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331/338

その331

明けましてお久しぶりです。

「コゥルァこの馬鹿ハンナあああああああああああああああああ!!!!!」


 ひい! 誰!? 怒りが有頂天っていう感じがひしひし、いや、ビリビリと伝わってくる怒声とか本当に怖いんですけど!!


 ドタドタと大きな足音を立てながら全力疾走してくる……、恐らくハンナさんのお友達、声からすると女の人。

 その大声についそちらに目を向けてしまった私が見たものは、その大声など一瞬で忘れてしまう程の光景だった。


 効果音をあてるならぶるんぶるん? それともばるんばるんかな? ある一部分をこれでもかと揺らしながら走るお姉さんがそこにいた。

 その一歩ごとに揺れる大きな胸は、私が今目視で観測したところメアさん以上は確実。フランさんとウルリカさんサイズにはまだまだ及ばないが、それでも巨大と言っていいレベルなのは間違いないだろう。うむ。


「なーによもう、ちょっとうるさいってばコレ」


「今すぐ死んで詫びろ!!」


「ットおおおう!!!?」


 ……はっ!? いやっ、ええーと、なんだっけ? ちょっと一部分に注視しすぎてて全体の把握が遅れてしまったじゃないか……。

 とりあえずコレットおおおうさん? がハンナさんに殴りかかってあっさり避けられたところはぼんやり見えた。右手を振り抜いた時にまた一際大きく揺れたから分かったとかそんな理由ではありません。


「避け!? っと、っとと……、ぐっ!!」


 !?


 まさか避けられるとは思っていなかったのか、走って来た勢いそのままカウンターに両手をつくコレットおおおうさん。……おおおうを付けるのはいい加減やめておこう。


 そして私はまた目撃した。ダンッという両手をつく音とともに、ぶるるんっと揺れる二つの塊を……!! 完全に見入ってしまった。


「こんのっ……。避けるな! 当たれ! このっ!! 馬鹿っ!!」


「危なっ! ちょ、コラ! やめっ、っとう!」


 一撃避けられただけでは諦めず、ブン……ブン……ブン……、と、私の目から見ても分かる素人動作で再度殴りかかっていくコレットさん。

 それをシェイハシェイハと理想のテンポで、ひらりひらりと危なげなく躱していくハンナさん。外套を纏ってフードを被っているにも関わらずのこの動き、さすが冒険者なだけあって慣れている感じがする。



 何が何だか分からないが、私から言えることはただ一つ。……どうしてこうなった!!!




「避……け……る…………、なっ!!」


「おっと。避けるなと言われて素直に従う馬鹿はいないってば。だってコレットのヘロヘロパンチでも当たったら普通に痛いでしょ!?」


 それは確かに。一理、いえ、百理ありますね。


「アンタはっ! 馬鹿っ! でしょう! だから大人しく当たれ!!」


「ほいほほーい。嫌でーす」


 少しの間様子見でもしていれば落ち着くかと思ったが全然そんな事はなかったぜ! 数分しか経っていないが二人はまだまだじゃれ合いを続けている。


「はあ……、はあっ……。頼む、からっ……、お願い、だから……、今だけは素直に殴られろこの馬鹿ハンナ!!!」


「ちょいっとー。いや、だからさっきから嫌だって言ってんじゃんか。どしたのよコレット? 怒ってるのはいつもの事だけど今日はやけに諦めが悪いんじゃない?」


 いつものことなんだ……。なんとなくそうなんじゃないかなとは薄々思っていたけど。


 空振りの連続は相当堪えたんだろう、肩で大きく息をしながらの見え見えの大振りはやはり軽く躱される。

 対してハンナさんの方はと言うと、必要最小限の動きで全て回避していたためか全く余裕そうだった。コレットさんも同じ冒険者の筈だけれど、その力量の差は一目瞭然である。


 ううむどうしたものやら。ここで一言やめてと言えば止めるのは簡単だろうけど、初対面の私にはちょっと厳しい難しい。しかし顔見知りの筈のミランさんも全く止めに入る気配がない、もしかしたらこの喧嘩? も同じでよくある事なのかもしれない。

