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その65

 泳ぎの練習か。嫌だね……


 そもそもこの世界って泳げる必要はあるんだろうか? いいや、無いね!

 花畑のため池とか、川に落ちでもしない限りは必要無いはずだ。そうだそうだ、必要無いね。


「という訳で、泳ぎの練習は中止。今日は何をしようかな」


「分かりました。では、水辺で使える魔法の練習にしましょう。ため池の上流でいいですね、水が冷たくて気持ちがいいと思いますよ。ルーディン様、ユーフェネリア様もお誘いしましょう」


「くっ! 私の興味を最大限に引き出す提案。でもきっと、やる事は泳ぎの練習になるはずだ! 行かない!」


「水中に、濡れずに潜って行ける魔法もあるんですよ?」


「それじゃ、行こうか。水着の用意はできてる?」


「はい、昨日の間に準備は全て整え終えております」



「絶対騙されてるよあいつ……」


「いいじゃない、楽しそうよ、お兄様」






 ため池の上流の川へやってきた。こうやって話ながら歩いて行くのもピクニック気分でいいね。普段はシアさんの後ろについて走るか、兄様にお姫様抱っこされての移動だからね。

 メンバーは、私、兄様、姉様、シアさんの四人。メアさんフランさんはあまり遠出には着いては来ない。そこまで遠出って言うほどの距離でもなかったんだけど、メイドさんだし当たり前だよね……。最近シアさんをメイドさんの基準にしてしまっている自分がいる。


 川幅は結構狭いね、5mも無いんじゃないかな。私から見れば充分広いんだけど、深さはどれくらいだろう?

 透明で綺麗な水だが、ここは川。所々に深い場所もあると思う。流れは穏やか、安全そうに見えるが……


「シアさん、ここって急に深くなってたりするところはあるの?」


「そういった箇所は埋めておきましたのでご安心ください。あそこに張られているロープの間の深さなら、姫様の腰から胸の辺りまでしかありませんよ」


 確かにロープが、上流の方と、少し離れた下流の方に張られている。

 なるほど、流れるプールのような感じか。後は足元の石などに気をつければ本当に危険はなさそうだね。さすがシアさんだ。


 ……埋めた?


「ここって、まさか、シアさんが作った、とか?」


「ええ、暇を見つけては少しずつ。できてからも手入れを欠かさず、いつ姫様が遊びに行こうと思われても大丈夫なよ」


「言ってよ! そこは言おうよ! 毎年楽しみにしてたんじゃないの!?」


「そこはメイドの勤め。お気になさらずに」


「何でよう……、楽しみにしてたんじゃないの……?」


 うう、泣きそうだ。毎年楽しみにせっせと作業するシアさんを想像してしまった……


「あ、あれ? 姫様? ここは驚くところで、決して悲しむところでは……」


「言ってくれれば毎年でも遊びに来たのに……」


 ロープの間だけとは言え、何mあるんだろこれ。20mくらい? 普通に小さなプール並みの面積だよね。

 これを、たった一人で……?


 一体何年前からなんだろう……。一年二年じゃないよねきっと……



「何かいきなり空気が重いんだが」


「う、うん。シア、シラユキは相手の立場になって考えちゃう子なんだから、あんまり影で苦労するような事しちゃだめよ? してもいいけど言っちゃ駄目」


 暗くなってしまった私を見て、シアさんを注意する姉様。


「す、すみません……。姫様の驚く顔を楽しみに作っていたのですが、まさかこんな……」


 は! 駄目だ! 私のせいで空気が重くなってる。


「シアさん、いっぱい遊ぼ? 泳ぐ練習もちゃんとするから」


「ひ、姫様……! はい! 精一杯お相手させてください!」


 抱き合う私たち。

 しまった、泳ぐ練習はしたくない!




「それでは早速、水着にお着替えしましょうか」


 切り替え早いな相変わらず。既に笑顔だ。

 まさか、泳ぐ練習をする、という言質が取りたかったんじゃ……? さすがに考えすぎか。


「水着なんていらんだろ。裸でいいよ裸で」


 そう言って脱ぎだす兄様。


「わ、私は三人になら見られてもいいんだけど、シラユキ大丈夫? お兄様とはあんまり一緒にお風呂入って無いでしょう?」


 姉様も脱ぎだす。

 恥ずかしくないのかな二人とも……


「う、うん。ルー兄様に見られるのは別にいいんだけど、ルー兄様の裸と言うか、その、アレを明るい所で見るのはちょっと……」


 一応見慣れてはいるんだけどね。ここ、お風呂じゃないし、やっぱり恥ずかしいよ。


「子供がそんな事気にするなよ。風呂だとじーっと見つめてるじゃねえか」


 言わないで! 私だってちょっとくらい興味あるのよ!

