その56
「ウマっ、あ、失礼。な、何これ、美味しすぎるんですけど……」
「ナナシは結構甘いの好きだよな、俺はこの店だとミートパイくらいしか食えるもん無いんだよなー」
「姫様御用達、それはつまり、リーフエンド王家御用達という事です」
ここってシアさんのオススメのお店じゃなかったっけ? 王家のメイドさん御用達なんじゃないのか? まあ、いいか、私が好きなお店には変わりはない。
私が冒険者ギルドでこのお店の事を結構話しているので、最近は冒険者の人もそれなりに来店しているらしい。
お店の人も最初のうちは対応に困ってはいたが、今では装備を預けておける棚まで用意してある。客層が増えた事に喜んでいたよ。
王家御用達? という事もあって、一般の人のお客さんもかなり増えたみたい。たまに王族の談話風景を見る事のできるお店として評判だ。
何故か苺とアップルパイとオレンジジュースは絶対に切らさない、素晴らしいお店、だ。
ごめんなさい私のせいです!!
「あのー……、し、シラユキちゃん?」
ナナシさんが遠慮がちに話しかけて来た。
可愛いなこの人……。猫っぽいのがさらにいいね! 家のメイドさんになってくれないかな……
後で尻尾をモフらせてもらおう。
「いいですよ。あんまり沢山だと私が怒られちゃいますけど、後三、四個くらいなら。いいよね? シアさん」
テイクアウトで頼んでもらってもいいくらいだ。冷やす魔法が一般化しているので、持ち帰りもしやすいんだね。
「ええ、これが最期のお食事になるでしょうし、どうぞどうぞ」
「やっぱり死んじゃうんだあたしたち!!!」
「俺もかよ!? え? 俺の最期の食事ってコーヒー一杯?」
「あ、ミートパイ追加します?」
うんうん。最期の晩餐がコーヒーだけは悲しいよね。む、晩餐は夕食か。最期のおやつ?
「最期っていうのをまず否定して!!!」
「姫様、どうぞ」
追加で頼んだアップルパイを切り分け、私の前に出してくれるシアさん。
「うん。ありがと」
「はぇー」
ん? なにやらナナシさんから視線が?
「あ、ごめん。お姫様だなーって思ってさ」
お姫様ですから! でも、そうなのかな?
「そう、ですか? 私はあんまり、自分がお姫様だって言う自覚は無いんですけど……」
「一般人にメイドさんは付かないから! やっぱこの子何かズレてるんだよな。面白いわ」
ボケたつもりは無かったんだけど、ラルフさんに突っ込まれてしまった。
「ああ! 言われて見れば……」
おお……、私全力でお姫様だった! もうこれが当たり前すぎてなんの違和感も感じて無かったよ……
まずいね。もしかして、世間様との認識のズレが凄い事になってるんじゃないだろうか。今さら不安になってきてしまったよ。
「あたしも昔は女の子だったしね、そういう生活に憧れもしたものだけど……。今はこれでよかったと思えるんだよね。何をするにも自分の責任って言うのはあるけど、自由ってのはいいもんだよ。なにより、楽しいんだ、今」
「ナナシさん……」
冒険者は自由、か。その分責任が重いが、それ以上のよさがあるんだろうね。
「ナナシの子供の頃って確か……、おっと」
あ、ナナシさん自分の事捨て子だったって言ってたっけ。
いくら本人が気にしてないとはいえ、あまり突っ込んで聞くことでもないよね。さっさと話を変えよう。
「それじゃそろそろ、お仕事のお話、聞かせてもらえますか?」
「何この心遣い。この子ホントに十二?」
「ああ、さすがお姫様だよな。でも、基本は見たままの子供だよ。変に構えず、その辺にいる子供と同じ感覚で話せばいいさ」
あっさりバレちゃったよ。さすがに不自然すぎたね。私もシアさんみたいに上手な話し方ができるといいんだけどなー……
「仕事の話って言ってもさ、どんなのがいい? あたしらまだCランクなりたてだし、そんな冒険話とか無いよ?」
おや? ナナシさん何か自然体と言うか、緊張が解けたっぽいね。ラルフさんもたまにはいい仕事するもんだ。
ナナシさんもラルフさんと同じで、Cランクに上がりたてなんだね、やっぱり一人で熊も倒せちゃう強さなんだろうか……。全然そうは見えないよ。
「最近した仕事の話でいいか。ギルドの方のが聞きたいんだよな?」
「はい! ど、どんなお仕事したんですか?」
「ちょ! 可愛い! メイドさん! この子抱きしめてもいいですか!!」
何急に!? お、お仕事のお話は……
「死ぬ覚悟でどうぞ?」
「諦めます! しっかし、ホントに可愛いわ……。さっきのキラキラした目、やばいねありゃ」
どうやらまた、好奇心全開の子供の目をしていたようだ。恥ずかしい……
「一番新しいのだと、プレベアの肉採りだね。頼まれた分の量以外は食べちゃっていいから、あれ、いい依頼なのよ」
「ああ、美味いよなあれは。余った分は売れるし、ホントいい依頼だよ」
熊肉かー、ちょっと食べてみたいな。
危険な動物の素材、と言うかお肉か。そういう依頼もあるんだね。私はギルド内の依頼掲示板見せてもらえないから、どんな依頼があるのか自体知らないんだよねー
あ、素材と言えば、爪とか牙は何かに使えるんだろうか? 武器防具の素材にしたりできるのかな?
