その337
驚きの同月投稿! お久しぶりです。(いつもの)
まるで世間話からの延長の様にハンナさんの口から出た爆弾発言。目的地はもうすぐそこという所まで来ていたのに全員仲良く足を止めてしまった。
『魔王』ギーゼルヘーアとはいったい何者なのか……!? ではなく、まさかのシアさんの冒険者時代を知っている風な物言い。これはワクワクドキドキ波乱の予感!
「は? いくらなんでもSランク冒険者からメイドさんに転職って、さすがにありえないでしょ。はあ、まったくハンナは本当に馬鹿なんだから……」
溜息一つ、呆れ果ててしまうコレットさん。それを見て私も冷静になってしまった。
それはもう全く信じていない様子。ハンナさんの普段の行い、言動が透けて見えてしまうような反応だった。私のワクワクを返して欲しい。
「い、いやいやいや本当なんだってば!! 私も今の話の流れでやーっと思い出したんだって! このメイドさんどこかで見た事あるなーって最初会った時からずっと思ってたんだから! まあ、思ってただけでめんどくさいから思い出そうとはしてなかったんだけどさ」
「何で思い出そうとしないの!?」
あまりの軽さに思わずツッコミを入れてしまった……。しかしハンナさんへのツッコミに関してはコレットさんに任せるべきであったか。失敗したかもしれない。
「あはは、可愛い可愛い。シラユキちゃん様が可愛すぎたのもあるかなー? んーとね、どうせその内思い出すからいいかー、別に無理して今すぐ思い出さなくてもいいかーってね。実際思い出したんだからもういいのいいの! はい気にしなーい!」
なんというのんびり屋さん……。いやこれはのんびりと言えるのかな? 実際別段急を要するっていう訳でもない問題の先送りは、私たちエルフにはよくある事だからそこまで注意する事でもないんだけどね。
「あれ? シラユキ様が否定しないっていう事は本当に本当の話なの? そういえばハンナって冒険者の事に関しては妙に詳しいし……。あ、ハイエルフのシラユキ様のメイドさんなんだからむしろそれくらいであって当然……? でも、うーん……?」
コレットさんは少し考えこんでいた様で突っ込む余裕はなかったみたいだ。それなら私が動いて正解だった。
「そうだ、ええと……、メイドさんはハンナの言うバレンシアさん? なんですか? その、『千剣』の」
ハンナさんに詳しく聞くでも、私に確認を取るでもなく直接シアさんに尋ねる勇気あるコレットさん。
シアさんをよく知らないとはいえなんて命知らずな! やはりハンナさんの対応に専念してもらっていた方がよかったか……!
とりあえず私は余計な口出しをしないで、さっきからずっと無関係を装い続けているミランさんと一緒に成り行きを見守ろう。何よりこういう時のシアさんってちょっと怖いし。
「ハンナさんとは……、どこかでお会いしましたでしょうか?」
質問に質問で返すとはさすがシアさん。いや、今のはハンナさんに聞いただけでコレットさんの問いかけに対しては無視しているのかもしれない。
「うんうん! 会ってる会ってる。いやー、ホント懐かしいわ。お久しぶりー!!」
右手をびしっと掲げて笑顔で再開のご挨拶。なんとなく嬉しそうに見える。
「ど・こ・か・で、お会いしましたでしょうか?」
あまりにも軽すぎる、そして的を得ない返答に、どこかで、を強調して聞き直すシアさん。目を細めて不機嫌かと思ったら意外とそうでもないのかもしれない。
もしかしたらシアさんも思い出そうとしてるのかな? でもこうやって直接会って話してみて、それでも思い出せないっていう事は一方的に知られているだけだと思うんだけどなー。だってハンナさんみたいに明るくて面白楽しい人ならそう簡単に忘れないと思うし。
