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その63

 シアさんに精霊の話を聞いた日からどうしても気になる事が一つあった。


 それは、女神様から貰った異世界言語翻訳機能だ。


 この機能、能力か? これは、ある一定以上の知性を持つ生き物と会話ができる、という能力だ。さらに、私の認識に沿って翻訳されるのが凄い。

 ラルフさんに贈った、魔法で強化された銀。私がミスリルなんじゃないかな、と思ったら、ミスリルで通じるようになったのだ。トウガラシもそうだったね、凄すぎるわこれ……


 これって、精霊ともお話できるんじゃないか?






 この国で精霊と言えば、何故かコーラスさんが詳しいらしい。でも一番身近な母様の執務室にもいるらしいので、まずはそちらから行ってみようと思い、こうして来てみた訳なのだが……



 執務室に入り、キョロキョロと見回す。


「見えなーい! 母様ー、精霊さんはどこー?」


「何この子可愛い……。どうしたのシラユキ? 精霊を見てみたいのかしら」


 この部屋には多くいるという話だったが、やはり全く見えなかった。

 だよね、この部屋何回も入ってるんだけど、一度も見たこと無いし。精霊は自分が興味の無い人の前には、姿を現す事すらしてくれないのか……


「うん! 見てみたーい。それでね、お話しするんだ!」


「せ、精霊とお話? バレンシア、説明して頂戴。何なのこの可愛らしさは」


「そっちを!?」


「も、申し訳ありません。私が姫様の好奇心を刺激してしまったようで……。小さな子供特有の、何でも知りたい病でしょうか。あまりの可愛らしさに意識を保つのがやっとなのです」


 二人とも言い過ぎだよ! でも、母様に言われるのは最高に嬉しいね!


「なるほどね……。ふふふ、本当に可愛すぎるわこの子……。それじゃ、ちょっと見せてあげましょうか」


 やった! どんなのかな? って見せようと思えば見せれるものなのかな? 精霊に興味を持ってもらうとかできるんだろうか?



 母様は引き出しから小さな木の箱を取り出した。箱を開くと中には青い水晶、形は縦に細長い。

 小さいな……、5cmくらいかな? 簡単に折れてしまいそう。箱の中には柔らかそうな布が敷き詰められているし、もしかしたら案外脆いのかもしれないね。

 しかし、実物をこうして見てみるとただの水晶の破片にしか見えないね……


「それが精霊通信用の水晶、だっけ? 中に送音の精霊さんが住んでるんだよね?」


 またついさん付けしてしまった。な、直さなければ。

 今日は私が口を開くたびに、みんながニヤニヤしている気がする。


「ええ、そうよ、よく知っているわね、偉いわ。バレンシアに聞いたのかしら。ふふ、もっと近くで見てもいいわよ、動いたりしないから安心しなさい。あ、触っちゃ駄目よ? 通信始めちゃうからね」


「はーい!」


 なるほど、人が触ると精霊が反応して音のやり取りを始めるんだね。凄いや。

 音を送る事が好きなんじゃなくて、人が出す声を送る事が好きなのかな?



 母様に近寄って箱の中を見せてもらう。

 見たところ、やっぱりただの水晶だねこれ、青いけど。中に何かいるようには見えない。


「うーん? 何も見えないよ? 母様には精霊さんが見えるの?」


 形状は光の玉に見えるんだっけ。あ、精霊が私に興味を持ってくれていないのかな?