「お肉以外に爪とか、魔物の素材って言うのかな? そういう物はどうするんですか?」
「うん? 捨てるよ?」
「爪なんて何に使うんだ?」
あっるぇー? またこの反応だよ! お前は何を言ってるんだ? 的な反応だよ!
「えと、その……。魔物の部位って、武器とか、そういう物に使えるんじゃないかなーって思って……」
「普通に鉄でいいだろ? 態々そんなモン使わなくったってさ」
えー……。鉄より軽くて丈夫そうな気がするんだけどなー
「ああ、違うよラルフ。シラユキちゃんが言ってるのは、鉄以上の強度がある魔物の爪とかあるんじゃないか、って事じゃない? だよね?」
「あ、はい。それで軽かったりしたら、装備に使えるんじゃないですか?」
そうすれば、重い鉄装備より早く動けるようになるだろうし、安全にも繋がるんじゃないのかな?
「軽かったら武器にならないよ? それに、そんな固かったら加工できないんじゃない? まあ、考えは面白いと思うけどねー」
「一応そういった物も無いことも無いのですが、やはり一般的ではありませんね。錬金ギルドの作っている金属以上の物は早々ありませんしね」
シアさんが補足を入れてくれる。
錬金ギルドとは、金属の製造、効果の研究、新素材の開発等など、金属全般に関わっているギルドだ。錬金術とは一切関係はない、錬金術という技術自体あるのかどうかも不明だ。
そうか、軽い武器って何の意味も無いか……。仮に加工ができたとしても、その加工に使った金属とかそういうのがあるなら、そっち使ったほうがいいよね……
げ、現実的だなぁ……。って言うか、これが現実か。
よし! この話は忘れよう! 忘れてもらおう! 絶対からかわれるよこれ……
「ぷ、プレベアって大きな熊なんですよね? それを一人で倒しちゃうんですか? ラルフさんも試験で一人でやっつけちゃったんですよね?」
「お? また話逸らしたな」
言わないで! なんで簡単に気づかれちゃうのかな、もう……
「気づいても言っちゃ駄目だってば。ごめんねシラユキちゃん。いくらCランクになって一人で受けれるようになってもね、そんな何でも一人でやるなんて危ない真似はしないよ。試験だけ」
「一人だけで町の外に出る、っていうのがそもそも危険だしな。さっきの話のプレベアだって、俺とナナシの二人でやったんだよ」
二人でも凄いわ……。やっぱり先制目潰しがあっても一人はきついかー
「し、シアさん。どうやって戦ったか聞いてもいい?」
一応確認を取っておこう。血生臭い話かもしれないしね。
「ええ。相手は魔物ですからね、聞いておいて損は無いと思いますよ」
「よかった。ラルフさん、ナナシさん、聞いても大丈夫ですか?」
一応二人にも確認を。個人専用能力を使った、とかなら聞いてはいけないと思うし。
「いいよいいよ。別に隠すことなんて何にも無いし、一般的な方法、でもないか……」
「とりあえず俺らがやったやり方を話せばいいよな」
「うん。お願いします」
た、楽しみだ、ちょっと怖いけど。実際のCランク以上の冒険者の戦い方か……
「プレベアの縄張りは分かりやすいからね、探し出すのはそんなに難しく無いのよ。これは後で図鑑でも読んでね」
「奴等って勘がやけに鋭いと言うか、縄張りに何か入ると穴倉から出て来るんだよ。んで、見つかったら全力で襲い掛かってくる。結構早いんだぜあれ、でかいのにさ」
「でっかくて早いって言っても、馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んでくるからね、まずはしっかり落ち着いて目潰し。外しても慌てずに確実に当てるんだよ。あたしは器用な方だから大抵は一発成功だけどね」
あのえげつない目潰しだね。
真っ直ぐ来てる相手でも、走って突っ込んでくる熊の顔に命中させるって、結構凄い事なんじゃないのかな?
「外しちゃったら、どうなるんですか?」
目の前まで来たら、まさか、終わり? うわ、怖い……
「死んじゃうんじゃない? その程度もできない奴が冒険者になって、さらにプレベア討伐に参加する事があるとは思えないけど」
あ、そうだね。自分の命が掛かってるんだ、そういうスキルは全力で磨くはずだよね。それが最低限必要なレベルか……、冒険者って凄いね。
失敗は視野に入れない。99%成功する状況で行動するのが普通か。残り1%は運だね。
「当てたら全力で逃げて、まずは様子見だね。暴れだすし、まだ近づかない。足り無そうならもう何個かぶつけるね。目潰し袋安いし」
「えげつなーい!」
声に出してしまった!
