっと緊張」


 シアさんの右手を取り、少し後ろに隠れる様について行く。



「こんにちは、私は通りすがりのメイドです。唐突で申し訳ないのですが、少々お尋ねしたい件がございまして。今日は何か特別な事情でもあったのでしょうか? 随分とギルド内の人数が少ない様に思えるのですが」


 通りすがりのメイドですの所で吹き出しそうになった。

 やるな! さすがシアさんだ。


「へ? あ、俺? メイドさんって通りすがるものなのか……、さすが冒険者ギルドだな……」


 やばい! 笑わせないでよ! 今のは危なかった!!

 声が若いね。やっぱり十六、十七くらいだろう。


「ええ、冒険者ギルドですからね。それで、何かご存知でしたらお教え頂きたいのですけれど」


「あ、ああ、悪いけど俺も詳しい事は知らないよ、っと、知りませんよ。Aランクの冒険者が二人も来たって言うんで、多分皆見物じゃないかな。あっと、だと思います」


 何故に敬語に直す? ああ……、シアさん美人だからね……


「充分です、ありがとうございます。言葉遣いはお気になさらずに、楽にしてください。Aランク二人ですか……。それで見物となるとどちらかが二つ名持ちでしょうね。……姫様、お席へどうぞ」


 シアさんが、冒険者の人と向かい合う位置の椅子を少し横へずらし、勧めてくれる。

 なるほど、シアさんが冒険者の人の正面に立つ訳ね。私は大人しく聞きに徹しよう。


 Aランクの冒険者が二人か……。二つ名持ちっていうのはやっぱり有名人なのかな、まさか大勢で見物に行くとは……

 ん? まさか、ミランさんも? 意外にミーハーなのね。


「エルフの子供……? あ、二人ともって話だよ。俺はそんな有名人に興味無いし、そもそも誰かも知らないし。冒険者にだってつい最近なったばかりなんだ。仲間、って言うか、師匠が見に行っちまってさ、俺は留守番みたいなモン。それに、ついて行ってその有名人に変に目でも付けられちゃたまったモンじゃない」


「なるほど確かに。それに、冒険者ならギルドへ来るでしょうしね、暫くしたらここへ来そうですね。恐らく残った皆さんも同じ考えでしょう。どうしましょう姫様、今日は他の場所へ? それとも少し待ってみましょうか」


「え? うん。Aランクの人には興味あるね。人通りが多い所に見に行くのもなんだし、少し待ってみようか?」


「姫様? エルフで姫様って、え?」


「お気になさらずに。……ああ、そうですね、そうしましょう。私はバレンシア、見ての通りメイドです。こちらのお方はリーフエンド国の至宝、シラユキ姫様です。少し、姫様の退屈しのぎのお相手をお願いしてもよろしいでしょうか? ちなみに貴方に拒否権はありません。承諾か死か、お選びください」


 ひ、ひどい! 人間扱いしてあげて! 暇つぶしのおもちゃ扱いですか!! 拒否は死って……

 でも初対面の人の前じゃツッコミができない! ごめんなさい、新人冒険者の人……


「ええ!? あ! はい! え? マジで? お姫様!?」


「は、はい……」


 うう……、そんなに見つめないで……


「あまりジロジロと見るものではありませんよ? 目が潰れますよ? 物理的に」


「す、すんません!! だ、誰か……!」


 オロオロと他の冒険者たちに助けを求めようとするが、この町の冒険者の人には、この状態のシアさんの前に進んで立つような人はいないのだ。諦めてもらうしかない。


「だ、誰も目を合わせてくれない……。二人とも、早く帰ってきてくれよ……」


「大丈夫ですよ。あ、あの、名前を教えてもらってもいいですか?」


 お話するにもまずは名前から。もしかしたらお友達が増えるかも?


「はい! 俺は、エディ・ヴァッセルです! と、年は十六です! ちょっと前に冒険者になったばかりで、え、ええと……」


 ガチガチだなあ……

 お姫様の前じゃしょうがないか。後五、六年も経てばラルフさんや他の冒険者の人たちの様に馴れ馴れしく……、なってほしくは無いね。


「あ、敬語はいいですよ。さっきまでシアさんと話してたみたいに普通に、楽にしてください」


「え? いいの? じゃない、いいんですか?」


 何故かシアさんに顔を向けて聞くエディさん。まあ、そうなるよね。


「姫様のご好意を無下にするおつもりなら、わかりますね?」


「分かりました! お言葉に甘えます!!」


 普通は、一見ただのメイドさんに、ここまで緊張する事も無いんだけどね。シアさんって何か怖いんだよね、やっぱり。




「それで、ええと、俺は何をしたらいいんです、いいのかな?」


「退屈しのぎとは言っても、特にこれといってお話するような話題があるわけでもないのですが……。姫様の魔法の的にでもなってもらいますか?」


「ひい! やっぱり王族って庶民は家畜の様ににしか見てないんだ!!」


 何ていう事を! 一般の人から見た王族のイメージってそうなの!?