「あー、やっぱり覚えてないかー。まあ、会ったのもホント数回だし話なんてほっとんどできなかったし、それも仕方ないかもね」
わざとらく肩を落としてがっかり感をアピールしているハンナさん。私的には見ていて面白いのでどんどん続けてもらっても構わないのだが、これ以上シアさんを焦らされると肘や膝どころか、ナイフが飛んで行きかねないのでやっぱり早く答えてあげてもらいたい。ガクブル。
「あ、バレンシアさん、この馬鹿と話す時はもっと直接的に分かりやすく聞いた方がいいんです。本当に馬鹿ですから。ねえ馬鹿、じゃないハンナ、バレンシアさんとは前にどこで会ったの? ハンナが懐かしいって言うくらいだし私と旅に出るより前の話よね」
「馬鹿馬鹿言わないでよ。んー、どこってアンエタだけど? って、あー! もしかしてどこで会ったのか聞かれてた? いやあごめんごめん」
な、なるほど納得。のらりくらりと答えから逃げてたんじゃなくて、あんた誰? どっかで会った? 的な言葉だと受け取ってがっかりしてたのか……。しかしハンナさん、はキョトンとしたり驚いたり笑ったり、くるくるとよく表情が変わって本当に見ていて飽きない人だなあ。実に面白い。
それと……、アンエタ? 聞いた事もない地名だね。まあ、私はリーフエンド内の地名すらほぼほぼ知らないんだけど……。
「アンエタ? ブラーマティの? まさかヤルナッハの北の小村のことですか?」
私が疑問に思うのとほぼ同時にシアさんも反応した。睨む様に細くなっていた目は開かれ、その表情は少し驚いている様にも見える。
こういう時に反応に困るからいい加減私にも地図とか見せてほしい。他所の国とか遠い観光地に興味を持たれるのが嫌だからって一切見せてくれないんだよね。過保護が過ぎるよまったく……。
「そうそう。今はもう村って言う程小さくもないけどね」
「アンエタが小さな村って……、まさかそれって私が生まれるよりもっと前の話? でもそれなら忘れられてても当然なんじゃない?」
「確かにねー。だって最後に会ったのって私がまだ二十かそこらの頃だったし」
「は……? ハンナが二十歳って……、さ、三百年以上前の話じゃないのこの馬鹿!! そんなのその時の事を覚えてたとしてもいきなり、ああ、あの時の、なんて思い出してもらえる訳ないでしょ……」
エルフの二十歳は人間でいうところの十歳と少しと言ったところかな。それはいくらシアさんでも思い出せなくて当然だ。
「まあ、私も今さっきまで完全に忘れてたもんね」
「昨日あった出来事すらすぐ忘れるハンナと一緒にしない!!」
「ひっど! いくら私でも昨日の晩御飯くらいは覚えてるってば!!」
「晩御飯だけなの!? ねえホントにそれくらいしか覚えてないの!? ハンナが言うと冗談に聞こえないのよ!」
「じょ、冗談だって、そんなに怒鳴んないでよもう……。完全に忘れてたらこうやって思い出してないってば。あ、コレット」
「まったく……。何よ?」
「昨日の晩御飯って何食べたんだっけ?」
「っ!!!!!???」
またもや楽しそうな言い合い? を始めてしまった二人。また激高して殴りかかっていかないか心配だ。
ふむ、こうしてあらためて見てみると、実はハンナさんはコレットさんの反応を楽しんでからかっているのではないだろうか……? 物凄く楽しそうな笑顔だし。と、とりあえずコレットさんは貴重なツッコミ要員としても是非確保したい。
「姫様」
「う?」
仲良く喧嘩している二人を眺めていたら何故か私が呼ばれてしまった。今の話の流れでどうして私を?