「あはは。お姫様、じゃないや、エルフからするとそうかもねー」
「ああ、エルフの冒険者ってすげえよな。一人いるだけでもう安全は決まったようなもんだし」
「え?」
いくらエルフが最強種族でも、一人いるくらいでそんな変わらないでしょ。
「あれ? シラユキちゃんは知らないのか。エルフの冒険者って、登録してすぐCランクから始まるんだぜ?」
いきなりCランクから!? 何その破格の高待遇は!
「ぶっちゃけエルフが一人いればさ、プレベアなんて見てるだけでいいんだよね。いやー、マジで凄いわエルフ」
「メンバーに一人いたら俺たちのやる仕事なんて夜間警備くらいだよ。普通は交代で寝るんだけど、エルフはちょっと特別に扱っちゃうよな」
「そうそう、それ以上に楽させてもらえるしね。もっとエルフの冒険者増えればいいのに……」
「この町エルフは確かに多いんだけど、冒険者のエルフって一人もいないよな。たまに他の町から来て、滞在ついでに何か仕事やる人はいるんだが……。あ、一人いたわ」
ミランさんを指差して言うラルフさん。
あ! ミランさん冒険者だった!!
え、え? えー? 駄目だ、全く想像できないんですけど! 今もぼーっと暇そうにお菓子つまんでるよ? なんという怠惰な受付だ!
「み、ミランさんは確かBランクですよね。どれくらい強いんですか?」
「ラルフ百人いても勝てないよ。ミランさんめっちゃくちゃ強いからね、プレベアとか十秒も掛からないって」
ミランさん怖いわー! そ、そんなに強いんだBランクって……
今まで通り話せるかな……。敬語が出てしまいそうだ。
「姫様でも余裕で倒せると思いますよ。と言うか倒せます。プレベアを前に落ち着ければ、という前提がありますが」
「その前提からして絶対無理だよね……」
落ち着いて少し強めの電撃の槍で貫けば即死、かな? 私怖いわー……
「シラユキちゃんは戦うなんてしないでくれよ?」
「ふふ。そんな怖い事しませんよー」
しない、したくない、考えたくも無いね。
「話戻すよー。それでさ、ひいひい苦しむわけよ。目に入る、鼻に入る、口に入る。口に入ったら喉にも行くしね。あれ? 確かに言われて見ればえげつないね……」
あはは、えげつなーい!
「あ、俺食らったことあるぜ? すぐ洗っても一週間くらい痛み続くし、味も感じないし、辛いのなんのって」
何やってるんだか……、自爆でもしたのかな? 風向きにも注意しないといけないよね。
「取り扱いには気をつけないといけないんですね。ラルフさんはどうして当たっちゃったんですか?」
「エルフの冒険者に求婚」
「そ、その程度で済んでよかったですね……」
危ないよ! その場で殺されなくてよかったよ本当に……
「暴れるのが収まったら後は、遠距離から弓でも射るのが定石なんだけど、今回はラルフがいたからね」
「おう。一撃で首飛ばして終わりさ! すげえだろ?」
「く、首……?」
一撃で首を飛ばす? 剣で切り飛ばしたんだよね。あのサイズの剣ならそれも可能なのかな。
そ、想像しちゃった……
「あ、あれ? ここは、ラルフさんすごーい! とか褒められるところだと思うんだが」
「アンタねえ、もうちょっとマイルドな表現にしなさいよ。お姫様なんだよ?」
確かに凄いよ、熊の首を一撃か。それもかなり大きめなんだよね。3、4m?
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと想像しちゃっただけで。や、やっぱり血が噴出したりするのかな……」
「噴出すって程でも無いけどな。ピュッ、ピュッ、てさ。心臓が動いてるうちはその間隔で出るんだよ」
また想像しちゃったあああああああああ!!
「だからアンタの表現は生々しいんだって! シラユキちゃんもそんな事聞くモンじゃないよ?」
「は、はーい……」
「あらら、すっかり元気無くしちゃったよ……」
「元気の無い姫様も可愛いです。あ、ラルフさんは後で、そのプレベアと同じ目に遭わせて差し上げますね」
「やめて!!」「やめてあげテ!!」
「あっはは。楽しいねこれ、いい友達ができたよ」
ナナシさん楽しいし、面白いし、可愛らしいし、何よりいい人だねー。
本当にいいお友達ができちゃった!
まだ続きます。
これくらいは残酷描写に入らないですよね? ちょっと基準が分からないです。
R15はどうなんだろう……、エロフですしね。