「しません! 思ってません!! もう! シアさん! 初対面の人なんだから冗談も程ほどにね?」


「すみません、からかい易そうな方だったので、つい……」


「か、からかわれてたのか……。大丈夫なのかな俺……」


 胃に穴が開かないように祈ってますね。



「エディさんは成人したばかりなんですよね? それで一人は大変なんじゃないですか?」


 家を追い出された、とかならしょうがないけどさ。十六で一人で生きていくのは相当辛いんじゃないのかな。


「あ、うん。一人じゃないから大丈夫です、よ。は、話しにくい……! ちゃんと師匠って言うか、先輩冒険者と一緒に行動してるんだ。今はちょっと外に行っちゃってるけど」


「あ、そういえばさっきそう言ってましたね。それならもう一緒にギルドの依頼を受けたりしてるんですか?」


「そんなのまだまだ。まずは師匠が受けた雑務依頼の手伝いしたり、簡単そうなの探して自分で受けてみたりだな。まだ依頼の無い休みの日や夜に色々と教えてもらってる段階さ。勉強と武器の訓練の毎日だよ、投擲技術ももっともっと磨かないとな」


 なるほどねー。師匠か、なんかカッコいいね。

 考えてみたらそっか、十六でいきなり冒険者になっても、一人でEランクに上がるための依頼をどうにかするなんて無理だよね。

 多分子供の頃から訓練はしていたんだろうね。でも、実戦なんて経験できる訳無いしね……


「まずは基礎、体は出来ていても動かし方が分からなければ意味はありません。町中で生活していくのではなく、町の外で生き残るための動かし方ですね。ギルドの依頼にも何度か連れて行ってもらえるとは思いますが、師匠の許可、同行者の同意がなければEランクに上がる事はできません。焦る事はありませんよ。十六ですぐ冒険者になった方がEランクへと上がるのは最低でも一年は見ておいたほうがいいです。焦りは自分のみではなく、師匠も危険に晒してしまいますから」


「バレンシアさん凄いな……。分かったよ、ありがとう! 俺の師匠ってこういう細かい説明してくれないんだよな……」


「考えるより感じろタイプですね、大抵の冒険者はその様な感じですよ。疑問に思うことがあればその都度自分から聞くしかありませんね。面倒だと答えてくれない場合は他の冒険者の方に聞いてみるのもいいです。Cランク以上の方であればそう邪険にもされないと思いますよ。とにかく疑問を疑問のままにしておかない事です」


 おお……、シアさんが人間の人に優しい……!? やっぱりラルフさんは個人的に嫌いなんだね……




「それじゃ、質問してもいいかな? メイドさんに聞くっていうのも変な話だけど、バレンシアさん色々知ってそうだし、何か的確に答えてくれそうな気がするんだ」


 メイドさんに冒険者の知識を頼るという事を疑問に思おうよ……。でも気持ちは分かる。


「ええ、どうぞ。その前に飲み物でもご用意しましょうか。姫様、バスケットをお願いします」


「うん。はい」


 収納の魔法で仕舞っておいたバスケットを取り出し、シアさんへ渡す。中身はテーブルクロスとグラスが数個、オレンジジュースの入った瓶、さらに少量のお菓子と、それを盛るお皿、取り分ける小皿。お菓子はシアさんお手製のクッキーだ。

 これが、最近の冒険者ギルド行きの日の必須アイテムだ。ほかにもピクニック用、川遊び用など色々とある。


 あれ? 私アイテムボックスになってないか?



「少しだけ前を失礼します」


 ものの数秒でお茶会の準備が整う。飲み物はオレンジジュースだが。


「は、早っ! ええ!? ど、どこから!?」


 ふふふ、いい反応だ。


「遠慮なさらずどうぞ。冷えているとは思いますが、ご自分でお好みの温度に直してお飲みくださいね」


 保存の効果で冷たいまま、最高に便利な魔法だ。

 シアさんはこの魔法の使い方を色々と考えてくれる。主に食べ物的な方向になってしまうのは、私のせいかな。


「あ、ありがとう……。お、王族って凄いんだなホントに……。っと、聞きたい事はそれなんだ、魔法がどうしても苦手でさ……、特に冷やすっていうのができないんだよ」


 冷やす? 水に手をつけて、体温が下がっていくのを感じ取れば簡単にできると思うんだけどな……


「詠唱は教えてもらいました? 集中して効果をイメージし、詠唱を正確に、ですね。私にはその程度しかアドバイスはできそうにありませんね」


 詠唱を教えてもらう? 正確に? どういう事? 詠唱なんてその場その場で適当に作るんじゃないの?


「それでも難しいのなら……、一度、氷水にでも裸で飛び込んでみるといいですね、一生忘れられない経験になるでしょう。イメージ力も上がる事間違い無しです」


「す、スパルタすぎる! せめて氷水に腕を浸けるくらいにしてあげて!」


 へ、下手したらそれ死んじゃうから!


「な、なるほど、やっぱエルフは違うな……。魔法の使い方って言うか威力、ホント凄いもんな。それもそういう苦労があってこそのモノなのか……」


 勘違いされてるーー!!!


「やはり慣れですね。一度成功して、後は慣れてしまえばこの通り」


 そう言ってエディさんのグラスを手に取り、一瞬で中のジュースを凍らせる。


「すげえ! 一瞬で氷に!? しかも今のって無詠唱だよな!? すげえ!!」


 おお、大喜びだね。私にもそれくらいできるんだよ? スプーンも無いし、やらないけどさ……、ん?


「無詠唱って、詠唱破棄の事ですか?」


「詠唱破棄は詠唱破棄だよ。無詠唱は無詠唱」


 だからその意味を、違いを聞いてるんだってば!


「姫様には特に必要の無い知識なのですが……。しかし、いい暇つぶしになりそうですね。では、私から分かり易く説明致しましょうか」


 シアさんウキウキしてるよ。説明大好きなんだからもう……




 詠唱破棄と無詠唱か……。何が違うんだろうね?







続きます。


書き溜めている物を、その日に読み直しながら修正して投稿しているのですが、何故か1000文字くらい増えてしまう……

ちょっと長めの説明回になってしまいますが、魔法に関しての最後?の補足説明になると思います。


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