「ふふふ。これはね、触らないと見えないの。実際手に持ってみると分かるんだけど、どうしようかしら……。シラユキのためだし、いいわよね」


「エネフェア様!?」


 びっくりした! カイナさんか……、声久しぶりに聞いたよ。



 今のは、母様お付のメイドさんズの一人、カイナさんだ。

 母様お付のメイドさんは二人いる。もう一人はクレアさん。本当はクレーアさんだが、みんなクレアさんと呼んでいる。

 二人とも背が高く胸も大きい、う、羨ましすぎる……

 この二人は執務室以外でも一緒にいる事を見かけるね。二人並んでどこかへ出かけて行くのをよく見るよ。でも表情が分かり難く、仲が良いのかどうかが分からない。



「いいじゃない、ちょっと冒険者ギルドに繋ぐだけよ。ミーランがいたら出してもらいましょうか。ね、シラユキ、話してみたいでしょ?」


 母様は別段何でも無い事の様に言う。


「う、うん……。カイナさん、大丈夫なの?」


 絶対大丈夫じゃない筈だこれ……


「え? あ、はい! あ、いえ! 大丈夫じゃないです!」


 何でカイナさんは私と話す時はいつもガッチガチなんだろう……

 まあ、私に何かあったらみんな怒るしね。家族なんだから気にしなくてもいいのにさー


「ぎ、ギルドとの精霊通信は特別な事が無い限り控えた方が……。また何かあるんじゃないかと思われますよ?」


「前にこちらから通信入れたのは……、シラユキが初めて町に行った時ね。ウルが脅しをかけた。確かにあの時通信に出た子の慌て様は面白かったわ。またあの子が出ないかしら」


 そう言って、母様は水晶を手に取る。

 あれ!? カイナさん駄目だって言ってるよ!? 無視か! 母様自由すぎる!!


 カイナさんも止めるだけ無駄なのは分かっていたんだろう。また無口お控えモードに戻ってしまった。

 カイナさんクレアさんとも、もう少しお話してみたいのだが……




「こんにちは。そちら、誰かいるかしら?」


(ははははははい! います! えええエネフェア様、ほほ、本日は、一体な、なんのご用件で!?)


 間を置かず、水晶から男の人の大きな声が聞こえた。

 いきなりの大声での返答にに母様が顔を顰める。


 凄いよ、水晶から声が聞こえるよ……。どうなってるんだろう……

 魔法には慣れたが、こういう想像した事もない様なファンタジーさは実際目の前で見てみても今ひとつ、何と言うか、要領を得ることができない。


「そんなに大声出さなくても大丈夫よ。ちょっとね、ミーランはいる? 出してもらってもいいかしら?」


(はは、はい! 少々お待ちください!! 一旦通信を終わります!)


 凄い慌てようだ……。まあ、その国の女王様からいきなり、しかも直接通信が来たら誰だって焦るか。当番制かどうかは分からないが、運が悪かったと思って諦めてもらおう。


「母様、それって、片方の人が持てばいいの?」


「うん? ああ、違うわよ。声を送れるのは持ってる時だけ、向こうでもこれと同じ水晶の欠片を手に持って話してるの。でないと一方的に音を送るのみね」


 なるほどねー、手に持たなければ音が聞こえるだけか。

 電話みたいに呼び出し音も無いし、夜中急に聞こえてきたらそうとうビックリするんじゃないだろうかこれは。不便さは色々とありそうだね。


「見せて見せて! 精霊さん、見えるの?」


「ふふふ。持ってみてもいいわよ、落とさない様にね?」


 母様に水晶を手渡された。


 ほんのりと暖かい、あ、これは母様の体温が移っただけか。

 んー? 見た感じは弱く光ってるだけだね。こ、この中に送音の精霊が?


「この光ってるのが」


(す、すみません! お待たせしました! ミーランです!!)


「ひゃあ!!!」


 母様に確認を取ろうと思ったら水晶から大声が聞こえた。


(え? 今の可愛らしい声……、シラユキ様? な、何があったんですか!? シラユキ様!!)


「な、何でもない! ちょっと驚いちゃっただけ……」


 び、びっくりしたー……。まだ心臓がドキドキ言ってるよ……


「ふふふ……。可愛い……」


 母様に笑われてしまった。くそう、ミランさんめ! 

 よく見ると、シアさんも笑ってるね。カイナさんもか! 

 クレアさんは相変わらずの無表情だね……。この無表情には小さい頃何度泣かされた事か……



「こほん。えーと、ミランさんだよね?」


(はい、ミランですよー。どうしたんですか姫様? そちらから精霊通信なんて珍しい)


 よく見ると、相手側の声にあわせて光が強弱しているね。

 今のミランさんの言い方だと、ギルドからの通信はそれなりにあるっぽい?