 そしてこんな時に頼るべきシアさんは、先ほどと同様に無言を貫いている。見上げると細めた目が、瞳が完全に濁り切っているのでできたらこのまま大人しくしていてもらいたい。腕を振るう度に大きく揺れるコレットさんの胸を、ずっと目の前で見せられ続けているのだから無理もないと思う。ガクブル。


「はあっ……、はあっ……。このっ……! ……はあ……、ふう……」


「お? やっと諦めた? 今回の癇癪は長かったねえ」


 どうやら事態が動いた様だ。コレットさんが大きく息を吐いて呼吸を整えている。

 怒り状態のコレットさんは確かに怖かったが、それを平然と受け流し切ってしまったハンナさんも地味に怖い。結構高いランクの人なのかもしれない。


 両膝に手をつき上半身を支え、大きく肩を揺らすコレットさん。見るからに辛そうだ。


 ここがチャンス! 観察させてもらっちゃおう。……ある一部分は最初から観察していたんだけどそれはそれ、これはこれ。



 身長は高めで170cm近く、髪は極普通の金髪、後頭部で纏めてポニーテールにしているね。下ろすと腰ぐらいまでありそう。今は下を向いてしまっていて見えないが瞳は碧だったと思う。ハンナさんの保護者みたいな人と言うだけあって、見た目は綺麗で面倒見がいいお姉さんと言った感じかな? 暴力的なところしかまだみてないけれど……。

 暴力的と言えばもう一つ大きな特徴があった。それはメアさん以上のサイズの暴力的なおっぱい! ゆったりめな服装なのに圧倒的なまでの存在感、周りの冒険者の人たちの目線もその一挙一動に釘付けであった。

 あ、ちなみにハンナさんと同じく武器らしき物は何も持っていない。服装もごくごく普通で、冒険者と言われなければそうとは気付けないだろうと思う。



「アンタがどうしようもない馬鹿なのはこれまでで十分理解したつもりだったけどさあ、ここまで酷かったの? ねえ本当に?」


「馬鹿馬鹿言わないでよ傷つくなあ。自分でもちょーっと頭の回転は遅い方だと思ってるけどそこまで怒る程の事?」


 自分で言っちゃうんだ!? 何となく自覚はある訳なんだね……。


「うん、本気で怒るような事だった。でもまあ、ハンナ馬鹿だし、私が何とか頑張ってみるからそこで黙って突っ立ってなさい。もしもの時は……、はあ、考えたくないなあ」


 完全に落ち着いたコレットさんの声色は、とにかく優しい、穏やか、それと諦めに近い何かを感じさせる。この空気の中で発言する勇気は私には持てない。


「もしもの時って何で? 何すんの? コレット……、コレット!!? うわっ! ごめん!! ホントごめん!! ええ……、ホントどうしたってのよ……」


 スッと顔を上げたコレットさんを見た瞬間、驚いて謝り、狼狽えるハンナさん。

 それもその筈、コレットさんの瞳からは大粒の涙が流れ落ちていた。表情は泣き笑いと言ったところだろう。不謹慎かもしれないが凄く絵になる素敵な表情だなと思ってしまった。


 ふむ。私たちが完全に置いてけぼり状態になっているのは別に構わないのだけど、さすがにこの真面目さ溢れる空気は居心地が悪い。他の冒険者さんたちもそんなシリアスな空気を感じ取ってか押し黙ってしまっているし……。ミランさんメイドさん化計画の進行と、ハンナさんとのお話も楽しみだったがさすがに今回ばかりは間が悪かったんだと思う。仕方がないのでそろそろお暇させてもらう事にしよう。残念無念。


「シラユキ様!!」


「ひゃあ!!」


 びびびびビックリした!! え? なんで私が呼ばれたの? 今もう帰ろうとしてたところだったんですけど……。


 シアさんの手を引いてこそこそとこの場から離脱、と動こうとしたその矢先、コレットさんに大声で呼び止められてしまった。呼び止められたと言うか大声で名前を呼ばれただけか。