「ブラーマティはここよりはるか南東に位置する小国の名です。アンエタはその国のとある村、いえ、今はもう村ではなく町と呼べる規模になっている様ですが」
「へー。三百年以上前からある町なんだね」
笑顔で、簡単にだけれど説明してくれるシアさん。そう、どうしてか機嫌の良さそうな笑顔で。
「ちょ、ば、バレンシアさん! いいんですか? そんな勝手に」
「ええ、これくらいでしたら構わないでしょう」
ここでやっとミランさんが口を開いた。外国の事を教えてしまってもいいのか? とさすがに黙っていられなくなったんだろう。
ミランさんの気持ちは分かるけど、そんな遠い町の名前と方角だけ教えてもらっても興味を持つ以前の問題。へー、だから何? 程度にしか思えない。
「そしてヤルナッハはキャロと私が初めて出会った町、あれの生まれ故郷なのです」
「キャロルさんの!? ……あれとか言わないの!」
「……奴の方が正しかったでしょうか?」
「正しくない! もう! キャロルさんのことを変に下げて言わないのー」
「ふふ、申し訳ありません」「か、可愛い……」
悪いとも申し訳ないとも微塵と思ってない笑顔で謝るシアさん。さすがすぎる。ミランさんについてはスルーしておこう。
シアさんのキャロルさん下げはいつもの事なのでこれくらいで切り上げて……。シアさんからのヤルナッハ追加情報、これには結構驚かされてしまった。
確か……、キャロルさんが子供の頃にシアさんに一目惚れして、無理矢理弟子入りして旅にくっ付いて行ったんだっけ? よく考えてみるとなんて行動力のある子供なんだ……。
「ええ、当時はキャロもまだまだ小さな子供でしたからね。今も大きくはないですが……。と、失礼しました。そうなると親元からそこまで離れさせてしまう訳にもいかず、遠出しようにも精々隣村程度の距離が限界だったのです。その隣村というのが件のアンエタでありまして」
「あ、もしかしてそこで子供の頃のハンナさんと?」
「はい。丁度同じ年頃の子供がいたので友人作りをさせたのですが、まさか今になってこんな所で再会するとは……。ふう、まったく懐かしい話です」
やれやれと肩をすくめるシアさんだったが、なんとなく嬉しそうな表情と話し方だった。
「そうそれ!!」
「わぅ!」
「こらハンナ失礼!! 驚くシラユキ様可愛い……」
ハンナさんがこちらに指を突きつけ急に叫ぶ。シアさんとの話に集中していたのでまた驚かされてしまった。
それってどれ!? 今の話に何か気になる所でもあったのかな? あとシアさんとミランさん、それにコレットさんまでニヤニヤしないの! ぐぬぬ。
「キャロルキャロル!! キャロルは元気してるの!? って言うかちゃんと生きてるの!!? 引退したって聞いてから噂も一切聞かないし!! ちっとも会いに来ないしー!!」
にやつく三人は一切気にせず、畳みかけるように質問を投げつけてくるハンナさん。まさに怒涛の勢いという剣幕だった。
どうやら随分と心配させちゃってるみたいなのでこればっかりは早く答えてあげなければ。しかしノエルさんの時もそうだったけど、お友達にくらい現状の報告はしてもいいんじゃないかと思うんだけど……。
「えとね、キャロルさんも今は私のメイドさんになっちゃってるんだよ? ハンナさんはキャロルさんのお友達だったんだねー」
「うんうんお友達お友だ……、ふぁ!? い、生きてた!? よよよよかったー!! やーっと見つけたあの薄情者!! って言うかなんで先生と二人揃ってメイドさんになっちゃってるの!? あっはははは!!!」
「は、ハンナ? 気持ちは分かるけど往来でちょっと騒ぎすぎじゃない? ほらみんな見てるから……。ねえハンナってば!」
「さっきから騒いでるのはコレットさんも同じなんですが……。まったくもう」
「ふふ、構いませんよ。ですよね? 姫様」
「うん! ふふふ」
ばんざーい! と両手を上げて大喜びするハンナさん。
その嬉しそうな表情に、こちらもつられて笑顔になってしまうくらいのいい笑顔。通行人の方々からの視線が痛いけどこれはさすがに注意できない。いや、してはいけないと思う。
それもそう、だって……、キャロルさんが私の家でメイドさんをやっているのも、それを誰にも言えないのも……、大体私のせいだからね! 騒いでるのを注意するどころかこっちが謝らないといけないくらいだよ……。それに町の人だって、いつものあのメイドさん絡みの騒ぎか……、くらいにしか思ってないはずだからへーきへーき。
「こーらシラユキちゃん! 遅いと思って見に来たらなんでこんな所で楽しそうに大騒ぎしてるの!」
「わ。あ、ジニーさんだ。こんにちわー」
「おや? 今から伺う所でしたのに」
「またお仕事から逃げて来たとかではないですよね……?」
「違うから! シラユキちゃんを迎えに来ただけだから! ミランちゃんもいい感じにガトーちゃんに鍛えられてきたね……。お姉さん信用なくて悲しい!」
「おっとと、ちょっと騒ぎすぎちゃったかな? それで……、あの人誰?」
「初めてみる人だけど……、多分シラユキ様のお知り合いの方じゃない?」
今度はいつの間にやらすぐ後ろまで来ていたジニーさんに驚かされてしまった。今日は本当に驚かされっぱなしだ。いつもの事だけど。
続きます!
本当はもう少し早く投稿する予定だったのですが、地球を防衛(DLC)をしていたり、めんどくさい仕様の古龍を狩ってたりでずるずると時間がかかってしまいました。
次回もそこまで遅くならないと思います。