「うん。えーとね、その、ね? 特に用事は無いんだ……。ごめんね?」


(え? えー……。だ、大丈夫なんですかそれ、エネフェア様に怒られ、って、エネフェア様からの通信でしたねこれ)


 そう、だから怒られるとしたらそれは母様だけなのだ。母様を怒れる存在なんて誰もいないね……


「精霊さんが見てみたかったんだけどね、母様に話したらギルドに繋いじゃって……」


(あー、なるほど……、安心しました。精霊ですか? 光っているのがそうですよ)


 あ、やっぱりこの光ってるのが精霊なんだ。うーん……。光ってるだけで、形とか分からないなー


「光ってるだけだね……。形、とか、見えないの?」


(はい、他の精霊も光っている球体にしか見えませんね。シラユキ様、精霊に興味があるんですか?)


「そうなの、精霊とお話したいんですって。ふふふ、可愛いでしょう?」


 母様が会話に割り込んできた。


(せ、精霊とお話、ですか? 確かに可愛らしい考え、じゃなくて、できるんでしょうか、そんな事)


「試してみようか。精霊さーん、お話して欲しいな?」


(な! か、可愛い! はっ!? すみません! 黙ってます!!)


 しまった! ミランさんにも聞こえてるんだった!! 大恥だーーー!!



 当たり前だけど、特に何も聞こえない。変わった反応も無い。


「やっぱり無理よね。シラユキなら、と思ったんだけど……。さすがに無理があったわね」


「むう……。音の精霊さんだから、なのかも。向こうへ音を送る事を優先しちゃってるんだよ、多分。そうだよねー?」


 また何も反応は無し。


(ふふふ。精霊との会話、できたら面白そうですね)


「シラユキ、そろそろ終わりましょう。ミーランもお仕事中にごめんなさいね? ついシラユキを甘やかせ過ぎちゃって……」


 そうだね、ミランさんはまだお仕事の途中だっただろうし、あまり長い時間拘束しちゃ駄目だよね。


(いえいえ! シラユキ様との通信ならいつでも大歓迎です! またいつでも呼んでくださいね!)


「うん! ミランさんありがとね。また遊びに行くからねー」


(はい! お待ちしています! それでは、通信終わります)


「はい、母様」


 母様に水晶を返す。手を放すだけでいいと思うんだけど、通信を終わらせるのは母様に任せよう。


「それじゃ、こちらも通信終わるわね」


 言って、水晶を箱に戻し、蓋を閉じる。

 通信を終わる、と宣言するのが別れの挨拶の様な物かな? それなら通信始めにも何かありそうなものなんだけど……、無いと毎回ビックリしちゃうよね。また今度聞いてみるか。




「どうだった? 便利でしょう? これ」


 箱を元の引き出しに仕舞い、感想を聞いてくる母様。


「うん。便利そうだけど、向こうで誰に聞かれてるか分からないのがちょっと怖いね」


 ミランさんも、こちらにシアさんとカイナさん、クレアさんの三人が他にいた事は気づけなかっただろう。


「そういう事をパッと考え付いちゃうのがシラユキの凄いところよね。確かに、向こうにも何人かいたんじゃないかしら?」


「やっぱりそうだよねー。映像を送る精霊さんもいればいいのにね」


 テレビ電話。あれも、カメラの範囲外にいる人までは分からないのだが。


 わたしの驚きっぷりが他の誰かに聞かれてしまったのか。恥ずかしいわ……


「精霊さんとお話はやっぱり無理なのかなー……。ううん、諦めない! 母様ー、他の精霊さん見せてー?」


「え? もうシラユキに見せてあげれる精霊はいないの。ごめんね?」


 やる気を出したところでこれだよ!


「コーラスなら他にも色々と精霊を知っていると思うんだけど……。明日にでも見せてもらいなさい」


「うん! 絶対にお話してみせるんだから!」


「今日のシラユキはホントに可愛いわ……。いつも可愛いんだけどね、いつまでも可愛いんだけれどもね!」


「ええ、本当に……。未知の存在の精霊への興味、そしてエネフェア様への甘えが加わり最強に見えますね」


 うるさいなもう! 可愛いがゲシュタルト崩壊しそうだ!!




 ふう……、精霊との会話を夢見る子供に見えるんだろうね。今日の私ってそんなに子供っぽかったのかな……







精霊の話はもうちょっとだけ続きます。


今回ついにエネフェアお付のメイドさんズの名前が判明! 今さら過ぎましたね……

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