「……ですよね?」


「う? ……うん」


 シアさんの陰に隠れながらで格好は付かないけれど、頷いて一言だけ返事をする。コレットさんの表情が真面目そのものだからそれ以上何も言えなかったのもあるが。


 何で確認されたんだろうと一瞬思ったけど、そういえば初対面だったわ。でもよく私がこの国のお姫様だって分かったね? コレットさんも冒険者の筈だし、そういう勘が鋭い人なのかもしれない。


「様ってアンタ、シラユキちゃんは別に偉いとこの子じゃ」


「こいつはもう……。お願いだから今は黙ってて」


「あ、はい、ごめんなさい」


 バサリと切り捨てられたハンナさんはシュンと縮こまってしまった。不憫だが可愛い。

 実力ではハンナさんの方が何枚も上手だけれど、実際の力関係はコレットさんの方が上なのか。これは興味深い。


「あの……、この馬鹿、ハンナがとんでもない無礼を働いたと思います。いえ、絶対何かしました」


 そんなことをぼんやりと考えていたらコレットさんが静かに語りだした。真面目なお話みたいだし私も真面目に聞かなければ。

 しかし、絶対と言い切られてしまうのか……。ハンナさんはこれまでにも色々とやらかしてしまっていると見た。でも今回は特に何もしていないと思うのだけれど?


「ハンナは本当に馬鹿で、頭が悪くて馬鹿で、考えなしの馬鹿で、口より先に手が出るどころか口と手を同時に出して大失敗するくらいのどうしようもない馬鹿なんですけど……」


 ひどい! お友達でもあんまり馬鹿馬鹿言っちゃ駄目だよもう……。


「でも馬鹿なだけで決して悪い奴ではないんです! お願いします! 許してやって欲しいとまで言いません! どうかせめて寛大なご処置を……!!」


 コレットさんはそう言い切ると勢いよく頭を下げた。真っすぐ私に向かって。……何で私に?


 ええと……、どう答えればいいんだろう? そもそもコレットさんが何を謝っているのかが分からない。もしかしたら、ハンナの事だから絶対何か失礼な事を仕出かしただろう! って勘違いしちゃってるのかも。ううん、知らないけれど絶対そう。

 多分それで正解だろうけど何て声をかけるべきか……、コレガワカラナイ。まずはお互い自己紹介でもしたいところなんだけどなー。


「ねえコレット……? ちょっとコレットってば!」


「何よ! アンタも頭下げなさいよ! 土下座して謝りなさいよ!! このままだと最悪死刑なのよ!?」


 沈黙に耐えかねたのか、ハンナさんがコレットさんの肩を掴んで起こそうとしている……、が! 今何か物凄く物騒なセリフが飛び出さなかった!? ……ちなみに二人ともこそこそとした小声です。私の耳にはしっかりと届くくらいだけど。


「はい!? しし死刑って何でよ!!? 私まだ何もしてないって!! シラユキちゃん可愛いなーってジロジロ見てただけだって!! そもそも」


「思いっきりやらかしてんじゃないのこの馬鹿!!!」


「だから何をよ!? 私な! ん! に! も!! やってないじゃん!!!」


「うっさいうっさい馬鹿ハンナ!! とにかく謝れ! やっぱもういっそ死んで償え!!」


 おおっと、弁解を始めた? 筈なのにここでまさかの喧嘩再開かな? どうやら私も関係者の一人らしいから逃げ出す訳にもいかないなあ……。ミランさんシアさんもそろそろ止めに入ってもいいんじゃよ?


「いーやーでーすー!! 何で悪事を働いた訳でもないのに謝らないといけないってのよ! ってか誰に!? コレットに!?」


「シラユキ様によ!! アンタどうせ不躾に見るだけじゃ飽き足らず馴れ馴れしく話し掛けてたんでしょう! この方はハイエルフ! シラユキ様なのよ!? リーフエンドの至宝! その笑顔が平和の象徴と称えられる世界一可愛らしいシラユキ様!! アンタってばもう馬鹿を通り越して頭おかしいんじゃないの!!?」


 ああ、そういう……。いやいや! まだ全然、お話どころか碌に会話もしてないんですけど! と言うか私の笑顔が平和の象徴とか、そんな恥ずかしいセリフ初めて言われたわ!!