 しかし、そんなに見つめてたっけ? これからは気をつけなければ……


「お兄様の大きいもんね、シラユキも見入っちゃうか。お兄様? まさか触らせたり、とか握らせたり、とかしてないわよね?」


「するかっ!! まだ十二だぞコイツ。せめて五十になってから」


「五十になっても触らないからね!?」


 駄目だ! 早く修正しないと、どんどんいやらしい会話になっていってしまう……!


「シアさんも止めてよ! あ! もう水着着てる!? いつの間に……」


 シアさんは黒のビキニか……。何この人、綺麗過ぎる。


「すみません姫様。今の会話は私も興味が……」


「え? シア、まさかお兄様の事を……」


「何? そうなのか……。悪いな、俺にはユーネという」


「早く着替えようよ!! シアさんお願い!」


「何だよノリが悪いな……」


 兄様とシアさんはよく、その場その場で結託して私をからかおうとして来るんだよね。なんという息の合った連携プレイだ……


「はい。ふふふ、では、あちらの木の影で。ユーフェネリア様はどうされます?」


 姉様も王族だもんね、やっぱり着替えの手伝いは必要かな?


「お兄様と着替えるからいいわ。あの、その、二人でどこかに行っちゃっても探さないでね?」


「もうそういうのはいいよ!!!」


 ありえる話だけに怖い! でも外ではやめて!!!






 兄様は青いトランクスタイプ、姉様はお揃いの青いビキニ。私服といい、青が似合うねこの二人は、羨ましい。

 私は白のワンピースタイプ、スカート付だ。見事な凹凸無しの素晴らしい体。泣きたい……


「シラユキ可愛い……。こっちおいで? 撫でさせて? 何この可愛さ……」


「ホントに可愛いよな……。バレンシア、よくやった」


「いえいえ、当然の事をしたまでです」


 二人とも大絶賛でグリグリと撫でて来る。

 水着はちょっと恥ずかしいけど、元は取れた気がするよ。


 しかし、白い水着か、大丈夫かな……?


「ねえシアさん、これって、透けちゃったりしない?」


「あ、白って透けちゃうわよね。でも、いいんじゃない? どうせ見てるのは私たちだけだし」


 あ、それもそうか。この三人にならいくら見られても平気だよ。


「しませんよ、ご安心ください。私渾身の作ですから、透けるなどありえません」


「シアさんが作ったんだこの水着。逆に心配になってきたんだけど……」


「水に入ったら溶けたりしてな」


 兄様が笑いながら不安になることを言う。


「その手が……!」


「無いよ!!」






 兄様と手を繋いで、ゆっくりと足を水につける。


「冷たっ!」


 お、思ってた以上に冷たいね。慣れるまではこの辺りで足をつけるだけにしておこう。


「おー! 冷たくて気持ちいいな! ユーネも来いよ。バレンシアもな」


「わ! 待って! 私はまだこの辺りまでがいいよ!」


 私と手を繋いだまま、どんどんと川へ入って行こうとする兄様を慌てて止める。

 兄様にとっては浅い川でも私から見ると充分深いのよ! 胸辺りまであるってシアさんも言ってたし、あれ? 怖いぞ……


「おっと、そうか。それじゃバレンシア、コイツ頼む。俺はユーネと遊んで来るわ。シラユキも早く慣れて来いよ」


「はい、お任せください」


「シア、お願いね。シラユキ、疲れたらシアにちゃんと言うのよ?」


「う、うん! 気をつけてねー!」


 私をシアさんに預け、今度は姉様の手を取る兄様。


 兄様と姉様はキャッキャウフフと二人の世界に入ってしまった。

 あれにどう割り込めと!?



「さて、姫様。今日は、泳ぎの練習も魔法の練習も無しです。その、私と遊びましょう?」


 シアさんは、少し照れたように頬を染めて言う。


「はー……、はっ!?」


 今の表情はやばかった! なにこの美人さん。今のは同性でも落ちるよ……、落ちそうだったよ……。


 夏は開放的になる、か。危ないね。




 その後、シアさんが水面を歩いたり、シアさんが水中をすごい速度で泳いだり、シアさんが両手に魚を捕まえて戻ってきたり、その魚をささっと串焼きにしたり……


 シアさんの凄さを再確認した。兄様姉様も大喜びだ、何か、一番上のお姉さんみたいだよね。今度シア姉様とでも呼んでみようか? む、襲われるか? やめよう……


 うーん、またまた、さらに大好きになったよ!




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