「誰の頭がおかし……は? はあっ!? ……あはっ、はははっ、ぷっふふー!! コレットってばシラユキちゃんのことシラユキ様だと勘違いしてるー! いっつも馬鹿馬鹿言ってくるくせにばーかばーか!! まーぬけー!! やーい恥ずかしいやつー!!!」


 うわあ楽しそう! ハンナさんは森のみんなと似た空気を感じるね。もう連れて帰っちゃってもいいんじゃないかな?


「そこからかー! 何か話が通じないと思ってたらそこからなの!? こんな可愛らしい方がほかにいる訳……、って言う以前に名前まで聞いてるのに気付かないってどこまで馬鹿なの!! もっと前にメイドさん連れた白い髪の子供のエルフっていう時点で気付いてよ!! いや、気付け!! この大馬鹿!! ホント最悪レベルの馬鹿!!! このダンゴムシ!!」


 おやおや? 段々口が悪くなってきましたよ……? ……ダンゴムシって悪口に分類されるのか!?

 ……うん? ミランさんが疲れ切った笑顔をしている……。まさか毎日毎回こんな感じで喧嘩しているんじゃないだろうね……?


「ああもうさっきから馬鹿馬鹿うるさい!! この子はお嬢様なシラユキちゃんであって、この国のお姫様のシラユキ様と同じ名前なだけなんだってば!! だよねミーランさん!?」


 ミランさんは急に振られたにも関わらず、冷静に首を横に振って返答する。落ち着き切っている……!


「ほら見……!! ………………あれ? は? 嘘……」


 数秒前までの元気はどこへやら、ハンナさんは火が消えたように大人しくなってしまった。


「えーと……、シラユキ、ちゃん……?」


 あ、私? やっと話に加われる? とりあえず根本的な誤解を解いておかないとね。


 ミランさんの次は私に視線が移る。その表情は、もしかしたらまだ、という一縷の望みを込めた乾いた笑顔だった。


 しかし悲しいかな、私にできる事は死刑宣告のみなのでありましてね……。あ、実際に死刑を宣告する訳じゃないですよ?


「シラユキ・リーフエンド、です。はじめまして……」


 ペコリと軽く頭を下げて改めて自己紹介。そして目線をハンナさんに戻すと……、目を見開いて口はあんぐりと大開き、その顔は驚愕に染まっていた。その表情にこちらも軽く驚いてしまったじゃないか。


 そのまま数秒間にらめっこを続ける。……早く何か言ってくれませんかねえ……。


 まあ、私みたいな一見ただの子供がお姫様だなんて思いも寄らなかったんだろうね。うんうん。無礼な振る舞いとか言われても別段失礼な何かを言われた訳でもな……、た、多分ないし、コレットさんの誤解を解いてから場所を移して、もう一度改めて自己紹介から始めようではないか。


 よし! そんな流れで後はよろしくシアさん。私にはメイン進行役とか本当に無理だから! と、くいくい袖を引っ張って目でお願いする。

 そんな私の行動で濁っていた瞳にやっと生気が戻ったシアさんは、大きく頷いてから一歩前へと出ると……


「はい。先程のミランさんの不審な挙動についてなのですが、あれは子供のエルフが一人で外を出歩いている、という話を聞き、姫様が供を付けずに一人で行動されていると勘違いをし、焦って飛び出して行こうとしていたのです。まあ、その実姫様はすぐ隣に居られたのですから、ああ、変な思い違いをしてしまったな、と苦笑い、いえ誤魔化し笑いをされていた訳ですね」


 今のこの状況とは全く関係のない説明を一つしてくれた。


「そこを!? そこを説明しちゃうんですか!? 気付いて黙ってくれていたと思ってたのにひどいですよ……」


「え? あー、さっきの……。ふふふ」


「うう、笑わないでください……。でも可愛らしいです。ふふ」


 さすがはミランさん、この殺伐と、はしてないけど微妙に居心地の悪い空気を見事に和ませてくれたね。そこに痺れる憧れる。

 ……じゃなくて! シアさんはどうして何よりも誰かをからかう事を優先してしまうのか、コレガワカラナイ!







続きます!


またもや続いてしまったので次回はなるべく早く……? 本当に毎回言ってますねこれ。

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